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悪夢と流れ星④
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「今、あちらに流れましたね。」
北瀬がそう言って指差した方向に礼人は急いで目を向けたが、彼の言う流れ星を見ることはできなかった。
先ほどからずっと真剣に探しているのに、まだ一筋も見つけることができていない。
「…見えませんでした…。」
「まだたくさん流れるはずですから、きっと見つけられます。ほら、今も流れた。」
「えっ!?見逃してしまいました…。」
「肩を落とさないでください。折角のデート中です。」
デート、と改めて口にされると、なんだか変に意識して照れてしまう。
そういえば北瀬と会う場所は普段、大学、互いの家、車の中の3択だから、こうして外でデートをするのは初めてだ。
「あの、今日は、ありがとうございまっ……くしゅっ!!」
照れながらお礼を言おうとした途中で思いがけずくしゃみが出てしまった。
「寒いですか?風邪をひいてしまったら大変なので、そろそろ車の中に…。」
心配そうな声とともに、繋いでいる方の北瀬の手が礼人の手を車の方に引く。
北瀬のこうやって自然に気遣ってくれるところがとても好きだと思った。
でも、折角初めて流れ星を見にきたのだから一つでもいいから見つけたい。
「…もうちょっと…。折角なので、見たいです。」
じっと彼の瞳を覗けば、彼はしばらく何かを考えるように口を結んでいたが、やがて礼人の手を離し、どこかへ行ってしまった。
わがままだと呆れられてしまったのだろうか。
言う通り車に戻っていればよかったと後悔が頭をよぎったと同時に、突然後ろから温もりに包まれ、礼人は驚いて踵を弾ませる。
「ではこうしていましょう。」
鼓膜を震わせた穏やかな声で、北瀬に抱きしめられていることを悟った。
さらに礼人の身体の前までボタンの外れた北瀬のコートが回ってきている。
身体が温まっているのは自分のせいなのか北瀬のおかげなのか。混乱するほどに心臓がうるさく鳴りはじめた。
北瀬といると本当に気持ちが忙しい。いとも簡単に感情の沸点を超えられてしまう。
その一方で、礼人は不思議な安心感もまた覚えていた。
__…この感じ、どこかで…。
「流れましたね。」
考え込んでいるうちに北瀬が再び紡いだ。
「先輩はすごいです。たくさん見つけられて。」
「では今度は同じ方向を向いていましょう。それなら必ず一緒に見られます。」
「えっ…?」
「そうですね……あちらにしましょう。月明かりが無く、見やすいので。」
白く長い指が夜空の一方向を示し、礼人もそちらに目を向ける。
ずっと目を凝らしていると、やがて一本の光の筋が駆け抜けた。
「あっ!」
「見えましたね、流れ星。」
「はい。」
「願い事はしましたか?」
「そうだ、忘れて…… 」
__…なんだろう、この会話もどこかで…。
この状況も、この会話も、今日が初めてではない気がする。
なのに思い出そうとすればするほど靄がかかるように霞んでいった。
北瀬といると、時々この感覚に陥る。
「どうかしましたか?」
上から優しい声が尋ねた。
「先輩といると、何か思い出せそうな気がするんです。…忘れている、昔のこと…。」
驚いたように金色の瞳が見開かれる。
しかしそれは一瞬で、すぐに北瀬はどこか寂しげに微笑んだ。
「今、幸せですか?」
「えっ…?…はい。先輩と一緒にいられて、その、…デートできて、幸せです。」
「なら、無理に思い出さなくてもいいと思いますよ。あまり思い詰めないで。人には忘れる権利があります。」
北瀬の言葉や声音、表情に何か違和感を覚える。
「せんぱ「春崎君も見られたので、そろそろ戻りましょう。流れ星はどうでしたか?」
もう少し北瀬に質問しようと思ったが、途中で遮られてしまった。
いや、北瀬が話を遮るなんてことは考えにくいから、ただ言葉が被っただけなのかもしれない。
「…すごく、綺麗でした…。」
どちらにせよこれ以上は聞かないほうがいい気がして、礼人は彼の質問にだけ答えた。
“それは良かったです”、という言葉とともに北瀬の身体が離れていく。
先程までぴったりとくっついていたところが急速に冷めていく一方で、優しく手を繋がれ、礼人はその温もりをすがるようにぎゅっと握りしめた。
北瀬がそう言って指差した方向に礼人は急いで目を向けたが、彼の言う流れ星を見ることはできなかった。
先ほどからずっと真剣に探しているのに、まだ一筋も見つけることができていない。
「…見えませんでした…。」
「まだたくさん流れるはずですから、きっと見つけられます。ほら、今も流れた。」
「えっ!?見逃してしまいました…。」
「肩を落とさないでください。折角のデート中です。」
デート、と改めて口にされると、なんだか変に意識して照れてしまう。
そういえば北瀬と会う場所は普段、大学、互いの家、車の中の3択だから、こうして外でデートをするのは初めてだ。
「あの、今日は、ありがとうございまっ……くしゅっ!!」
照れながらお礼を言おうとした途中で思いがけずくしゃみが出てしまった。
「寒いですか?風邪をひいてしまったら大変なので、そろそろ車の中に…。」
心配そうな声とともに、繋いでいる方の北瀬の手が礼人の手を車の方に引く。
北瀬のこうやって自然に気遣ってくれるところがとても好きだと思った。
でも、折角初めて流れ星を見にきたのだから一つでもいいから見つけたい。
「…もうちょっと…。折角なので、見たいです。」
じっと彼の瞳を覗けば、彼はしばらく何かを考えるように口を結んでいたが、やがて礼人の手を離し、どこかへ行ってしまった。
わがままだと呆れられてしまったのだろうか。
言う通り車に戻っていればよかったと後悔が頭をよぎったと同時に、突然後ろから温もりに包まれ、礼人は驚いて踵を弾ませる。
「ではこうしていましょう。」
鼓膜を震わせた穏やかな声で、北瀬に抱きしめられていることを悟った。
さらに礼人の身体の前までボタンの外れた北瀬のコートが回ってきている。
身体が温まっているのは自分のせいなのか北瀬のおかげなのか。混乱するほどに心臓がうるさく鳴りはじめた。
北瀬といると本当に気持ちが忙しい。いとも簡単に感情の沸点を超えられてしまう。
その一方で、礼人は不思議な安心感もまた覚えていた。
__…この感じ、どこかで…。
「流れましたね。」
考え込んでいるうちに北瀬が再び紡いだ。
「先輩はすごいです。たくさん見つけられて。」
「では今度は同じ方向を向いていましょう。それなら必ず一緒に見られます。」
「えっ…?」
「そうですね……あちらにしましょう。月明かりが無く、見やすいので。」
白く長い指が夜空の一方向を示し、礼人もそちらに目を向ける。
ずっと目を凝らしていると、やがて一本の光の筋が駆け抜けた。
「あっ!」
「見えましたね、流れ星。」
「はい。」
「願い事はしましたか?」
「そうだ、忘れて…… 」
__…なんだろう、この会話もどこかで…。
この状況も、この会話も、今日が初めてではない気がする。
なのに思い出そうとすればするほど靄がかかるように霞んでいった。
北瀬といると、時々この感覚に陥る。
「どうかしましたか?」
上から優しい声が尋ねた。
「先輩といると、何か思い出せそうな気がするんです。…忘れている、昔のこと…。」
驚いたように金色の瞳が見開かれる。
しかしそれは一瞬で、すぐに北瀬はどこか寂しげに微笑んだ。
「今、幸せですか?」
「えっ…?…はい。先輩と一緒にいられて、その、…デートできて、幸せです。」
「なら、無理に思い出さなくてもいいと思いますよ。あまり思い詰めないで。人には忘れる権利があります。」
北瀬の言葉や声音、表情に何か違和感を覚える。
「せんぱ「春崎君も見られたので、そろそろ戻りましょう。流れ星はどうでしたか?」
もう少し北瀬に質問しようと思ったが、途中で遮られてしまった。
いや、北瀬が話を遮るなんてことは考えにくいから、ただ言葉が被っただけなのかもしれない。
「…すごく、綺麗でした…。」
どちらにせよこれ以上は聞かないほうがいい気がして、礼人は彼の質問にだけ答えた。
“それは良かったです”、という言葉とともに北瀬の身体が離れていく。
先程までぴったりとくっついていたところが急速に冷めていく一方で、優しく手を繋がれ、礼人はその温もりをすがるようにぎゅっと握りしめた。
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