40 / 77
とある休日といとこの訪問②
しおりを挟む
「あやー、なんか面白い話してー。」
野菜を刻み終えお米を炒めている最中、暇を持て余したのかやってきた葵が突然無茶振りをしてきた。
何か話題になりそうなものがないかと少し悩んだものの、北瀬以外の話は全く思いつかないし、北瀬の話を自分からするのは惚気のようで少し恥ずかしい。
__…そういえば、葵はどうなんだろう?
「葵は?三澤とどうなの?」
ふと浮かんできた疑問を口にすると、葵はわかりやすく口を押さえて慌て始めた。
「なっ、なに!?燕芽!?なんで燕芽!?」
「好きでしょう…?」
「そ、そんなことないしっ!そもそも燕芽にはめちゃくちゃ可愛い好きな子がっ…。」
__…多分それ、葵のことだと思うんだけどなあ…。
何回口にしても葵が信じてくれないので、今回は訂正せずにただ苦笑する。
「そういえば三澤、明後日誕生日だよ。」
「えっ!?そういうこと先に言ってよ!パーティーしよっ!!」
「んー、僕は予定があるから、2人でデートするのがいいと思うな。」
「でっ!?」
「…あっ、液体入れるからちょっと飛ぶかも。少し離れてて。汚れちゃう。」
「うっ、うん!!俺ソファーに行ってるね!?」
「うん。待ってて。」
顔を赤くした葵が逃げるように去っていく。
ちなみに予定があるのはもちろん嘘だ。葵のことも三澤のことも好きで、2人が両想いなことも知っているからこそ、誕生日は2人きりで過ごしてほしい。
「早く付き合っちゃえばいいのになあ…。」
呟きながらトマト缶やワインなどを入れていくと、じゅっ、という音とともに美味しい匂いが充満した。
シーフードミックスの間から冷凍のアサリが綺麗に開くのを見て、こんなふうに葵も全て暴露してしまえばいいのにと思う。
礼人が北瀬を好きになるよりずっと前から三澤のことが好きなくせに、葵はそれを頑なに認めない。
「おいしそー!!」
出来上がったパエリアをお皿に盛り付けて渡せば、受け取った葵がキラキラと目を輝かせた。
お茶と一緒にテーブルに並べ、一緒にいただきますをする。
「いただきま……あれ、あや、それ…。」
しかし、両手を合わせた途端に葵がひどく怪訝そうな声を上げて。
その意味をまるで理解できなかった礼人はこくりと首を傾げ、葵の発する次の言葉を待った。
何か、あったのだろうか。
「その手、どうしたの…?」
「えっ…?」
葵の視線の先には、いただきますのために合わせられた自分の手がある。
自分の手をいろいろな方面から観察して初めて、礼人は小指の外側が両手とも痣になっていることに気がついた。
痣の部分に指先で触れると、僅かに痛い。
「…どうしたんだろう?気づかなかった…えっ、葵?どうしたの?」
どうせ寝ている間にぶつけたのだろう。
礼人は特に気にせず食事に手をつけようとしたが、何故かただならぬ表情の葵にパンツの裾を膝まで捲られ、戸惑いの声をあげた。
「…やっぱり…。」
僅かに唇を噛みながら葵がつぶやく。
露出した礼人の膝から下には、いくつか痣ができていた。
手と同様に寝ている間にぶつけたに違いない。
それにしても、“やっぱり”、だなんて、葵はこの痣があることを知っていたのだろうか。
「やっぱりって…?」
「んーん、なんでもない!寝ぼけてベッドから落ちたのかなって。そしたら色んなところぶつけるじゃん?あや疲れてると寝相悪いから、ちゃんと気をつけなよ!」
答えた葵の声は、はじめ不自然に明るい気がして。
しかしそれはほんの僅かの間で、すぐに彼の声音はいつもの調子に戻った。
きっと礼人の気のせいだったのだろう。
「そうなのかあ…。教えてくれてありがとう。今日から気をつけるね。いただきます。」
「うん、いただきます。…んーっ!!めちゃくちゃ美味しい!あや天才!!」
口の中いっぱいに食事を頬張りほっぺたを押さえている葵は、まるでハムスターみたいで愛らしい。
そして礼人は心の中で一人、その姿を三澤にも見せてあげたいと考えていたのだった。
野菜を刻み終えお米を炒めている最中、暇を持て余したのかやってきた葵が突然無茶振りをしてきた。
何か話題になりそうなものがないかと少し悩んだものの、北瀬以外の話は全く思いつかないし、北瀬の話を自分からするのは惚気のようで少し恥ずかしい。
__…そういえば、葵はどうなんだろう?
「葵は?三澤とどうなの?」
ふと浮かんできた疑問を口にすると、葵はわかりやすく口を押さえて慌て始めた。
「なっ、なに!?燕芽!?なんで燕芽!?」
「好きでしょう…?」
「そ、そんなことないしっ!そもそも燕芽にはめちゃくちゃ可愛い好きな子がっ…。」
__…多分それ、葵のことだと思うんだけどなあ…。
何回口にしても葵が信じてくれないので、今回は訂正せずにただ苦笑する。
「そういえば三澤、明後日誕生日だよ。」
「えっ!?そういうこと先に言ってよ!パーティーしよっ!!」
「んー、僕は予定があるから、2人でデートするのがいいと思うな。」
「でっ!?」
「…あっ、液体入れるからちょっと飛ぶかも。少し離れてて。汚れちゃう。」
「うっ、うん!!俺ソファーに行ってるね!?」
「うん。待ってて。」
顔を赤くした葵が逃げるように去っていく。
ちなみに予定があるのはもちろん嘘だ。葵のことも三澤のことも好きで、2人が両想いなことも知っているからこそ、誕生日は2人きりで過ごしてほしい。
「早く付き合っちゃえばいいのになあ…。」
呟きながらトマト缶やワインなどを入れていくと、じゅっ、という音とともに美味しい匂いが充満した。
シーフードミックスの間から冷凍のアサリが綺麗に開くのを見て、こんなふうに葵も全て暴露してしまえばいいのにと思う。
礼人が北瀬を好きになるよりずっと前から三澤のことが好きなくせに、葵はそれを頑なに認めない。
「おいしそー!!」
出来上がったパエリアをお皿に盛り付けて渡せば、受け取った葵がキラキラと目を輝かせた。
お茶と一緒にテーブルに並べ、一緒にいただきますをする。
「いただきま……あれ、あや、それ…。」
しかし、両手を合わせた途端に葵がひどく怪訝そうな声を上げて。
その意味をまるで理解できなかった礼人はこくりと首を傾げ、葵の発する次の言葉を待った。
何か、あったのだろうか。
「その手、どうしたの…?」
「えっ…?」
葵の視線の先には、いただきますのために合わせられた自分の手がある。
自分の手をいろいろな方面から観察して初めて、礼人は小指の外側が両手とも痣になっていることに気がついた。
痣の部分に指先で触れると、僅かに痛い。
「…どうしたんだろう?気づかなかった…えっ、葵?どうしたの?」
どうせ寝ている間にぶつけたのだろう。
礼人は特に気にせず食事に手をつけようとしたが、何故かただならぬ表情の葵にパンツの裾を膝まで捲られ、戸惑いの声をあげた。
「…やっぱり…。」
僅かに唇を噛みながら葵がつぶやく。
露出した礼人の膝から下には、いくつか痣ができていた。
手と同様に寝ている間にぶつけたに違いない。
それにしても、“やっぱり”、だなんて、葵はこの痣があることを知っていたのだろうか。
「やっぱりって…?」
「んーん、なんでもない!寝ぼけてベッドから落ちたのかなって。そしたら色んなところぶつけるじゃん?あや疲れてると寝相悪いから、ちゃんと気をつけなよ!」
答えた葵の声は、はじめ不自然に明るい気がして。
しかしそれはほんの僅かの間で、すぐに彼の声音はいつもの調子に戻った。
きっと礼人の気のせいだったのだろう。
「そうなのかあ…。教えてくれてありがとう。今日から気をつけるね。いただきます。」
「うん、いただきます。…んーっ!!めちゃくちゃ美味しい!あや天才!!」
口の中いっぱいに食事を頬張りほっぺたを押さえている葵は、まるでハムスターみたいで愛らしい。
そして礼人は心の中で一人、その姿を三澤にも見せてあげたいと考えていたのだった。
1
あなたにおすすめの小説
氷の支配者と偽りのベータ。過労で倒れたら冷徹上司(銀狼)に拾われ、極上の溺愛生活が始まりました。
水凪しおん
BL
オメガであることを隠し、メガバンクで身を粉にして働く、水瀬湊。
※この作品には、性的描写の表現が含まれています。18歳未満の方の閲覧はご遠慮ください。
過労と理不尽な扱いで、心身ともに限界を迎えた夜、彼を救ったのは、冷徹で知られる超エリートα、橘蓮だった。
「君はもう、頑張らなくていい」
――それは、運命の番との出会い。
圧倒的な庇護と、独占欲に戸惑いながらも、湊の凍てついた心は、次第に溶かされていく。
理不尽な会社への華麗なる逆転劇と、極上に甘いオメガバース・オフィスラブ!
【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―
夢鴉
BL
写真部の三年・春(はる)は、入学式の帰りに目を瞠るほどのイケメンに呼び止められた。
「好きです、先輩。俺と付き合ってください」
春の目の前に立ちはだかったのは、新入生――甘利檸檬。
一年生にして陸上部エースと騒がれている彼は、見た目良し、運動神経良し。誰もが降り向くモテ男。
「は? ……嫌だけど」
春の言葉に、甘利は茫然とする。
しかし、甘利は諦めた様子はなく、雨の日も、夏休みも、文化祭も、春を追いかけた。
「先輩、可愛いですね」
「俺を置いて修学旅行に行くんですか!?」
「俺、春先輩が好きです」
甘利の真っすぐな想いに、やがて春も惹かれて――。
ドタバタ×青春ラブコメ!
勉強以外はハイスペックな執着系後輩×ツンデレで恋に臆病な先輩の初恋記録。
※ハートやお気に入り登録、ありがとうございます!本当に!すごく!励みになっています!!
感想等頂けましたら飛び上がって喜びます…!今後ともよろしくお願いいたします!
※すみません…!三十四話の順番がおかしくなっているのに今更気づきまして、9/30付けで修正を行いました…!読んでくださった方々、本当にすみません…!!
以前序話の下にいた三十四話と内容は同じですので、既に読んだよって方はそのままで大丈夫です! 飛んで読んでたよという方、本当に申し訳ございません…!
※お気に入り20超えありがとうございます……!
※お気に入り25超えありがとうございます!嬉しいです!
※完結まで応援、ありがとうございました!
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
【完結】壊された女神の箱庭ー姫と呼ばれていきなり異世界に連れ去られましたー
秋空花林
BL
「やっと見つけたましたよ。私の姫」
暗闇でよく見えない中、ふに、と柔らかい何かが太陽の口を塞いだ。
この至近距離。
え?俺、今こいつにキスされてるの?
「うわぁぁぁ!何すんだ、この野郎!」
太陽(男)はドンと思いきり相手(男)を突き飛ばした。
「うわぁぁぁー!落ちるー!」
「姫!私の手を掴んで!」
「誰が掴むかよ!この変態!」
このままだと死んじゃう!誰か助けて!
***
男とはぐれて辿り着いた場所は瘴気が蔓延し滅びに向かっている異世界だった。しかも女神の怒りを買って女性が激減した世界。
俺、男なのに…。姫なんて…。
人違いが過ぎるよ!
元の世界に帰る為、謎の男を探す太陽。その中で少年は自分の運命に巡り合うー。
《全七章構成》最終話まで執筆済。投稿ペースはまったりです。
※注意※固定CPですが、それ以外のキャラとの絡みも出て来ます。
※ムーンライトノベルズ様でも公開中です。第四章からこちらが先行公開になります。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる