記憶喪失の僕は、初めて会ったはずの大学の先輩が気になってたまりません!

沈丁花

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明日の君が笑顔なら③

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北瀬は礼人を無理に離そうとせず、優しく背中に手を添えながら部屋の中に誘導し、ドアを閉めた。

ぱたん、という静かな音に、礼人ははっと目を覚ます。

__…あれ、先輩のおうちのにおい…って、僕、何してるんだろう…?

「す、すみません、僕…。」

謝りながら慌てて手を離し、不快に思われていないだろうかと恐る恐る北瀬を見上げれば、彼はどうしてか寂しげに微笑んで、じっと礼人の瞳を覗いた。

彼の表情は、怒っている風でも嫌がっている風でもない。

ただ、幸せそうかというと、明らかにそうではなかった。

見つめ合うだけで何も言葉を交わさないまま、刻々と時間が流れていく。

「…昔のことを…?」

やがて、北瀬が震える声で沈黙を破った。

「はい。思い出しました。」

「全部?」

「小学校で先輩と出会ってから、あの事件が起こるまで全部です。今日は、先輩に、ありがとうとごめんなさいを伝……先輩?」

忘れてしまってごめんなさいと、守ってくれてありがとう。せめてこの二つは伝えたかったのに、言い終わらないうちに北瀬の温もりにしっかりと包み込まれ、言葉を失う。

「…どうして、思い出してしまったんですか…?」

そのまま耳元で囁かれた声は、何かを悔いているように響いた。
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