跪くのはあなただけ

沈丁花

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ep5

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日々の習慣とは恐ろしい。力なく手に取った枕元の腕時計は、いつもの起床時間を指していた。

「…最悪…。」

両手両足には手錠の跡が、首から胸にかけては大量のキスマークが、そして背中にはかゆみを伴った痛みがある。

それを鏡で1つ1つ確認するたび、一葉は大きな絶望に襲われた。

今すぐにでも彼に会い、跪いて忠誠を誓い、あなたのものにしてくださいと縋り付きたい。今一葉のsubとしての本能は、強くそう望んでいる。

誰にも心を預けることはしないと、頭ではそう思うのに。

…昨夜は熱かった。

空を仰げば脳内でその記憶が再生される…



Strip脱げ、一葉。」

顎をつかんでいた紅司の手が離れると、無意識に一葉はTシャツに手をかけた。

身体が勝手に衣服を剥がしていく。心のどこかで嫌がっていた気持ちも、その時にはすでに消えていて。

kneel跪け

次に放たれた紅司のcommandに従い、一葉の身体はぺたんとおすわりの体勢をとった。

正座から足を左右に割り開き、間に尻を落とすこの体勢は、男性の骨格に苦痛を強いる。

それでも紅司Domのcommandであれば、従うことによる快感の方が大きい。

「あっ… 」

気づけば床に擦れた性器が、つんと上を向き勃ち上がっていた。上を見れば紅司がその光景をじっと見ていて、羞恥にどくどくと心臓が脈打つ。

Stayそのまま動くな.」

隠そうとした手は、commandによって止められた。羞恥という刺激により一葉の性器は体積を増す。

そばにあった引き出しから、紅司がかちゃかちゃと何かを取り出した。

彼はそのまま羞恥に震える一葉を抱きかかえてベッドに放り、ひんやり冷たい感触のそれを一葉の手首に押し付ける。

「いっ…、やd「Shush静かに.」

嫌だと言いたかった口もまた、commandにより塞がれてしまう。

「…セーフワードはViolet。耐えられなくなかったら言え。」

Violet、Violet…

脳内で反芻し、こくり、一葉は頷いた。

クラブではクラブで決まったセーフワード(Subが限界を迎えた時に、発すれば行為が止まる言葉)があるが、

個人でプレイを行うときは自分たちで決める必要がある。

「痛くないな?」

ベッドの上で雄の目をした紅司が、両手首、太もも、両足首…と、一葉の身体に順番に枷をかけていく。

恐ろしくあっさりと太ももに足首が、足首には手首が固定され、気づけば一葉の自由は奪われていた。

開かれた状態で固定された足は、もう閉じることさえ叶わない。もちろん手で覆い隠すことも。

赤く腫れた性器も、まだ誰も許したことのない後孔も、そこを強調するかのように晒される。

「…美しいな。」

紅司はそれを舐めるようにじっと、隅から隅まで見渡した。形の良い唇の端が美しく吊り上げられる。

恥ずかしくてたまらない。それでもセーフワードを発することは本能が拒んだ。

それさえ発すれば全ての行為が終わるとわかっていたのに。

そこからはもう、沼に引きずり込まれるように一葉は紅司に身体を預けた。

紅司の調教は本当に上手かった。

拘束され、胸の突起にはクリップを、狭い秘孔にはたっぷりのローションとともに小さなプラグをねじ込まれた。

その状態で背に鞭を打たれ、性器にリングを嵌められ、後ろで達するまでは前を解放してもらえずに。

痛くて恥ずかしくて気持ちよくて、わけのわからない多種類の刺激に、何度も呻き、生理的な涙をこぼした。

それでもセーフワードを発さなかったのは、紅司が行為中、ひどく優しかったからだ。

痛めつけたのに優しいとは、矛盾しているかもしれないが、本当に。

鞭を打つたびにくいしばっていた一葉の歯の間に指を挟み、俺の指を噛めばいいと言ってくれた。

羞恥に泣きそうになれば、もう少し頑張れ、お前は美しいと、頭を撫でてくれて。

初めて侵された後ろでは、なかなかイくことが叶わなくて、イきそうな快感がこみ上げても、ギリギリ達せずなんども絶望した。

その度に紅司が一葉に甘く口付けて、苦しみを逃してくれた。

行為の後は疲れ切った一葉の身体にたくさんのキスを落とし、印を刻んで。

そしてそのあと…

拘束具を外され、身体を拭かれている間に一葉は正気を取り戻し逃げ出した。

逃げてもどうしようとないのはわかっていたが、逃げずにはいられなくて。

そして、今に至る。本当にどうしようもない。

…もうこれに頼るしかないか。

一葉はため息をつき、引き出しの中からピルケースを取り出した。

中にはダイナミクス(第2性の力関係)を抑制し、normalに近づける薬が入っている。

一葉は抑制剤と相性が悪く、副作用の吐き気や頭痛、めまいなどが色濃く出るタチなので、普段は使用を控えているのだが。

着替えてシャワーを浴び、自らの朝食を簡単にとる。そのあとで水とともに抑制剤を流し込んだ。

何もなかったと、そう思おう。

自分は誰かに心を預けたりしない。信用したってどうせ裏切られるだけ。

一葉は自分に言い聞かせるように、脳内でそう反芻した。

それに彼は愛染家の跡取り。子孫を残さなければいけない立場である。

一葉と結ばれてはいけない。
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