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第四章 朱金の姫君
5-2 突然の連れ去り
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ずっと、心の中に荒れ狂う、嫉妬という感情を抑制してきたのだろう。
「ティアラ姫、リュセルの事をどう思っていますか?」
不意にそう聞いてみた。
「え……? 素敵な方ですわ。もっと、お話してみたいと思っております」
「……愛していますか?」
ティアラはその問いに、不思議そうな顔をした。
「わたくしが愛しているのは、お姉様だけです」
きっぱりと言いきったティアラにのよどみない答え。それを聞いたレオンハルトは苦笑した。
リュセルといい、ティアラといい、迷いがないのだ。純粋に、半身のみを想っている。迷いがあったのは、自分とジュリナの方だ。
「ティアラ姫、あなたの本当の気持ちを、ジュリナにぶつけてみてはいかがですか?」
「わたくしの、本当の気持ち?」
「ええ」
レオンハルトは、彼にしては珍しい微笑みを浮かべると、ティアラに手を差し出した。
「さあ、二人を追いましょう」
続くその言葉を聞いたティアラは、深く頷いたのだった。
*****
レオンハルトがティアラの所有する白い魔道馬に乗り、共に城を出発したと同時刻、リュセルの意識は覚醒した。それも、かなり最悪な形で。
「うう……」
ものすごく、節々が痛い。
頬に風を感じて、リュセルはぼんやりと目を開ける。
「レオン?」
兄を呼ぶが、隣に眠っているはずのレオンハルトの姿はない。しかも、自分は、寝台の上にすらいなかった。
「なんじゃ、こりゃああああ!」
節々が痛いはずである。現在、リュセルは、とてつもなく不自由な格好で、馬に跨っていたのだ。馬の首の下で、一緒くたに括られている両手首に縄が食い込んでいるのが、見なくてもわかる。
「目が覚めたかい?」
後ろから声をかけてきた、聞き覚えのあり過ぎる印象的な声。それを耳にしたリュセルは、咄嗟に後ろを振り返ろうとして振り返れなかった。
振り返られる体勢じゃないのだ。
「ジュリナ殿!」
手綱を握りながら、リュセルの頭を落ちないように片手で馬の首裏に押さえつけ、器用に馬を走らせているジュリナは、聞こえた叫び声に対し、不敵に答えた。
「なんだい?」
「これは一体どういう事ですか!?……ッ」
ものすごい勢いで馬を早駆けさせている為、その影響でリュセルは言葉の最後に舌を噛んだ。
「はんっ、お前達の所為で、私達は散々だ。責任をとって、私の傷心旅に付き合ってもらうよ!」
意味がわからない。
「なんで俺が!?」
「ふっ、ただのやつ当たりだ!」
あまりにも自分勝手な言葉に、リュセルは愕然とした。唯我独尊度でいったら、兄であるレオンハルトに勝る者はいないと思っていたが、それ以上が存在したのだ。
「うううううっ」
義理の姉になるかもしれない女性が、こんな人だったとは……。つくづく、自分は不幸だと思う。
「あまり暴れないでもらえるかねえ。もうすぐ、アムルに着くから」
アムル!?
「それって、今日、浄化に向かうはずだった街じゃないか!?」
「ああ、ついでにそれも済ませちまおうかと思ってね」
何ですとおおおおおおお!?
(そ、そんなどこかに買い物にでも行くかのような、のん気な口調で言われても!!)
慌てたリュセルは、この状況を打破する方法を思案したが、いい考えが浮かばない事実に絶望する。もう、こうなっては、自分にはどうする事も出来なかったのだ。
そして、その後、地獄のような乗馬時間を経て、アムルの街についたのは、夕方になってからになった。
「逃げようとしても無駄だからな」
そう言って、街の入り口近くで馬を降りたジュリナは、固く結んでいたリュセルの手首の縄を器用に解いた。
「……」
リュセルはジュリナを睨みつけながら、馬から降り、裸足のまま地面に降り立つ。
「そんな格好じゃ、目立つねえ」
(誰の所為だ)
寝ている所を拉致されたリュセルは、夜着姿のまま、当然靴も履いていない。
「服や靴は街で買うとして、それまでこれを着てろ」
ジュリナに渡されたマントを羽織ると、リュセルはうんざりしたように言った。
「それで、何があったのですか?」
「何の事だ?」
「なんで、傷心の旅になんて出たんです?」
しかも、自分を巻き込んで。
リュセルのうんざりしたような言葉を受け、ジュリナは一気にどんよりした。
(げっ)
いきなり暗雲を背負いだしたジュリナを見たリュセルは、顔を引きつらせると、この豪胆な女性をこんな状態に出来るであろう、麗しの美姫の姿を頭に思い浮かべた。
「ティアラ姫と喧嘩でもしたんですか? 浮気でもばれたとか」
夜中に連れ出された意趣返しと言わんばかりに、ふふん、と皮肉に笑いながら、ありそうにもない事を言ったリュセルは、すぐに言った事を後悔した。
「ッ!!」
目にも止まらない素早い動きで、首を掴まれたと思ったら、その怪力で絞められる。
「黙れ、小僧」
紅い瞳に、明確なる殺意が見えた。
「これ以上無駄口叩いたら、私の鞭の餌食にしてやるよ」
そう吐き捨て、唐突にリュセルから手を離し、自分の腰にベルト代わりに巻かれている黒皮の鞭に手を伸ばしたジュリナは、二ヤリと笑った。
「げほっ、ごほごほっ」
リュセルは咽ながらジュリナを睨みつけると、彼女の凶悪な美しい微笑みにも怯む事なく言った。
「何をそんなに怯えているのですか?」
思わぬ反撃にあったジュリナは、眉をしかめる。
「何だと?」
地を這うような声にも怯むことなく、リュセルは答えた。
「あなたは、ティアラ姫に怯えている」
はっきりと言い切った相手に対し、今までこんな事を言われたことのないジュリナは、ただ、大きく目を見開いて、目の前の青年を凝視したのだった。
「ティアラ姫、リュセルの事をどう思っていますか?」
不意にそう聞いてみた。
「え……? 素敵な方ですわ。もっと、お話してみたいと思っております」
「……愛していますか?」
ティアラはその問いに、不思議そうな顔をした。
「わたくしが愛しているのは、お姉様だけです」
きっぱりと言いきったティアラにのよどみない答え。それを聞いたレオンハルトは苦笑した。
リュセルといい、ティアラといい、迷いがないのだ。純粋に、半身のみを想っている。迷いがあったのは、自分とジュリナの方だ。
「ティアラ姫、あなたの本当の気持ちを、ジュリナにぶつけてみてはいかがですか?」
「わたくしの、本当の気持ち?」
「ええ」
レオンハルトは、彼にしては珍しい微笑みを浮かべると、ティアラに手を差し出した。
「さあ、二人を追いましょう」
続くその言葉を聞いたティアラは、深く頷いたのだった。
*****
レオンハルトがティアラの所有する白い魔道馬に乗り、共に城を出発したと同時刻、リュセルの意識は覚醒した。それも、かなり最悪な形で。
「うう……」
ものすごく、節々が痛い。
頬に風を感じて、リュセルはぼんやりと目を開ける。
「レオン?」
兄を呼ぶが、隣に眠っているはずのレオンハルトの姿はない。しかも、自分は、寝台の上にすらいなかった。
「なんじゃ、こりゃああああ!」
節々が痛いはずである。現在、リュセルは、とてつもなく不自由な格好で、馬に跨っていたのだ。馬の首の下で、一緒くたに括られている両手首に縄が食い込んでいるのが、見なくてもわかる。
「目が覚めたかい?」
後ろから声をかけてきた、聞き覚えのあり過ぎる印象的な声。それを耳にしたリュセルは、咄嗟に後ろを振り返ろうとして振り返れなかった。
振り返られる体勢じゃないのだ。
「ジュリナ殿!」
手綱を握りながら、リュセルの頭を落ちないように片手で馬の首裏に押さえつけ、器用に馬を走らせているジュリナは、聞こえた叫び声に対し、不敵に答えた。
「なんだい?」
「これは一体どういう事ですか!?……ッ」
ものすごい勢いで馬を早駆けさせている為、その影響でリュセルは言葉の最後に舌を噛んだ。
「はんっ、お前達の所為で、私達は散々だ。責任をとって、私の傷心旅に付き合ってもらうよ!」
意味がわからない。
「なんで俺が!?」
「ふっ、ただのやつ当たりだ!」
あまりにも自分勝手な言葉に、リュセルは愕然とした。唯我独尊度でいったら、兄であるレオンハルトに勝る者はいないと思っていたが、それ以上が存在したのだ。
「うううううっ」
義理の姉になるかもしれない女性が、こんな人だったとは……。つくづく、自分は不幸だと思う。
「あまり暴れないでもらえるかねえ。もうすぐ、アムルに着くから」
アムル!?
「それって、今日、浄化に向かうはずだった街じゃないか!?」
「ああ、ついでにそれも済ませちまおうかと思ってね」
何ですとおおおおおおお!?
(そ、そんなどこかに買い物にでも行くかのような、のん気な口調で言われても!!)
慌てたリュセルは、この状況を打破する方法を思案したが、いい考えが浮かばない事実に絶望する。もう、こうなっては、自分にはどうする事も出来なかったのだ。
そして、その後、地獄のような乗馬時間を経て、アムルの街についたのは、夕方になってからになった。
「逃げようとしても無駄だからな」
そう言って、街の入り口近くで馬を降りたジュリナは、固く結んでいたリュセルの手首の縄を器用に解いた。
「……」
リュセルはジュリナを睨みつけながら、馬から降り、裸足のまま地面に降り立つ。
「そんな格好じゃ、目立つねえ」
(誰の所為だ)
寝ている所を拉致されたリュセルは、夜着姿のまま、当然靴も履いていない。
「服や靴は街で買うとして、それまでこれを着てろ」
ジュリナに渡されたマントを羽織ると、リュセルはうんざりしたように言った。
「それで、何があったのですか?」
「何の事だ?」
「なんで、傷心の旅になんて出たんです?」
しかも、自分を巻き込んで。
リュセルのうんざりしたような言葉を受け、ジュリナは一気にどんよりした。
(げっ)
いきなり暗雲を背負いだしたジュリナを見たリュセルは、顔を引きつらせると、この豪胆な女性をこんな状態に出来るであろう、麗しの美姫の姿を頭に思い浮かべた。
「ティアラ姫と喧嘩でもしたんですか? 浮気でもばれたとか」
夜中に連れ出された意趣返しと言わんばかりに、ふふん、と皮肉に笑いながら、ありそうにもない事を言ったリュセルは、すぐに言った事を後悔した。
「ッ!!」
目にも止まらない素早い動きで、首を掴まれたと思ったら、その怪力で絞められる。
「黙れ、小僧」
紅い瞳に、明確なる殺意が見えた。
「これ以上無駄口叩いたら、私の鞭の餌食にしてやるよ」
そう吐き捨て、唐突にリュセルから手を離し、自分の腰にベルト代わりに巻かれている黒皮の鞭に手を伸ばしたジュリナは、二ヤリと笑った。
「げほっ、ごほごほっ」
リュセルは咽ながらジュリナを睨みつけると、彼女の凶悪な美しい微笑みにも怯む事なく言った。
「何をそんなに怯えているのですか?」
思わぬ反撃にあったジュリナは、眉をしかめる。
「何だと?」
地を這うような声にも怯むことなく、リュセルは答えた。
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