【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第六章 北の神童 

1-2 サンジェイラの少年②

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 光と共に巻き起こった風によって、肩で切りそろえられた金の髪が踊る様が幻想的だった。

 そして少年の姿の中で何よりも印象的なのが、天使のような愛らしい外見にまったく似合っていない、左目を覆う漆黒の眼帯だ。

 驚きに目を見張るリュセルの前で銀の光は消え、眼帯のない方の、閉じていた右目を少年はゆっくりと開けた。

 蒼天の色の瞳が、まっすぐにリュセルを見つめる。

「「「ローウェンっ!?」」」

 その場にいた、リュセル以外の女神の子供達が、声をそろえて少年の名を呼んだ。

「なんで、勢ぞろいしているのさ」

 乱れた自分の金髪を整えながら、その少年、ローウェンは驚いたように言った。

「いきなり転移装置が発動したんだ。驚いてやって来るのは、当たり前だろう!?」

 ジュリナがそう言うと、ローウェンは不満そうに頬を膨らませた。

「せっかく作ったのに、一回も使ってくれないんだもん。ジュリナ姉さんは」

 まるで、宗教画の天使のような容貌をした美少年だ。体の線も、少年期特有の細さを維持しており、もしかしたら、その手首は、ティアラよりも細いかもしれない。力強さを秘めた右の蒼い瞳と、体のアンバランスさが危うい印象を受けるような少年だった。

 ローウェンは視線をレオンハルトに移すと、にっこりと笑う。

「お久しぶりです、レオンハルト兄さん」

「ああ、五年振り位か。大きくなったな」

 わずかに口端に笑みの形をのせてそう言ったレオンハルトに、ローウェンも嬉しそうに頷く。そして、そのまま視線を移動させ、リュセルを、子供特有の、興味深々のキラキラした目で見つめて来た。

「初めまして。リュセル王子ですよね? 僕の名は、ローウェン・レイデューク・サンジェイラ。サンジェイラ国の第七王子であり、玉主です」

 人懐こい性格らしいローウェンは、リュセルの手を取ると、力いっぱい振った。

「あ、ああ。よろしく」

 リュセルが答えると、ローウェンは、皆が皆、夜着姿なのにやっと気づいたようだった。

「あ、もしかして、みんな、就寝中だったの?」

 もしかしなくても、その通りだ。

 恨めしそうな三人の視線に(レオンハルトは無表情のままだ)、まったく動じる事なくローウェンは言った。

「ともかく、場所を移そうよ」

 いきなり仕切りだした、この場にいる女神の子供達の中で、最も最年少であるローウェンに、最年長組のレオンハルトとジュリナは顔を見合わせて、ため息をついた。

 外見ばかりは天使のような、この少年の、マイペース振りはまったく変わっていなかった。今いない、彼の半身たる玉鍵を合わせても、ローウェンこそが、六人の女神の子供の中で一番最年少、十三歳なのである。二十四歳のレオンハルトやジュリナからすると、実に十一歳の年の差なのだった。



 そうして、場所を移す事にした五人が移動していた間、戻りの道すがらに、レオンハルトがローウェン王子についての情報をリュセルに教えてくれた。

 ローウェン・レイデューク・サンジェイラ。

 北にある、玉守りの王国、サンジェイラの第七王子であり、玉主。女神の子供の中でも、最年少の十三歳。サンジェイラにあるという、知識の宝庫とも謳われるトラキアの学塔で、この数年、ずっと首席をキープしている天才でもある。

 その頭脳の明晰さから千年に一人の天才、”北の神童”と呼ばれているらしい。

(玉主だったのか)

 てっきり、自分と同じ、宝鍵だと思っていたリュセルだ。

 つまり、この、細い体の少年は、レオンハルトやジュリナと同じ立場の者という事になる。威風堂々とした、剣主、鏡主に比べると、かなり頼りない風情があった。後ろから、前を歩くローウェンの後ろ姿を見るが、ティアラよりも背が低い。 おそらく160cmあるかないかという所だろう。まあ、成長期真っ只中なのだろうから、すぐに追い抜くだろうが……。

 ローウェンをリュセル達の部屋へと案内し終えた夜着姿の四人は、とりあえずは、衣装を着替える事にした。

 そうして、ジュリナとティアラが着替えの為、自室に戻った後、一人になってしまったローウェンは、何故か妙なダンスを踊っていた。

「……おい、何してるんだ?」

 着替え終わったリュセルが、寝室を出て、いきなり目にした光景はあまりにも奇妙過ぎた。

「え?体操だよ。今、サンジェイラで流行ってるんだ。お腹周りがやせられるんだってさ。リュセル兄さんもやる?」

「遠慮する。……って違う! なんで、今それをやってるんだ!?」

 リュセルの全力での突っ込みに対し、ローウェンは平然と答えた。

「暇だから」

「……」

 古来より、天つ才に優れた人は変人が多かったらしいが、ローウェンも例外なく、変人かつ、その上、かなりの天然ボケだった。

「ローウェン、何故、ディエラにやって来たのだ?」

 リュセルと同じように着替え終え、寝室を出て来たレオンハルトが、一見変なダンスをしているようにしか見えないローウェンに尋ねた。
 彼は、奇抜なローウェンの言動に慣れているのか、まったく動じていない。いつもの冷静な表情のまま、真っ直ぐに、年の離れた玉主を見つめている。

「うん。レオンハルト兄さんがディエラに来てるって聞いたから、帰る際に同乗してアシェイラに行こうと思って」

 唯一無二の自分の半身を、そんなの呼ばわりした目の前の玉主を見たリュセルは、以前にジュリナに聞いた、玉主と玉鍵の険悪な仲の悪さを垣間見た気分だった。

「知らないんじゃないの?第一、あいつとは一か月位顔をあわせてないし……。浄化任務も、最近、サンジェイラではなかったしね」

 一か月どころか、一週間だってレオンハルトと離れた事のないリュセルは、驚きのあまり声が出なかった。

「では、アルティスにはこちらから手紙を送っておこう」

 レオンハルトが淡々と言うと、ローウェンは嫌そうな顔をしたが、渋々頷いた。

「で、いつ、アシェイラに発つの?」

 またしても気分が変わったのか、ワクワクしたような顔でそう言ってきたローウェンに、レオンハルトは答えた。

「今日だ」

 そう、結局、一か月近くもディエラ国王都に滞在してしまっていたリュセルとレオンハルトは、至急アシェイラに戻らなくてはならなくなったのだ。アシェイラで邪気浄化の任務が入ったのである。

「今日!? うわっ、僕ってギリギリだったんだね。良かった間に合って!」

 そう言ってローウェンが胸を撫で下ろした時、着替えを終えた女性陣(?)が部屋に戻って来た。

「何故?」

 アシェイラに行くのが目的というローウェンに、レオンハルトは不審そうな声を出した。

「アシェイラにも転移装置を作るのさ」

 自信満々に答えた、少年の言葉を聞いたリュセルは、驚きに目を見開く。つまりは、さっき見た、瞬間移動の装置を、アシェイラの封印の間にも作るという事か?

「あれは、正確なものなんだろうね?」

 疑うようなレオンハルトの言葉に、ローウェンは自信たっぷりに頷いた。

「僕が移動したのを見たでしょう? 安全性は保障するよ」

 性格に少々難ありだが、彼の頭脳の明晰さ、そして、知識の正確さを知っているレオンハルトは、少し考え込んだ後小さく頷いた。

「わかった、いいだろう」

 レオンハルトの返事に、ローウェンはダンスをやめると、汗を拭いながら言った。

「ああ、いい汗かいた」

「話が噛み合っていないぞッ」

 ローウェンの言葉に、リュセルは全力で突っ込んだ。

「そうだ! 僕の妹の姿絵を見せてあげるよ」

「無視かよ」

 またしても、いきなり話を変えたローウェンの自由奔放さにリュセルは疲れてきた。

 レオンハルトはというと、そんなローウェンに慣れているのか、さっさと話を切り上げ、ソファで優雅にお茶をしていた。

(逃げたな)

 リュセルが恨めしそうな目線を送るが、レオンハルトはそれを軽く無視する。

「見て見て、ねえ、見て!」

「あ~、わかったわかった」

 リュセルは軽く疲弊しながらも、ローウェンが差し出した小さな姿絵に視線を移す。姿絵の中では、十歳を少し過ぎた位の年齢の黒髪の少女が、薄紅色の着物姿で笑っていた。

(純和風な子だな)

 美少女ではないが、可愛らしい女の子だった。

「サクラって言うんだ。可愛いでしょ?」

「ああ」

 リュセルが本心から言うと、ローウェンは嬉しそうに笑った。

「僕の、唯一の家族なんだ」

 しかし、続いた台詞にリュセルは眉をしかめる。

(唯一の家族?)

 ローウェンの、何気ない台詞に深い哀しみを感じ取って、リュセルは困惑したようにソファでお茶中のレオンハルトを見た。

「…………」

 そんな弟に対し、レオンハルトは詮索するなというように、無言で首を振る。

「……お茶でも、飲まないか? ほ、ほら、お菓子もあるぞ」

 困ったリュセルがローウェンにそう言うと、ローウェンの意識は一気にお菓子に傾いた。

「え? お菓子!?」

 そして、ものすごく嬉しそうに、テーブルの上にレオンハルトが並べたお菓子類を見つめる。

「あっ、紅茶だ!」

 そう歓声を上げると、ソファへと座り、レオンハルトが注いでくれる紅茶を、珍しそうにローウェンは見つめた。

 リュセルは、その切り替えの早さに唖然とするが、すぐにため息をついて、レオンハルトの隣に腰を下ろす。

「紅茶が珍しいのか?」

「うん、僕の国では緑茶が基本だからね」

 リュセルの言葉に頷くと、ローウェンはカップの取っ手を珍しそうに見た後、紅茶を一口飲んだ。

「おいしいね」

 嬉しそうな声だ。それを聞いたリュセルも、知らずに笑みがこぼれる。

 少々変わっているが、ローウェンは普通の子供と大差なかった。先程、彼から感じた闇は気の所為だったような気がする程、今のローウェンはご機嫌だ。

「ところで、アルティスはこの事を知ってるのか?」

 しばらく寝覚ましの紅茶を飲んだ後、不意にレオンハルトがそう尋ねた。

(アルティス?)

 リュセルが内心首を傾げていると、向かいで、今まで機嫌よく紅茶を飲んでいた、ローウェンの表情が一変した。彼は小さな唇に邪悪な笑みを浮かべると、冷たい声で答える。

「誰、それ」

 その答えに、リュセルはレオンハルトを見る。

(誰って言っていますが?)

 レオンハルトは、ローウェンの切り捨てるような答えにも動じず、いつもの抑揚のあまりない声で、簡潔に答えた。

「お前の半身だ」

(半身!?)

 リュセルが視線を一気にローウェンに移すと、当のローウェン本人はつまらなそうに答える。

「ああ、そんなのもいたね」

(そ、そんなの?)
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