【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第六章 北の神童 

2-1 ディエラ王都からの出立

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「まったく、ローウェン。お前にはいつも驚かされるねぇ」

 ジュリナはそう言うと、ローウェンの金髪を撫でくり回した。

「でも、ローウェンの行動力の早さは長所ですわ」

 ティアラも、優しい眼差しをローウェンに注ぐ。

「っで? 何しにこいつはここに来たんだい? レオンハルト」

 ローウェンの髪を乱しに乱した後、ジュリナは我関せずといった感じでジュリナとティアラの分の紅茶を準備していた幼なじみに尋ねた。

「アシェイラに転移装置を作りたいそうだ」

 その言葉に、ジュリナは「マジか!?」と、今度はローウェンに聞いた。

「うん。アシェイラにも作れば邪気浄化任務の効率も上がるし、それに、いつでも、リュセル兄さんも婚約者のティアラ姉さんに会えて嬉しいんじゃない?」

 いきなり話をふられたリュセルは、飲んでいた紅茶を噴出しそうになる。ティアラを見ると、彼女も照れたように頬を染めていた。二人の間に、最近ではそう珍しくもなくなった、甘酸っぱい空気が流れ始めていた。

「リュセル様」

 そっと、優しく呼びかけられる。

「ティアラ姫」

 その呼びかけに、リュセルは甘い微笑みで応じた。

 何を言う訳でもなく、ただ……、無言のまま、視線を交わしあう。熱く見つめ合うそは、美男美女のカップルそのものだ。
 リュセルは、ティアラの緑色の瞳に「なんて美しいのだろう。」と見惚れ、ティアラはティアラで、リュセルの銀の瞳に「綺麗な色」と見惚れていた。互いに半身がいるというのに、自分の婚約者に並々ならぬ好意を抱いている二人は、いつしか、まるで恋人同士のように寄り添っていた。

(う~ん、なんか、間に入り込めない空気だなぁ)

 蕩けるような微笑でティアラを見つめるリュセル。うっとりとした瞳でそれに答えるティアラ。両方を見比べながら、ローウェンはもじもじしてしまう。見ている方が照れくさくなってしまうじゃないか。

 しかし、そんな若い二人を良く思わない人物が、ただ一人。

「ひゅーひゅー、熱いねぇ」

 ティアラの手をとろうとした矢先、ジュリナがそう言ってリュセルを睨んだ。タイミングを逃したリュセルは、ジュリナの睨みもあり、ティアラから手を引く。
 最近、柔和になってきたと思われたが……。

(相変わらずだな、ジュリナ殿は)

 リュセルはあきらめモードになりながらも、この一か月の付き合いでジュリナ耐性がついていたので、不敵な笑みを浮かべ、彼女の、女にしておくにはもったいない程に凛々しい美貌を見つめる。

「ふっ、嫉妬など見苦しいですよ。ジュリナ殿」

 挑戦的なリュセルの態度に対し、ジュリナも面白いと言わんばかりに、口端を僅かに上げて、薄く微笑む。

「言うようになったねぇ、坊や」

 バチバチバチッと火花を散らし始めたリュセルとジュリナ。それを見ていたレオンハルトは、小さくため息をついた。

 彼は、後悔していた。

 この一か月というもの、弟を、この腐れ縁の幼なじみに関わらせ過ぎた為、かなり影響を受けてしまっているのだ。

 表情を変える事のないまま、どうしたものかと思案するレオンハルトと、火花を散らして臨戦態勢のジュリナとリュセル、おろおろと姉と婚約者を見守るティアラを黙って見ていたローウェンは、ソファに横になると、懐から、可愛らしい黒猫のワッペンの入ったアイマスクを出し、それを装着して寝転がった。

「ど~でもいいケド、僕、一眠りするから出立する時に起こしてくれる?」

 かなりマイペースな事を言って、健やかな寝息を立て始めた天才少年に、リュセルは突っ込んだ。

「こんな状況で寝るなっ!」

 しかし、ローウェンはもう起きなかった。



*****



「いつでもまたおいでなさいね。レオンハルト、リュセル。ディエラ国は、いつでもあなた達を歓迎しますよ」

 出立時に対面したシルヴィア女王は、そう言うと、優しく慈悲深い微笑みを浮かべた。

「リュセル様~」

「行っちゃ嫌っ!」

「ずっと、ここにいて~!」

 この一か月でリュセルにすっかり懐いた様子の三つ子の末姫達は、駄々をこねてリュセルを困らせた。

「また会いにきますよ、小さな姫君達。その頃には、きっとあなた達は、目も眩むような素敵な女性に成長しているのでしょうね」

 年端もゆかぬ幼い姫君達相手に甘く微笑み、誘惑的な甘い声でささやくリュセルを横で見ていたレオンハルトは、苦虫を噛んだような顔になった。

 すっかり、ジュリナの影響を受けている。

 元々、すべての女性を魅了するような美貌の持ち主なのだ。それに、ジュリナ直伝の口説き文句が加わってしまって、リュセルはかなり危険な男(女性限定)になっていた。

「ジュリナ……」

 氷点下に冷え切った声で、自分の名を呼んだ幼なじみにジュリナは慌てて答える。

「え!? これも、私の所為だと言うのかい!?」

 濡れ衣だ! と首を大きく振るジュリナに、レオンハルトは冷たい目線を送る。その様子を見ていたシルヴィア女王は、目を丸くして嬉しそうに笑った。

「あなた達も、すっかり仲良くなったのね」

 その言葉を聞いたレオンハルトとジュリナは、同時に衝撃を受ける。確かに、前よりは、お互いに話しやすくなったのは事実だが……。

「誤解です、おばあ様。何を好き好んで、私が、こんな男女と……」

「それは、こちらの台詞だ」

 そう言い合ってしばらく睨み合っていた二人だったが、不意にジュリナが噴出した。

「くくくっ」

「ふっ」

 そして、つられるように、レオンハルトも薄く微笑む。

「ではな、レオンハルト。道中気をつけろよ。今回、一緒に過ごせて楽しかったよ」

「ああ」

 そう言って握手を交し合う、レオンハルトとジュリナの姿を見ていたリュセルは思った。

(元婚約者同士というよりも、戦友のような雰囲気をかもし出しているような気がするのは何故だ?)

 それは二人共、いろんな意味でたくましいから。

 じ~っとジュリナを見つめていたリュセルに、彼女はにやりと意地の悪い笑みを浮かべた。

「なんだい、妬いているのかい?」

「!?」

「大丈夫、お前の麗しのお兄様を奪ったりしないよ」

 その言葉に、リュセルは冷静に言った。

「いや、まったく、あなた相手ではそんな事、思いもしなかったぞ」

 ジュリナはそれを聞いた途端、にっこりと微笑むと、リュセルの足を思いっきり踏みつけた。

(いっ!)

 そして涙目になりそうになるリュセルの頭を、ポンポンと軽く叩く。怪訝そうな視線を向けてくる妹の婚約者に、ジュリナは言った。

「お前は、男にしては見所がある。そのまま男を磨いていけよ、リュセル」

 ジュリナらしい、別れの言葉だった。

「ああ、ジュリナ殿もお元気で」

 そしてリュセルは、ティアラへと視線を向けた。

「ティアラ姫」

「リュセル様」

 言いたい事は山ほどあるのに、何も言葉にならなかった。

「お元気で、ティアラ姫」

 そう言って悲しそうに微笑むリュセルに、ティアラは両手を握り締め、小さく頷く。そうして身をかがめると、涙の溜まったティアラの瞼の上にリュセルは優しく口づけた。

 可憐な姫君をなぐさめるように口づけを贈る美貌の王子の姿は、まるで一枚の絵のように美しい光景だった。

 うっとりと見入る、ルカ、ルイ、ルナの目は焦点が合っていなかった程だ。

「では」

 レオンハルトが一礼するとリュセルもそれに習って一礼し、二人は別れの場であった謁見の間を退出した。

「結局、ローウェンは挨拶に来なかったな」

 ティアラとの別れを引きずり、落ち込みモードで言ったリュセルにレオンハルトは頷いた。

「先に馬車で待ってる、と言っていたよ」

 長い廊下を進み、城を出ると、扉の前に横付けされていた馬車の近くにいた、三人の騎士に向かってレオンハルトは小さく頷いた。

 主の合図に、アントニオが馬車の扉を恭しく開ける。

「殿下、ローウェン王子は、もう中でお待ちですよ」

 ユージンの言葉を聞き、レオンハルトは言った。

「ああ、わかっている」

「いきなり、北の神童と一緒に帰国する事になったからびっくりしましたよ。それにしても、ローウェン王子って、初めて見ましたけど、すっごい美少年ですね!」

「……」

 お調子者の騎士の軽口を聞き流したレオンハルトは、無言のまま馬車に乗り込んだ。

「ねえねえ、リュセル王子もそう思いませんか?」

 返事がない為、今度は矛先をレオンハルトの後ろにいる自分に移したユージンに対し、リュセルは頷いた。

「まあな」

 あれで、性格がああじゃなければ、完璧だったろうさ。リュセルはそう思いながら、乾いた笑みを浮かべたのだった。

 そうして、リュセルが馬車に乗り込むと、一見天使のような金髪の美少年が、黒い背表紙の単行本を熱心に読んでいた。

「っ!?」

 それは、かなりの衝撃だった。

 自分の本は、確か、レオンハルトに取り上げられたままだ。つまり、少年の手の中の本は、彼の私物という事になる。

「黒猫ノンちゃんシリーズが、好きなのか?」

 ここに、待望の同士が!

 つい、勢いをつけて、目の前のローウェンに詰め寄ると、彼は驚いたように右の蒼い瞳を見開く。

「好きもなにも……、僕、この本の作者だから」

 頭の中が真っ白になったリュセルを乗せて、馬車はアシェイラを目指して出立したのだった。
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