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第六章 北の神童
2-2 馬車の中で
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「名前も入れてくれないか?」
「わかったよ」
レオンハルトは無言のまま、生き生きとした様子でローウェンのサインをもらっている、隣のリュセルを横目で見つめた。
手馴れた手つきで本にサインをすると、ローウェンはその本をリュセルに渡した。
女性や子供に絶大なる支持を受けている超ベストセラーの小説、黒猫ノンちゃんシリーズの、それは十七巻目だった。
いわば、まだ未発売のものである。
元々あまり表情が豊かではない為、一見無表情だがリュセルの頭は今完全にお花畑化していた。
(凄すぎる)
ここに、自分の愛読書の、まさしく作者様が!
「リュセル兄さんが、僕の本を読んでいてくれていたなんて、本当に嬉しいな」
えへへへ、と笑ったローウェンにリュセルは真面目な顔で答える。
「俺のバイブルだ、先生」
その銀の瞳には、霞がかかっている。
「へへへへ~、先生だって。照れるね」
額をポリポリかいて、照れくさそうに笑ったローウェンは、白い頬をうっすらと赤く染めた。もじもじとしているローウェンは嬉しそうだ。
「あなたの話は、友情、勇気、そして、家族の大切さが本当によく描かれている。十三巻目でノンちゃんの父上が亡くなる時の話など、涙で文字が追えなかった程だ」
リュセルの熱のこもった台詞に対し、レオンハルトは思った。
(泣いたのか)
その後、黒猫ノンちゃんシリーズの裏話などを著者であるローウェンから聞く事が出来て、リュセルは興奮しっぱなしだった。それだけではない。アシェイラへの帰国の為の、この馬車での退屈な時間を解消してくれたのは、まぎれもなく彼だ。
とにかく、その知識の広さが、若干十三歳にして半端じゃない。数学、文学、世界史、帝王学、神学、兵法から民話まで、ありとあらゆる知識のエキスパートなのだ。アシェイラ一の知識人、レオンハルトと同等……、いや、それ以上かもしれなかった。
さすがは、学問の都と称される、サンジェイラ国王都出身なだけある。その二つ名通り、ローウェンは神童だったのである。その上、口の重いレオンハルトと違い、人懐こいローウェンは、よくしゃべる。自分の知識をひけらかす事なく、面白おかしく話すこの少年に、リュセルが好感を持ったのはすぐだった。
少し変な所がある事など気にならない程、ローウェンは、いつもにこにこ笑っている、愛想のいい少年である。それが、己の半身の話になると、豹変して、邪悪な表情を浮かべるのがリュセルには理解不能な事であったが。
自分達女神の子供にとって、半身とはなくてはならない愛しい存在なはずなのだから……。
暗い……暗い道をただ走る
ー助けて、助けて助けてっ! お願い、誰か助けて!ー
助けを求めてしがみついた相手は、自分を見るなり、縋りついた手を振り払った。その、闇よりも深い、漆黒の瞳が、とても冷たい。
ー我に縋るな。ローウェン……ー
前王たる祖父に寵愛されて育った、彼の話し方は、少し古風だが、それがまた、絶望に支配された自分の心に冷たく響く。
褐色の肌、漆黒の髪、闇色の瞳。”夜の支配者”の二つ名を戴く、二つ年上の腹違いの兄。
愛したかった。
愛されたかった。
そう思うのは、罪ですか?
今、兄であり、半身たる彼に感じるのは、祖父や父王……、たくさんの兄弟姉妹達に愛されている故の、その傲慢さへの激しい憎しみだけであった。
振り払われた手の感触だけが、いつまでたっても消えない。半身にも必要とされない自分は、一体どうしたらいいのだろう。やはり、自分は、女神の子供として”出来損ない”なのだろうか? だから……
ーだから、みんな……、僕が嫌いなんだ…………ー
「っ!?」
ローウェンは不快な悪夢から逃れ、一気に目を覚ますと、小さくため息をついた。
(ずいぶんと、昔の夢)
しかも、その夢に、あいつが出て来た。
この世で最も嫌いな者。兄、アルティス。
「ずいぶんとうなされていたぞ」
声に抑揚があまりないが、耳に心地いい、低い声が聞こえて、ローウェンはしていたアイマスクをとると、横になっていた体をゆっくりと起こした。
「嫌な夢を見たよ」
そう言って額の汗を拭いながら、ローウェンは目の前のレオンハルトを見た。ディエラを出発して早2週間半、今日中にはアシェイラ国王都に着く予定だった。
行きのような事件(テイル街幽霊騒動)がまったくなかった為、レオンハルトの心中も穏やかなものであった。
「まったく……、王都から王都に移動するだけで、こんなに時間がかかるんじゃあ、大変だよ。でも、僕がアシェイラに転移装置を設置したら、それが一瞬で解消されるよね」
「それは同感だが。ローウェン、お前の頭の中身は一体どうなってるんだ?」
リュセルの問いに、ローウェンは答えた。
「僕って、天才だからさ」
「自分で言うな」
リュセルの突っ込みに、ローウェンはあははは、と笑うと、不意に目を細めた。
「僕からすれば、今のリュセル兄さんの状態こそ、どうなってるの? って感じなんだケド」
「どうって……、何がだ?」
不思議そうな顔をしたリュセルの、現在の体勢は一見すごかった。
ローウェンの向かい側に座るレオンハルトの膝を枕にして、兄の髪の毛先をくるくると指に巻きつけて弄んでいるのだ。レオンハルトもレオンハルトで、その状態で平然と単行本を片手に読書をしている。
ともかく、このアシェイラの半身コンビ、意味もなく、よくくっついているのだ。
ローウェンの知るもう一組の同胞、ディエラの半身コンビたるジュリナとティアラでさえ、こんなにくっついていなかったような気がする。
「俺の状態が、何だって?」
レオンハルトの膝の上で身を起こし、怪訝そうにリュセルは尋ねた。
「何でもないよ」
これが、本来の半身同士の距離感なのだろうか?ローウェンは、そう思いながら小さく笑った。
「それにしても、ディエラもアシェイラも、治安もいいし、街道も綺麗に舗装されていて、とてもいい国だね」
気を取り直したローウェンが、馬車のカーテンを少しめくって、外の景色を見ながらそう言うと、レオンハルトがピクリと反応した。
「サンジェイラはどうなっているんだい? 今だ治安が悪いままか?」
兄のその言葉に、リュセルは目を見開いた。
初耳である。
「う~ん。はっきり言って、良くないよ。普通に街道に賊が出るし、どこでも人身売買は行われてるし、王都でも、帰る家のない人達が地面に転がってるし、城内でも一部の人達が不正に国税を懐に入れてるよ。民は常に、餓えと戦っている」
ローウェンの言葉にリュセルは唖然とした。
「それって、良くないどころの騒ぎじゃないんじゃないか?」
「うん。このままだと、サンジェイラは内から滅びる」
あっさりとそう答えたローウェンに対し、リュセルは眉をひそめた。
「自分の国だろう? そんなに平然としていていいのか?」
「だって、僕は女神の息子だから、国に対する責務を負わないし」
「……」
それはそうだが、そんなに簡単に割り切れるものなのか?自分の国と国民。それに、家族や身内の事を。大切な人が苦しむ様など、誰しも見たくはないものなのに。
「国庫は、今や火の車だよ。父上の浪費のおかげでね……。このままだと、トラキアの学塔も閉鎖になるかもね。僕の国の王様は、アシェイラやディエラみたいに、いい王様じゃないんだ」
それきり、サンジェイラの国情について口を閉ざしてしまったローウェンを眺めたリュセルは、レオンハルトに目を向けた。
レオンハルトは読んでいた単行本を閉じて、何か考え込んでいるようだった。
そしてリュセルは、窓の外の景色を見つめているローウェンの、年に似合わぬ大人びた横顔に再び視線を移す。太陽の化身のようなこの少年につきまとう闇は、一体なんなのだろうか……。
仲が悪いという半身も、関係しているのか?いつか、知る時が来るのかもしれないが、それは今じゃない。
リュセルは話が途切れると、また、レオンハルトの膝上に頭を戻し、懐から、ローウェンにもらった黒猫ノンちゃんシリーズの最新刊を出し、読む事にした。この帰りの旅で、何度も読んだが、全然飽きない。
レオンハルトの膝枕を堪能しながら、リュセルは思う。
肩から落ちた、兄の柔らかな胡桃色の髪が頬をくすぐるが、決して不快な感触ではなかった。それどころか、レオンハルトから香る香りは、とてもいい香りで、リラックス出来るし、とても気持ちいい。
(やばい、また寝てしまいそうだ)
リュセルはあくびを噛み殺しながら、視線を本に向ける。
寝ながら読書をする弟に、レオンハルトは一瞬眉をしかめたが、何も言わずに小さくため息をついたのだった。
リュセルがその気持ち良さに耐えきれずに、意識を手放したのは、それからすぐの事だ。
*****
王都が近づくにつれて、街道に賑わいが増していくのが馬車の中からでもわかる。
ディエラ王都が芸術の都で、サンジェイラ王都が学問の都なら、ここ、アシェイラは、武門と商業の都である。
女神の宝を象徴とする三王国のなかでも、最も国土が大きく、豊かな国。それが、名君と名高いジェイド王が治める、アシェイラ国だ。
王都の門の警備も、レオンハルトの引継ぎがうまくいっていた為、万全な上、中に入る際の身分証明は厳しいものだった。
「へ~。ディエラも綺麗でいい国だったケド、アシェイラはすごいね」
そう感嘆のため息をつくと、ローウェンはわくわくしたような表情で、王都の賑わいをカーテンの隙間から覗き見ている。
「本当にすごいな」
その後ろから一緒に覗いていたリュセルが呟くと、ローウェンは不審そうな目つきになった。
「リュセル兄さん、この国の王子なのに、街に出た事がないとか言わないよね」
「ないぞ」
きっぱりと返って来た予想通りの答え。それを聞いたローウェンは、大仰なため息をついた。
「噂通りの、”深窓の姫君”振りだね。」
「なんだって?」
眉をしかめるリュセルにローウェンは両手を広げた。
「リュセル兄さんは、もっと世間を知るべきだよ」
レオンハルトに聞こえないように小声でそう言ったローウェンに、リュセルは口端を引きつらせた。
十三歳の少年に、世間知らずの称号を頂いてしまった……。
「わかったよ」
レオンハルトは無言のまま、生き生きとした様子でローウェンのサインをもらっている、隣のリュセルを横目で見つめた。
手馴れた手つきで本にサインをすると、ローウェンはその本をリュセルに渡した。
女性や子供に絶大なる支持を受けている超ベストセラーの小説、黒猫ノンちゃんシリーズの、それは十七巻目だった。
いわば、まだ未発売のものである。
元々あまり表情が豊かではない為、一見無表情だがリュセルの頭は今完全にお花畑化していた。
(凄すぎる)
ここに、自分の愛読書の、まさしく作者様が!
「リュセル兄さんが、僕の本を読んでいてくれていたなんて、本当に嬉しいな」
えへへへ、と笑ったローウェンにリュセルは真面目な顔で答える。
「俺のバイブルだ、先生」
その銀の瞳には、霞がかかっている。
「へへへへ~、先生だって。照れるね」
額をポリポリかいて、照れくさそうに笑ったローウェンは、白い頬をうっすらと赤く染めた。もじもじとしているローウェンは嬉しそうだ。
「あなたの話は、友情、勇気、そして、家族の大切さが本当によく描かれている。十三巻目でノンちゃんの父上が亡くなる時の話など、涙で文字が追えなかった程だ」
リュセルの熱のこもった台詞に対し、レオンハルトは思った。
(泣いたのか)
その後、黒猫ノンちゃんシリーズの裏話などを著者であるローウェンから聞く事が出来て、リュセルは興奮しっぱなしだった。それだけではない。アシェイラへの帰国の為の、この馬車での退屈な時間を解消してくれたのは、まぎれもなく彼だ。
とにかく、その知識の広さが、若干十三歳にして半端じゃない。数学、文学、世界史、帝王学、神学、兵法から民話まで、ありとあらゆる知識のエキスパートなのだ。アシェイラ一の知識人、レオンハルトと同等……、いや、それ以上かもしれなかった。
さすがは、学問の都と称される、サンジェイラ国王都出身なだけある。その二つ名通り、ローウェンは神童だったのである。その上、口の重いレオンハルトと違い、人懐こいローウェンは、よくしゃべる。自分の知識をひけらかす事なく、面白おかしく話すこの少年に、リュセルが好感を持ったのはすぐだった。
少し変な所がある事など気にならない程、ローウェンは、いつもにこにこ笑っている、愛想のいい少年である。それが、己の半身の話になると、豹変して、邪悪な表情を浮かべるのがリュセルには理解不能な事であったが。
自分達女神の子供にとって、半身とはなくてはならない愛しい存在なはずなのだから……。
暗い……暗い道をただ走る
ー助けて、助けて助けてっ! お願い、誰か助けて!ー
助けを求めてしがみついた相手は、自分を見るなり、縋りついた手を振り払った。その、闇よりも深い、漆黒の瞳が、とても冷たい。
ー我に縋るな。ローウェン……ー
前王たる祖父に寵愛されて育った、彼の話し方は、少し古風だが、それがまた、絶望に支配された自分の心に冷たく響く。
褐色の肌、漆黒の髪、闇色の瞳。”夜の支配者”の二つ名を戴く、二つ年上の腹違いの兄。
愛したかった。
愛されたかった。
そう思うのは、罪ですか?
今、兄であり、半身たる彼に感じるのは、祖父や父王……、たくさんの兄弟姉妹達に愛されている故の、その傲慢さへの激しい憎しみだけであった。
振り払われた手の感触だけが、いつまでたっても消えない。半身にも必要とされない自分は、一体どうしたらいいのだろう。やはり、自分は、女神の子供として”出来損ない”なのだろうか? だから……
ーだから、みんな……、僕が嫌いなんだ…………ー
「っ!?」
ローウェンは不快な悪夢から逃れ、一気に目を覚ますと、小さくため息をついた。
(ずいぶんと、昔の夢)
しかも、その夢に、あいつが出て来た。
この世で最も嫌いな者。兄、アルティス。
「ずいぶんとうなされていたぞ」
声に抑揚があまりないが、耳に心地いい、低い声が聞こえて、ローウェンはしていたアイマスクをとると、横になっていた体をゆっくりと起こした。
「嫌な夢を見たよ」
そう言って額の汗を拭いながら、ローウェンは目の前のレオンハルトを見た。ディエラを出発して早2週間半、今日中にはアシェイラ国王都に着く予定だった。
行きのような事件(テイル街幽霊騒動)がまったくなかった為、レオンハルトの心中も穏やかなものであった。
「まったく……、王都から王都に移動するだけで、こんなに時間がかかるんじゃあ、大変だよ。でも、僕がアシェイラに転移装置を設置したら、それが一瞬で解消されるよね」
「それは同感だが。ローウェン、お前の頭の中身は一体どうなってるんだ?」
リュセルの問いに、ローウェンは答えた。
「僕って、天才だからさ」
「自分で言うな」
リュセルの突っ込みに、ローウェンはあははは、と笑うと、不意に目を細めた。
「僕からすれば、今のリュセル兄さんの状態こそ、どうなってるの? って感じなんだケド」
「どうって……、何がだ?」
不思議そうな顔をしたリュセルの、現在の体勢は一見すごかった。
ローウェンの向かい側に座るレオンハルトの膝を枕にして、兄の髪の毛先をくるくると指に巻きつけて弄んでいるのだ。レオンハルトもレオンハルトで、その状態で平然と単行本を片手に読書をしている。
ともかく、このアシェイラの半身コンビ、意味もなく、よくくっついているのだ。
ローウェンの知るもう一組の同胞、ディエラの半身コンビたるジュリナとティアラでさえ、こんなにくっついていなかったような気がする。
「俺の状態が、何だって?」
レオンハルトの膝の上で身を起こし、怪訝そうにリュセルは尋ねた。
「何でもないよ」
これが、本来の半身同士の距離感なのだろうか?ローウェンは、そう思いながら小さく笑った。
「それにしても、ディエラもアシェイラも、治安もいいし、街道も綺麗に舗装されていて、とてもいい国だね」
気を取り直したローウェンが、馬車のカーテンを少しめくって、外の景色を見ながらそう言うと、レオンハルトがピクリと反応した。
「サンジェイラはどうなっているんだい? 今だ治安が悪いままか?」
兄のその言葉に、リュセルは目を見開いた。
初耳である。
「う~ん。はっきり言って、良くないよ。普通に街道に賊が出るし、どこでも人身売買は行われてるし、王都でも、帰る家のない人達が地面に転がってるし、城内でも一部の人達が不正に国税を懐に入れてるよ。民は常に、餓えと戦っている」
ローウェンの言葉にリュセルは唖然とした。
「それって、良くないどころの騒ぎじゃないんじゃないか?」
「うん。このままだと、サンジェイラは内から滅びる」
あっさりとそう答えたローウェンに対し、リュセルは眉をひそめた。
「自分の国だろう? そんなに平然としていていいのか?」
「だって、僕は女神の息子だから、国に対する責務を負わないし」
「……」
それはそうだが、そんなに簡単に割り切れるものなのか?自分の国と国民。それに、家族や身内の事を。大切な人が苦しむ様など、誰しも見たくはないものなのに。
「国庫は、今や火の車だよ。父上の浪費のおかげでね……。このままだと、トラキアの学塔も閉鎖になるかもね。僕の国の王様は、アシェイラやディエラみたいに、いい王様じゃないんだ」
それきり、サンジェイラの国情について口を閉ざしてしまったローウェンを眺めたリュセルは、レオンハルトに目を向けた。
レオンハルトは読んでいた単行本を閉じて、何か考え込んでいるようだった。
そしてリュセルは、窓の外の景色を見つめているローウェンの、年に似合わぬ大人びた横顔に再び視線を移す。太陽の化身のようなこの少年につきまとう闇は、一体なんなのだろうか……。
仲が悪いという半身も、関係しているのか?いつか、知る時が来るのかもしれないが、それは今じゃない。
リュセルは話が途切れると、また、レオンハルトの膝上に頭を戻し、懐から、ローウェンにもらった黒猫ノンちゃんシリーズの最新刊を出し、読む事にした。この帰りの旅で、何度も読んだが、全然飽きない。
レオンハルトの膝枕を堪能しながら、リュセルは思う。
肩から落ちた、兄の柔らかな胡桃色の髪が頬をくすぐるが、決して不快な感触ではなかった。それどころか、レオンハルトから香る香りは、とてもいい香りで、リラックス出来るし、とても気持ちいい。
(やばい、また寝てしまいそうだ)
リュセルはあくびを噛み殺しながら、視線を本に向ける。
寝ながら読書をする弟に、レオンハルトは一瞬眉をしかめたが、何も言わずに小さくため息をついたのだった。
リュセルがその気持ち良さに耐えきれずに、意識を手放したのは、それからすぐの事だ。
*****
王都が近づくにつれて、街道に賑わいが増していくのが馬車の中からでもわかる。
ディエラ王都が芸術の都で、サンジェイラ王都が学問の都なら、ここ、アシェイラは、武門と商業の都である。
女神の宝を象徴とする三王国のなかでも、最も国土が大きく、豊かな国。それが、名君と名高いジェイド王が治める、アシェイラ国だ。
王都の門の警備も、レオンハルトの引継ぎがうまくいっていた為、万全な上、中に入る際の身分証明は厳しいものだった。
「へ~。ディエラも綺麗でいい国だったケド、アシェイラはすごいね」
そう感嘆のため息をつくと、ローウェンはわくわくしたような表情で、王都の賑わいをカーテンの隙間から覗き見ている。
「本当にすごいな」
その後ろから一緒に覗いていたリュセルが呟くと、ローウェンは不審そうな目つきになった。
「リュセル兄さん、この国の王子なのに、街に出た事がないとか言わないよね」
「ないぞ」
きっぱりと返って来た予想通りの答え。それを聞いたローウェンは、大仰なため息をついた。
「噂通りの、”深窓の姫君”振りだね。」
「なんだって?」
眉をしかめるリュセルにローウェンは両手を広げた。
「リュセル兄さんは、もっと世間を知るべきだよ」
レオンハルトに聞こえないように小声でそう言ったローウェンに、リュセルは口端を引きつらせた。
十三歳の少年に、世間知らずの称号を頂いてしまった……。
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