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第七章 黄昏往く国
4-3 レオンハルトの懸念
しおりを挟むサンジェイラ城にて、リュセルとレオンハルトに用意された部屋は、異国の客人という事に気を使ったのか、和洋折衷のモダンな部屋だった。寝室には、畳に布団ではなく、きちんと、アジアンテイストな寝台が二つ配置されている。
クローゼットの中の着替えも、現在、リュセル達の着ているような、西洋式の宮廷衣装と、和風的な衣装、直衣の両方が用意されていた。
まさしく、至れり尽くせりである。
「リュセル、話がある」
部屋に入った途端、重々しい口調でそう切り出したレオンハルトに、リュセルは表情を引き締めた。
「ルルドの葉の事か?」
「それについては、先程話した事で全部だ。これから私達がする事は、アルティス、ローウェンと力を合わせてミゼール王を告発するだけの証拠を集める事だからね」
「あの二人と協力ねぇ……」
どっちか片方となら、問題ないと思うが。
「二人共、任務については、きちんと割り切っているからね。大丈夫だ」
「そうか」
その言葉にリュセルは頷くと、抱いていたクマ吉を床に下ろした。クマ吉はペコリと頭を下げると、二人の話の邪魔にならぬように奥に引っ込んで行く。
部屋の中央に置かれた、樫の木で作られたと思われる四角いテーブル。その前に配置された椅子にリュセルが腰を下ろすと、レオンハルトも向かいに座った。
「私が言いたいのは、それではなく、レイン王子の事だ」
「レイン王子?」
「ああ。他の王族ならともかく、彼には近づくんじゃないよ」
レオンハルトの忠告の言葉にリュセルは既視感を覚える。瞬間、忘れ去っていたジュリナの忠告を、ようやく思い出した。
「あれか?ジュリナ殿も言っていた、男女構わない好色王子ってやつか。でも、そんなそぶりはちっともなかったよな」
確かに変な奴だったが。
思い切り、あれだけ卑猥な目で見られていたのに、のん気な事を言っている弟に対し、レオンハルトは厳しい目のまま再度言った。
「近づくんじゃないよ。いいね?」
幼い子供に、知らないおじさんについて行っちゃダメだよ。と言う親のように、レオンハルトはリュセルに言って聞かせたのだった。
そして、その夜
開催された宴に、リュセルを置いて参加したレオンハルトは、ミゼールが比較的おとなしかったのを不審に思った。
リュセルが不参加という事に落胆の色を隠せないサンジェイラの王子や王女達だったが、兄王子の(義理の)参加には心浮かれているようだった。
我も我もと、レオンハルトの周りに群れだした子供達のそんな様子を、半裸の美女を侍らせながら見ていたミゼールだったが、宴の席に不意に現れた人物の姿を認めると顔を引きつらせた。
「お祖父様」
アルティスの、驚いたような言葉の通り、杖をついて現れたのは老齢の男。
年老いても尚、全盛期のたくましさを維持する尊厳なる空気をまとった前王、メルティス。最近は、後宮の更に奥。奥離宮の一つに隠遁し、公の場には現れる事のなくなった存在だ。彼のいる離宮を訪ねるのは、メルティス気に入りの王子、アルティスのみである。
彼の出現にて、それまで騒がしかった場は、一気に静まり返った。
「ど……、どうしたのですか? 父上」
そんな中、狼狽したようなミゼールの声が響き渡った。
メルティス前王は、息子の言葉に片眉を上げると、レオンハルトをじっと見た。
「剣主殿と剣鍵殿がいらしているというのでな。挨拶に来たのだ」
その言葉と共に、レオンハルトの元に進む。
そして、目の前に広がった麗しの美貌に、一瞬、軽く目を見張る。だが、彼が表情を動かしたのは、その時だけだった。
「お初にお目にかかる。レオンハルト王子ですかな?」
年齢的なものから、アシェイラの兄王子の方だろうと予測をつけて話しかけたメルティスに、レオンハルトは立ち上がり、礼を返した。
「お会いできて光栄です。メルティス様」
「……? リュセル王子はどうなされた?」
「具合が少々」
「そうですか」
レオンハルトの返答に対し、納得したのかしないのか気取らせない、厳格な表情のま頷く。
「では、具合がよくなった頃を見計らって、また挨拶に来る事に致しましょう。アルティス」
その呼びかけにアルティスは反応すると、祖父を自室まで送るために付き添って行く。
(あれが、メルティス前王)
五年前にサンジェイラを訪れた時も、その前に訪れた時も、今まで、一度たりともレオンハルトの前に姿を見せる事はなかった。
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