【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第九章 怪盗イチゴミルク

8-1 ジュリナ姐さんの作戦

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「逃げ足の速い奴め!」

 一方、本家本元怪盗イチゴミルクを追っていたアイリーンは、中庭まで来ると同時に対象を見失ってしまった事を悔いてそう唸っていた。

「アイリーン!!」

 周囲を見回していた彼女は、自分を呼ぶ声に気づくと、そちらに目を向ける。金髪の同僚騎士がこちらに駆け寄ってくるのを認識し、アイリーンは小さな声で言った。

「すまない、見失った」

「こっちもだ。とりあえず、態勢を整える為に一度全員集合するようにって殿下が……」

「……殿下が見失ったのか?」

 アイリーンは驚きに目を見張ると、ついそう尋ね返してしまった。それ程ありえない事だったのだ。

「ああ。いきなり追っていたイチゴミルクが消えたんだよ! まるで幽霊のようにな」

「二人いた事といい、一体怪盗イチゴミルクとは何者なんだ。昨夜の偽物も気付いたらいなくなっていた事もあるし。もしかして二人組なのだろうか」

 顎に手を当てて考えるポーズをとったアイリーンにユージンは答えた。

「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。そんな得体の知れない奴では、さらわれたリュセル王子が心配だ。一刻も早く助け出さなくては」

「ああ」



 主君の弟君の事を心配している二人の騎士が遠ざかっていくのを見送りながら、近くの繁みに身を潜めていたミルフィンは、草まみれになりつつ、眉をしかめていた。

(リュセル様が消えた? ど~ゆ~事???)

 城内に詳しいと言っていたし、何か裏ワザでも使ったのだろうか?

 う~んと、ない知恵を振り絞って考えるが、何も思いつかない。

 それよりも、ミルフィンの頭を占めるのは、逃げる際につい見てしまった、リュセルとはまた別の魅力を放っていた美貌の青年の存在だった。
 胡桃色の長い髪をしたその人は、不穏に光る金の瞳を妖しく光らせ、麗しき美貌に嗜虐的な笑みを浮かべてこちらを真っすぐに見つめていた。

 あの、すべてを凍りつかせ、魅了するような笑みを思い出すだけで、背筋がゾクゾクとするのを感じる。

(ああ~、あの方に嗜虐されてみたい)

 うっとりと目を閉じながら体をくねらせるミルフィンは、実は青年の正体に気づいていた。リュセルが一目散に逃げ出した事から考えると、あの壮絶な印象を持つ青年こそが……。

「あれが、レオンハルト王子」

 ある程度の予想はしていたが、今回の獲物たるこの国の第一王子は、予想以上に凶悪で強烈な存在であった。
 リュセルの無自覚誑し的な正統派王子っぷりも鼻血が噴き出る程イイが、レオンハルトの壮絶な色香と恐ろしさを放つ危険な雰囲気も身悶える程イイ。

「アシェイラ王族、凄過ぎるわ」

 そう一人ごちた時、力強い声が響いた。

「それは同感だねぇ」

「誰!?」

 ビクリとして振り返り、ミルフィンが目にした人物。

 その瞬間、彼は凄過ぎるのがアシェイラ王族なのではなく、女神の子供である事を認めずにはいられなかった。

 そこにいたのは、朱金の髪をなびかせた、凛々しくもたくましい迫力ある美女。

 彼女は、月と中庭に咲き乱れる薔薇の花々をバックに、正にこの国の王の如き威風堂々とした姿で、面白そうにミルフィンを見据えていた。

「へ~、お前が怪盗イチゴミルクねぇ。男か? それとも、女か?」

 ジロジロと自分を見る美女の迫力に圧倒され、何も言葉が出ない。

「やはり中庭に隠れていたか」

 美女の後ろから現れた、何故かテディベアを片腕に抱いた銀の王子(今はオタク系騎士)の声を聞いたミルフィンは、そこでようやく、はっと我にかえる。

「リュセル様!」

「無事だったか」

 ほっとしたように頬を緩めたリュセルを見て、ミルフィンは内心黄色い悲鳴を上げる。

「浮気者のあたしを許してっ。やっぱり、あたしにはあなただけですわ! 愛しの王子様!」

 そう叫んで、涙をたたえたまま抱きついてきたミルフィンに向かい、リュセルは甘い微笑みを浮かべる。

「可愛らしい人だ。わかっているよ、君は俺から逃れる事など出来ないという事を」

「あん、その通りですわ。リュセル様~!」

 恋人同士のように抱き合っておかしな事を言っている二人に、朱金の髪の美女ことジュリナは、胡乱な目をしてつっこんだ。

「リュセル、お前は怪盗まで誑しこんだのか? この、歩く人誑し凶器が」

 呆れた響きを持つその声にリュセルがムッとした時、ミルフィンが聞いてきた。

「あの……リュセル様、この方は?」

「ディエラ国の第一王女、ジュリナ姫だ」

 リュセルの紹介で姫と呼ばれた事にジュリナは不快そうに顔をしかめたが、そんな事に気づく事なく、ミルフィンは驚きの声をあげた。

「ディエラの王女殿下!?」

「そうだよ。気に入りの絵をお前に盗まれた、被害者でもある」

 思い出し怒りをしているジュリナに対し、気まずそうにミルフィンは目を泳がせる。

「心の広い私は、そんなお前の悪行に瞑りたくもない目を瞑り、リュセルの大馬鹿の為にレオンハルトを……いやいや、レオンハルトの心を盗むという、馬鹿馬鹿しい茶番劇に協力してやる。喜べ」

 ギラリと睨まれたミルフィンは、あまりの迫力に腰が抜けそうになる。

「レオンハルトは城内の騎士達を広間に集結させて、態勢を整えなおすつもりのようだ。そこが狙い目だよ。こっちから派手に登場してやろうじゃないか」

 ハハンッと、せせら笑いながらそう言ったジュリナの作戦を聞いて、リュセルは言った。

「それは危険じゃないか?」

「虎穴に入らずんば虎児を得ず。あえて危険に身をさらすのが……漢(おとこ)だ」

 キラッ

 深紅の瞳を光らせてそう言ったジュリナに、リュセルとミルフィンは漢(おとこ)を見たのだった。







 アシェイラ城の中心に位置する広間。


 王族主催の舞踏会や式典などで使用されるその場所には、アシェイラ騎士団でも階級の高い騎士達が、総指揮官たるレオンハルトの指示を仰ぐべく集まっていた。

 もちろん、レオンハルト直属の三騎士達や、カイルーズ、カイエの姿もある。

「うしししし~。いるいる、ウジャウジャと、この国の武力の要達が~」

 またしても、王族専用非常用抜け道の天井裏から、ジュリナは下の様子を覗き込み、そう呟いた。

「レオンハルト達はもちろん、現騎士団総帥、フェイラン・ロゼウス筆頭に、三騎士団長揃い踏みだよ。いやはや、圧巻だあねぇ」

「ジュリナ殿」

 隣で自分の名を呼ぶリュセルに目を向けると、ジュリナは相手の月の美貌を見事に隠す、もさもさの黒髪長髪かつらを乱暴にとった。

「いい加減、その変な変装を止めろ」

 ピン底眼鏡も取られて、リュセルは元の銀の王子に戻る事となる。(服はまだ軍服だが)

「それも離せ」

 最後に右手に握られていた少女フィギュアを奪うと、それをじっくり見て、ジュリナは眉をしかめる。

(どこで手に入れたんだ? こんなもん)

 大きな謎だ。

「姐さん」

「誰が、姐さんじゃい」

 何故か崇拝の眼差しで自分を見つめるミルフィンに、ジュリナはすかさずつっこむ

「いいか、作戦通りにいくよ。まず、本家本元怪盗イチゴミルクが派手に登場する。そして、皆がそちらに気をとられている間に、リュセルが登場。レオンハルトに対する不満でも、惚気でも、文句でも、何でも言いたい事を皆の前で言ってやれ。さすがにこれだけの人数の前でお前に無体な事は働けないだろう。いいか、お前の最終目標、レオンハルトの心を……、信頼を得るという事は、このお前の演説にかかっていると思え。リュセル!」

 ジュリナの力説にリュセルは大きく頷く。

「レオンハルトだけではない。皆が納得し、感動するだけの言葉を叫べ。お前の自由は、お前自身にかかっている」

「姐さん!」

「だから、誰が姐さんじゃい」

 ジュリナの言葉に感動して、その手を固く握りしめたリュセルに再びつっこむ。

「さあ、行くよ。作戦開始だ!」

 何故か、一番新参者なのに場を仕切り出したジュリナの頼もしい掛け声(小声)に、二人の男は大きく頷いたのだった。







「殿下?」

 またしても、じ~~~~っと天井を見上げている主を、ユージンは不審に思って声をかけた。

 現在、各騎士団長の報告の真っ最中であるというのに、多くの騎士達が見守る中、この場を仕切っている総指揮官はずっと天井を気にしている。

「いや、なんでもないよ。続けてくれ」

 そう言ったレオンハルトの言葉を受けて、騎士団総帥たるフェイランが口を開く。

「団長達の報告をまとめますと、城内に不審な点はなかったという事ですし、警備も万全でした。敵は、その完全包囲されている中、簡単に城内に侵入し、我らと同じアシェイラ騎士に変装した上、何食わぬ顔で殿下に近づこうとした事になります。相当の手だれであると同時に、城の事をよく知っている者……、つまり、身内に裏切り者がいるのだと考えられます」

 さすが、レオンハルトが後任を任せた騎士団総帥。いい線ついていた。

 今後の作戦の立て直しにかかったレオンハルトは、細かく騎士達に指示を出しながらも、内心天井裏に潜んでいるであろう弟の事を想い、自分の中でマグマのように燃え盛る怒りの炎を抑制しながら、捕えたらどうしてやろうかと考えていた。

 確かに、散々ジュリナに指摘されてきたが、半身であり弟であるリュセルに対して過保護過ぎた……かもしれない。

 それは、自分の反省すべき点だろう。

 だが、どうしても駄目なのだ。リュセルの事に関してだけは、普段の自分のように抑制が効かない。

 あの、銀糸の髪を
 あの、銀の色をした瞳を
 あの、白磁の肌を

 弟を司るすべてのものを独占したい。
 彼に関わるすべての者に嫉妬する。

 誰にも見せたくないのだ。

 その恐ろしい程の独占欲を己の理性の配下に置き静めるようになって久しい。

 レオンハルトが優しい兄の表情の下にそんな狂おしい程の感情を隠している事など、ある意味鈍感な弟は、気づきもしていないだろう。

(だから、平気であのような嘘がつけるのだ)

 先日、あれだけ寝台の上で泣かせ、謝らせたというのに、今度はこの騒ぎだ。全然反省していないと言えよう。

(ふっ、まだ仕置きが足りなかったという事だね。面白い……早くおいで、リュセル。必ず捕まえてあげよう)
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