【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

3-2 カイルーズの餞別

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「…………という訳ですので、明日からしばらく留守に致します。父上」

 ジュリナ、セフィがそれぞれ帰った後、開かれた恒例の家族での晩餐にて、レオンハルトは父王とカイルーズに例の絵画の事を隠しつつ、神殿内部に上がる為、少しの間城を留守にする事を告げた。

 カラン……

 瞬間、ジェイドが持っていたスプーンがテーブルの上に落ちる。

「そ、そんな……ついこの間まで、リュセルは病気だったんだよ!? パパとも面会謝絶で全然会えなくてさ! ようやく、こうして顔を見る事が出来るようになったのに」

 そう叫ぶと、食後のデザートの柚子シャーベットを食べていたリュセルに駆け寄り、息子の頭を抱え込んで頬ずりする。

「パパは反対だよ! レオン、リュセルはしばらくの間、パパと遊ぶんだから!」

 スリスリスリスリ

「このシャーベット、さわやかな後味でうまいぞ、カイルーズ」

「え? ほんと? 少しちょうだい」

 カイルーズは自分が食べていたシャーベットは白桃だった為、リュセルの方に顔を突き出して口を開ける。

「ほれ」

 リュセルはスプーンに少しとった柚子シャーベットを、あ~んっと口を開けた、カイルーズの口の中に入れた。

「あ、ほんとだ。おいしいね。リュセルも僕の食べる?」

「ああ」

 カイルーズの誘いに応じて、リュセルも次兄の方にあ~んっと口を開いて顔を寄せる。パクッと食べると、途端に甘い白桃の味が口内に広がった。

「こっちも甘くてうまいな」

「でしょでしょ?」

 和やかに互いのデザートを食べさせ合う息子達に対し、ジェイドはリュセルにしがみついたまま呟く。

「……………………パパの事は、放置プレイ?」

「ご心配をおかけした上、再び城を離れる事になる事は申し訳なく思いますが、これはどうしても外せぬ用件なのです」

 ただ一人、長兄のレオンハルトのみが、食後の紅茶を優雅に口にしながら、父王にそう話しかけていた。

「あ、ああ、うん。何? そんなに大事な用なの? 神殿内部に潜入しなくちゃならない程?」

 息子二人に相手にされない為、シュンとしながら自分の席に戻ったジェイドは、レオンハルトに顔を向けてそう尋ねる。

「ええ」

 簡潔な一番上の息子の言葉を聞き、ジェイドは渋々ながらも了解の意を返す。

「分かった。二人とも気をつけるんだよ」

 元より、レオンハルトとリュセルの父親であると同時に、アシェイラの国王であるジェイドに剣主剣鍵としての役割を優先させる彼らを止める権限はない。

 だが、実際は、女神の子供としての用件ではなかったのではあるが、レオンハルトはジェイドのその誤解を解く事はしなかった。

「はい、父上。行って参ります」

「行ってきます」

 レオンハルトとリュセルが父王にそう出立の挨拶をするのを聞きながら、カイルーズは白桃のシャーベット、その最後の一口を口にしながら言った。

「アシェイラ神殿か。ある意味、邪気浄化の任務より大変かもね。あんな閉鎖的な場所に入り込むなんてさ~。いくら信仰の対象となっている女神の息子だといっても、正体隠して入り込むんでしょ?」

「まあね」

 兄の返事に、テーブルに肘をついたまま口から出したスプーンを振ったカイルーズは、片目を瞑って警告した。

「気をつけた方がいいよ~。あそこって、表向きは女神の信仰者たる聖者の集まりだけど、裏では何か色々といわくめいたものもあるらしいから」

 誰に聞いたのかは知らないが、神殿の内部事情を知っている様子のカイルーズに、同じようにそれらの事を把握しているレオンハルトは、弟の忠告に小さく頷く事で答えた。

「肝に銘じておこう」

「……?」

 表面的な神殿の事情しか知らないリュセルには、兄二人が話す内容を把握する事は出来なかった。…………が。

「リュセル~、気をつけて行くんだよ~~。行き先が王都内だから、あまり心配はないと思うケド、お兄様から離れちゃ駄目だよ。迷子になっちゃうからね~~~~。寂しくなったら、いつでもパパの胸の中に帰っておいで」

 再び抱きついてきたジェイドにスリスリと頬ずりされ、リュセルは父王が暑苦しくてしょうがない事だけは把握出来たのだった。




 次の日、兄と共に変装眼鏡を装着して馬車に乗り込んだリュセルは、出立前に、次兄、カイルーズに渡された小さな守り袋を不思議そうに眺めていた。

「なんだい? それは」

 向かい側に座るレオンハルトがそう尋ねてくるのを聞くと、リュセルはそれをレオンハルトに見せる為に渡す。

「カイルーズから渡されたんだ。護身用に持ってろってさ」

 当然の如く、その袋の中身は毒粉である。


 ーはい、リュセル。これを護身用に持ってお行きー

 ーなんだ? これはー

 ー花粉症粉。人体実験ならレイン殿で実験済みだから、襲われそうになったらこれを使うんだよー

 ー……?襲われるって、誰にだ?ー

 ーあ、そろそろ、毒草達に水をあげる時間だ。じゃあね、リュセル。兄上の傍をなるべく離れるんじゃないよー


(神に仕える神官しかいない神殿で、誰に襲われるっていうんだ? 執務のし過ぎで疲れが溜まってるんじゃないか? カイルーズの奴)

 今朝のやりとりを思い出しながら首を傾げるリュセルを無言で見つめながら、レオンハルトは渡された袋を返した。

「カイルーズの言う通り、常にそれを持ち歩いていなさい」

 (何故?)

 怪訝そうなリュセルの視線が向けられるが、レオンハルトはそれには答えずに、神殿について軽くおさらいする。

「分かっていると思うが、セイントクロス神殿は、本部と三つの支部に分かれている。」

 神官・巫女達の聖地である総本部があるのは、創世の女神の眠る神地、セイントクロスの地の入口だ。女神の子供にしか開かれぬセイントクロスの地に赴くには、この神殿本部を通過しないと辿り着く事が出来ない。

 そして、各国の王都に散らばっているのが、神殿支部。

 アシェイラ支部
 ディエラ支部
 サンジェイラ支部

 この3つだ。

 各支部には、神官長や巫女姫と呼ばれる者が一人ずつおり、支部内の聖者達をまとめ上げていた。

「女神の娘のいる国なら巫女姫が、女神の息子のいる国なら神官長が、各支部を仕切っている訳だな」

「ああ」

 リュセルの確認の言葉にレオンハルトは頷くと、再び口を開いた。

「セイントクロス神殿アシェイラ支部の現神官長の名は、ライサン・セリクス。三支部の長の中で最も若い、まだ二十七という年齢ながらに神官長を務める男だ」

 それを聞いたと同時に、リュセルの脳裏に、ずいぶんと前に……(実際は一年と経っていないのだが、この数か月というもの色々とあった為、もうずいぶん昔のような気がする)…………そう、創世祭の折に行った祝福の儀にて、神殿で自分達を真っ先に出迎えてくれた青年の姿が浮かんだ。

 ウエーブを描く、フワフワとした純白の髪が頬にかかる様が印象的だった、穏やかな薄茶色の瞳をした柔らかな雰囲気の青年。
 セフィもそうだが、神官は皆が皆、穏やかな空気を発しており、言葉使いも丁寧で、女性よりも女性らしい雰囲気の者が多い。実際、ジュリナなどよりも、セフィの方が仕草が女性らしく思える程だ。

 その青年も、確かそうだった。声を荒げる事など知らぬような、穏やかで優しい青年。


 ー無事のご帰還、お喜び申し上げます。剣鍵様ー


 神殿を代表しての最初の挨拶の折、リュセルの前に両膝をつき、床に両手をついた彼は、深々と頭を下げ、神子に対する正式な礼をとり、両手を祈りの形に組んだのだ。

 神官らしい柔らかな物腰だったが、確かに神官長らしい威厳もあの時感じた。

「顔は覚えているね?」

「ああ」

 間を開けてのレオンハルトの確認に、リュセルは頷く。

「草食動物のような人だった」

「…………」

 変な例え方をする弟に無言になった時、ようやく馬車が目的地に到着したようだった。

「着いたようだね」

 レオンハルトの声を聞きながら、リュセルはこれから目にするであろう未知の世界を思い、不謹慎ながら胸が湧くのを止められずにいた。





「お待ちしておりました」

 馬車を降りるとすぐに出迎えてくれたセフィは、そのまま兄弟を神殿の裏口から入れ、人目に触れぬ通路を選んで神官達の暮らす寄宿舎の一室に案内する。

「ここが、お二人に用意した部屋です。アシェイラ城の部屋のように大きくありませんが我慢下さい」

「いや、十分だ」

 レオンハルトの返答通り、その部屋は一介の神官が暮らすにしてはいい部屋だった。素朴だが、質の良い家具に囲まれた、日当たりのいい部屋。天蓋のない上質な寝台が二つ、部屋の奥に設置されている。
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