【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】本編 元平凡女性のイケメン王子は執着心強めな兄に溺愛される

月城はな

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第十二章 月華の乙女

3-3 神官生活の始まり

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「まずはお着替えをどうぞ。そちらのクローゼットの中に、お二人の神官服の方をご用意しておきましたので」

 またお着替えが終わった頃に参ります。との言葉を残し、セフィが去ると、リュセルは部屋の隅に設置されたクローゼットの中から自分の分と兄の分の神官服を出した。

「おお、セフィ殿がいつも着てるやつと同じだな」

「感心していないで、早く着替えなさい」

 その言葉通り、レオンハルトはさっさと着ていた外出着を脱ぎ、自分の分の神官服に腕を通している。慌ててリュセルもそれに倣って、自分の衣服に手をかけたのだった。

 しかし……。

「なんだ、これは? どうやって着るんだ?」

 天上の色とされる白色を基準とした神官服は、分かっていた事だが、袖も裾もズルズルと長い上、実に着難かった。自分の宝鍵としての正装衣装も着難くて、一人では着られなかったが、まさか神官服も同じような状態だったとは予想外だ。

 リュセルが四苦八苦している横では、あっさりと神官服に着替え終わったレオンハルトが、長い胡桃色の髪を背後で緩く結んでいるところだった。

 あまりにも、様になり過ぎているその姿。

 元から聖者のようなイメージのつきまとう兄だっただけに、神官の衣装を着た様は、麗しの美神が大地に降り立ったような錯覚を思わせた。

「なんだ、まだ着替えられていないのか? 仕方のない子だね。おいで」

 うっとりと、目の奥に霞がかかったようなリュセルの瞳に気づいているのかいないのか、レオンハルトはそう言うと弟の着替えを手伝う為に手を伸ばす。

 そうしてリュセルの胸元の釦を留める為に伏せられた兄の髪から、嗅ぎ慣れた香りがしないのにその時になってようやく気づく。兄の体臭なのか、神聖ないい香りはするのだが、いつもの香水の香りはしない。

(……?)

 クンクンと自分の頭に顔を寄せて匂いを嗅ぐリュセルに気づいたのか、レオンハルトは弟を着替えさせながら、淡々とした口調で言った。

「今回は神殿内部の調査だからね。香水の香りを漂わせる訳にはいかないだろう?」

 確かに、貴族や王族の嗜みである香水をつけている神官などいるはずがない。兄の匂いが好きなリュセルは少し不満だったが、納得したように答えた。

「それもそうだな」

 そうこうしている内にリュセルの着替えも終了し、超美麗な神官兄弟が誕生したのだった。

 しかし、リュセルがここで終わらせるはずがない。持ってきた荷物の中から、櫛とリボン・髪飾りを取り出して言った。

「さあ、レオン。そこにかけたまえ」

 顎で部屋に備え付けの椅子を指示してそう言った弟に、レオンハルトは無言になる。

「時間がないぞ、早くしろ」

 兄の髪型を変える気満々なリュセルの要望に従うしか、レオンハルトに道は残されていないようだった。

 ため息を一つついて、椅子に腰かけたレオンハルトの後ろに回ると、リュセルはシュパパパパッと音を立てて櫛を片手で格好つけながら回す。

 キランッ

 瞳を光らせ一言。

「さあ、髪型改造の時間だ」

「…………いいから、早くしなさい」

 何故かカメラ目線で甘く微笑んだリュセルに、まっすぐ正面を向いたままのレオンハルトは先を促す。

「ふっ、言われるまでもない!」

 そして、神業のごとき早さ、正確さで、リュセルはレオンハルトの髪型を神官仕様に整えていったのだった。


 …………間。


「ああ……。今回も渾身の作だ。見てみろ、レオン!」

 汗を拭う仕草をしているリュセルから手鏡を受け取り、レオンハルトはそれを覗きこむ。

「…………」

 よくも、まあ、ここまで。つい感心してしまう程、凝った作りの髪型だ。
 顔の両サイドの後れ毛のみ垂らし、後ろの髪は全部一つのおだんご型に、うなじのあたりで複雑に結われている。結い方もただ髪を結っているのではなく、藍色の刺繍が美しい、白色のリボンを巻き込んで結ってあるのだ。リボンはそのままおだんごの下後ろにて最後に結ばれ、背後に髪の代わりに垂らされていた。

「髪飾りは高価過ぎるから使えなかったが、なかなかいい出来だろう。綺麗だぞ、レオン」

 最後の仕上げというように、外していた変装眼鏡を兄の顔に戻すが、上機嫌なリュセルと違い、レオンハルトは無表情のままだ。(いつもの事だが)

 そんな中、部屋をノックする音が響いた。

「入れ」

 命令するに慣れたレオンハルトの答えを聞くと同時に、セフィが入室してくる。

「失礼致します。サイズはどうでしたか?」

 目が見えない為、言葉で確認してきたセフィに、レオンハルトは抑揚のない声で返事を返した。

「問題ない」

「それは、ようございました」

 にっこりと微笑んだセフィは、そのまま部屋の中央に置かれているテーブルに神殿内の地図を広げる。盲目な彼は、華麗な神官仕様に変化したレオンハルトの髪型にまったく気づいていなかった。それ故に、すぐに説明に入る。

「これが神殿の中の造りです。後、細かい確認をしてもよろしいですか?」

 ここ(神殿)で神官として暮らす上、身分を隠している以上は、ここの決まりには従わなくてはならないのだ。



 セイントクロス神殿が定めた戒律。それは女神の守護者としての掟。”守護戒律”と呼ばれていた。


 一つ 殺生を禁ずる
 一つ 盗みを禁ずる
 一つ 飲酒を禁ずる
 一つ 嘘を禁ずる
 一つ 姦淫を禁ずる


 そんな、リュセルの元いた向こうの世界で言うなら、仏教の五戒にも似た戒律の最後は、必ず、神官や巫女が守らなくてはならぬ掟で締めくくられる。

 すなわち

 創世の女神の眠りを守り、神子達を守護すべし。


 それが、最大の掟なのである。

「つまりは、殺しをせず、盗みを犯さず、酒も飲まずに、嘘をつかなければいいんだろう? ん……? なんだ? この、かんいんって」

「姦淫。つまりは他人と体を交えてはならないって事ですよ。神官や巫女は、清い体でないとならぬのです。……………………表向きは」

 最後にボソリと付け加えられたセフィの言葉は、リュセルには聞こえていなかった。

「え? つまり……」

 ついつい聖人めいた兄の、清らかなる(?)美麗顔を見上げてしまう。

「しばらく抱き合えぬという事だね。我慢出来るかい?」

 優しく微笑まれてそう尋ねられ、リュセルはギクシャクと頷く。

 兄に抱かれるに慣れた敏感な体は、若いという事もあり、度々せつなく疼く事もあるし、我慢出来た経験はないのだが……。ま、まあ、なんとかなるだろう。

 むしろ、禁欲生活大歓迎だ。神官生活万歳!

 不安を押し殺す、リュセルのそんな考えを読んでいるのか、レオンハルトのその琥珀の瞳は面白そうな色を宿していた。

「あ、あの……もし、事に及ぶようでしたら…………あの……その…………私や他の神官達の目のない所で、隠れて……その……」

 真赤になってゴニョゴニョと呟くセフィに目を向け、リュセルは慌てて言った。

「な、な、な、な、何を仰っているのかわかりませんが、セ、セセセセフィ殿! 俺達はそんな関係じゃありません。健全なる、ただの仲良し兄弟です」

 今更何を言ってるのか、この男は。白々しい嘘をつくリュセルに、レオンハルトは言った。

「リュセル。嘘をつく事も、してはいけないのだよ」

「はっ……、そうだった!」

 馬鹿だ……………………。

 その反応から、自分が実兄であるレオンハルトと体を交える仲だという事を、完全にセフィにばらしてしまっていた。

「……とりあえず、人目を気にして下さいね」

 生粋の王族らしく、あまり人目を気にせず事に及ぶレオンハルトと、そんな兄に流されやすいリュセルにセフィは静かな声で釘を刺したのだった。他の神官達に抱きあっている現場を見られでもしたら、例の絵画の捜索どころではなくなるのである。

 自分の使命を思い出したリュセルは、セフィの言葉に決意のこもった鋭い目で答えた。

「分かった。ここにいる間、レオンとは抱き合わないし、キ……キ、キキキスもしないし、一緒にも寝ない。いいか? レオン」

 リュセルの言葉に、レオンハルトも表情を変えぬまま小さく頷く。

「善処しよう」

 ……って、善処かよ!

 リュセルは口端をヒクつかせながら、心の中でそうつっこみを入れる。

「と、とりあえず、お二人に神殿内部を案内しますね。えっと……外に出たら、あらかじめ決めて下さっていた偽名で呼ぶ事にしますが、よろしいでしょうか? お二人は新米神官で、私はその教育担当という事になっておりますので、ご了承下さい」

 セフィのその言葉に、リュセルとレオンハルトは同時に頷いたのだった。
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