【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】番外編Ⅲ 運命の人

月城はな

文字の大きさ
3 / 26
ユリエの憂鬱

1-2 興味のない婚約話

しおりを挟む
 
 こうして、ユリエがツバキのお妃教育とアシェイラ訪問の準備に手を焼いている間、一方のアシェイラで、国王であるジェイドは、ようやく直りかけた風邪と怪盗にさらわれた末王子が戻ってきた安心感に包まれ、穏やかな気持ちでいた。だが、アサギの書状を受け取った途端、顔を真赤にして興奮し始めたのである。

「父上顔が真っ赤ですよ。風邪がぶり返したんじゃないですか?」

 呼ばれて玉座の間に入室したカイルーズは、珍しくその座におとなしく着いている父王の様子がおかしいのに気づき、眉をひそめた。

「お休みになられた方がよろしいのでは?」

 カイルーズの側近であるカイエも、穏やかな口調でそう告げる。しかし、ジェイドはその両方に首を振ると、いつになく真剣な表情で言った。

「いや、そうも言っていられない。大事な話があるんだよ、カイル」

 いつもおちゃらけていて真剣な顔などあまり見せない(というか全然見せない)王のその表情に、カイルーズもカイエも居住まいを正す。

「何かあったの?」

 何か不測な事態が起こったのかと、カイルーズも固い表情のまま尋ねた。

「うん。今しがたサンジェイラのアサギ王から手紙が届いたんだけど……」

「またサンジェイラで何かあったの?」

 復興されてきたとはいえ、今だ国政不安定な北の国。想定外の国の名を聞き、カイルーズとカイエの間に動揺が走る。

「ううん、サンジェイラ国の復興は順調のようだよ。トラキアの学塔も再開したし、もう心配いらないと思う」

 しかし、あっさりと紡がれた否定の言葉に、息を詰めていた二人はほっと胸を撫で下ろす。

「今回の手紙は、僕が前に出した用件の返事だったんだけど」

「まあ、アサギ王に政権が交代してからも挨拶に行けなかったし、戴冠式にも出席できなかったものね」

 それがアサギ王戴冠の際の祝辞と勘違いしたカイルーズに対し、ジェイドは慌てて首を振る。

「それも出したけど……、今回返事がきたのは、それとは違う手紙だよ」

「じゃ、一体なに? アサギ王と文通でも始めたの?」

 胡乱な目で、今日も素敵な文字入りTシャツ姿(祝復活と書かれている)の父王をカイルーズは見てしまう。

「むふふふふふふふっ」

 カイルーズの質問を聞いた途端、ジェイドは不気味な笑い声を上げ、カイエはそのあまりの不気味さにビクリとする。

「……何、その笑い方。気持ち悪い。あっち行って!」

 まるで父親を嫌がる年頃の娘のような顔をしてズバリと言い捨てた二番目の息子の反応に、一瞬ジェイドはショックを受けたような顔になったが、ものの数秒ですぐに立ち直った。(早過ぎる)

「カイル。お前、婚約する事になったから」

 そして、立ち直ると同時に、キラキラとした顔でジェイドが告げた言葉は、実に衝撃的な内容だった。


 婚約する事になったから~!


 叫んだ後、ジェイドはドキドキワクワクしながら、息子の返事を待った。
 ロマンチストなこの父王、長男と三男にこの手のロマンス(政略結婚だが)を期待するのが不可能だったので、次男に多大なる期待を寄せていたのだ。(迷惑な話だ)

 しかし、返ってきたカイルーズの返事は、ジェイドの期待していたような答えではなかった。

「…………………………へ~」

 長い沈黙の後にたった一言、へ~。

「じゃあ、僕は仕事に戻るから。父上はそこでちゃんと大人しくしていてよ。すぐに側近達も来るだろうし」

 そう言って、あっさりと踵を返そうとするカイルーズに対し、ジェイドは縋って叫んだ。

「そ、それだけえええええ~~!?」

「? それだけって?」

「あのさ~、カイル。パパの話をきちんと聞いていたかい?」

 あまりに淡泊すぎる反応を見て、不安になったジェイドはそう尋ねる。

「聞いてたよ。婚約するんでしょう?」

「そう、お前がだよ!? 相手が誰だか気にならないのかい?」

 まるで人事のようなカイルーズに焦れて、ジェイドは縋るように目の前の息子を見つめた。

「別に」

 別に…………別に 別に 別に

 カイルーズの興味の欠片もないような返答を聞いて、真っ白くなり石化してしまったジェイドがさすがにあわれになり、次の瞬間、慌ててカイエが口を挟んだ。

「お、おめでとうございます! 陛下、カイルーズ殿下。それで、お相手は誰なのですか?」

 カイエの苦しいフォローを受け、なんとか石化を解いたジェイドは、気を取り直して言った。

「うん。でもまだ、正確には婚約というよりも仮婚約みたいなもので、相手は婚約者候補にあたるんだけどね。サンジェイラ国の元第四王女であり、王妹のツバキ姫だよ。お前に会いに近い内にアシェイラを訪問してくれるそうだ」

「それはそれは、良かったですね~、殿下」

 ウキウキな父王とにこにこのカイエの視線の先で、カイルーズはつまらなそうに首を傾げる。

「ふ~ん」

 ふ……、ふ~ん…………。再びジェイドは石化し、カイエは微笑みを強張らせた。

「殿下、婚約するのお嫌ですか?」

 あまりの反応の薄さにカイエが恐る恐る尋ねると、カイルーズは「え?」と目を見開き、首を横に振った。

「別に。婚約自体は嫌じゃないよ。いつかはしなくちゃ駄目だと思っていたし。ただ、興味がないだけ」

 興味がない…………。ジェイドは砂になって崩れ落ちていった。

「うわあああああっ、陛下~、お気を確かに!」

 カイエは可哀そうな国王の姿を見て悲鳴を上げる。

「あははははっ、器用だねぇ、父上」

 のんびりとしたカイルーズの言葉を聞いたカイエの胃は、久しぶりにキリキリと痛み出したのだった。

「じゃあ……じゃあ、カイルは、婚約するのはいいけれど、それ自体に興味はないというんだね」

 せっかく風邪が治ったというのに、この無邪気(黒い)な王位継承者の所為で、ジェイドは息も絶え絶えになりながらもそう言った。

「うん」

 にっこり。

 うわ~、笑顔全開だぁ。カイエは密かに常用している胃薬を飲みながらそう思った。

 ガックリ。

 まさにその通りな状態で、ジェイドは力尽きた戦士のように玉座に寄り掛かる。

「だって、誰でも一緒だし。ただ、国の事を考えると、それなりに頭も良くて度胸のある女性がいいね。僕の妻になるという事は、将来的には王妃になるのだから」

 事務的なその言葉を耳にしたジェイドは、サラサラと崩れ落ちそうになる。

「あはははは、父上、面白いね~!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

「わざわざ始まるまでまたないで、今のうちに手を打ったってよくない?」

イチイ アキラ
恋愛
アスター公爵令嬢エステルは、夢をみる。それは先を映す夢。 ある日、夢をみた。 この国の未来を。 それをアルフレッド王太子に相談する。彼女を愛して止まない婚約者に。 彼は言う。 愛する君とぼくの国のためなら、未来を変えるのも仕方なくない?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

処理中です...