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ユリエの憂鬱
3-1 複雑な想い
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…………面白いかもしれない、その女性。
「お前の血縁者と対面するのって、初めてだね。どんな女性か楽しみだよ」
自分の気に入りの弟が気にしている様子の、その、ユリエ姫に会うのが楽しみになってきた。
そんな何気なくこぼした台詞にリュセルは驚いたのか軽く目を見張ったが、カイルーズの意識はそんな未来のおもちゃ(候補)などよりも、現在目の前にい(あ)るおもちゃと(で)遊びたかった。
「婚約者殿の話はどうでもいいからさ~。しばらく会えないんだから、もっと違う話をしようよ、リュセル」
そう言うと、それまでおとなしくしていてくれていたジェイドが、うんうんと頷きながら口を挟んだ。
「まったく、カイルはまだまだ子供だねぇ。でも、ツバキ姫は、とても清楚で可憐な姫君のようだからね。会えばメロメロになるよ、きっと! ……そう、あれは、かれこれ三十年前、初めてルリカと出会った時のパパの衝撃といったら! パパは一目惚れだったんだよ。きゃっ」
とりあえず、無視。
「デコレート商会の行商に途中まで同乗していくんでしょう? 場所もアシェイラの中でも南の僻地だし、気をつけてね」
優しい兄の顔でそう告げると、根が単純なリュセルは表情を和らげて頷いた。
「ああ」
これだから、この弟は可愛いのだ。自分と変わらぬ身長、体格なのだが、そう思うのは外見の事ではない。内面のたやすさ、人の良さ、反応が楽しいし可愛い。
でも、どんなに可愛がろうと(からかい倒そうと)、リュセルのすべては完璧なる兄のものだ。決して、自分のものになる事はない。
寂しさと悔しさを感じながらも、それを顔に出す事なく、カイルーズは心配そうな顔をして見せた。
「それにしても吸血村……吸血鬼か。吸血鬼って、確か牙を肌にたてられて血を吸われると、吸われた相手も吸血鬼になっちゃうんだっけ? ねえ、カイエ」
わざと眉をひそめながらカイエに問いかけると、カイエは首を傾げた。
「まあ、そんな伝承もありましたけれど、どうなんでしょうねぇ」
「吸血鬼に遭遇した事もないし、分からないね。いくつか伝承は残されているケドさ。……でも、今回のは血を吸う邪鬼なんでしょう? なら、そんな伝承、関係ないよね。ね、リュセル」
何気なさを装ってリュセルに同意を求めると、彼は案の定、青白くなった顔を引きつらせていた。
前に兄の直属の騎士であるユージンを新作の自白効果のある粉の実験台にした時、知ったのだが、怖いものなど何もなさそうな、凛々しい美男子然とした美貌の弟は、幽霊などの怪談系の話がまるで駄目らしい。
「あ、ああ。ら、楽勝だ」
どもりながらもそう答えたリュセルの反応が予想以上で、カイルーズは段々と楽しくなってきた。
何も知らないであろうカイエと目を合わせると、彼は優しい色の瞳に戸惑いの色をにじませて見返してくる。
性質が優しいカイエと違い、カイルーズは一見さわやかで優しそうな好青年だが、中身は意外と腹黒い、小悪魔系な青年だ。
(さあ、どうやって脅かしてやろうかな)
押し黙ってしまったリュセルを、カイルーズはわくわくしながら口元に微笑を浮かべ、見つめていた。しかし次の瞬間、カイルーズが手を出す前に父王に先を越されてしまったのだ。
「りゅ~せ~るぅ~~~」
悪ふざけを思いついたジェイドが赤インクを顔に垂らしこんで、先程から無視され続けている事への腹いせに、リュセルの後ろから肩ごしに顔をにゅっと出したのだ。
「ぎゃああああああっ!」
瞬間、悪ふざけをした当人が吃驚する程の叫び声を上げ、リュセルはジェイドの顎に見事なまでのアッパーを決める。
「お見事」
その、あまりにも華麗に決まった反撃に感心して、心からの拍手を贈る。
するとリュセルは、いきなりの父王の襲撃に余程混乱したのか、カイルーズに救いを求めるようにしがみついてきた。
「なななななっ、何だっ!?」
瞬間、兄から香るものと同じ香りが強く鼻孔をくすぐった。
「大丈夫大丈夫、ただの変態だよ。心配いらない。よしよし」
怯える弟の背に両腕を回して優しく撫でてやる。
ドクンドクン
普段より早く動いているであろう、心臓の鼓動を衣服越しに感じながらも、カイルーズはその確かな暖かさに安堵する。
決して、自分のものになり得ないその鼓動。
愛おしさを感じると同時に、憎らしさを感じた。そのすべてがレオンハルトのものであり、兄自身のすべてを己がものにしている弟。
そう。典雅かつ優美、すべてにおいて揺るぎない万能なる兄、レオンハルト。幼少の頃から、その高い能力と比較され続けてきた。
決して超える事の敵わぬ、高い壁。
「ねえ、リュセル。面白い話をしてやろうか?」
複雑な思いを隠しながらそうささやくと、すぐ横にあった弟の銀の瞳が何の疑いもなく見返してくる。
「これは、アシェイラ西の街で本当にあった話らしいんだけれど………………」
リュセルを怖がらせる為に、わざと声を低くしてボソボソと自分の所有する”オカルト全集吸血鬼編”の話をする事にしたカイルーズは、咄嗟に身を離そうとした弟の腕を掴むとにっこりと笑った。
「いいの? このまま逃げたら、この事兄上にばらすよ?」
「この事?」
顔を引きつらせながら、おうむ返しに返事をするリュセルの耳元で、ひそひそとまるで内緒話のように話す。
「うん、僕に抱きついてきた事。嫉妬深い兄上の事だもん、実兄の僕が相手でも怒るだろうなあ」
その言葉に、弟はまるで急所を掴まれたような情けない表情を浮かべてカイルーズを楽しませた。
この後、延々とオカルト全集吸血鬼編の内容を朗読し、リュセルを怯えさせるだけ怯えさせて、カイルーズのストレスは発散され、機嫌は少しだけ上昇したのだった。
からかってストレス発散させてもらった、そんな可愛い弟は、次の日の朝、夜も明けぬ内に兄に抱えられて浄化任務の為に任務地たる南の僻地に向かって出発して行ったのだった。
それからしばらく、兄と弟が去った城は、火が消えたような寂しい雰囲気に包まれた。
ディエラ国やサンジェイラ国への出張任務の時も同じような静寂に似た雰囲気だったが、それを打ち消していたのが父王のやかましい……いやいや、賑やかな存在感だ。
それは、件の婚約者、ツバキ姫到着予定日が過ぎたある天気のいい昼下がりの日にも全開だったのだ。
うざい………………。
アシェイラ城、第二王子の執務室の席に着いて真面目に執務をこなしていたカイルーズは、リュセルいじめで発散したストレスが再び溜まっていくのを感じていた。
仕事が忙し過ぎるというのが大きな原因だが、目の前で到着しないツバキ姫の事をうるさく話すジェイドがうざくてしょうがない。
「だって、おかしいよ~。到着予定日を二日も過ぎてるのに、まだ王都入りしないなんて~! ツバキ姫一行になにかあったんじゃないのかなぁ!? ど……どどどどどうしよう、カイル!」
執務机の上に積まれた大量の書類の間から顔を覗かせて息子に詰め寄るジェイドに、カイルーズは内心の苛立ちを抑えながら気のない返事を返す。
「あ~、そ~なんだぁ。大変だねぇ……」
はっきり言って、そんな事どうでもいい! 旅の日程に遅れが生じる事など、珍しくもない事である。
それに、実を言うと、今現在の執務室の状況と溜まった仕事の数は、リュセル達が旅立った1ヶ月前と比べ、かなり悪い状況に陥っていた。
原因は、有能なる側近、カイエ・ケイフォスタンの風邪である。
この数日体調を崩していたのだが、昨日とうとうダウンし、強制休養に入った彼の存在は偉大だったと、いなくなって初めて気付かされた。
あんな地味な顔をしていて(顔は関係ない)、カイエは、さすがレオンハルトがディエラ国の城勤めから引き抜いただけある程、素晴らしく補佐的能力に秀でた逸材だったのだ。
「カイエが一日いないだけで、この様か」
執務机だけでなく、書類の山は部屋全体に積まれており、床が見えない程だった。
それでも、何とか側近なしでもこれを片づけようと奮闘しているというのに、この馬鹿親父は息子のロマンスの話にしか興味ないのか、ずっとツバキ姫の話ばかりしている。
(国王業とは、そんなに暇なのかよ!)
カイルーズが心の中でそうつっこんでいる間にも、延々とジェイドの話は続く。
「捜索隊を編成して探索に向かわせた方がいいかもね。うん、それがいい! ……でもそんな事して、うるさい舅だと思われないかな? どうしよう。ねぇ、どうしたらいいと思う、カイル」
舅って……。まだ婚約もしていない状態なのですが。
「ああああああああ~~~~、もおおおおおおおっ!」
とうとう、溜まりに溜まったカイルーズは噴火した。
「うるさあああああ~~~~い!」
そう叫ぶと、机の上に積まれた書類を両手で薙ぎ払い、驚きに目を見張る父王にそれを押し付ける。
「そんっなに暇ならねぇ、この部屋の書類を全部片付けてよ! ああああ~~~、もう馬鹿馬鹿しい! もう知らないっ! 僕は好きな事するからね!」
「カカカカカイルぅ~~~」
息子がグレたと、ジェイドは半泣きになる。
カイルーズは机の上に片足だけ上げると、そんな父王をギロリと睨みつけた。
「何、なんか文句でもあんの!?」
「お、おおお落ち着いてカイル、パパとちゃんと話し合おう。……大丈夫、パパはカイルの事をどんな事があっても見捨てないよ」
「何言ってるの?」
うるうるしながらグレた息子に話しかけるように語りかける父王を横目に執務机から足を下ろすと、カイルーズはゆっくりと扉に向かって歩きはじめた。
「駄目、カイル! 悪い友達とは、もう遊んじゃ駄目っ」
そんな友達いないんですけど。
すっかりグレた子の父親になりきっている父王を無視したカイルーズは、仕事を放り出して久しぶりの街を満喫する事に決めたのだった。
「お前の血縁者と対面するのって、初めてだね。どんな女性か楽しみだよ」
自分の気に入りの弟が気にしている様子の、その、ユリエ姫に会うのが楽しみになってきた。
そんな何気なくこぼした台詞にリュセルは驚いたのか軽く目を見張ったが、カイルーズの意識はそんな未来のおもちゃ(候補)などよりも、現在目の前にい(あ)るおもちゃと(で)遊びたかった。
「婚約者殿の話はどうでもいいからさ~。しばらく会えないんだから、もっと違う話をしようよ、リュセル」
そう言うと、それまでおとなしくしていてくれていたジェイドが、うんうんと頷きながら口を挟んだ。
「まったく、カイルはまだまだ子供だねぇ。でも、ツバキ姫は、とても清楚で可憐な姫君のようだからね。会えばメロメロになるよ、きっと! ……そう、あれは、かれこれ三十年前、初めてルリカと出会った時のパパの衝撃といったら! パパは一目惚れだったんだよ。きゃっ」
とりあえず、無視。
「デコレート商会の行商に途中まで同乗していくんでしょう? 場所もアシェイラの中でも南の僻地だし、気をつけてね」
優しい兄の顔でそう告げると、根が単純なリュセルは表情を和らげて頷いた。
「ああ」
これだから、この弟は可愛いのだ。自分と変わらぬ身長、体格なのだが、そう思うのは外見の事ではない。内面のたやすさ、人の良さ、反応が楽しいし可愛い。
でも、どんなに可愛がろうと(からかい倒そうと)、リュセルのすべては完璧なる兄のものだ。決して、自分のものになる事はない。
寂しさと悔しさを感じながらも、それを顔に出す事なく、カイルーズは心配そうな顔をして見せた。
「それにしても吸血村……吸血鬼か。吸血鬼って、確か牙を肌にたてられて血を吸われると、吸われた相手も吸血鬼になっちゃうんだっけ? ねえ、カイエ」
わざと眉をひそめながらカイエに問いかけると、カイエは首を傾げた。
「まあ、そんな伝承もありましたけれど、どうなんでしょうねぇ」
「吸血鬼に遭遇した事もないし、分からないね。いくつか伝承は残されているケドさ。……でも、今回のは血を吸う邪鬼なんでしょう? なら、そんな伝承、関係ないよね。ね、リュセル」
何気なさを装ってリュセルに同意を求めると、彼は案の定、青白くなった顔を引きつらせていた。
前に兄の直属の騎士であるユージンを新作の自白効果のある粉の実験台にした時、知ったのだが、怖いものなど何もなさそうな、凛々しい美男子然とした美貌の弟は、幽霊などの怪談系の話がまるで駄目らしい。
「あ、ああ。ら、楽勝だ」
どもりながらもそう答えたリュセルの反応が予想以上で、カイルーズは段々と楽しくなってきた。
何も知らないであろうカイエと目を合わせると、彼は優しい色の瞳に戸惑いの色をにじませて見返してくる。
性質が優しいカイエと違い、カイルーズは一見さわやかで優しそうな好青年だが、中身は意外と腹黒い、小悪魔系な青年だ。
(さあ、どうやって脅かしてやろうかな)
押し黙ってしまったリュセルを、カイルーズはわくわくしながら口元に微笑を浮かべ、見つめていた。しかし次の瞬間、カイルーズが手を出す前に父王に先を越されてしまったのだ。
「りゅ~せ~るぅ~~~」
悪ふざけを思いついたジェイドが赤インクを顔に垂らしこんで、先程から無視され続けている事への腹いせに、リュセルの後ろから肩ごしに顔をにゅっと出したのだ。
「ぎゃああああああっ!」
瞬間、悪ふざけをした当人が吃驚する程の叫び声を上げ、リュセルはジェイドの顎に見事なまでのアッパーを決める。
「お見事」
その、あまりにも華麗に決まった反撃に感心して、心からの拍手を贈る。
するとリュセルは、いきなりの父王の襲撃に余程混乱したのか、カイルーズに救いを求めるようにしがみついてきた。
「なななななっ、何だっ!?」
瞬間、兄から香るものと同じ香りが強く鼻孔をくすぐった。
「大丈夫大丈夫、ただの変態だよ。心配いらない。よしよし」
怯える弟の背に両腕を回して優しく撫でてやる。
ドクンドクン
普段より早く動いているであろう、心臓の鼓動を衣服越しに感じながらも、カイルーズはその確かな暖かさに安堵する。
決して、自分のものになり得ないその鼓動。
愛おしさを感じると同時に、憎らしさを感じた。そのすべてがレオンハルトのものであり、兄自身のすべてを己がものにしている弟。
そう。典雅かつ優美、すべてにおいて揺るぎない万能なる兄、レオンハルト。幼少の頃から、その高い能力と比較され続けてきた。
決して超える事の敵わぬ、高い壁。
「ねえ、リュセル。面白い話をしてやろうか?」
複雑な思いを隠しながらそうささやくと、すぐ横にあった弟の銀の瞳が何の疑いもなく見返してくる。
「これは、アシェイラ西の街で本当にあった話らしいんだけれど………………」
リュセルを怖がらせる為に、わざと声を低くしてボソボソと自分の所有する”オカルト全集吸血鬼編”の話をする事にしたカイルーズは、咄嗟に身を離そうとした弟の腕を掴むとにっこりと笑った。
「いいの? このまま逃げたら、この事兄上にばらすよ?」
「この事?」
顔を引きつらせながら、おうむ返しに返事をするリュセルの耳元で、ひそひそとまるで内緒話のように話す。
「うん、僕に抱きついてきた事。嫉妬深い兄上の事だもん、実兄の僕が相手でも怒るだろうなあ」
その言葉に、弟はまるで急所を掴まれたような情けない表情を浮かべてカイルーズを楽しませた。
この後、延々とオカルト全集吸血鬼編の内容を朗読し、リュセルを怯えさせるだけ怯えさせて、カイルーズのストレスは発散され、機嫌は少しだけ上昇したのだった。
からかってストレス発散させてもらった、そんな可愛い弟は、次の日の朝、夜も明けぬ内に兄に抱えられて浄化任務の為に任務地たる南の僻地に向かって出発して行ったのだった。
それからしばらく、兄と弟が去った城は、火が消えたような寂しい雰囲気に包まれた。
ディエラ国やサンジェイラ国への出張任務の時も同じような静寂に似た雰囲気だったが、それを打ち消していたのが父王のやかましい……いやいや、賑やかな存在感だ。
それは、件の婚約者、ツバキ姫到着予定日が過ぎたある天気のいい昼下がりの日にも全開だったのだ。
うざい………………。
アシェイラ城、第二王子の執務室の席に着いて真面目に執務をこなしていたカイルーズは、リュセルいじめで発散したストレスが再び溜まっていくのを感じていた。
仕事が忙し過ぎるというのが大きな原因だが、目の前で到着しないツバキ姫の事をうるさく話すジェイドがうざくてしょうがない。
「だって、おかしいよ~。到着予定日を二日も過ぎてるのに、まだ王都入りしないなんて~! ツバキ姫一行になにかあったんじゃないのかなぁ!? ど……どどどどどうしよう、カイル!」
執務机の上に積まれた大量の書類の間から顔を覗かせて息子に詰め寄るジェイドに、カイルーズは内心の苛立ちを抑えながら気のない返事を返す。
「あ~、そ~なんだぁ。大変だねぇ……」
はっきり言って、そんな事どうでもいい! 旅の日程に遅れが生じる事など、珍しくもない事である。
それに、実を言うと、今現在の執務室の状況と溜まった仕事の数は、リュセル達が旅立った1ヶ月前と比べ、かなり悪い状況に陥っていた。
原因は、有能なる側近、カイエ・ケイフォスタンの風邪である。
この数日体調を崩していたのだが、昨日とうとうダウンし、強制休養に入った彼の存在は偉大だったと、いなくなって初めて気付かされた。
あんな地味な顔をしていて(顔は関係ない)、カイエは、さすがレオンハルトがディエラ国の城勤めから引き抜いただけある程、素晴らしく補佐的能力に秀でた逸材だったのだ。
「カイエが一日いないだけで、この様か」
執務机だけでなく、書類の山は部屋全体に積まれており、床が見えない程だった。
それでも、何とか側近なしでもこれを片づけようと奮闘しているというのに、この馬鹿親父は息子のロマンスの話にしか興味ないのか、ずっとツバキ姫の話ばかりしている。
(国王業とは、そんなに暇なのかよ!)
カイルーズが心の中でそうつっこんでいる間にも、延々とジェイドの話は続く。
「捜索隊を編成して探索に向かわせた方がいいかもね。うん、それがいい! ……でもそんな事して、うるさい舅だと思われないかな? どうしよう。ねぇ、どうしたらいいと思う、カイル」
舅って……。まだ婚約もしていない状態なのですが。
「ああああああああ~~~~、もおおおおおおおっ!」
とうとう、溜まりに溜まったカイルーズは噴火した。
「うるさあああああ~~~~い!」
そう叫ぶと、机の上に積まれた書類を両手で薙ぎ払い、驚きに目を見張る父王にそれを押し付ける。
「そんっなに暇ならねぇ、この部屋の書類を全部片付けてよ! ああああ~~~、もう馬鹿馬鹿しい! もう知らないっ! 僕は好きな事するからね!」
「カカカカカイルぅ~~~」
息子がグレたと、ジェイドは半泣きになる。
カイルーズは机の上に片足だけ上げると、そんな父王をギロリと睨みつけた。
「何、なんか文句でもあんの!?」
「お、おおお落ち着いてカイル、パパとちゃんと話し合おう。……大丈夫、パパはカイルの事をどんな事があっても見捨てないよ」
「何言ってるの?」
うるうるしながらグレた息子に話しかけるように語りかける父王を横目に執務机から足を下ろすと、カイルーズはゆっくりと扉に向かって歩きはじめた。
「駄目、カイル! 悪い友達とは、もう遊んじゃ駄目っ」
そんな友達いないんですけど。
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