【宝の鍵~金の王子と銀の王子~】番外編Ⅲ 運命の人

月城はな

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ユリエの憂鬱

4-2 まさかの再会

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*****



「ユリエ姉上、無事だったか。……って、ずぶ濡れじゃないか。一体どうしたんだよ!」

 ひったくり犯を追って行った姉を探索に向かおうとしていた矢先、戻ってきたユリエの姿を見つけ、ほっとしたのも束の間、レインは姉の全身ずぶ濡れの姿に驚き、目を見張る。

「なんでもないわ。あのおばあさんの荷物は取り返したから、返してあげておいて」

「ちょ、ちょっと、姉上!」

 何も語らずに馬車に戻って行ったユリエを見送る事しか出来ず、レインは荷物を受け取りながらも苛立ったように頭を掻く。

「あーっ、もう、わかったよ!」

 そう言うと、受け取った荷物を持って、近くに待機させていた被害者の老女の元へと戻る事にした。

「お姉様。どうしたの、その姿!?」

 馬車に戻ってきた姉の惨状に驚き、ツバキは慌てて姉に乾いた布を渡す。

「…………」

 ユリエはそれを無言で受け取ると、眼鏡を外してみつ編みにしていた髪をほどき、無造作にそれらを拭う。

「どうなさったの?」

「何でもないわ」

「お姉様~」

「何でもないったら!」

 少ない自分の荷物の中から替えの着物を出し、濡れた着物をユリエは脱ぎ始める。そんな姉を手伝いながら、ツバキは首を傾げた。

(水浴びでもしてきたのかしら?)

 能天気な彼女は、異常な程に濡れきってしまっているユリエの様子を楽天的に考えていたのだった。

 




「正直に言いなさい、カイル」

 一方、カイルーズ側では……。

 他国の姫君を迎える為、普段着ている変なTシャツ姿ではない、威厳ある正装衣に着替えたジェイドが、目の前の息子に詰め寄っていた。

「………………何が?」

 超、不機嫌。折角青を基調にした正装姿がすごく格好いいのに。

 玉座におとなしく就いている状態のジェイドは、凍えきったカイルーズの言葉を意にも介さず、傍に立つ息子の顔を見上げる。

「その頬の手形痕だよ。かなりくっきり残ってるしさ~、何があったんだい?」

 カイルーズの左頬に残された、あきらかに平手打ちをもらったとわかる手形の痕。それを指差し、ジェイドは困ったように顔をしかめた。

「いえ、何もありません」

 敬語で答えた息子の頑なな態度から何を聞いても駄目だとジェイドは悟る。何が原因かは知らないが、相当怒っている。

「とりあえず、婚約者と初めて面会するのに、そのままじゃ見目が悪いから、手当を受けなさい」

 ジェイドの合図を受け、医療具を持った侍女が恭しくカイルーズに近づき、頬の手当にかかった。
 手形の痕を隠すように、頬のサイズに合わせて小さく切られた白いガーゼをつけられながら、カイルーズはこの手形を残してくれた無礼な少女の事を思い出す。

(助けてあげたというのに……、あの女)

 あの後、カイルーズの頬を張った少女は、ひったくり犯が落として行った荷物を抱えて素早い動きで逃げ去ったのだ。自分はあまりの事に呆然としてしまい、何の反応も返せなかった。

(もし今度また会う事があったら、滅茶苦茶にしてやる)

 不機嫌そうに黙っていると思ったら、急にサディスティックな笑みを浮かべ始め、それを窺い見ていたジェイドは、息子の異常な様子に背筋がぞぞぞっとなるのを感じた。

「カ、カイル?」

 その時だった。

「ツバキ王妹殿下、ユリエ王妹殿下、レイン王弟殿下、お着きになりました」

 サンジェイラの王族達の来訪を告げる声が響く。それを受け、ジェイドもカイルーズも居住まいを正して、他国の客人を迎え入れる事にした。

 玉座の間の大きな扉が観音開きに開かれると同時に入室してきたのは、若草色の生地が可憐で麗しい、花柄の振袖を着た黒髪の美しい姫君だ。ぬばたまのような黒髪は癖がなく、真っ直ぐに腰まで垂らされていた。

「噂通り、お美しい」

 優雅に貴婦人の礼をしたツバキ姫の美しい顔(かんばせ)を見たジェイド王、つい感嘆のため息をついてしまう。

「ね、ねねね、カイル。そう思うだろう?」

 近くにいるカイルーズにだけ聞こえるように小声でそうささやいた彼は、息子の瞳が驚いたように見開かれるのを見た。

「カイル?」

 カイルーズが見ていたのは、ツバキ姫ではない。後ろから静々と歩いて来る紺色の着物を着た地味系な少女に、その視線は釘付けになってしまっていた。

「お前はーーーーッ、さっきの平手打ち女あああああ!」

 その怒鳴り声を聞き、弾かれたように顔を上げた少女はカイルーズの姿を認めると、それに負けない位の音量で怒鳴る。

「あああ、あなたーーーー、さっきの痴漢!」

 お互いを不作法にも指差しながらそう怒鳴り合った二人に、周りにいた者達はただポカンと口を開けるしかなかった。



「ちょ、ちょ、ちょっと待って、二人とも!」

「「何っ!?」」

 慌てて間に入ったジェイドは、カイルーズとユリエに同時に睨まれて怯えそうになるが、勇気を持って聞いてみた。

「カイルもユリエ姫も、お互いすでに知り合っていたのかい?」

 その疑問は、この場にいる誰もが思った疑問だった。

「ええ、まあ」

 返事をジェイドに返すカイルーズを睨みつけながら、ユリエは怒鳴った。

「この人は、私の胸を揉んだのよ!」

「「えええええええ~~~~っ!!???」」

 ジェイド、レインの驚愕の声が同時に響く。

「もももも揉んだって、何、誤解を招く言い方してるんだよ!」

「事実じゃない!」

 怒鳴りながら自分を見上げるユリエに向かい、カイルーズは鼻で笑い飛ばした。

「そんな、大騒ぎするようなものでもなかったじゃないか」

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