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─温泉旅行─
マッサージ
しおりを挟む「え!?ひとつも枠あいてないんですか?」
「申し訳御座いません、先程のご予約で全て埋まってしまいまして…」
「そんなぁ…っ」
私は落胆の色を隠せず
肩を落としてロビーのソファに
ふらふらと腰を落とした。
『……運転で疲れて、ゲーセンまで行きたくなくなったんだよ』
そう言っていた彼、タクヤに
宿のマッサージサービスを
予約しようと思っていたのに
一足遅かったみたい…。
「あーーーーあーーーー、最悪だぁ」
頭を抱えた私に
頭上から声が降りかかる。
「大声で何をやってんだよ、恥ずかしいヤツ」
言わずもがなそれは
呆れ顔のタクヤだった。
「何が最悪なわけ?」
「あのねー、マッサージだめだった」
「マッサージ?」
泣き出しそうな顔で告げると
タクヤは私の隣に腰をおろして
手の甲に顎をつく。
「実はー…サプライズでタクヤにマッサージ師をプレゼントしようと思ってましてぇー…でも」
「でも?」
「予約でいっぱいだった…ごめんタクヤ」
マッサージの予約が取れなかったのは
きっと大浴場から部屋に戻ってから
一眠りしちゃったからだ。
痛恨のミス…。
いつもこう。
いつも肝心なところで失敗しちゃう。
でも、タクヤの顔を見ると
あれ?なんだかニヤニヤしてる。
「あのぅー…」
「そうか、マッサージか」
「ん?」
「お前がしろ」
「ん!?」
「マ・ッ・サ・ー・ジ」
1文字1文字、区切る言い方に
策士タクヤの企みを感じるも
こんなに遠くまで
運転してくれたタクヤに
何かしてあげたくて、
私は、快諾したのだった。
ご飯を食べて
部屋に戻ると既に布団が二つ
ピッタリと並んで敷いてある…。
これから二人で交わす秘め事を
見せつけられているようで
なんだか、なまめかしくて
私は胸の高鳴りを感じた。
タクヤはと言えば
布団なんて華麗にスルーして
窓辺にある冷蔵庫から
ミネラルウォーターを取り出した。
この状況にときめかないなんて
女慣れしているのか
それとも私に魅力がないのか。
そんなこと考えていたら
ほんのちょっと落ち込んだ。
せっかくの楽しい旅行が
台無しになっちゃう。
私は気を取り直して
「はい、タクヤ、早く横になって!」
布団の側に膝をついてタクヤに告げた。
ちょうど飲み干したペットボトルを
くずかごに放り投げる。
後ろ向きに投げたそれは
当然のごとく、くずかごを反れた。
「あっ!タクヤ、ペットボトル!」
「あとでやるよ」
「絶対、嘘っ!」
「まあ、あとで片せばいいじゃん、お前が。」
「自分でやんない気だぁー…暴君ー…」
「すげえ褒め言葉じゃん?…それより」
タクヤは不敵に笑みながら
布団へと歩み寄ると
あっという間にうつ伏せた。
「さぁー、どうぞ」
枕に押し付けた顔。
くぐもった声がセクシーだ。
「じゃ、じゃあ失礼しまー…す」
いつもは偉そうなドS王子。
そのタクヤが私の前で
こんなにも無防備だ。
「あー…そこ、いいねぇ。もうちょい強く」
タクヤの背中を押しながら
無防備に声を上げる彼が
可愛くって仕方ない。
10分ほど
そうしていただろうか。
タクヤが声をあげる。
「美里、もういいよ、ありがとう」
「え、もう?」
「今度はお前の番♪」
「え!?私はいいよ!」
「美里、横になれ」
「や、やだっ」
「め・い・れ・い!」
「やだっ」
「ざーんねん。お前に拒否権はねえんだなぁー」
無防備だった可愛い彼は何処へやら
いつの間にかドS王子に逆戻り。
私を軽々抱えると
ポフンと音をさせてタクヤは
私を布団の上へ優しく投げ出した。
「あ、あのぅー……」
「ん?」
「ま、マッサージはうつ伏せですよね?」
恐る恐る聞けばタクヤは
舌なめずり。
「いやぁ?仰向けでいいぞ」
「な、何をする気で!?」
「マッサージごっこだろ?」
そう言って、タクヤは
おもむろに私の唇を塞いだ。
塞ぎながら
掛け布団を引っ張り
私の側へぴったりと添い寝る。
「あ、の…っ、これマッサージ…?」
唇の隙間から細く息を吐いた。
「…気持ちよくねえの?」
そう聞かれれば
気持ちよくないなんて
言えるわけが無い。
「きもち、い」
「なら、マッサージじゃん」
「…うん」
ときめきがやまない。
タクヤは
執ように私の唇を吸い上げる。
私はタクヤの責めに乗じて
耐えることで精一杯だった。
「美里……好きだ」
珍しくそんな言葉を
耳元にささやくのは
やっぱり
温泉旅館の雰囲気のおかげだろう。
「私も、好き…大好き」
ほら、私だって
素直になれる。
きっと明日は寝不足。
それでも笑顔で
おはようが出来るなら
幸せだね。
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