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~校医~
師ノ想ヒノ章
しおりを挟む「俺の事、本当に覚えてないのか…?」
さらっと、私の前髪を
いたずらする先生の瞳の中の
寂しそうな色。
あれ…?
この目、私、知ってる…。
【椿の唇~師ノ想ヒノ章】
「あー美味しかったあ!」
ワインを呑んで
ほろ酔い気分。
人生初の高級レストランに
はじめてのコース料理
はじめてのお酒…。
ワインのあとの街並みは
ネオンが何重にも輝いて
私の気分は高揚していた。
「店を出た途端にそれか。品がないな」
「だって、先生がかっこよくてドキドキしちゃって」
酔いに乗じて
普段あまり言わないような言葉を
口にしてみる。
会話の繋がりなんて
気にしない。
お酒の力は絶大。
躊躇いもない。
伝えたいことを伝えられる。
「なんの脈絡もないが。まぁ、そりゃどうも」
先生は胸ポケットの
煙草に手を伸ばした。
「あ!ダメっ」
私は思わず大きな声をあげ
先生の手の甲に触れる。
ひんやりとした大きな手。
私よりずっと
背の高い先生の顔を見つめる。
「煙草はもう、駄目ですよ」
突然の私の行動に驚いたのか
先生は目を見開いて
私の顔を眺めたかと思うと
「急に…なに、するんだ」
そう言う先生の顔が
どんどん紅潮していく。
その反応に
私は息を飲む。
「な、んなんですか、その反応」
「あー…くそ」
先生は視線を反らし
せっかくセットしてきたであろう髪を
ガシガシと何度も掻いた。
そして、
「ちょっと、来い」
私の腕を引っ張って
路地を入り
人気のない公園へと連れ込む。
先生は街灯を避けるように
椿の木を見つけると
私を押し付け、口付けた。
先生らしくない…乱暴なKissだ。
「……っ、せん、せ」
「抑えがきかねぇ…少し黙ってろ」
唇を割って入り込む先生の舌先
堪えきれない
その感情が先生から漏れる、
吐息から伝わってくる。
何度も柔らかい唇に
口付けられると
頭の中が痺れた。
思考力は鈍っていくのに
身体は敏く先生を感じる。
激しいKissに翻弄され
私の目には涙が溜まっていた。
やがて先生は
大きく息を継ぐと
「お前、本当に…俺の事、覚えてないのか?」
サラッと私の前髪をイタズラしながら
私に尋ねる。
見つめ合う、先生の
瞳の中の寂しげで、
でもとても強い色。
「あ…れ……?」
私、この目、知ってる。
この目を細めて笑ってくれた……
高校時代?
ううん、もっと前だ…
記憶を辿る。
そして、記憶の端に行き着いた。
小さな頃
近所の家に住む六つ年上の
お兄ちゃんに私は恋をした。
私の、初恋だ。
母に相手にされないと
公園で一人寂しく漕いでいたブランコ。
彼はよく、ブランコを押してくれた。
私が小学三年生で
彼が中学三年生の時
彼は親の離婚で
高校進学とともに
他県へ行くことになった。
私は意を決して
その年のバレンタインデーに
手作りチョコを彼に渡した。
「お兄ちゃん、はい」
「ん?何?」
「あのね、チョコ!」
いつも哀愁の漂う目をした彼は
不格好なラッピングの中身が
チョコだと知ると
嬉しそうに目を細めて
笑いながら私の頭を撫でた。
優しい手。
伝わる温もり。
高鳴る鼓動と
きゅんと切ない気持ち。
四月には
彼はもうここにはいない。
優しい手も
この笑顔も
この温もりも
なくしてしまう。
どんなに辛くても
もう彼に会えなくなる…
気がつけば私は
涙を落としながら
彼に懇願していた。
「お兄ちゃん…」
「どうした?」
「行かないで…っ、いなく、ならないで」
彼は、何も言わずに
私の頭を撫で続ける。
その事が余計
私の想いの吐露を助長した。
「お兄ちゃんがいなきゃ私寂しい…っ、私、私ね」
「…ん?」
そして私は告げた。
「お兄ちゃんが好き」
世界ではじめて
私が好きになった彼。
そして私が世界ではじめて
告白した彼はこう答えた。
「俺が煙草吸えるくらい大人になった時、椿ちゃんが驚くくらい可愛くなってたら、君の所に戻ってくるよ」
その人の名は
「……龍…星、お…兄ちゃ…ん?」
私は唖然と先生を見つめて呟く。
先生はとても幸せそうに笑った。
「やっと…気付いたか」
「なん…で?」
しとしとと
涙が湧いては落ちていく。
先生の表情が
さっきよりももっと
柔らかいものになっていた。
照れくさそうに唇を尖らせて
それでも微笑んだ先生は言う。
「お前が…可愛くなってたから戻ってきたんだけど」
その瞬間
心臓が跳ねたら
涙腺が壊れた。
もう、涙が止まらない。
「せんせ、ちが、龍星おにい…っ」
何が言いたいのかすら
わからなくなった私を
先生は強く固く抱き締めて
耳元で囁く。
「お前、さっき聞いたろ…?いつからお前を好きだったかって。白状しようか」
首筋にキスを落とす先生は
やがて、私に告げた。
「入学当初から狙ってたよ、椿ちゃん」
あの頃と同じ呼び方で
私の名を呟かれると
なんだかとても変な気分。
だけど、嫌じゃない。
鼓動は足早に駆けていく。
「俺が煙草を吸ってたのは、お前に気付いてほしかったからだよ……」
そう言った後で先生は
「まあ…、お前が可愛過ぎて何かで気を紛らわさないと、タガが外れそうだったってのもあるけどな」
実に先生らしい不敵な笑みを浮かべた。
「せんせ、私もう…先生のこと、おに、お兄ちゃんて呼んでも、呼んでも…いい……?」
たどたどしく告げると
先生は一層私の腰を引き寄せる。
見つめ合う目と目。
泣きじゃくって苦しい呼吸
ときめきが止まずに苦しい胸
きっと酷い顔。
でも見上げる。
涙で霞む先生の顔が
ぼんやりと笑った。
「だめだろ」
「だ、め…なの…?」
「もう卒業しろよ、先生も、お兄ちゃんも」
「え…?」
「これからはお前だけの“ 龍星”だ」
そう囁きながら
先生は私の涙を拭うと
今度は蕩けるような
優しいキスをして
「椿……好きだ」
そう、耳に響いた。
私たちの足元には
沢山の椿の花が笑う。
それはまるで、私たちを
祝福するかのようだった。
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