チョコの味

幸介~アルファポリス版~

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バレンタイン大作戦…瑠奈目線

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「今日、一緒に帰れる!?」


相手は、幼馴染の大弥。


放課後前の掃除時間


ついに私は大弥に言った。



「お、おう」


ちょっと気迫が


ありすぎたみたい。 



驚いた大弥は


目を白黒させながら


返事をくれた。



「ほんと!?」


「う、ん…つーか!」


いつもと様子が違う私を


おかしいと思ったのか


大弥は私の額に


自分の額をこつんとぶつけて



「んーー、熱はないか」


事もあろうにそんなこと言う。


私の頭の中はパニックだ。



「うわぁあ!何!?でこ、やばっ」


「だっていつも一緒に帰ってるじゃん」


「やっ、でこ、はな、離せぇ!」



私が一歩後ずさった先は段差だった。


片足が宙を蹴る。


「きゃっ」


私は実に女の子らしい声を上げて


落下……と思いきや


腕がぐんっと引っ張られる。


「やっべ、セーフ……」


大弥が支えてくれていた。


腕の筋が大弥の


ブレザーから覗く。



男の子の、腕の筋肉…


あんなもの見せられたら


ドキドキが止まんない。


男にしたらもやしのくせに。


大弥のくせに生意気だ。



「あ、りがと」


「おー、どういたしまして。つーか瑠奈マジ今日おかしいよ、もう帰ろっか?」


心配そうに私の顔を覗き込む大弥


その優しさに


心がどきん、跳ね上がる。



私は、うん、と首を振りかけた…



その時だった。




「中村くん」


大弥の苗字を呼ぶ声が聞こえる。


後ろを振り返ると


隣のクラスの佐藤未来だった。


未来の後ろに


学年一可愛いと言われる、


榊原あみが隠れている。

 

「おー?何?」


私を挟んで、大弥は未来に用件を尋ねた。


「ちょっとー…話があるー、来てくんない?」


あみの恨めしい目が、私に突き刺さる。



今日はバレンタインデー。


女の子が勇気を振り絞って


男の子に告白する、一大イベント。



親同士の仲が良くて


双子みたいに育ったのに


私は何をやっても平凡。


片や大弥は、秀才、あるいは天才


読んだ本は一度で頭に記憶して


スポーツ万能。


部活はサッカー。


ポジションは前衛、フォアード。



大弥のバレンタインデーには


持ちきれないほどのチョコレートと共に


見たくもない想いの詰まった手紙…。



あみもきっと


その中に名乗りをあげるのだろう。


 
毎年この日は


いつ大弥が数多のラブレターの


たったひとりにOKするんじゃないかと


気が気ではない。





そんな想いを


知ってか知らずか大弥は



「おー、わかった!じゃあまた後でな瑠奈」


私の頭をぽんぽんと撫でて


笑顔でふたりの後に続き、廊下を歩む。




…私だって、今年は


大弥に想いを伝えようと思っていた。



中学に上がった頃から


恥ずかしくなって


毎年毎年作ってるのに


もう五年も大弥に


渡せていないチョコを渡して…。





……約束したの、私の方が、先だったのに。



大弥の後ろ姿を見つめながら


「大弥の…ばか」


私はひとこと、呟いた。



仕方なく、掃除を終えて


夕暮れ近づく教室で


大弥を待つ。




待って、待って、待ち侘びても


なかなか大弥は来なかった。



教室に投げ捨てられたクラスメイトの鞄は


ひとつ、またひとつと無くなっていく。



その度に、悪い予感が胸を渦巻いた。



もしかしたら


あみの告白を受けて


OKの返事出しちゃった?



一緒に帰ろうってなって


私の事なんか忘れちゃった? 



「……やだよ…っ、大弥ぁ……っ」



涙が零れて


思わず彼の名を呼んだ時



「は!?なんで瑠奈泣いてんの!?」



まるで思いが通じたように


大弥が私の元へ帰ってきた。



心底安心したら


もっと涙が溢れ出して


私は声を上げてわんわん泣いた。



「げっ、意味も分からず泣かれる程、拷問なことないけど!!」


そんな悪態をつきながら


大弥は私の側に歩み寄り、


いつもの調子で頭をぽんぽん撫でる。



ふと目に入る……


ピンク色のラッピングを施された箱。


手作り感満載…。



きっと、あみの手作りチョコ。



この温かい大きな掌を


誰かに渡したくなんかない。



幼なじみのものとは違う、


独占欲が私の心に溢れた。



じっとラッピングを


見つめる私に気がついた大弥は


ひらひらとその箱を見せびらかした。



「学年一の美女からもらっちった」



おどける大弥に


気分の沈む私は告げた。



「……よかったじゃん」


違う、こんな事言いたいんじゃない。



でも素直になれない。



長年幼なじみとしてやってきたから


素直になる方法がわかんない。



涙がまた零れ落ちる。




すきだよ、好きだよ大弥



心の中では何度も呟けるのに。



これじゃ、伝わらない。


口にしなきゃ伝わらない。




途方に暮れる私は


ただ、ただ涙を拭うだけ。



大弥はそんな私に困り果て


大きなため息をつくと


私を覗き込んだ。



「ほんとにお前、どうしちゃったの」


「ご…めん、こんなつもりじゃ、」


やっとのことで口にする。


大弥は頭をひとかきすると



ひらめいた!


そう言うように笑った。



「あーわかった、お前チョコ欲しいんだろー、瑠奈甘いの好きだもんな!いっぱいもらったからやるよ」



そう言って自分の席に戻ると


今日もらったであろうチョコが


沢山入った部活用のドラムバッグを


ガサゴソ探り始める。


「え!だめだよそんなのっ」


私は涙を拭うと大弥の側に駆け寄って


必死に訴える。



「そのチョコは大弥のことが好きな子が頑張って作ったり、一生懸命選んだりしたチョコじゃん」


「へぇー、じゃあもらったチョコは想いのかたまりかぁ」


「そーだよっ」


「んー、じゃあさ瑠奈ぁ」


ドラムバッグを探っていた手が止まる。


「あったあった」


大弥は拳を握ると私の前に突き出した。



「手、出して」


「え?」


条件反射で差し出した手のひらに


ぽとんと落ちたチロルチョコ。


ご丁寧にも百均で買ったような


小さなリボンまでついている。



「だ、だからもらえないって!」


私は声をあげた。



「なんで?」


「なんでって、だからこれは大弥を思う女子の…」



そう言った時、大弥の口が


私の耳に近づいて


大弥は囁いた。



「これは俺から瑠奈への想いだよ」



「……え?」



「俺、ずっと待ってるんだけどさ…瑠奈からは、ないの?」



これは、なんだろう。


「小さい時は毎年くれたのに最近くれないから、俺から用意してみた」


なんの冗談なんだろう。


大弥のくるんとした目が


じっと私の泣き顔を見ていた。



「これって……夢?」


「いや、現実」


「チロルには…どんな想いが?」


すると大弥は苦笑して


「バレンタインデーなのに男から言わすの?お前、鬼っ」


と、ひとしきり笑い、また言葉を耳に打つ。



「俺は、瑠奈が好きだよ」


ずっと、夢のまた夢だと思ってた。



私は、大弥にとって


生涯幼なじみで


終わってしまうんだろうって。



もしかしたら


幼なじみも終わって


終いは、他人かもしれないって。



悲しくて悔しくて


でも、選り取りみどりに思えた大弥に


幼なじみ以外の関係で


近づいていくことが怖かった。



でも、勇気を


出して、いいんだ



大弥が笑ってくれてる。





「ま、待って」



私は席に戻ると


バッグに忍ばせていた紙袋を取り出し


大弥の胸に勢いよく押し付け言った。



「ず、ずっとずっと、ずっっと好きだった!」


「この中身は何?」


「い、言わなくても、わかるでしょ…?」


「んー…開けていい?」


「……うん」



何度も失敗したラッピング。


くしゃくしゃのフィルム包装。


不格好なリボン。


中身だって平凡な私による、


ただの板チョコを溶かして


生クリームと混ぜただけの


平凡なチョコレート。



きっと、もっと上手に


作ってる子だってたくさんいる。



でも大弥は包みを開くと


とても嬉しそうな顔で


満面の笑顔を作り、ひとつ


チョコレートを口の中へと放る。




「……おいしい?」


「んまいよ」


「ほんと?」


「信じられない?」


「私、不器用だし、で、でも一生懸……っ」



一生懸命作ったんだよ


そう言おうとした時には


もう大弥の唇が目の前にあって


あっという間に私の唇は塞がれた。



一瞬のことに


目の前は真っ白になる。



体の底から


熱い血が沸騰した。



大弥の唇が少しだけ動くと


その隙間から


甘いチョコレートの味。



あ……、おいし。



それが私の作ったチョコレートだと


気付くまで少し時間がかかった。



どのくらいの時間


大弥の唇と繋がっていたんだろう。



ようやく唇が離れたと思うと


大弥は熱く息を吐きながら



「甘かったろ…?」



と、聞いた。



「…うん」


素直に、伝えると


大弥は言う。



「瑠奈にあげたチロルはうまいかな?」


「え…?」


「食べてさ、俺にも味見させて?」



もう一度、キスがしたい


そう言う勇気が、なかったんだろう。



それでも暗黙の了解が存在する。



チロルを食べることは


キス承諾のサイン。




そう思えば恥ずかしくて


指先は震えるけれど


チロルの包みを何とか開いた私は


それを口の中に放り込むと


そっと、目を閉じる。




「おいし、」


またも私の唇をあっという間に


塞いだ大弥はそう呟いて


何度も何度も私にキスをくれた。




やっと手に入れた私の大好きな人。



ファースト・キスの味は


甘くておいしいチョコだった。


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