チョコの味

幸介~アルファポリス版~

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ホワイトデー大作戦…大弥目線

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「瑠奈ぁー」


「んー?んんっ!?」


俺は、瑠奈にキスを送る。


彼女がいじっていたスマホが


ごとん、床に落ちた。



「いきなり、キス、とか、ずるい」


唇が離れる度


途切れながら伝えられる瑠奈の心。


「俺の前で誰にLINE?」


「お母さん、だよっ」


「俺ん家いるって言った?」


「うん…ご飯食べてくって言った」


「上出来」



俺と瑠奈は幼なじみ。


俺は物心着く前から


ずっと瑠奈しか見てない。



瑠奈だって俺のことしか


見ていないはずだったのに


バレンタインのチョコを


くれることはなくなって



毎日一緒にいるのに


なんだか距離を


感じるようになって


すげぇ寂しかった。




業を煮やした俺は


今年のバレンタインデー


逆チョコ大作戦を決行。


何を買っていいのかわからずに


チロルチョコを瑠奈に渡した。



作戦は大成功だった。



俺はその日


瑠奈から五年ぶりに


手作りチョコレートを


もらったんだから。




チョコレート嬉しかったよ。


でも1番嬉しかったのは


瑠奈が俺のこと


ずっと好きだったって


伝えてくれたこと。



恋人同士になれたこと。


互いの気持ちが


ひとつになったこと。




そして今日は


待ちに待ったホワイトデー。



抜かりはない。


お返しはポケットの中に


用意してある。



あとはタイミングだけだ。



でも、その前に


瑠奈のこの唇。



可愛くて気持ちよくて


おまけに美味しくて


離せない…。



俺は何度も、口付ける。



どうやら俺は所謂


キス魔ってやつらしい。





「あ、ねえ大弥……」


「ん?……何?キスの最中だけど」


「ちょ、ストーップ!キリがないから!」



唇と唇の隙間に


瑠奈の細い指先が滑り込み


俺の口付けを押しのけた。



…隙間なんか開けるんじゃなかった。



「なんだよ」


「あのさ…、ちょっと待ってね」


そう言って瑠奈は


俺に背を向け


自分の学生鞄を漁り始める。


無意識なんだろうけど


四つん這いになると


腰元がフラフラ揺れて


スカートの中が見え隠れ。



いくら幼なじみで


小さい頃風呂にも


一緒に入った仲とはいえ


こんなの


理性が持つわけない…。



慌てて俺は、天井を見上げた。




「あった!」



瑠奈の弾むような声がしたかと思うと


彼女は控えめに俺に近づいた。



「あのぅー…大弥さん」


かしこまった言い方に


思わず笑みが込み上げる。


「瑠奈に、さん付けなんか初めてされた」


「だって、なんか恥ずかしいじゃん」


「何が恥ずかしいんだよ」



ケラケラと笑っていると


すねたように目を細めた瑠奈は



ベチンっとすごい音をさせて


無造作にひいた俺の手を叩く。



「いっっ!?何すん……」


瑠奈がゆっくりと


重なっていた手のひらを退けると



俺の手の中には




「あ、チロル…」




俺がバレンタインデーに


逆チョコで用意した、


チロルチョコが一個


転がっていた。



瑠奈の顔を見つめると


「お、お返し、だよ…」


ゆでダコみたいに赤い顔をして


あご先を空に向けてつぶやく。



「あー……やべぇ」


「え?何?チロルじゃダメだった!?」


今度は焦った様子で


瑠奈は俺の腕にすがる。


笑ったり、困ったり


感じたり、すねたり


すがったり、ほんと忙しいヤツ。



でも、そんな瑠奈が俺は…。



瑠奈をぎゅっと抱き締める。



「やばいくらい可愛い…」


「なかなか素直になれないけど…ちゃんと好きだよ」


「俺も、瑠奈が好き」



ひとつ

キスをくれてやろうとして


手のひらに握られた、


瑠奈からのチロルを見つめる。


バレンタインデーのあの日は

チョコ、二人で味わったっけ。



「…瑠奈」


「んー?」


「……甘いの、する?」



どうしよう


あの日のキスを思い出す


俺の顔も上気してく気がした。



「…する」



“甘いの”で伝わるところを見ると


瑠奈も少し期待していたのかな


そんなことを


勝手に思ってほくそ笑んだ。



俺はチロルの包みを剥くと



一口で口の中へ放り込み



瑠奈の唇を食む。


チョコレートの甘さが


口いっぱいに広がった。


「…うまい、ね」


「ん、おいし」



瑠奈の口の端からもれる


吐息すら一緒に


食べてしまいたい。



俺と瑠奈の熱は


あっという間に


チョコレートを


溶かしてしまった。



「溶け、ちゃったね」


「おう」


瑠奈は残念そうに眉を下げた。


普段はキスばっかり!って


怒るくせに。


甘いキスが好きなんて瑠奈は


やっぱり


スィーツ好きな女子だ。



「あ、そうだ」


「え、何?」


俺のお返し


やるなら今しかない。



「瑠奈、あのさ」


「うん」


「俺からもお返しがある」


「え、ほんと!?」


「俺の胸ポケの中探ってみ」


「チロルチョコ…だったりして」



瑠奈はくすくすと笑いながら


俺の胸ポケットの中に手を入れた。


「あれ?チロルじゃ、ない…?」


すっと、ポケットから


抜いた手を開いて


瑠奈は目を大きく見開く。



「ゆ、びわ」


「そ、ピンキーリングって言うんだって」


ピンクゴールドの


小さな指輪


それが俺からのお返し。


「チロルでいいかとも思ったけど、同じものやるのも芸がないじゃん」



俺が瑠奈に笑いかけると


潤んだ彼女の目から


あっという間に


涙がこぼれ出した。



瑠奈の涙は苦手。


どうしていいか


わからなくなるだろ。



「は!?え、泣くなよ、なんで泣くー?」


「だってぇぇ、大弥が、大弥がっ、ゆび、指輪を私に…っ!!」


泣くほど


喜んでくれていた。



心ん中


暖かい春みたいだ。



俺は涙で不細工になった、


瑠奈の顔を


制服の袖で


ゴシゴシ拭って言う。


「露店で買った、安物でこんなに泣くなよ。安い女だと思われるぞ」

「大弥は、思わないでしょ?」


「どうかな」


「ひど…っ。てゆか袖、汚くなるよ」


「瑠奈の涙が汚いわけないだろ」



俺は瑠奈に笑いかけ


ピンキーリングを取り返すと


彼女の小指にはめてやる。


小指に着けられた指輪を


窓の方にかざして


微笑む瑠奈に


心臓が跳ねた。



「ありがとう」


えへへと笑いながら


俺を見つめる瑠奈が


心底可愛くて



「ますます女っぷりあがったな」


俺はおどけた言葉に


本音を織り交ぜた。



「でもぉ、ちょっと残念かも」


瑠奈は笑う。


「何が?なんか俺、まずった?」


「んー、あのね」


笑いを弾けさせた瑠奈は


俺の耳元でそっと、ささやく。




「……チョコちゅー、もう1回したかった」


こんな事、瑠奈が言うなんて。


俺は瑠奈の腰に手を回し


天井見上げて、つぶやいた。



「あーー、じゃあさぁ」


「ん?」


俺は傍らにある、


勉強机の引き出しを開く。



そこには


沢山のチロルチョコ。




「なにこの量!!」


「補給用の糖分の備蓄」


「なんで!?」


「知らなかったっけ?俺、チロルチョコ大好き」


「こんなに食べたら肌荒れそー…」


瑠奈が笑って、そんなこと言うから。



「だから今から二人で分けるんだよ」



俺の不機嫌に火がつくんだよ。



「……ちゅー、するの?」


「こんだけある、何回でも出来るよ」


「お家…帰るまで終わる?」


「終わんなかったら泊まればいい」



そんなこと言いながら


二人でチロルチョコの


包みを開いて


カコン


口の中に放り込む。



そして


吸い寄せられるように


瑠奈と俺の笑んだ唇は


……繋がった。





もしかしたら


初めての夜。




チョコレートみたいに


甘い夜になりそうだ。





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