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8月
夏想い
しおりを挟む画面の中で浮かび上がる数字はとても一ヶ月の生活費として足りるものではなかった。座椅子とセットで使っている簡易テーブルの上にのせたパソコンは無情にもただありのままの姿を教えてくれる。借金に追われ、私は寝ずに仕事をする必要があった。8月のうだるような暑さに、ショートしてしまいそうな頭を掻きながら作業をしていた。
突然、寝室の襖が開き、その奥から枕を抱えた娘が現れた。
「ママ、寝れない」
私は無機質な書類が開かれた画面と、くしゃくしゃの癖っ毛があちこちに飛び跳ねた五歳の少女とを見比べ、そして画面を閉じた。
「わかった。絵本読んであげる」
「うん・・・ごめんね」
すまなそうな顔をさせることに胸が少し痛んだ。
寝室へ移り、絵本を読み上げる。
サウナにでもいるかのような室温は、確かに眠れないな、と思う。気温が異常に上がり始めたのは今から五年も前か。国が冷房機を推奨しているのは知っているが、我が家にはそんな余裕はない。今日も観測史上最高気温を記録したとテレビが言っていた。四十度が当たり前になったのはもう十年も前か。それから気温は上がり続けている。
暑いと声にもだるさのような違和感がにじむ。本来声に出すべきエネルギーが汗に使われているのかもしれない。絵本を読み進める手が以前より少なくなったのは気のせいではないだろう。
それでも普段ない触れ合いに満足したのか、娘は布団の上で眠りに落ちていた。毛布をかぶりなさい、という気にもならない暑さ。しばらくするとまた娘はトイレと暑さで目を覚ますのだろう。
せめて、それまでくらいは眠ろうと思った。いつもなら布団で横になればあらがえない眠気がやってくるのだが今日は違った。暑さで血液も休憩が必要なのかもしれない。それくらい体の機能は低下しているように感じた。それでも老体が徐々に息を引き取るように、静かに呼吸は小さくなっていき、気がつくと私は眠っていた。
夢の中でかすかに仕事をする感覚があったが、それは願望以外の何物でもないだろう。目が覚めたとき、外はすでに日が高く昇っていた。
「結局、寝てしまったか・・・」
夏のだるさのせいかもしれない。たとえ体力が回復しなくても、体はほんの少しでも休息を求め、眠りへと落ちた。体温が下がりきらないこの季節では望むべくもないが、全快とはいわずとも、わずかに元気になったように感じる。
どうやらセットしたタイマーは機能しなかったらしい。仕事は山積み、作業は全然進んでいない。気が重くなりそうだったが、頭の重さだけはとれている。
「さて、やるか」
今日もそうして一日が始まる。
布団の向こうで娘が笑っているのが見えた。
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