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鬼4
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城壁の外には兵士や騎士、冒険者が魔物の軍勢を待ち構えていた。1000の魔物を迎え撃つには全くと言って良いほどの数だが、彼ら、或いは彼女達はシルドの街を護るために出来るだけの事はしたいとここに集っていた。中には、震えている者もいたが、経験豊富なものは近づいて「大丈夫だよ。」と笑顔で声を掛けている。自分も怖いが、仲間の恐怖に歪んだ表情を見るとそう言った者は勇気付ける行動を取る。その様子を見て、レーナはある意味で安心していた。
(きっとこの街は大丈夫。私が死んでもまだ彼らが生き残っていれば街は再興出来る。)
魔物の軍勢が来れば確実に死ぬ。そこに希望など無い。先行した兵士の連絡によると上位の魔物も多数確認されたという。15人の騎士を送って帰ってきた者は4名。内一人は片腕を失っていた。兵士では無く騎士なのだ。それなりに修羅場は潜っているのにも関わらずこの有様。
(母さんはどうしてるだろうか。今も宿屋で働いているだろうか。まさかそんなことないのに、母さんの料理してる姿しか浮かばないや。酒を飲みながらシチューを作って、自慢気に私の旦那は最高だって言ってる。)
レーナは頭がおかしくなっていた。父親は死んでいる。10年経って今年で18になったこの女性は苦しくなるほどの努力を重ねてようやく去年、国王より聖騎士を賜った。全ては復讐の為に。そう思っていたはずなのに、今願っていることは、誰しもが思う凡庸な願い。育った家と母親の無事だった。
(父さん言ってたな。辛くなったら逃げろって。)
そんな言葉が繰り返し頭を駆け巡る。何度も、何度も。
そんな姿を見ていた武骨な騎士がレーナに近寄り、声を掛ける。
「隊長。何かあれば私が助けます。盾としては最適でしょう!っふははは!」
レーナは眼を見開き、両頬をパチンと叩く。
「すまん。ガーグ殿。隊長がこれではいけませんね。」
「いけないことなどありますまい!いつものキリッとした隊長も良いですが、儚げな赤い花のような隊長を見れて、正直、眼福です。」
レーナは満面の笑みをするとガーグに対して、
「・・・これ終わったら外壁3周な。」
と言った。
「そんな殺生な!?」
周りの兵士がゲラゲラ笑うと、お前らもなと言って、兵士はギャーと悲鳴を上げた。そんなやりとりをしていると途端に死ぬこと自体ないのでは無いかと錯覚する。
「良いものだな、仲間とは。」
そう呟いたときだった。遠くから誰かが歩いてくる。
「!!」
全員戦闘態勢に入る。ごくりとツバを飲み込み、真剣な眼差しをそれに向ける。だが、歩いてきたのは、一人の兵士だった。
「なんかおかしくないか?」
一人の騎士がある違和感に気付いた。鎧も身体も傷一つ無い。ただ、顔は青ざめていて気力を使い果たしたようにヨロヨロとこちらに向かって歩いてくる。
ガーグとレーナは顔を見合わせて、彼に駆け寄った。途端に彼は倒れそうになる。二人はそれを支えると彼に訪ねた。
「大丈夫か!?何があった!」
騎士はレーナの顔を見て、消え入りそうな声で呟いた。
「あんな・・・あんなことがあるのか?」
「?」
ガーグとレーナは顔を再び見合わせる。兵士は気にせずに続けた。
「魔法もスキルも使っていなかった・・・」
「どいうことだ?」
「一人の・・・オーガが・・・魔物の軍勢を一匹残らず・・・魔族二人も死にました。」
「オーガ?金髪の髪をしたオーガか?」
「はい。」
レーナは訳が分からなかった。1000の大軍だ。いかに強いと言っても勝てるわけが無い。しかもスキルや魔法も無しに勝ったなどと信じられる訳がなかった。しかし、ガーグはなるほどと言っている。
「どういうことだ。」
「実は先日、金髪のオーガがこの街に来ていたのです。しかも彼は里の長から剣聖の称号をもらっていました。」
「間違いないのか?」
「はい。」
「だが、国王の協力要請が無いと動かないのではないか?」
「そのはずです。」
ますます不思議だ。ピリ着いた空気はまだ終わっていないような感覚にさせる。だが、全部討伐したとなれば、どうなるのか。
「ガーグ殿、終わりということか?」
「フム、一先ずは皆にこのことを知らせましょう。おい、手を貸せ!戦いは終わりだ!」
周りに居る兵士や冒険者は理解が出来ずにざわついていた。しかし、喜びや安堵の声も聞かれる。レーナは深くため息をついた。
「私の覚悟を返してほしいものだ。」
「まったくですな。しかし・・・生きています。」
その通り、生きている。不思議な感覚はあるが地に足をつけて立っている。
「ガーグ!明日は私の家で久しぶりに呑もう。」
「今日はどこもかしこもお祭り騒ぎだと思いますが、今日ではないので?」
「確かめねばなるまい?」
神妙な顔でガーグに言い、馬を出せと命令すると騎士数十人を率いて数時間前まで戦場だった場所に馬を走らせる。
(こんなことになるとは・・・オーガ、強者と聞いたがどんな奴なんだ。)
春風が強く吹く日の出来事だった。
(きっとこの街は大丈夫。私が死んでもまだ彼らが生き残っていれば街は再興出来る。)
魔物の軍勢が来れば確実に死ぬ。そこに希望など無い。先行した兵士の連絡によると上位の魔物も多数確認されたという。15人の騎士を送って帰ってきた者は4名。内一人は片腕を失っていた。兵士では無く騎士なのだ。それなりに修羅場は潜っているのにも関わらずこの有様。
(母さんはどうしてるだろうか。今も宿屋で働いているだろうか。まさかそんなことないのに、母さんの料理してる姿しか浮かばないや。酒を飲みながらシチューを作って、自慢気に私の旦那は最高だって言ってる。)
レーナは頭がおかしくなっていた。父親は死んでいる。10年経って今年で18になったこの女性は苦しくなるほどの努力を重ねてようやく去年、国王より聖騎士を賜った。全ては復讐の為に。そう思っていたはずなのに、今願っていることは、誰しもが思う凡庸な願い。育った家と母親の無事だった。
(父さん言ってたな。辛くなったら逃げろって。)
そんな言葉が繰り返し頭を駆け巡る。何度も、何度も。
そんな姿を見ていた武骨な騎士がレーナに近寄り、声を掛ける。
「隊長。何かあれば私が助けます。盾としては最適でしょう!っふははは!」
レーナは眼を見開き、両頬をパチンと叩く。
「すまん。ガーグ殿。隊長がこれではいけませんね。」
「いけないことなどありますまい!いつものキリッとした隊長も良いですが、儚げな赤い花のような隊長を見れて、正直、眼福です。」
レーナは満面の笑みをするとガーグに対して、
「・・・これ終わったら外壁3周な。」
と言った。
「そんな殺生な!?」
周りの兵士がゲラゲラ笑うと、お前らもなと言って、兵士はギャーと悲鳴を上げた。そんなやりとりをしていると途端に死ぬこと自体ないのでは無いかと錯覚する。
「良いものだな、仲間とは。」
そう呟いたときだった。遠くから誰かが歩いてくる。
「!!」
全員戦闘態勢に入る。ごくりとツバを飲み込み、真剣な眼差しをそれに向ける。だが、歩いてきたのは、一人の兵士だった。
「なんかおかしくないか?」
一人の騎士がある違和感に気付いた。鎧も身体も傷一つ無い。ただ、顔は青ざめていて気力を使い果たしたようにヨロヨロとこちらに向かって歩いてくる。
ガーグとレーナは顔を見合わせて、彼に駆け寄った。途端に彼は倒れそうになる。二人はそれを支えると彼に訪ねた。
「大丈夫か!?何があった!」
騎士はレーナの顔を見て、消え入りそうな声で呟いた。
「あんな・・・あんなことがあるのか?」
「?」
ガーグとレーナは顔を再び見合わせる。兵士は気にせずに続けた。
「魔法もスキルも使っていなかった・・・」
「どいうことだ?」
「一人の・・・オーガが・・・魔物の軍勢を一匹残らず・・・魔族二人も死にました。」
「オーガ?金髪の髪をしたオーガか?」
「はい。」
レーナは訳が分からなかった。1000の大軍だ。いかに強いと言っても勝てるわけが無い。しかもスキルや魔法も無しに勝ったなどと信じられる訳がなかった。しかし、ガーグはなるほどと言っている。
「どういうことだ。」
「実は先日、金髪のオーガがこの街に来ていたのです。しかも彼は里の長から剣聖の称号をもらっていました。」
「間違いないのか?」
「はい。」
「だが、国王の協力要請が無いと動かないのではないか?」
「そのはずです。」
ますます不思議だ。ピリ着いた空気はまだ終わっていないような感覚にさせる。だが、全部討伐したとなれば、どうなるのか。
「ガーグ殿、終わりということか?」
「フム、一先ずは皆にこのことを知らせましょう。おい、手を貸せ!戦いは終わりだ!」
周りに居る兵士や冒険者は理解が出来ずにざわついていた。しかし、喜びや安堵の声も聞かれる。レーナは深くため息をついた。
「私の覚悟を返してほしいものだ。」
「まったくですな。しかし・・・生きています。」
その通り、生きている。不思議な感覚はあるが地に足をつけて立っている。
「ガーグ!明日は私の家で久しぶりに呑もう。」
「今日はどこもかしこもお祭り騒ぎだと思いますが、今日ではないので?」
「確かめねばなるまい?」
神妙な顔でガーグに言い、馬を出せと命令すると騎士数十人を率いて数時間前まで戦場だった場所に馬を走らせる。
(こんなことになるとは・・・オーガ、強者と聞いたがどんな奴なんだ。)
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