失格勇者の剣聖無双

来栖川

文字の大きさ
9 / 79

鬼4

しおりを挟む
城壁の外には兵士や騎士、冒険者が魔物の軍勢を待ち構えていた。1000の魔物を迎え撃つには全くと言って良いほどの数だが、彼ら、或いは彼女達はシルドの街を護るために出来るだけの事はしたいとここに集っていた。中には、震えている者もいたが、経験豊富なものは近づいて「大丈夫だよ。」と笑顔で声を掛けている。自分も怖いが、仲間の恐怖に歪んだ表情を見るとそう言った者は勇気付ける行動を取る。その様子を見て、レーナはある意味で安心していた。
(きっとこの街は大丈夫。私が死んでもまだ彼らが生き残っていれば街は再興出来る。)
魔物の軍勢が来れば確実に死ぬ。そこに希望など無い。先行した兵士の連絡によると上位の魔物も多数確認されたという。15人の騎士を送って帰ってきた者は4名。内一人は片腕を失っていた。兵士では無く騎士なのだ。それなりに修羅場は潜っているのにも関わらずこの有様。
(母さんはどうしてるだろうか。今も宿屋で働いているだろうか。まさかそんなことないのに、母さんの料理してる姿しか浮かばないや。酒を飲みながらシチューを作って、自慢気に私の旦那は最高だって言ってる。)
レーナは頭がおかしくなっていた。父親は死んでいる。10年経って今年で18になったこの女性は苦しくなるほどの努力を重ねてようやく去年、国王より聖騎士を賜った。全ては復讐の為に。そう思っていたはずなのに、今願っていることは、誰しもが思う凡庸な願い。育った家と母親の無事だった。
(父さん言ってたな。辛くなったら逃げろって。)
そんな言葉が繰り返し頭を駆け巡る。何度も、何度も。
そんな姿を見ていた武骨な騎士がレーナに近寄り、声を掛ける。
「隊長。何かあれば私が助けます。盾としては最適でしょう!っふははは!」
レーナは眼を見開き、両頬をパチンと叩く。
「すまん。ガーグ殿。隊長がこれではいけませんね。」
「いけないことなどありますまい!いつものキリッとした隊長も良いですが、儚げな赤い花のような隊長を見れて、正直、眼福です。」
レーナは満面の笑みをするとガーグに対して、
「・・・これ終わったら外壁3周な。」
と言った。
「そんな殺生な!?」
周りの兵士がゲラゲラ笑うと、お前らもなと言って、兵士はギャーと悲鳴を上げた。そんなやりとりをしていると途端に死ぬこと自体ないのでは無いかと錯覚する。
「良いものだな、仲間とは。」
そう呟いたときだった。遠くから誰かが歩いてくる。
「!!」
全員戦闘態勢に入る。ごくりとツバを飲み込み、真剣な眼差しをそれに向ける。だが、歩いてきたのは、一人の兵士だった。
「なんかおかしくないか?」
一人の騎士がある違和感に気付いた。鎧も身体も傷一つ無い。ただ、顔は青ざめていて気力を使い果たしたようにヨロヨロとこちらに向かって歩いてくる。
ガーグとレーナは顔を見合わせて、彼に駆け寄った。途端に彼は倒れそうになる。二人はそれを支えると彼に訪ねた。
「大丈夫か!?何があった!」
騎士はレーナの顔を見て、消え入りそうな声で呟いた。
「あんな・・・あんなことがあるのか?」
「?」
ガーグとレーナは顔を再び見合わせる。兵士は気にせずに続けた。
「魔法もスキルも使っていなかった・・・」
「どいうことだ?」
「一人の・・・オーガが・・・魔物の軍勢を一匹残らず・・・魔族二人も死にました。」
「オーガ?金髪の髪をしたオーガか?」
「はい。」
レーナは訳が分からなかった。1000の大軍だ。いかに強いと言っても勝てるわけが無い。しかもスキルや魔法も無しに勝ったなどと信じられる訳がなかった。しかし、ガーグはなるほどと言っている。
「どういうことだ。」
「実は先日、金髪のオーガがこの街に来ていたのです。しかも彼は里の長から剣聖の称号をもらっていました。」
「間違いないのか?」
「はい。」
「だが、国王の協力要請が無いと動かないのではないか?」
「そのはずです。」
ますます不思議だ。ピリ着いた空気はまだ終わっていないような感覚にさせる。だが、全部討伐したとなれば、どうなるのか。
「ガーグ殿、終わりということか?」
「フム、一先ずは皆にこのことを知らせましょう。おい、手を貸せ!戦いは終わりだ!」
周りに居る兵士や冒険者は理解が出来ずにざわついていた。しかし、喜びや安堵の声も聞かれる。レーナは深くため息をついた。
「私の覚悟を返してほしいものだ。」
「まったくですな。しかし・・・生きています。」
その通り、生きている。不思議な感覚はあるが地に足をつけて立っている。
「ガーグ!明日は私の家で久しぶりに呑もう。」
「今日はどこもかしこもお祭り騒ぎだと思いますが、今日ではないので?」
「確かめねばなるまい?」
神妙な顔でガーグに言い、馬を出せと命令すると騎士数十人を率いて数時間前まで戦場だった場所に馬を走らせる。
(こんなことになるとは・・・オーガ、強者と聞いたがどんな奴なんだ。)
春風が強く吹く日の出来事だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...