失格勇者の剣聖無双

来栖川

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盾といふもの5

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これはどうしたものだろうか。状況を説明するとガルナはあの後、自分の部屋に引きこもった。客には頭を下げて帰ってもらい、ヘンリーや盾の勇者のパーティーには、荒立てて申し訳ないということで、フェルトにお願いして、お土産を作ってもらい、すまかったと言って同じく帰ってもらった。ダガルは帰り際、「やはり私はこの場にいるべきではなかったのかもしれませんね。」と言っていたが、「そんなことはない。拙者も言うべきではないことを言ってしまっている。共に成長すればいいのだ。」と言った。 

 問題はそのあとである。セレンはガルナを心配し、部屋に入ったのだが、ガルナはその手をガシッと掴み、ベッドに腰かけると、ぬいぐるみの様にセレンを抱いている。ガルナのぶすっとした表情とセレンの困った笑顔は見ていて飽きないが、如何せん時折グッと力を入れて顔を擦り付けているため、セレンが時折苦しそうにしている。 

「が、ガルナ殿。拙者たちが悪いのであって、その愛玩動物を話していただけないでござるか?」 

「いーや!」 

「セレンが苦しそうにしているのである。」 

「ぶあーか!」 

そのやり取りをかれこれ30分以上は続けている。 

「モグラー?お母さんまだやってるの?」 

「ああ、どうしたものか・・・。」 

すると、フェルトが厨房の片づけを終えて出てくる。手には何か持っている。 

「ワインか。それも厨房の奥に大切に保管しているものではないか?」 

「ええ!せっかくお客さんが早く帰ってくれてるので、久しぶりに。明日の景気付けもかねて!」 

「そうか。ん?そのワイン・・・。」 

ガルナがビクッとする。ワインの銘柄を見て一つ気が付いたことがある。そのワインは金貨5枚の高級品だ。だが、半分減っている。 

「今日気が付いたんですけどね。ガルナさん・・・飲みましたね?」 

そういえば、夜中に物音が聞こえたが、ガルナの足音だったので大して気にしていなかったが、夜中にこっそり飲んでいたのか。この高級ワインはたまに来る上客に振る舞う特別なものだったはずだ。モグラ、リーン、フェルトはジトッとした目でガルナを見ると、 

「の、飲んだ・・・だって、私のじゃん。」 

「は?」 

フェルトの普段の笑顔が怖くなる。モグラはそれを見てフェルト先輩マジパネェっす。と思わず口にする。 

「だ、だってこの店のもんは全部私んだ!俺のものは俺のもの!お前のものは私のもんだ!そうだろう!」 

「ガルナさーん・・・。」 

そう言うとフェルトはガルナに近づき、目線を合わせる。 

「はぁ・・・。いいんですよ、飲んだことについては怒ってません。でも、一言言っていただければ、ツマミだって用意しました。なんで、言わなかったんですか?」 

「お、怒られると思って・・・。」 

「誰に?」 

「フェルトに・・・。」 

そう言うと、フェルトは目を瞑ってこう言った。 

「誰だってそうですよ。僕もここに来るまでは帽子で耳を隠して生活していました。いつ攫われるかわからない。そんな恐怖に怯えながら・・・。」 

モグラはそうか。と思った。ここに来る冒険者や普通の客、宿泊者は皆訳アリだ。モグラ自身もそうだが、亜人・・・ドワーフ、エルフ、獣人・・・そう言った者達は自分の特徴的な部分を隠すか、もしくは切り落としている。自分やあの魔族もそう。皆、何かを隠して生きている。 

「あの魔族の方も本当につらい思いをされていたのだと思いますよ。でも、僕たちは死にたくありません。」 

「それはわかってる。わかってるんだよ!でもな!私やセレン、ルドルフだってそうだ。皆、皆、死んだと思って。複雑なんだよ。知らせの一報でもあってもよかったじゃないか。失ったものはもう帰ってこないんだ!」 

「このワインも同じですよ。」 

フェルトは大切そうにワインの瓶をさする。 

「このワインは上客にだすものですが、それ以上にこの店で出せる最高級品です。だからこそ客を選びます。料理だって身を削ってでもいいものを出します。人の命ではありません。他人から見たらたかがワイン如きと言います。ですが、料理人としてはこのワインは命以上に大切なものなんですよ。」 

フェルトは一呼吸すると続けて話す。 

「皆秘密や誇りを持って生きています。その誇りを傷つけられたらそれは・・・」 

死にたくなるほどとっても悲しい事なんですよ。 

そう言った。 

ガルナはセレンの髪に顔を埋めて「ごめん。」と一言言うと、グッと力を籠める。セレンの顔がヴっという声と共に青くなる。 

「ガルナ殿!セレンが!セレンがーーーー!!」 

「え?あ、ごめーーーーん!!」 

夜の街に二人の声がこだました。 

その後、目を回したセレンを背負い神殿に向かう。皆何かを守って生きているのだ。それが何かはわからない。だが、これだけは言える。盾と言うものはきっと人にとって必要なものだと思いながら、彼女のぬくもりを感じた。
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