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白楼の主
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~ソードの街、神殿の教室にて~
「はーい。今日の授業を始めますよ。」
「あーあだりーな。俺勉強とか苦手なんだよな。」
「そんなことを言わないで下さいよ。僕、これが終わったら、家庭教師の授業を寝るまで受けるんですから。平民であるあなたは帰ったら夕食でしょ。」
「っ平民て馬鹿にすんなよ、お貴族様。その通りだよ親友よ。俺は帰ったら風呂入って夕飯食って寝る。」
「はぁ、あなたに初めて会ったときは何とも平民とは下賤なものと思っていましたが、いろいろ話をしている内に平民の知恵とは凄いものだなと思っていました。それに剣の腕も見たことのない技やいざと言うとき飛び込む勇気を持っているのを目の当たりにしたときは驚きもしたものです。ですが、その『だりー』と言ったり、勉学を馬鹿にするのを聞いていて腹が立ちます。」
「へーへー。俺がわるーござんした。」
「まったく・・・平民、貴族関係なく、苦労と言うのは皆しょってるんですから、質が違うだけですよ。」
「まあ、今の時世を考えると平民も貴族も関係ないからな。お前と友達になってわかったよ。・・・親父さん、大丈夫か?」
「ええ、今は病院で治療を受けていますから・・・意識は戻りませんが、命に別状はないとのことです。」
「終わったら見舞いに行くからよ。時間作っとけ。」
「そこの二人、私の必殺チョーク手裏剣をくらいたいのかしら。」
「すいませんです。」
「じゃあ、始めるわよ。今日の内容は前回話した続きからです。覚えていますよね、シュミー君。」
「は、はい。世界創世の話しですよね。」
「そうね。この世界がどうやって形成され、今の世界となったのか。それが記されたバータの碑文・・・現在はエルフ領となっている場所から発見された古代の石板に記されたこの世界の始まりからね。では、読み上げるわね。」
バータの碑文ここに残す。願わくば世界が平和とならんことを願ってここに。
第三十三章
世界は混沌に飲み込まれた
かつて何十もある国が今や5の国だけが残った
人々は争い、血の雨を互いに降らせていたがその影ももうもはやない
魔王と言う絶対的な存在が現れてから数年、発達した文明は斜陽の時を迎えていた
かつては空を翔けた鉄の箱も今となっては鉄くずと化した
他のものと交信することも出来ず今どうなっているのかもわからない
争いをやめた兵士たちは魔王に挑んだが、死体の山が築かれている
太陽の兵器さえ彼らにとっては羽虫と同じ
我らは失った
だからこそ必要なのだ
わかってくれアリーシャよ
わが愛しのアリーシャよわかっておくれ
その肉体は変質し激痛と苦しみが君を襲うが君が最後の我らの希望
叫び声と憎しみに震える君を見て激しい後悔にさいなまれているが
私はそれを全て受け入れよう
殺されたってかまわない
身体をバラバラにされそれで生きたとしても私は叫び声さえ君に聞かせない
君は始祖となり、人類の希望となる
かれらもそうだ
神は降臨し、幾多の武器を与えたもうた
ならばそれに耐えうるものが現れるまで我らは待つのみ
そう待つのみだ
「三十三章はこれで終わりです。他の碑文も発見されて解読が進んでいますが、現在解読されたのは発見された100の石板の内、20個ほどです。」
「質問です。アリーシャとは家庭教師の先生によれば、人種族・・・ヒト種、猫族、犬族などの動物種、エルフ、ドワーフ、龍人などの亜人種を生み出した存在なんですよね。」
「はい。そう言われています。」
「でもおかしくないですか?一人のヒト種から様々な人種が生まれたというのは・・・。」
「そうですね。現在でも調査などが進められていますが、そこについてはわかっていません。今後に期待ですね。」
「はい、質問。」
「何でしょうか。」
「神が提供した武具とは神聖装備のことでしょうか?」
「そう言われています。聖剣、聖盾、聖鎧、聖槍、聖杖などの武器は神聖装備、または神聖武装とも呼ばれていて、勇者と呼ばれるジョブを有する者に女神が降臨し、武具を与える。一般的な武器とは違い魔王を倒す力を有していると言われています。」
「言われていますって確定じゃないんですか?」
「ええと、私の知る限りでは今まで魔王を倒したものはオーガのみで、それ以外の魔王は世代交代によってその役割を終えていたとのことです。ですから、今まで実際に魔王を倒した勇者はいないのですよ。」
「でも、それっておかしくないですか?」
「何がですか?」
「最初の魔王って世界を滅ぼしたんですよね。でも、その魔王は死んでいる?どういうこと何ですか?」
「それも良くわかっていません。魔王を邪神と呼ぶ種族が龍人なのですが、彼らは何かを知っているという説もあるそうです。ただ、彼らはそのことに関して口を閉じてしまうそうで、原初の魔王とは何者かと言うことについては全くわかっていないそうなのですよ。唯一わかっているのは、魔王=邪神であり、魔族に対して力を与える存在と言うことです。」
「フーン。なあ、親友よ。お前はどう思う。」
「言ったとおりだと思いますよ。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
「どういうことですか。」
「俺はさ。こう思ってんのよ。」
案外、最初の魔王は生きてるんじゃないかってな。
--------------------------------------
「そうか。ではまた来るとしよう。」
仁はそう言うと、屋敷を後にする。ここは白虎の里、白楼館である。秋の豊穣祭のことで打ち合わせに来たのだが、屋敷の主の子弟より不在を告げられ屋敷を後にした。
(里長の神楽が動くということは何か大事があったのだろう。まず間違いなく白虎様が絡んでいるな。子弟の阿蘇がいて、神楽が単体で動く。ということは滅多にない事だからな。)
両手を袖の中に入れながら考える。思えばあの変人が男を連れずに歩くということは見たことが無い。普段は「仁君遊ぼうよ。」と言って、男連中を引き連れながら青龍の里まで来るという無作法なものだが、今回は何か重要な案件かもしれなかった。
(厄介ごとか。)
立ち止まり、振り返って主不在の白楼観を見る。白く塗られた瓦屋根に傍に立っている五重塔が鎮座する。屋敷は広く、庭なども質素とは言い難い作りだが、それが本人の性格を表している。堅牢かつ雅。意思は固くとも遊びは忘れず。
(問題なかろう。)
スッと視線を宿屋に向ける。今日はここで泊まろうか。そう思った時、ふと土竜はどうしているだろうかとそう思った。
(厄介ごとに巻き込まれていなければいいがな。)
秋の豊穣祭で執り行われる剣聖会議だが、もうそろそろ文を送って日程などを知らせなければならない頃だ。世界は広い。夏の終盤になれば、各地にいる剣聖たちが土産をもって里に帰ってくる。多くの土産は家族や親戚に配るものだが、忘れてはならないものは天地と青龍に献上する供物である。それを用意するのに剣聖たちは奔走する。
(秋の収穫祭には間に合わなくとも、豊穣祭までは必ず戻れよ。それとも・・・そうだな。それもいいのかも知れんな。)
奴は私の・・・
そう思い、空を見る。雲に掛った夕焼けが、宝石のように輝く。今は梅雨。もうそろそろ豪雨となるだろう
モグラは少し眠そうにしていた。馬車の心地よいとは言えない揺れではあるが、秘技を使用したことで思ったよりも消耗している。セレンはその表情を見ながら、先ほどの絶技を見て思ったことに対して、少し反省していた。モグラはモグラだ。それは揺るがない事実であれど、人間技とは思えない。が、消耗具合を見ると連続で出すことは出来ないのだろう。
「モグ君、大丈夫?」
「セレンすまん少し疲れた。」
「寝ててだ丈夫だよ。あとは任せて。」
「わかった。」
そう言うとモグラはセレンに肩を借りて寝始めた。
「寝た?」
ファルシオンはそう聞くとモグラを見る。あれは何だと先ほど考えている。
(マナの放出はなし。精霊?でも、顕現した様子はなかった。呟いていた言葉は詠唱のように感じられたけど違うわね。)
通常、魔法を使用するにはマナを身体に取り込み、放出すると言った原理があるのだが、何と言うことは無い。マナは酸素と一緒に肺に取り込まれ、血中を回り、体内を循環している。つまり、呼吸と言う行為自体があれば、魔力として返還される。だからこそ、一般人でも魔術書や魔導書があれば、火を起こせるし、畑の水をまくことも出来る。
問題なのはマナが放出していないという事実。結局、結論としては身体技能と言うと事なのだが、どう考えても人間技ではない。
「そういやよ。気にはなってたんだが・・・。」
「ん、どうしたのよ。」
「さっきから妙な気配がするんだよな。背筋をこう・・・なんていうかっスとするような。フェルトはどうだ?アーヴァインは何か感じるか?」
「いえ、何も?」
「私もです。前方や左右には何もありませんし、御者のスキル、馬の呼吸にも何も反応ありません。」
「んーなんて言うか、殺気じゃねえんだけどこっちを見てるような違和感つーか・・・。」
その時だ。アーヴァインは馬をゆっくりと止める。
「っ!」
一行はどうしたものかとあたりを見回すとでかい月が前方にある。いや、確かにあのスライム達を倒してからやけに暗いとは思っていたが、夜になっている。
「どうして気が付かなかったのでしょうか?確かに私は月明りを頼りに進んでいた。でも、自然の摂理としてそれを受け入れていた。こんなことが出来る魔物など・・・いえ、魔族でさえいない。」
皆それを思っていた。今は夜だということを受け入れてさえいた。だが、この登山道に入ったのは9の鐘の頃、いくら何でも早すぎだ。
「まさか、フェンリル!!」
フェンリルの能力の一つに時を操るというものがある。というと対象の時を止めるということが思い浮かばれるが、違う。文字通り時間を操り、朝を夜に朝食を昼食にと言ったことである。
「ああ、それ違うから。ププー人間は物事の事象を目で感じるとすぐにそれを結果として信じる。ダーカーラ駄目なんだよっと。」
どこからか楽し気な、だが、鈴の音のような澄んだ女性の声が聞こえる。一行は寝ているモグラを置いて馬車から降りる。前方に月を背にした形で誰かがこちらに歩いてくる。
「時は2000X年地球は核の炎に包まれた!」
大声を出すと一同はビクッとした。
「え!何!」
「あーやっぱり転生者っていないのかー。てかネタ古かったかな~。」
「和服・・・と言うことは・・・」
彼女には立派な角が一本、額から伸びていた。オーガだ。上は白で下は赤い和装。額には角を通す形で金の装飾がされている。・・・なんというか派手だ。
「オーガ・・・あなたは一体。転生者って・・・。」
「ああ、それこっちの話しだから。それよりモグラ君寝てるのかな。神楽お姉ちゃんが来てあげたってのに、彼はいつも寝てるね。まあ、いっつも仁君に殺されてたんだけどね、ニャハ!」
底抜けに明るい笑顔を振りまいているが、どういうことなのだろう。オーガが目の前に居て、夜で月で、モグラの知り合いで。核の炎・・・ってなんじゃそりゃ。一行は遠い目をしていた。本当に疲れたとそう思った。
「はーい。今日の授業を始めますよ。」
「あーあだりーな。俺勉強とか苦手なんだよな。」
「そんなことを言わないで下さいよ。僕、これが終わったら、家庭教師の授業を寝るまで受けるんですから。平民であるあなたは帰ったら夕食でしょ。」
「っ平民て馬鹿にすんなよ、お貴族様。その通りだよ親友よ。俺は帰ったら風呂入って夕飯食って寝る。」
「はぁ、あなたに初めて会ったときは何とも平民とは下賤なものと思っていましたが、いろいろ話をしている内に平民の知恵とは凄いものだなと思っていました。それに剣の腕も見たことのない技やいざと言うとき飛び込む勇気を持っているのを目の当たりにしたときは驚きもしたものです。ですが、その『だりー』と言ったり、勉学を馬鹿にするのを聞いていて腹が立ちます。」
「へーへー。俺がわるーござんした。」
「まったく・・・平民、貴族関係なく、苦労と言うのは皆しょってるんですから、質が違うだけですよ。」
「まあ、今の時世を考えると平民も貴族も関係ないからな。お前と友達になってわかったよ。・・・親父さん、大丈夫か?」
「ええ、今は病院で治療を受けていますから・・・意識は戻りませんが、命に別状はないとのことです。」
「終わったら見舞いに行くからよ。時間作っとけ。」
「そこの二人、私の必殺チョーク手裏剣をくらいたいのかしら。」
「すいませんです。」
「じゃあ、始めるわよ。今日の内容は前回話した続きからです。覚えていますよね、シュミー君。」
「は、はい。世界創世の話しですよね。」
「そうね。この世界がどうやって形成され、今の世界となったのか。それが記されたバータの碑文・・・現在はエルフ領となっている場所から発見された古代の石板に記されたこの世界の始まりからね。では、読み上げるわね。」
バータの碑文ここに残す。願わくば世界が平和とならんことを願ってここに。
第三十三章
世界は混沌に飲み込まれた
かつて何十もある国が今や5の国だけが残った
人々は争い、血の雨を互いに降らせていたがその影ももうもはやない
魔王と言う絶対的な存在が現れてから数年、発達した文明は斜陽の時を迎えていた
かつては空を翔けた鉄の箱も今となっては鉄くずと化した
他のものと交信することも出来ず今どうなっているのかもわからない
争いをやめた兵士たちは魔王に挑んだが、死体の山が築かれている
太陽の兵器さえ彼らにとっては羽虫と同じ
我らは失った
だからこそ必要なのだ
わかってくれアリーシャよ
わが愛しのアリーシャよわかっておくれ
その肉体は変質し激痛と苦しみが君を襲うが君が最後の我らの希望
叫び声と憎しみに震える君を見て激しい後悔にさいなまれているが
私はそれを全て受け入れよう
殺されたってかまわない
身体をバラバラにされそれで生きたとしても私は叫び声さえ君に聞かせない
君は始祖となり、人類の希望となる
かれらもそうだ
神は降臨し、幾多の武器を与えたもうた
ならばそれに耐えうるものが現れるまで我らは待つのみ
そう待つのみだ
「三十三章はこれで終わりです。他の碑文も発見されて解読が進んでいますが、現在解読されたのは発見された100の石板の内、20個ほどです。」
「質問です。アリーシャとは家庭教師の先生によれば、人種族・・・ヒト種、猫族、犬族などの動物種、エルフ、ドワーフ、龍人などの亜人種を生み出した存在なんですよね。」
「はい。そう言われています。」
「でもおかしくないですか?一人のヒト種から様々な人種が生まれたというのは・・・。」
「そうですね。現在でも調査などが進められていますが、そこについてはわかっていません。今後に期待ですね。」
「はい、質問。」
「何でしょうか。」
「神が提供した武具とは神聖装備のことでしょうか?」
「そう言われています。聖剣、聖盾、聖鎧、聖槍、聖杖などの武器は神聖装備、または神聖武装とも呼ばれていて、勇者と呼ばれるジョブを有する者に女神が降臨し、武具を与える。一般的な武器とは違い魔王を倒す力を有していると言われています。」
「言われていますって確定じゃないんですか?」
「ええと、私の知る限りでは今まで魔王を倒したものはオーガのみで、それ以外の魔王は世代交代によってその役割を終えていたとのことです。ですから、今まで実際に魔王を倒した勇者はいないのですよ。」
「でも、それっておかしくないですか?」
「何がですか?」
「最初の魔王って世界を滅ぼしたんですよね。でも、その魔王は死んでいる?どういうこと何ですか?」
「それも良くわかっていません。魔王を邪神と呼ぶ種族が龍人なのですが、彼らは何かを知っているという説もあるそうです。ただ、彼らはそのことに関して口を閉じてしまうそうで、原初の魔王とは何者かと言うことについては全くわかっていないそうなのですよ。唯一わかっているのは、魔王=邪神であり、魔族に対して力を与える存在と言うことです。」
「フーン。なあ、親友よ。お前はどう思う。」
「言ったとおりだと思いますよ。」
「いや、そういうことじゃなくて。」
「どういうことですか。」
「俺はさ。こう思ってんのよ。」
案外、最初の魔王は生きてるんじゃないかってな。
--------------------------------------
「そうか。ではまた来るとしよう。」
仁はそう言うと、屋敷を後にする。ここは白虎の里、白楼館である。秋の豊穣祭のことで打ち合わせに来たのだが、屋敷の主の子弟より不在を告げられ屋敷を後にした。
(里長の神楽が動くということは何か大事があったのだろう。まず間違いなく白虎様が絡んでいるな。子弟の阿蘇がいて、神楽が単体で動く。ということは滅多にない事だからな。)
両手を袖の中に入れながら考える。思えばあの変人が男を連れずに歩くということは見たことが無い。普段は「仁君遊ぼうよ。」と言って、男連中を引き連れながら青龍の里まで来るという無作法なものだが、今回は何か重要な案件かもしれなかった。
(厄介ごとか。)
立ち止まり、振り返って主不在の白楼観を見る。白く塗られた瓦屋根に傍に立っている五重塔が鎮座する。屋敷は広く、庭なども質素とは言い難い作りだが、それが本人の性格を表している。堅牢かつ雅。意思は固くとも遊びは忘れず。
(問題なかろう。)
スッと視線を宿屋に向ける。今日はここで泊まろうか。そう思った時、ふと土竜はどうしているだろうかとそう思った。
(厄介ごとに巻き込まれていなければいいがな。)
秋の豊穣祭で執り行われる剣聖会議だが、もうそろそろ文を送って日程などを知らせなければならない頃だ。世界は広い。夏の終盤になれば、各地にいる剣聖たちが土産をもって里に帰ってくる。多くの土産は家族や親戚に配るものだが、忘れてはならないものは天地と青龍に献上する供物である。それを用意するのに剣聖たちは奔走する。
(秋の収穫祭には間に合わなくとも、豊穣祭までは必ず戻れよ。それとも・・・そうだな。それもいいのかも知れんな。)
奴は私の・・・
そう思い、空を見る。雲に掛った夕焼けが、宝石のように輝く。今は梅雨。もうそろそろ豪雨となるだろう
モグラは少し眠そうにしていた。馬車の心地よいとは言えない揺れではあるが、秘技を使用したことで思ったよりも消耗している。セレンはその表情を見ながら、先ほどの絶技を見て思ったことに対して、少し反省していた。モグラはモグラだ。それは揺るがない事実であれど、人間技とは思えない。が、消耗具合を見ると連続で出すことは出来ないのだろう。
「モグ君、大丈夫?」
「セレンすまん少し疲れた。」
「寝ててだ丈夫だよ。あとは任せて。」
「わかった。」
そう言うとモグラはセレンに肩を借りて寝始めた。
「寝た?」
ファルシオンはそう聞くとモグラを見る。あれは何だと先ほど考えている。
(マナの放出はなし。精霊?でも、顕現した様子はなかった。呟いていた言葉は詠唱のように感じられたけど違うわね。)
通常、魔法を使用するにはマナを身体に取り込み、放出すると言った原理があるのだが、何と言うことは無い。マナは酸素と一緒に肺に取り込まれ、血中を回り、体内を循環している。つまり、呼吸と言う行為自体があれば、魔力として返還される。だからこそ、一般人でも魔術書や魔導書があれば、火を起こせるし、畑の水をまくことも出来る。
問題なのはマナが放出していないという事実。結局、結論としては身体技能と言うと事なのだが、どう考えても人間技ではない。
「そういやよ。気にはなってたんだが・・・。」
「ん、どうしたのよ。」
「さっきから妙な気配がするんだよな。背筋をこう・・・なんていうかっスとするような。フェルトはどうだ?アーヴァインは何か感じるか?」
「いえ、何も?」
「私もです。前方や左右には何もありませんし、御者のスキル、馬の呼吸にも何も反応ありません。」
「んーなんて言うか、殺気じゃねえんだけどこっちを見てるような違和感つーか・・・。」
その時だ。アーヴァインは馬をゆっくりと止める。
「っ!」
一行はどうしたものかとあたりを見回すとでかい月が前方にある。いや、確かにあのスライム達を倒してからやけに暗いとは思っていたが、夜になっている。
「どうして気が付かなかったのでしょうか?確かに私は月明りを頼りに進んでいた。でも、自然の摂理としてそれを受け入れていた。こんなことが出来る魔物など・・・いえ、魔族でさえいない。」
皆それを思っていた。今は夜だということを受け入れてさえいた。だが、この登山道に入ったのは9の鐘の頃、いくら何でも早すぎだ。
「まさか、フェンリル!!」
フェンリルの能力の一つに時を操るというものがある。というと対象の時を止めるということが思い浮かばれるが、違う。文字通り時間を操り、朝を夜に朝食を昼食にと言ったことである。
「ああ、それ違うから。ププー人間は物事の事象を目で感じるとすぐにそれを結果として信じる。ダーカーラ駄目なんだよっと。」
どこからか楽し気な、だが、鈴の音のような澄んだ女性の声が聞こえる。一行は寝ているモグラを置いて馬車から降りる。前方に月を背にした形で誰かがこちらに歩いてくる。
「時は2000X年地球は核の炎に包まれた!」
大声を出すと一同はビクッとした。
「え!何!」
「あーやっぱり転生者っていないのかー。てかネタ古かったかな~。」
「和服・・・と言うことは・・・」
彼女には立派な角が一本、額から伸びていた。オーガだ。上は白で下は赤い和装。額には角を通す形で金の装飾がされている。・・・なんというか派手だ。
「オーガ・・・あなたは一体。転生者って・・・。」
「ああ、それこっちの話しだから。それよりモグラ君寝てるのかな。神楽お姉ちゃんが来てあげたってのに、彼はいつも寝てるね。まあ、いっつも仁君に殺されてたんだけどね、ニャハ!」
底抜けに明るい笑顔を振りまいているが、どういうことなのだろう。オーガが目の前に居て、夜で月で、モグラの知り合いで。核の炎・・・ってなんじゃそりゃ。一行は遠い目をしていた。本当に疲れたとそう思った。
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