再開したのは、先生でした。

Rei

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再会

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そう、これはきっと夢。



『……ん……っ』

——am 1:30
暗闇の中で重なる影がふたつ。
ひとつは、私。

もうひとつは———

「……はっ……」

微かに甘美な吐息が零れるその唇。
……なんで、この瞳が私を見ているんだろう。

「……っ」

考えれば考えるだけ胸がきゅーってなる。
おかしい。
こんな気持ち、あの時捨てたはずなのに。

『——俺——……』

9年前の、あの日に。


———————
——————————……


「ちょっとおー聞いてるのー?」

そんな声にハッとして視線を上げると、ふくれっ面をした彼女がいた。

「……え?」
何度も呼ばれていたのだろうか。
思わず驚いたように口をついて出た私の言葉に彼女は更に唇を尖らせて

「んもおー全然聞いてないじゃんっ!」
そう言ってはー、とため息を落とした。

「ご、ごめん……。何?」
慌てて聞き直すと、まだ不満そうな顔をしながら口を開いた。

「だからあーこの書類だってば!もう提出した?」
「……あー……」

淡いピンク色のグロスを唇にのせて、髪の毛も丁寧に巻き、優しい柔らかな香りを纏ったいわゆる“THE女子”という表現がピッタリな彼女。
職場の同僚で、結構仲はいい方だ。

「いや、まだ出してない」
「えー、今週中だよ?大丈夫なの?」

私はそう言う彼女に苦笑いを浮かべながら口を開く。

「うん、まあ今日残ってやろうと思って」

彼女が言う書類というのは、次の会議で使う資料の事。
いつもは期日に余裕を持って提出をするのだが、今回は少し忙しい日が続いてしまっていた為、珍しく期日ギリギリの提出となってしまった。

今週中って言っても期日は明日の朝まで。
あとはまとめるだけだから、今日の夜にするつもりだった。

「そ?」

あんまり遅くまで無理しちゃだめだよーっ!なんて言いながら、彼女は先に出来上がった書類を提出しに行った。

「……ふう」

普段、私はあまり残業なんかするタイプなんかじゃない。
——今思えば、これが運命のキッカケだった。


「……あれ?佐伯、まだ残ってんの?」

定時を2時間ほど過ぎたその日の夜、書類をまとめている時だった。
カタカタとキーボードを打つ音だけが響いていたこの空間に、そんな声が突然耳に入ってきた。
画面に集中していた私は驚いてその声の方へと振り返ると、見知った姿が一つ。

「あ、うん。もう終わるけどね」

ちらほら残っていた人も帰っていき、気がつけばもうこの部屋でキーボードを叩いているのは私が最後の1人だった。

そんな私に声をかけてきたのは、南条 晃。
またこの人もさっきの女の子同様、同僚のひとりだ。

「てかまだ残ってたの?晃も残業?」
「そ、まあ俺も提出明日の書類があったからな」

疲れたー、と大きなあくびをしている彼を横目に私も、んーっと大きく腕をあげて伸びた。固まってた体を少しほぐし、大きく息を吐く。
それからようやくまとめ終わった書類を印刷し、出来あがったそれを見てようやく肩の荷が下りた。
……なんとか、終わった。

「ん、終わった?」

そんな私を見てか、彼はそう聞いた。

「うん、とりあえずなんとか」
「お!……じゃあさー、」

そう言ってニッと笑った晃に、ん?と首をかしげた私。

「——行きますかっ!」
「……え?」

いきなりなんだ、と言わんばかりの顔をしている私を見た晃は何かを企んでいるような笑みを浮かべる。

「たまには息抜きも必要じゃん?」
「……うん?」
「だからさ、たまには付き合えよっ!」

一体何に、と聞く前に彼は私の腕を軽くひっぱった。

「ま、待って。分かったから。片付けるから待ってて」

それからなんだかよく分からないまま、出来あがった書類を提出してから彼と一緒に会社を出ることにした。

「……ねえ、どこいくの?」

彼はなんだかルンルンで、それを見てたらなんだか微笑ましくてどうでもよくなってくる。
彼——晃は、ルックスもよくいつもニコニコしていて男女関係なく人気者だ。

「いやー、飲み会?みたいな!」
「飲み会……?」

会、ってことは他に誰かいるのかな?そんな時今朝のTHE女子を思い出す。
彼女——萌はなんか言ってたっけな。
飲み会がどうのとは多分言ってなかったと思うしな……。

「ほら、ここ!」

ここ、と言われて見上げた先にあったのはちょっとオシャレな居酒屋さん。
……そういや、いつだったか会社の女の子たちがこのへんにオシャレな居酒屋さんがあるって言ってたっけ。

「さ、入った入った」

そんな事を思いながら晃にそう言われて店に入ると、店内は少し暗めの雰囲気になっていて、入ってすぐ右には透き通った青い大きめの水槽。
中には綺麗な小さいお魚がたくさん泳いでいて、まるで水族館みたい。

「こっちだよ」

"いらっしゃいませ"という落ち着いた店員さんの声を聞きながら晃について行く。
ここ、雰囲気だけで言えば居酒屋っていうよりまるでBARみたい。
ひとつひとつが個室になっていて、その間の道を歩いていく。
コポポポ……と微かに聞こえる水槽の音が落ち着くような、でもどこか緊張するような雰囲気を醸し出していた。

「あ、あったあった。ここだ!」

晃が立ち止まった個室の前。
なんとなく、私はこのオシャレな空間に少し緊張していた。

「お待たせー」

扉を開けて晃が入っていく。私もそんな彼に続いて中へと足を踏み入れた。
そこに入ってすぐ目に飛び込んできたのは、ひとつの真っ黒でオシャレなテーブル。
それから視界に入ってきたのは男の人と、女の人。

「あきらー!やっと来たあ!」
「わりぃな、遅くなって!」

晃が入った瞬間、そんな甘い声がした。

「あれ?そのこは?」

そんな声と一緒に、ふたつの視線がこちらを向いた。
——その、瞬間だった。

「……っ!」

電気が走ったような、心臓が一瞬止まったかのような、そんななんともいえない不思議な感覚が自分を襲って、それからすごく心臓が暴れ出した。

「あー、会社の同僚の佐伯美咲!俺と残業終わるの被ったから一緒に連れてきた!」

女の子にそう説明する晃の声もあんまり耳に入ってこないくらい、私の意識は別のところにあった。

「……き?……さえき!」
「——っあ!えっ?」

晃の私を呼ぶその声にハッとして、座れば?という言葉にぎこちなく頷いて、とりあえず一番手前の椅子に恐る恐る腰かけた。

「こっちが、相川めぐみ。俺と佐伯と同い年で、俺の大学時代からの友達。」

そんな晃の紹介に、よろしくねー!とニコニコする彼女。

「よ、よろしく……」
「で、こちらが俺の兄貴の友達の結城陸斗。通称陸兄!俺が小学生んときからずっと世話になってるからもう俺の兄貴みたいなもん!」

そう言って二カッと笑った晃。

——やっぱり。

晃の口から名前を聞いた時、心臓が一際大きくドクン……ッと音を立てたのが分かった。
それと同時に、どうしても"彼"と視線を合わせることができなくて私は下を向くしかなかった。

「……よろしく」

彼が言ったその言葉に、「……よろしくお願い、します」と小さく呟くことしかできなかった。





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