再開したのは、先生でした。

Rei

文字の大きさ
3 / 3

過去

しおりを挟む



——先生と出会ったのは11年前。

高校1年生の春。


あの時、初めて出会った瞬間、一目惚れした私はずっと先生に想いを寄せていた。
努力の甲斐あってか、1番仲のいい生徒にはなれた。
……だけど、

『——俺、転勤することになったんだ』

それを最後に私が高校3年生になったばかりの桜が綺麗に咲いていた9年前の春、学校から彼はいなくなった。

それから私は何人かと恋をしたりしたけど、結局どれも最終的にうまくいかなかった。
先生のことは時間が解決してくれて、好きだった気持ちはいつの間にかいい思い出へと変わっていき、たまにふとした時にそんなこともあったなあと思い出す程度だった。

——でも、だからって……
またこうして再会する日が来るなんて思ってもみなかった。


「——じゃあな。」


結局あの後家まで送ってくれた先生。
大丈夫です、と断ったけどまたおんなじことあったらどーすんの?と、家まで送ってくれた。
一緒に乗った電車内も、家までの道のりを歩いている時も、2人の間で特にたいした会話はなかった。
気まずいような、懐かしいような、恥ずかしいような、やけに複雑な気持ちだった。

今の仕事とか環境とか、何してるのかも知らない。
連絡先ももちろん知らない。

じゃあな、と言って背中を向けた先生を見たら、なんだかもう本当に2度と会えない気がした。
さっきまでは2度と会わないんだろうとぼんやり思っていたのに、一度会ってしまうと、せっかく会えたのに、なんて気持ちが湧いてきてしまうのは何で?

「……待って……っ」

気づいたら、先生を呼び止めていた。
去りかけた真っ黒なスーツを着た背中はそんな私の声に止まって、もう一度振り返った。

……その時まるで私が私じゃないみたいだ、と頭の片隅で思った。

「あの……っ」
「……ん?」

呼び止めたのはいいものの、なかなか言葉が出ない。

「……いや、その……」

「何?」

ただ、結局やっぱり視線を合わすことはできなくて。

「……おやすみなさい」

なんとか絞り出したそんな声はあまりにも小さくて、彼に届いただろうかと不安にすらなった。


「おやすみ」

彼はそう言って、私からもう一度背中を向けて歩き出した。
どうして呼び止めたりしたのか、本当にこれで良かったのか、なんて色んな感情が入り混じった心の中はモヤモヤして仕方なかった。

そんな黒いスーツの後ろ姿を見送ってから、私も家に入った。


その日からびっくりするくらい頭のど真ん中に先生しかいなくて、あの日呼び止めてサヨナラしたことに後悔して、連絡先すら聞かなかったことにも後悔した。

「……あっ」

それから数日後、いつものようにモヤモヤしていた時それはひらめいた。

……そう、連絡先。
連絡先を知る方法はひとつだけある。

そもそもの繋がりを辿れば、晃の存在にたどり着いた。
晃なら絶対に知ってるはず。

「……」

と、そこまで考えてやっぱりやめた。

そんなストーカーみたいなことしてどうするんだ、と。
まさかの再会をして、こんなにもモヤモヤしているのは私だけで、先生はなんにも思ってないはず。
そう思ったら晃に連絡先なんてなおさら聞く勇気もなかった。

先生と「おやすみ」を交わしたあの夜から数日。
取り巻く日常は良くも悪くもたいした変化もなく、先生と会ったのは幻だったのかとさえ感じ始める程、先生と再会する前と何も変わらない日々を繰り返していた。

ただ、少しだけ違うといえば、ずっと膜で覆われているかのように言葉にならない感情が心の中に住みついていた事だった。


「あっ!いたいた、佐伯!」

今日も膨大な量の仕事を終わらせ、さあ帰ろうと両腕を上にあげ、一日中パソコンと向き合い固まった体を伸ばした時だった。
そんな、私を呼ぶ晃の声が耳を貫いた。

「……ん?どうしたの?」

最近、晃を見るとふと脳裏に先生の存在が過る事がある。

なんとなくそんな気持ちになるのがしんどくて、この気持ちが落ち着くまではほんの少しだけ晃とは仕事以外では距離を置こうかな、なんて事も一瞬考えたけれど、
やっぱり晃は大事な同僚であり友達だからそんな事はできないな、なんて晃を見る度にぼんやり頭の隅っこで考えたりもするようになった。

「あのさー、今日夜……ってかこれから暇?」
「え?今日?」

珍しいと思った。
晃がこうして誘ってくるのは滅多になかったからだ。
晃は人柄が良いから、晃から誘うというよりもいつも誘われているタイプ。

上司、同僚、部下、全ての人からの信頼が厚い晃は自分から誘う暇もないくらい、人気者だったりもする。
この間の先生と再会した飲み会だって、誘ってくれたあれはかなりレアな話だ。

「そう、今日俺んちでパーティーという名の飲み会すんだけど佐伯も来ない?」

相変わらずのニカッという人懐っこい笑みを浮かべていう晃。
その笑顔を向けられて、NOと言える人がいるのなら教えて欲しい。

「もしあれだったら片桐も誘っていーし!」

片桐、というのは萌のこと。

「あー……」

ただ、もう帰る気満々だった私は突然のそんな誘いに驚き、戸惑う。
どうしようかと、迷っていると

「えっいーじゃん!明日ちょーど休みだしさ!私行きたーい!」

いつから聞いていたのか、どこからか突如現れた萌がパアッと目を輝かせながらそんな事を言う。
そんな萌に「よし、決定!」と、彼女のテンションに釣られたのかやけにノリノリの様子の晃。

「えっ……」

ちょっと待って、なんて言っても聞いてもらえないのはもう分かっていた。なんといっても、こうなってしまった萌を止められる人はいない。
結局流されるがままに、断ることも許されず私も参加になってしまった。

「じゃあ、カバン持ってくるからお前らも用意しとけよ。すぐ行くぞ!」

そう言って乗り気で荷物を取りに行った晃に、はーい!と元気よく返事をする萌。
私はそんな2人のテンションにまだついていけず、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「晃んちって会社からすぐなんだね!」


もうすっかり日も暮れ、少し下がった気温を肌で感じながら会社を出て歩く私達。
他愛のない話をしながら歩いて、5分程が経った頃だろうか。もうすぐで俺ん家!と言った晃に萌がそう口を開いた。

「まあなー、俺あんまり通勤に時間かけたくないんだよな」
「え、分かる!あー私も会社の近くに引っ越そうかなあ」

そんな2人の話を聞きながら足を進めていると、ふと晃が足を止めた。

「ついたよ、ここー」
「……えっ」

ここ、と言われ見上げた先には大きくて綺麗なマンション。
確か、多分だけど、このマンションってここら付近では1位2位を争うくらい豪華なんじゃ……。

「……晃ってお金持ち?」

目の前に広がるマンションのあまりの大きさにびっくりして聞くと、ちげーよ!と晃は苦笑いしていた。




しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

『床下に札束を隠す金髪悪女は、毎朝赤いマットの上で黒の下着姿で股を開く』〜ストレッチが、私の金脈〜

まさき
恋愛
毎朝六時。 黒の下着姿で、赤いヨガマットの上に脚を開く。 それが橘麗奈、二十八歳の朝の儀式。 ストレッチが終わったら、絨毯をめくる。 床下収納を開けて、封筒の束を確認する。 まだある。今日も、負けていない。 儚く見える目と、計算された貧しさで男の「守りたい」を引き出し、感情を売らずに金だけを回収してきた。 愛は演技。体は商売道具。金は成果。 ブリーチで傷んだ金髪も、柔らかく整えた体も、全部武器だ。 完璧だったはずの計算が、同じマンションに住む地味な男——青木奏の登場で、狂い始める。 奢らない。 触れない。 欲しがらない。 それでも、去らない。 武器が全部外れる相手に、麗奈は初めて「演じない自分」を見られてしまう。 赤いマットの上で、もう脚を開けなくなる朝が来るまでの話。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

黒瀬部長は部下を溺愛したい

桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。 人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど! 好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。 部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。 スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...