今を春べと咲くや此の花 ~ 咲耶演武伝 ~

椎名 将也

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第4章 咲耶の軌跡

2.運命の出逢い

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「何なの、これはッ……!」
 美しい貌に焦燥を刻みながら、天城色葉が叫んだ。震度四から五強の地震が、すでに二時間以上も頻発し続けていた。
 気象庁の発表によると、最大マグニチュード9.0とかつての東日本大震災に匹敵する大地震だった。そして、最も驚愕すべきは、その震源地が東京都新宿区であることだった。

 本来、大規模な地震は太平洋プレートやフィリピン海プレートが、陸のプレートを押し上げることによって発生する。つまり、大地震の震源地はそのほとんどが日本近海や海底であることが多かった。新宿区を基点とする大地震が発生する確率など、非常に低いはずであった。

 その上、今回の地震はその震源の深さが、マイナス・・・・五百メートルと推定されたのだ。空中を震源とする地震など、いまだかつて一度もなかったのである。まるで地震というよりも、空震・・とでも呼ぶべき現象だった。
 被害状況はまだ予想値を出なかったが、東京二十三区だけで死傷者は一万人を超えると伝えられていた。

「咲希や将成君とは、まだ連絡がつかないのッ……?」
「何度携帯に電話しても、通じない状況だ……」
 色葉の言葉に首を振りながら、国城大和が答えた。二人はこの地震が自然に起こったものでないことを確信していた。何故なら、神社幻影隊S.A.P.本部にある精神評価サイコ・アプレイザル係数測定器メジャーメントのほとんどが、過負荷によって爆発していたのである。

 一台だけ残ったSA係数測定器は、以前に咲希たちのSA係数を測定した最新型だけだった。この測定器はハンディタイプの簡易版と違い、三千を超えるSA係数が測定された場合には自動的に測定が遮断されるため、過負荷によって爆発することがなかったのだ。
 そして、その測定器によって推測されたSA係数は、色葉たちの常識を遥かに超越していた。地震の規模と連動して測定推測値は変動していたが、最低でも五万以上、最大で二十三万という数値が表示されたのだった。

「以前に宝治玉藻……いえ、九尾狐クミホは、三大妖魔筆頭の阿修羅アスラのSA係数が二、三十万だと言ったわ。これは阿修羅アスラが現れた証拠なのかも知れない……」
阿修羅アスラかどうかは分からないが、恐らく咲希が……咲希の中にいる木花咲耶が何者かと闘っていることは間違いないと思う……」
 色葉の言葉に同意しながら、大和が真剣な表情で告げた。二人はこの地震が咲耶とその相手が闘い、その際に発生する神気や妖気の影響であると考えた。

「もしその予想が正しいとすれば、木花咲耶たちの闘いに決着がつくまでこの地震は続くってことよ……。こんな規模の地震が何日も続いたら、首都機能は完全に壊滅するわ……」
 玉藻の話によると、二千年前の咲耶と夜叉ヤクシャの闘いは三日三晩続き、伊豆大島が隆起したとのことだった。
 色葉と大和は顔を引き攣らせながら、お互いを見つめ合った。それは自分たちの無力さを実感した諦念に満ちた表情であった。


『何ていう闘いなのッ……!』
 黒曜石の瞳を大きく見開いた驚愕の表情で、咲希は二人の激闘を見つめていた。それはまさしく膨大な妖気と超絶な神気のぶつかり合いだった。

 咲耶の攻撃を<黒牙刀>で受け止め、夜叉ヤクシャの斬撃を<咲耶刀>が防御するたびに、天が裂けて地に亀裂が走った。周囲の地形は見る影もなく変わり果て、無数の巨大な陥没クレーターができていた。その凄まじい衝撃によって、草木は一本も残らず薙ぎ倒され、巻き上がる粉塵は一時も止む気配がなかった。

『一撃でも相手の攻撃を受けたら、一瞬で勝負は決まる……』
 咲耶も夜叉ヤクシャも、全身に数え切れないほどの擦過傷を受けて血まみれになっていた。お互いの攻撃の余波によって、結界を張っているにも拘わらず皮膚が裂けるのだ。その壮絶な攻防を、二人はすでに三時間以上も続けていた。

夜叉ヤクシャの結界の中でよかった……。こんな闘いを地上でされたら、どれ程の被害が出るか想像もつかないわ……』
 だが、その考えが甘すぎたことを咲希は予想さえもしていなかった。咲耶が<咲耶刀>を振り落とし、夜叉ヤクシャが<黒牙刀>を薙ぐたびに、その壮絶な覇気によって地上に大地震が発生していたのだ。


「うぉおおおッ……!」
「たぁあああッ……!」

 凄まじい気合いとともに、二人が空中で激突した。超烈な神気を纏った<咲耶刀>と、超絶な妖気をはらんだ<黒牙刀>がぶつかり合い、新星の爆発の如き閃光と衝撃が二人の体を包み込んだ。

 ズッドーンッ……!

 天が真っ二つに裂け、大地に直径百メートルを超える巨大な陥没クレーターができた。それはまさしく核爆発にも匹敵する破壊力であった。
「ぐッ……あぁああッ……!」
「きゃああぁあッ……!」
 強固な結界を張っていたにも拘わらず、無名と玉藻がその結界ごと数百メートルも吹き飛ばされた。

「ぐぅおおおぉぅッ……!」
「くぅううううぅッ……!」
 夜叉ヤクシャと咲耶が、全身全霊を込めてお互いに相手の覇気を抑え込んだ。二人の全身に無数の裂傷が走り、鮮血が噴出した。

 呼吸を合わせたかのように、二人が同時に大きく後方へ跳び退すさった。二十メートルほどの距離を空けて地面へ降り立つと、二人はお互いの顔を見据えて微笑を浮かべた。
「やるな、咲耶ッ……!」
「お主こそッ……!」
 だが、今の全力を賭けた激突によって、二人の力の差が明らかになった。平然と微笑を浮かべる夜叉ヤクシャに対して、咲耶は激しく肩で息を切らせていた。

『咲耶ッ……!』
 美しい貌から滝のような汗を流している咲耶を見て、咲希が心配そうに叫んだ。
(思っていた以上に力をつけているようじゃ……。このままでは勝てぬ……。咲希、力を貸してくれッ……!)
『分かったッ! どうすればいいのッ?』
 咲耶の言葉に大きく頷くと、咲希が真剣な表情で訊ねた。

(お前と同化・・するッ……!)
『同化ってッ……!』
 咲耶の言葉に、咲希が黒曜石の瞳を大きく見開いて驚愕した。同時に、以前に建御雷神タケミカヅチから聞いた言葉を思い出した。


『同化とは、咲耶の記憶や能力がお前に移されることだ。つまり、咲耶という神格は完全に消滅して、お前に融合される』


(同化すれば、神気ちからをお前に上乗せすることができるッ! 今のお前には一人で迦美羅カーミラを斃すだけの神気がある。それにの神気を乗せれば、夜叉ヤクシャを凌げるはずじゃッ……!)
『バカなことを言わないでッ! そんなことをしたら、咲耶が消滅してしまうわッ!』
 長い漆黒の髪を振り乱しながら、咲希が激しく抗議した。

(心配するでないッ! 同化するのはの神気のうち、九割じゃ! 一割は残させてもらう。同化して膨大な神気を得たとしても、その使い方を教えてやる必要があるからな……。じゃから、すぐにが消滅することはない……)
『でも……!』
 咲耶が「すぐに」と言ったことに、咲希は気づいた。つまり、いずれは咲耶の意識は消滅してしまうということだった。

(そんな顔をするでない……。が完全に同化するまでには、五年や十年の時間がかかる。その間に、女神としての心得をお前に教えてやらねばならぬ……)
『咲耶ッ……。あたしは女神になんか……』
 咲希の言葉を遮るように、咲耶が続けた。

(唯一残念なのは、こうしてお前と意識を入れ替えることができなくなることじゃ……。つまり、二度とプリンを食べられなくなるのじゃ……。それだけが唯一の心残りじゃ……)
『ばかッ……!』
 それが安心させるために告げた言葉なのか、それとも咲耶の本心なのか、咲希には分からなかった。たぶん、両方なのだと咲希は理解した。

(頼む、咲希ッ……。瓊瓊杵ニニギの仇を討たせてくれッ……!)
 それが紛れもない咲耶の本心であることは、咲希にも分かった。そのためだけに、咲耶は二千年以上も夜叉ヤクシャを捜し続けてきたのだ。

『分かったわ、咲耶ッ……。プリンはあなたの代わりに、あたしが食べて上げるッ!』
 咲耶の願いに大きく頷くと、見る者を魅了する笑顔を浮かべて咲希が告げた。その言葉に顔を引き攣らせながら、咲耶が不満そうに叫んだ。
(最後の最後で、それを言うかぁッ……! 覚えておれよ、咲希ッ! いくぞッ……!)
 その言葉と同時に、咲希の意識が急激に浮上していった。

 だが、今までと違うのは、咲耶の意識が沈んでいかずにそのまま残っていたことだった。そして、その膨大な神気が咲希の意識に入り込み、二人の魂が融合を始めた。
「……ッ!」
 二千年にも及ぶ咲耶の記憶が、その経験が……一気に、咲希の脳裏に刻みつけられていった。


 木花咲耶は旧石器時代と言われる弥生時代に、日向国ヒムカのくにに生まれた。父親は、神産みにおいて伊邪那岐命イザナギのみこと伊邪那美命イザナミのみことの間に生まれた大山祇神おおやまつみのかみであった。

 幼い頃から咲耶の美貌は近隣の国々に鳴り響き、葦原中国あしはらのなかつくに随一と言われた。誰もが玉のように美しい咲耶を愛し、心から慈しんだ。神々や人々の愛情を一身に受けながら、咲耶はのびのびと成長していった。その性格は男勝りに闊達で、姫としての礼儀作法よりも乗馬や剣を好んで学んだ。

 咲耶には年の離れた一人の姉がいた。磐長姫いわながひめと呼ばれるその姉は、咲耶を自分の娘のように愛し、育ててくれた。両親に怒られてもどこ吹く風と逃げ回っていた咲耶であったが、この姉にだけは頭が上がらなかった。磐長姫の器量は咲耶に遥かに劣っていたが、その心根は真っ直ぐで誰よりも優しかった。

 その日、咲耶はいつものように彼女を崇拝する五人の青年たちを従えて、剣と乗馬の稽古をしていた。その時、三体の妖魔が突然現れ、咲耶たちに襲いかかった。青年たちは咲耶を守ろうと必死になって剣をかざし、妖魔と戦った。

 妖魔の一体は鬼族だった。身長二メートルを超える巨体に、重い棍棒を軽々と振って瞬く間に二人の青年を撲殺した。もう一体は巨大な土蜘蛛の化身であった。粘着力の強い糸を口から吐き、青年の一人を絡め取ると猛毒の牙で彼を毒殺した。
 最後の一体は蛇の化身であった。頭髪すべてが生きている蛇で、その両腕さえも巨大な蛇そのものであった。伸縮自在の頭髪で二人の青年を同時に拘束すると、両手の蛇で彼らの喉を食い破った。青年たちは三体の妖魔に為す術もなく殺された。

 生まれて初めて妖魔と遭遇した咲耶は、恐怖と嫌悪で全身の震えが止まらなかった。身を翻して逃げようとした瞬間、土蜘蛛の糸に咲耶は手足を絡め取られ、地面に転がされた。
 凶悪な顔に涎を垂らしながら、鬼族が咲耶の上にのしかかってきた。美しい貌を蒼白にして咲耶は絶叫し、助けを呼んだ。だが、周囲に人気はなく、助けが来る気配は皆無だった。

 衣服の中に無数の蛇が入り込み、美しい咲耶の身体を淫猥に撫で回し始めた。鬼族が両手で咲耶の襟元を大きく引き裂いた。形のよい白い乳房が、鬼族の目に晒された。まだ男性経験がない咲耶にも、三体の妖魔が自分を凌辱しようとしていることが分かった。蜘蛛の糸に手足を縛られながらも、咲耶は必死で身体をくねらせて抵抗した。

「いやあぁあッ……! 助けてぇえッ……!」
 長い漆黒の髪を振り乱して、咲耶が絶叫を上げた。鬼族が巨大な手で咲耶の乳房を握り締め、激しく揉みしだき始めた。同時にざらつく長い舌で、ネットリと媚芯をねぶりだした。咲耶の意志とは裏腹に、敏感な媚芯から走る峻烈な感覚に咲耶は白い顎を突き上げた。

「やだぁあッ……! やめろッ……! ひぃいいッ……!」
 着物の裾を割って、無数の蛇が咲耶の太股を這いずり回った。その内の一匹が下着の中に潜り込み、秘唇の上にある真珠をチョロチョロと蠢く舌で舐め始めた。そこが女の急所であることを、咲耶は生まれて初めて知らされた。凄まじい衝撃が全身を走り抜け、咲耶は大きく総身を仰け反らせた。

「やめてぇッ……! 許してぇッ……!」
 咲耶の唇から哀願の言葉が漏れた。乳房を揉みしだかれ、突き勃った媚芯を舐られ、充血した真珠を嬲られ続けると、咲耶は全身が熱く燃え上がってくるのを感じた。認めたくなかったが、それは紛れもない快感であった。このまま続けられたら、自分がどうなってしまうのか未知の恐怖に咲耶はおののいた。

 その時、ゴロンという音とともに咲耶の顔の横に何かが落ちた。驚いて視線を向けると、それは醜悪な嗤いを浮かべた鬼族の首だった。咲耶の腰を跨いでいた鬼族の身体から、プシャーッという音が響き渡り、大量の鮮血が咲耶に降りそそいだ。同時に断末魔の悲鳴が二度聞こえてくると、土蜘蛛と蛇男の身体が咲耶から離れた。

 驚いた表情で顔を上げた咲耶は、目の前に立つ一人の青年に気づいた。その青年は右手に持った白銀の刀で残心の血振りをすると、それを左腰の鞘に納刀した。
「大丈夫かい……?」
 優しい笑顔を浮かべながら、青年が咲耶に右手を差し出してきた。咲耶はコクリと小さく頷くと、青年の手を取って立ち上がった。だが、足腰に力が入らずに、咲耶はよろけるように青年の胸に倒れ込んだ。

「悪かった……。美しい貌が血まみれになってしまったな。近くに川があるから、そこまで運んで上げよう……」
 そう告げると、青年は咲耶の身体を横抱きにして歩き始めた。咲耶は慌てて両手で着物の前を閉じると、恥ずかしそうに裸身を隠した。

 それが瓊瓊杵尊ニニギのみことと咲耶の初めての出逢いだった。


 水浴で身を清めた咲耶は、瓊瓊杵を自宅へと伴った。三体の妖魔に襲われたところを助けてもらったと告げると、父親の大山祇神おおやまつみのかみは大いに喜んで瓊瓊杵の手を取って感謝した。

 その日の夕食の席で、瓊瓊杵は大山祇神に自分の身分を明かした。高天原を統べる主宰神であり、太陽神である天照皇大御神アマテラスおおみかみの孫であることを告げたのだ。そして、天照の神勅を受けて、葦原中国あしはらなかつのくにを治めるために天降ってきたことを明らかにした。大山祇神は大いに驚き、咲耶は黒曜石の瞳を大きく見開いて驚愕した。

「私は咲耶比売ひめの美しさに一目惚れをしました。どうか、比売と婚儀を結ぶことをお許し頂けませんか?」
 姿勢を正すと、瓊瓊杵が大山祇神に丁寧に頭を下げた。突然の求婚を受けて、咲耶は瓊瓊杵の顔を茫然と見つめた。生命を助けてもらったとはいえ、出逢ってからまだ数刻しか経っていないのだ。だが、家長である大山祇神の言葉は絶対であった。咲耶は慌てて左横に座る父親の顔を見つめた。

「天照皇大御神さまのご嫡孫であられるお方であれば、否も応もございません。咲耶だけでなく、この磐長いわながも一緒にお預けいたしましょう」
 満面に笑みを浮かべながら、大山祇神が告げた。その言葉に一番驚愕したのは、父親の左に座っていた磐長姫であった。

 磐長姫は咲耶よりも十五歳も年上で、すでに三十路を越えていた。その歳まで磐長姫には縁談が一つもなかったのだ。彼女の容貌はお世辞にも美しいとは言えず、妹の咲耶と比べて月とすっぽんであると陰口を叩かれるほどであった。
 だが、幼い頃に母親を亡くした咲耶にとっては、磐長姫は優しい姉であり、厳しい母であった。磐長姫と一緒に嫁げるのであれば、咲耶にも否はなかった。

「恐れながら申し上げます。私が夫婦めおとになりたいのは、咲耶比売お一人です。せっかくのお申し出ながら、磐長姫のお話しはお断りさせて頂きます」
 瓊瓊杵の言葉に、磐長姫が顔を伏せた。自分だけを欲しいと告げる瓊瓊杵の言葉を嬉しく思う反面、咲耶は姉の心を思って瓊瓊杵を睨みつけた。

(姉上を蔑ろにする男に嫁ぐのは、ごめんじゃ……。女を顔で判断するとは、絶対に許せぬ……!)
 咲耶の気持ちを察した磐長姫が、小さく首を振った。
わたくしのことは気にせず、あなたはこのお方と添い遂げなさい……)
 磐長姫は咲耶に、そう眼で訴えてきた。その視線を受けると、咲耶は瓊瓊杵に向かって告げた。

「瓊瓊杵さま……。天照さまのご嫡孫であられる貴方さまであれば、女子おなごなど選り取り見取りであらせられるはず……。何故、を選ばれるのか、その理由わけをお聞かせ願えませぬか……?」
「これ、咲耶ッ……!」
 ケンカ腰で告げた咲耶の言葉に驚いて、大山祇神が慌てて瓊瓊杵の顔を見つめた。だが、瓊瓊杵は平然と大山祇神に頷くと、咲耶の顔を見つめながら答えた。

「先ほども申したとおり、私は一目であなたの美貌の虜となった。あなたほど美しい比売には、今まで会ったことがない。ぜひ、私の妻になって欲しい……」
「人の価値を決めるのは外見ではなく、その内面です。姉はなど比較もできぬほど美しい心の持ち主です。その姉の素晴らしさを理解しようとせぬ貴方さまと、は添い遂げるつもりはありませぬ……」
「さ、咲耶ッ……!」
 咲耶の言葉に慌てた大山祇神が、腰を浮かせた。だが、咲耶をたしなめたのは、他ならぬ磐長姫であった。

「咲耶、増長しましたか? 天照皇大御神さまのご嫡孫に向かって、何と言う無礼を働くつもりですか? わたくしはそのような娘にあなたを育てた覚えはありません」
「しかし、姉上ッ……!」
 磐長姫を思って告げたことを彼女本人から否定されて、咲耶は驚きのあまり言葉を失った。

「構いませぬ、磐長姫……。咲耶比売の真っ直ぐな心根、その気高さも私の好みとするところです。大山祇神、重ねてお願い申し上げます。咲耶比売との婚儀、お許し頂けませぬか?」
 それは紛れもなく、「咲耶とだけ」という意味を秘めていた。大山祇神は左に座っている磐長姫の顔を見た。磐長姫がゆっくりと頷いた。

「分かりました、瓊瓊杵尊さま……。咲耶との婚儀を認めましょう。ただし、一つだけ覚えておいていただきたい……」
 大切な神託を述べるように、大山祇神が重々しい口調で告げた。
「花の命は短く、岩は永遠にその姿を変えぬもの……。磐長はその名の通り、不老長寿を司る女神です。それに対して、咲耶は美しく咲き誇る花そのものです。二人を同時に娶れば、貴方さまの未来は末永い栄光に彩られたでしょう。しかし、咲耶だけを娶るのであれば、天津神あまつかみであられる貴方さまにも、必ず寿命が訪れましょう……」

「咲耶比売と共に歩めるのであれば、命の長さなど関係ありませぬ。たとえ限られた命であろうとも、私は生涯をかけて咲耶比売を愛し続けます」
 大山祇神の言葉を笑い流すと、瓊瓊杵は咲耶の顔を真っ直ぐに見つめながら告げた。その言葉に、咲耶はカアッと顔を赤らめて恥ずかしそうに下を向いた。男性からこのように愛の言葉を告げられたのは、初めての経験だったのだ。

「そこまでおっしゃるのであれば、私に異論はありませぬ。今宵は咲耶と一緒に離れでお休みください」
「お、お父上ッ……!」
 大山祇神が告げた言葉の意味に気づくと、咲耶は耳まで真っ赤に染めて顔を伏せた。その様子を大山祇神と磐長姫は、楽しそうに見つめていた。

 その夜、咲耶は生まれて初めて異性と肌を合わせて寝台に入った。


 大山祇神の屋敷には、本宅から離れた場所に客用の離れが建てられていた。その離れの主賓室には、大人四人が横になれるほどの巨大な寝台が置かれていた。その隣の部屋には侍従のための寝室も用意されていたが、今は誰一人そこにはいなかった。
 その豪華な天蓋付きの寝台の上で、咲耶は一糸纏わぬ裸身を瓊瓊杵によって昂ぶらされていた。

「あッ……はッ……! それ……いやッ……! だめです、瓊瓊杵さま……! あッ、あッ、ひぃッ……!」
 瓊瓊杵の愛撫は執拗だった。堅いつぼみを解すように、瓊瓊杵は時間をかけて咲耶の性感を探り当てた。初めのうちは羞恥と緊張で体を強張らせていた咲耶だったが、濃厚な口づけで舌を絡み取られ、慣れた手腕で全身をまさぐられると熱い吐息が漏れるのを抑えられなかった。

「もう、ここをこんなに硬く尖らせて……。感じているのかい、咲耶……」
「ひッ……! いやッ……! 恥ずかしいッ……! あッ、だめッ、あぁああッ……!」
 白い乳房を揉みしだかれながら、ツンと突き勃った媚芯を舌で舐られると、咲耶はグンッと顎を突き上げて大きく仰け反った。生まれて初めての峻烈な快感が背筋を舐め上げ、脳天に白い閃光が走った。

 咲耶が女の悦びに目覚め始めたことを感じ取ると、瓊瓊杵は己の持つ手管てくだを駆使して彼女を責め始めた。咲耶の白い肢体に口づけの嵐を降らせながら、左手で豊かな乳房を揉みしだき硬く自己主張をしている媚芯をコリコリと扱き上げた。右手は柔らかいくさむらをかき分けると、熱く濡れた秘唇をなぶりながら、その上にある真珠の薄皮をクルンと剥き上げた。そして、蜜液を塗り込みながら、真っ赤に充血した真珠を指先で円を描くように転がした。

「ひぃいいッ……! それ、だめですッ……! あッ、あッ、いやッ……だめぇえッ……!」
 腰骨が熱く灼き溶け、背筋を甘い愉悦が舐め上げると、脳天に凄まじい雷撃が襲いかかった。ビクンッビックンッと総身を激しく痙攣させると、咲耶は生まれて初めての絶頂を極めた。

(な、何……今のは……? 目の前が真っ白になって……何も考えられなかった……)
 黒曜石の瞳を驚きに見開くと、せわしなく熱い吐息を漏らしながら咲耶は茫然とした。全身はビクビクと痙攣を続け、手足の先端まで甘く痺れていた。

「上手にイケたね、咲耶……。続けてイってみようか?」
 ニヤリと笑みを浮かべながら、瓊瓊杵が楽しそうに告げた。そして、咲耶を責めるべく、唇と両手を再び動かし始めた。
「ま、待って……! あッ、いやッ……だめッ……やめッ……! あッ、あッ、いやあッ……!」
 一度達した女体を一切の手加減なく責められたら、堪ったものではなかった。咲耶の意志とは関係なく、その裸身は再び燃え上がり始めた。

「ひぃいいッ……! だめ、だめぇえッ……! あッ、あッ、いやぁああッ……!」
 凄絶に裸身を仰け反らせると、咲耶はビックンッビックンッと激しく痙攣して二度目の絶頂を迎えた。だが、瓊瓊杵はガクガクと痙攣を続ける咲耶に休ませる間も与えずに、その美しい肢体を責め続けた。

「いやぁあッ……! おかしくなるッ……! だめぇッ……! あッ、あッ、あぁああッ……!」
 立て続けに三回も絶頂を極めさせられた咲耶は、黒曜石の瞳を茫然と見開きながら随喜の涙を流した。熱い喘ぎを放つ唇からは、ネットリとした涎が糸を引いて垂れ落ちた。
(頭が、灼ける……。体が、溶ける……。こんなの……知らぬ……)
 初めて刻まれた壮絶な快感に、咲耶は全身をビクンッビクンッと痙攣させ続けることしかできなかった。

「これだけ感じてくれたら、そんなに痛みはないかな……? 行くよ、咲耶……」
 そう告げると、瓊瓊杵は咲耶の両脚を広げて、猛りきったを濡れた秘唇に充てがった。その巨大な逸物に気づいた瞬間、咲耶は恐怖に震えて蒼白になった。
「ま、待って……」
(何じゃ、あれはッ……? あんな大きいの、無理……! 裂けてしまうッ……!)
 だが、咲耶の言葉を遮るように、瓊瓊杵がゆっくりと腰を沈めた。メリメリという音とともに、瓊瓊杵のが咲耶の中に押し入ってきた。

「ひぃいいッ……!」
 その衝撃と激痛に、咲耶は総身を限界まで仰け反らせて悲鳴を上げた。だが、その苦悶の表情でさえ、瓊瓊杵を押しとどめることはできなかった。グイッと腰を入れると、瓊瓊杵が一気に最奥まで貫いた。
「あっあぁああッ……!」
 涙を流しながら悲鳴を上げた咲耶の秘唇から、破瓜の血が垂れ落ちて寝台に真紅の染みを描いた。

 その日、咲耶は瓊瓊杵によって女にされた。同時に、女の悦びをその身に何度も刻みつけられた。
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