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第七章 夢魔と銀龍
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アルフィはスカーレットだけをケラヴノス大聖堂の地下二階へ案内した。
スカーレットに付き従うはずであった第一小隊は、地下一階の捜索に当ててもらった。悪魔伯爵二柱を相手取るには、彼らでは足止めにもならないと思ったからだ。
そして、その判断が正しかったことはすぐに証明された。地下二階に降りて最初に入った広間で、悪魔伯爵二柱が彼女たちを待っていたのである。
自分を遥かに上回る魔力を目の前にして、アルフィは足をすくませた。根源的な恐怖で、全身がガタガタと震え始めた。
「なるほどな。ティアが負けるのも頷ける」
蒼白になったアルフィの横で、スカーレットは平然と悪魔伯爵たちを睨めつけ、愛用の神剣<ブリューナク>を抜いた。テイアの愛刀<イルシオン>とともに、ユピテル皇国に伝わる二大宝剣のうちの一振りだ。
<イルシオン>が片刃の神刀であるのに対し、<ブリューナク>は諸刃の神剣であった。
スカーレットが両手で<ブリューナク>を握り、正眼に構えた。その左手に白い包帯が巻かれていることに、アルフィは初めて気づいた。
「スカーレット様、その手は……」
悪魔伯爵二柱を相手に、怪我をした状態で戦うつもりのスカーレット見て、アルフィは自分の判断が間違っていたのではないかと思った。これだけの魔力を放つ相手の力が見抜けていないのではないかと考えたのだ。
事実、スカーレットは緊張もせずに悪魔伯爵二柱と対峙している。
「ああ、これか。さっき、ちょっと剣を刺しただけだ」
何でもないことのように、スカーレットが告げた。その口元には、微笑みさえ浮かべていた。
「に、逃げましょう……」
絶大な不安と恐怖に襲われて、思わずアルフィが呟いた。
「逃げる? なぜ?」
スカーレットは、アルフィの言葉を本当に理解できていないようだった。
その時、悪魔伯爵の一柱がスカーレットに向けて話し始めた。
「自己紹介させていただこう。私は悪魔伯爵(デーモンアール)のヴァラクと言う。そして、こちらが同じく悪魔伯爵のエリゴスだ。短い時間になるが、お見知りおき願いたい」
黒髪を肩まで伸ばしたヴァラクが恭しくスカーレットに頭を下げた。女と見紛うばかりの美男だった。彫りが深く、目鼻立ちがすっきりとした容貌だった。だが、紺色の司祭服の上からでも、鍛え上げられた肉体の持ち主であることが見て取れた。
「我が主が、あなたを招待したいと申しております。主の招待を受けて頂けるのであれば、あなたの命までは取りません。そちらの付き添いの方にはご退場いただきますが」
エリゴスが慇懃な口調で、とんでもないことを告げた。スカーレットは取りあえず生かして連れて行くが、アルフィは殺すと言っているのだ。
しかし、アルフィは何も口答えをすることが出来なかった。エリゴスには今の言葉を平然と実行するだけの力があることを、アルフィは理解していたからだ。
アルフィの体が震えだした。恐怖のあまり、今にも泣き出しそうになっていた。
「何も心配するな。私がいる」
アルフィの恐怖を感じ取ったのかどうか、スカーレットはいつもと変わらない様子で告げた。
「丁寧な紹介、痛み入る。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。ユピテル皇国の元帥をしている」
正眼の構えのまま、スカーレットが二柱の悪魔伯爵に向かって言った。
「主がいると言ったな。では、その主に伝えていただこう。フレデリックとティアを無事に返せば、命まで取らないと。ただし、捕まえはするがな」
スカーレットの言葉を聞いた途端、悪魔伯爵二柱の雰囲気が変わった。主であるアルヴィスを愚弄されたと感じたのだ。
「なるほど、聞きしに勝るじゃじゃ馬姫だ」
「主に会って頂く前に、少し教育が必要ですね」
ヴァラクとエリゴスの魔力が急激に増大した。いや、増大などというレベルではなかった。圧倒的な質量さえ感じさせる濃密な魔力が、二柱の悪魔伯爵たちから放たれた。
「ひっ……!」
アルフィは死を覚悟した。勝てるわけがなかった。どちらか一柱の魔力でさえ、優にアルフィの倍以上はあったのだ。
それが二柱もいる。
恐怖のあまり、アルフィは全身の震えが止まらなくなった。足から力が抜け、思わず床にへたり込んだ。激甚な恐怖のあまり、漆黒の黒瞳から涙が溢れ出てきた。
「あまり私の仲間を怖がらせないでくれ。あとでティアに文句を言われる」
スカーレットは悪魔伯爵二柱の魔力の巨大さに気づいていないのか、平然と告げた。
「どうする? このまま斬られるか? それとも、素直に主とやらのところへ案内するか?」
スカーレットが、どちらの食べ物が好きかとでも聞くように軽い感じで訊ねた。
「どちらもお断りする。エリゴスが言ったとおり、あなたは殺さずに痛めつけ、そちらの魔道士は慰みながら魔力を吸い尽くしてやろう」
ヴァラクが両手をスカーレットに向けて突き出した。無詠唱のまま、炎系下位魔法ファイアボールを放った。その火球を見て、アルフィは愕然とした。
魔道士クラスSのアルフィが放つファイアボールも、通常の魔道士と比べれば威力も強力で火球も大きかった。だが、ヴァラクが放った火球は、アルフィのものより二回りは巨大だった。直径で二メッツェ以上はあったのだ。
「ハッ!」
その巨大な火球を、スカーレット<ブリューナク>を横に振り、その剣圧だけで消し飛ばした。
「何ッ?」
ヴァラクの目が驚愕で大きく見開かれた。
「その程度では、私に通じんぞ」
スカーレットが残念そうに告げた。彼女は魔道士クラスSであるアルフィが恐れるほどの悪魔に「期待」をしていたのだ。久しぶりに本気で戦うことが出来るかも知れないと……。
「馬鹿な! それならば、これでどうだ!」
今度は、エリゴスが魔法を放った。それを見て、ヴァラクが驚愕の叫びを上げた。
「エリゴス、殺す気か?」
エリゴスの放った魔法は、火属性上位魔法インフェルノだった。
対象を全て巨大な炎で灼き尽くすと言われるインフェルノの業火と灼熱が、二十メッツェ四方ある広間の半分以上を席捲した。その超大な火炎が螺旋を描きながら、スカーレットに襲いかかった。
アルフィは今度こそ死を覚悟した。
『氷麗姫』の二つ名のとおり、アルフィが最も得意とする魔法は、水属性氷系魔法だ。
魔道士クラスSであるアルフィの氷壁は、<デビメシア>の女魔道士が放ったインフェルノを完全に防ぎ、傷どころか氷面を溶かしもしなかった。
だが、その氷壁でさえ、エリゴスが放ったインフェルノを防ぐことができないことをアルフィは一瞬で悟った。そもそもの内在する魔力量が違いすぎるのだ。
「つまらん」
スカーレットは一言呟くと、<ブリューナク>を再び横に払った。
たったそれだけの動作で、想像を絶する衝撃波が生まれ、広間を席巻していたインフェルノの奔流が瞬時に消滅した。
「馬鹿……な……」
エリゴスが呆然と呟いた。
ヴァラクは、スカーレットの力を見誤っていたことに気づいた。圧倒的な優位に立っていたのは、悪魔伯爵たちではなく、皇国元帥だったのだ。
「お前は……剣士クラスSSではなかったのか?」
ヴァラクが愕然としながらスカーレットに訊ねた。
「確かにクラスSSと言われているな。ただし、クラスSの上に、本当の意味でのクラスなど存在しない。クラスSSというのは、クラスSに収まりきれないという意味でしかないのさ」
その言葉に驚愕したのは、ヴァラクたちだけではなかった。
アルフィは銀龍騎士団の訓練場で、剣士クラスSのティアを圧倒したスカーレットを思い出した。四体の木龍さえ一撃で爆散させたティアの攻撃を、スカーレットは<ブリューナク>の一振りで押し返し、ティアに瀕死の重傷を負わせたのだった。
そのティアがアルフィを逃がすときに、「スカーレット姉さんを連れてきて!」と叫んだ意味を理解した。
皇宮の貴族たちはスカーレットを、「先祖返り」とか「神童」とか呼んでいるらしい。ティアからそれを聞いたとき、「なんて過分な呼び名なのだろう」とアルフィは思った。
ティアにそう告げると、「そうかもね」と彼女は笑っていた。
だが、ティアは知っていたのだ。過分どころか、スカーレットがそんな二つ名に収まる存在でないことを……。
「もう一度聞こう。このまま斬られるか? それとも、主のところへ案内するか?」
よく通るメゾソプラノの声で、スカーレットが訊ねた。
その時、スカーレットとアルフィの背後から、不意に声が響いた。
「それには及ばないわ。スカーレット=フォン=ロイエンタール元帥」
驚くアルフィとは対照的に、スカーレットはすでに背後から近づく存在に気づいていたかのようにゆっくりと振り向いた。
「私は、アルヴィス=アムドゥシアス。その二人の主よ」
アルヴィスの姿を眼にした瞬間、アルフィは彼女がまるで次元の違う存在であることに気づいた。
悪魔伯爵であるヴァラクとエリゴス。
この二人の魔力でさえ、アルヴィスと比べれば可愛く感じた。それほど、アルヴィスの秘めた魔力量は絶大だった。ケラヴノス大聖堂に着いたとき、アルフィが「化け物」と感じたのは、間違いなくアルヴィスのことであった。
「この二人を相手にして、そこまで力の差を見せつけるとは、想像以上ね」
「お褒めの言葉として受け取っておく。しかし、お前の力はこの二人以上だと、私の中で何かが告げているぞ」
「さすが勇者の血を引く者ね。合っているわよ。これでも一応、悪魔公爵(デーモンデューク)を拝命しているから」
「悪魔公爵……」
アルフィが愕然として呟いた。それは、悪魔伯爵より二つも上の爵位だった。
「ここでお前と戦うと、大聖堂自体が持ちそうにないな。フレデリックとティアを素直に返すか、断るのであれば場所を変えるか、どちらがいい?」
スカーレットの提案に、アルヴィスは笑って答えた。
「そうね。どちらも魅力的な提案だけど、お断りするわ。ここでこのままやりましょう。大丈夫、大聖堂が壊れないように、私が手加減をしてあげるから」
その言葉を聞いた瞬間、スカーレットのスミレ色の瞳から紫炎が燃え上がった。
スカーレットに付き従うはずであった第一小隊は、地下一階の捜索に当ててもらった。悪魔伯爵二柱を相手取るには、彼らでは足止めにもならないと思ったからだ。
そして、その判断が正しかったことはすぐに証明された。地下二階に降りて最初に入った広間で、悪魔伯爵二柱が彼女たちを待っていたのである。
自分を遥かに上回る魔力を目の前にして、アルフィは足をすくませた。根源的な恐怖で、全身がガタガタと震え始めた。
「なるほどな。ティアが負けるのも頷ける」
蒼白になったアルフィの横で、スカーレットは平然と悪魔伯爵たちを睨めつけ、愛用の神剣<ブリューナク>を抜いた。テイアの愛刀<イルシオン>とともに、ユピテル皇国に伝わる二大宝剣のうちの一振りだ。
<イルシオン>が片刃の神刀であるのに対し、<ブリューナク>は諸刃の神剣であった。
スカーレットが両手で<ブリューナク>を握り、正眼に構えた。その左手に白い包帯が巻かれていることに、アルフィは初めて気づいた。
「スカーレット様、その手は……」
悪魔伯爵二柱を相手に、怪我をした状態で戦うつもりのスカーレット見て、アルフィは自分の判断が間違っていたのではないかと思った。これだけの魔力を放つ相手の力が見抜けていないのではないかと考えたのだ。
事実、スカーレットは緊張もせずに悪魔伯爵二柱と対峙している。
「ああ、これか。さっき、ちょっと剣を刺しただけだ」
何でもないことのように、スカーレットが告げた。その口元には、微笑みさえ浮かべていた。
「に、逃げましょう……」
絶大な不安と恐怖に襲われて、思わずアルフィが呟いた。
「逃げる? なぜ?」
スカーレットは、アルフィの言葉を本当に理解できていないようだった。
その時、悪魔伯爵の一柱がスカーレットに向けて話し始めた。
「自己紹介させていただこう。私は悪魔伯爵(デーモンアール)のヴァラクと言う。そして、こちらが同じく悪魔伯爵のエリゴスだ。短い時間になるが、お見知りおき願いたい」
黒髪を肩まで伸ばしたヴァラクが恭しくスカーレットに頭を下げた。女と見紛うばかりの美男だった。彫りが深く、目鼻立ちがすっきりとした容貌だった。だが、紺色の司祭服の上からでも、鍛え上げられた肉体の持ち主であることが見て取れた。
「我が主が、あなたを招待したいと申しております。主の招待を受けて頂けるのであれば、あなたの命までは取りません。そちらの付き添いの方にはご退場いただきますが」
エリゴスが慇懃な口調で、とんでもないことを告げた。スカーレットは取りあえず生かして連れて行くが、アルフィは殺すと言っているのだ。
しかし、アルフィは何も口答えをすることが出来なかった。エリゴスには今の言葉を平然と実行するだけの力があることを、アルフィは理解していたからだ。
アルフィの体が震えだした。恐怖のあまり、今にも泣き出しそうになっていた。
「何も心配するな。私がいる」
アルフィの恐怖を感じ取ったのかどうか、スカーレットはいつもと変わらない様子で告げた。
「丁寧な紹介、痛み入る。私はスカーレット=フォン=ロイエンタール。ユピテル皇国の元帥をしている」
正眼の構えのまま、スカーレットが二柱の悪魔伯爵に向かって言った。
「主がいると言ったな。では、その主に伝えていただこう。フレデリックとティアを無事に返せば、命まで取らないと。ただし、捕まえはするがな」
スカーレットの言葉を聞いた途端、悪魔伯爵二柱の雰囲気が変わった。主であるアルヴィスを愚弄されたと感じたのだ。
「なるほど、聞きしに勝るじゃじゃ馬姫だ」
「主に会って頂く前に、少し教育が必要ですね」
ヴァラクとエリゴスの魔力が急激に増大した。いや、増大などというレベルではなかった。圧倒的な質量さえ感じさせる濃密な魔力が、二柱の悪魔伯爵たちから放たれた。
「ひっ……!」
アルフィは死を覚悟した。勝てるわけがなかった。どちらか一柱の魔力でさえ、優にアルフィの倍以上はあったのだ。
それが二柱もいる。
恐怖のあまり、アルフィは全身の震えが止まらなくなった。足から力が抜け、思わず床にへたり込んだ。激甚な恐怖のあまり、漆黒の黒瞳から涙が溢れ出てきた。
「あまり私の仲間を怖がらせないでくれ。あとでティアに文句を言われる」
スカーレットは悪魔伯爵二柱の魔力の巨大さに気づいていないのか、平然と告げた。
「どうする? このまま斬られるか? それとも、素直に主とやらのところへ案内するか?」
スカーレットが、どちらの食べ物が好きかとでも聞くように軽い感じで訊ねた。
「どちらもお断りする。エリゴスが言ったとおり、あなたは殺さずに痛めつけ、そちらの魔道士は慰みながら魔力を吸い尽くしてやろう」
ヴァラクが両手をスカーレットに向けて突き出した。無詠唱のまま、炎系下位魔法ファイアボールを放った。その火球を見て、アルフィは愕然とした。
魔道士クラスSのアルフィが放つファイアボールも、通常の魔道士と比べれば威力も強力で火球も大きかった。だが、ヴァラクが放った火球は、アルフィのものより二回りは巨大だった。直径で二メッツェ以上はあったのだ。
「ハッ!」
その巨大な火球を、スカーレット<ブリューナク>を横に振り、その剣圧だけで消し飛ばした。
「何ッ?」
ヴァラクの目が驚愕で大きく見開かれた。
「その程度では、私に通じんぞ」
スカーレットが残念そうに告げた。彼女は魔道士クラスSであるアルフィが恐れるほどの悪魔に「期待」をしていたのだ。久しぶりに本気で戦うことが出来るかも知れないと……。
「馬鹿な! それならば、これでどうだ!」
今度は、エリゴスが魔法を放った。それを見て、ヴァラクが驚愕の叫びを上げた。
「エリゴス、殺す気か?」
エリゴスの放った魔法は、火属性上位魔法インフェルノだった。
対象を全て巨大な炎で灼き尽くすと言われるインフェルノの業火と灼熱が、二十メッツェ四方ある広間の半分以上を席捲した。その超大な火炎が螺旋を描きながら、スカーレットに襲いかかった。
アルフィは今度こそ死を覚悟した。
『氷麗姫』の二つ名のとおり、アルフィが最も得意とする魔法は、水属性氷系魔法だ。
魔道士クラスSであるアルフィの氷壁は、<デビメシア>の女魔道士が放ったインフェルノを完全に防ぎ、傷どころか氷面を溶かしもしなかった。
だが、その氷壁でさえ、エリゴスが放ったインフェルノを防ぐことができないことをアルフィは一瞬で悟った。そもそもの内在する魔力量が違いすぎるのだ。
「つまらん」
スカーレットは一言呟くと、<ブリューナク>を再び横に払った。
たったそれだけの動作で、想像を絶する衝撃波が生まれ、広間を席巻していたインフェルノの奔流が瞬時に消滅した。
「馬鹿……な……」
エリゴスが呆然と呟いた。
ヴァラクは、スカーレットの力を見誤っていたことに気づいた。圧倒的な優位に立っていたのは、悪魔伯爵たちではなく、皇国元帥だったのだ。
「お前は……剣士クラスSSではなかったのか?」
ヴァラクが愕然としながらスカーレットに訊ねた。
「確かにクラスSSと言われているな。ただし、クラスSの上に、本当の意味でのクラスなど存在しない。クラスSSというのは、クラスSに収まりきれないという意味でしかないのさ」
その言葉に驚愕したのは、ヴァラクたちだけではなかった。
アルフィは銀龍騎士団の訓練場で、剣士クラスSのティアを圧倒したスカーレットを思い出した。四体の木龍さえ一撃で爆散させたティアの攻撃を、スカーレットは<ブリューナク>の一振りで押し返し、ティアに瀕死の重傷を負わせたのだった。
そのティアがアルフィを逃がすときに、「スカーレット姉さんを連れてきて!」と叫んだ意味を理解した。
皇宮の貴族たちはスカーレットを、「先祖返り」とか「神童」とか呼んでいるらしい。ティアからそれを聞いたとき、「なんて過分な呼び名なのだろう」とアルフィは思った。
ティアにそう告げると、「そうかもね」と彼女は笑っていた。
だが、ティアは知っていたのだ。過分どころか、スカーレットがそんな二つ名に収まる存在でないことを……。
「もう一度聞こう。このまま斬られるか? それとも、主のところへ案内するか?」
よく通るメゾソプラノの声で、スカーレットが訊ねた。
その時、スカーレットとアルフィの背後から、不意に声が響いた。
「それには及ばないわ。スカーレット=フォン=ロイエンタール元帥」
驚くアルフィとは対照的に、スカーレットはすでに背後から近づく存在に気づいていたかのようにゆっくりと振り向いた。
「私は、アルヴィス=アムドゥシアス。その二人の主よ」
アルヴィスの姿を眼にした瞬間、アルフィは彼女がまるで次元の違う存在であることに気づいた。
悪魔伯爵であるヴァラクとエリゴス。
この二人の魔力でさえ、アルヴィスと比べれば可愛く感じた。それほど、アルヴィスの秘めた魔力量は絶大だった。ケラヴノス大聖堂に着いたとき、アルフィが「化け物」と感じたのは、間違いなくアルヴィスのことであった。
「この二人を相手にして、そこまで力の差を見せつけるとは、想像以上ね」
「お褒めの言葉として受け取っておく。しかし、お前の力はこの二人以上だと、私の中で何かが告げているぞ」
「さすが勇者の血を引く者ね。合っているわよ。これでも一応、悪魔公爵(デーモンデューク)を拝命しているから」
「悪魔公爵……」
アルフィが愕然として呟いた。それは、悪魔伯爵より二つも上の爵位だった。
「ここでお前と戦うと、大聖堂自体が持ちそうにないな。フレデリックとティアを素直に返すか、断るのであれば場所を変えるか、どちらがいい?」
スカーレットの提案に、アルヴィスは笑って答えた。
「そうね。どちらも魅力的な提案だけど、お断りするわ。ここでこのままやりましょう。大丈夫、大聖堂が壊れないように、私が手加減をしてあげるから」
その言葉を聞いた瞬間、スカーレットのスミレ色の瞳から紫炎が燃え上がった。
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