60 / 80
第十二章 天龍の法衣
5
しおりを挟む
冒険者ギルドのギルド証は縦五セグメッツェ、横三セグメッツェの長方形のプレートで、厚さは羊皮紙五枚分くらいだ。ギルド証はチェーンを通して首から掛けられる仕様になっており、その種類と材質は次の通りであった。
冒険者クラスSS ブルーダイヤモンド製(透明青色)
冒険者クラスS プラチナ製(白金色)
冒険者クラスA ミスリル製(青白金色)
冒険者クラスB 金製(金色)
冒険者クラスC 銀製(銀色)
冒険者クラスD アダマンタイト製(薄緑灰色)
冒険者クラスE 鉄製(濃灰色)
冒険者クラスF 青銅製(青銅色)
術士クラスSSであるアストレアのギルド証に使われているブルーダイヤモンドは、特殊なダイヤモンドの原石にオリハルコンとミスリルを魔力融合させた非常に稀少な金属だ。数ある金属の中で最も硬度が高いために、加工が難しく模造は不可能と言われていた。
プレートの表面に刻まれている刻印を見て、ベイルートはアストレアが紛れもなく術士クラスSSであることを実感した。
「所属:ゾルヴァラータ本部
氏名:アスティ
クラス:術士クラスSS
パーティ:<女王の騎士>」
「これがブルーダイヤモンドですか。初めて拝見しましたが美しいですね」
アストレアのギルド証を受け取ると、ベイルートはそのギルド証の価値にすぐに気づいた。これだけ綺麗に加工されているブルーダイヤモンドであれば、おそらく白金貨五千枚以上はするとベイルートは思った。
「それでは入金処理をしてまいりますので、しばらくお待ちください」
アストレアたちに深く一礼すると、ベイルートは応接室から出て行った。それを見送ると、アンナがアストレアに向かって言った。
「アスティ、下に何か着た方がいいわ。胸の谷間が見えて、ベイルートさんが目のやり場に困っていたわよ」
「え……? そうでしたか?」
アストレアは慌てて胸元を隠した。
「でも、セイリオスを誘惑するにはそのままの方がいいかもね? あいつのことだから、すぐに手を差し込んでくるわよ」
ニヤリと笑いながら、アンナが言った。
「アンナ、変なこと言わないでください。それより、アンナの方こそ気をつけた方がいいですよ」
「え? 何のこと?」
仕返しとばかりに、アストレアがいたずらそうな笑みを浮かべながら告げた。
「テントって、防音の結界を張っていても揺れるんですよ」
「え……? あっ……!」
アストレアの言葉の意味を理解すると、アンナの顔が真っ赤に染まった。その様子を楽しそうに見つめると、アストレアが追い打ちをかけた。
「『龍の旅荘』でしたね、二人が結ばれたのは……。翌朝の二人を見たら、バレバレでしたよ」
「アスティ……」
恥ずかしさのあまり、アンナは両手で顔を隠すと俯いた。そして、小さな声でアストレアに訊ねた。
「セイリオスも……気づいているの?」
「もちろんです。あれだけ甘い雰囲気を周囲にばらまいておいて、気づかれないとでも思っていたんですか?」
アストレアが楽しそうに笑いながら言った。
「恥ずかしい……」
「愛し合う男女が結ばれるのは、自然のことです。私はこうなる気がしていたので、ジュリアスさんの『剣の誓い』を受けなかったんです」
アストレアがそう告げると、アンナは顔を上げて小声で言った。
「『剣の誓い』を受けたわ」
「え……?」
アンナの言葉に、アストレアが驚きの表情を浮かべた。
「ジュリアスがあたしに、『剣の誓い』をしてくれたのよ。それを受けたわ」
「そうなんですか! それでは、ジュリアスさんはアンナだけの騎士になったんですね!」
喜びに両手を合わせながら、アストレアが興奮して言った。
「そういうことみたいね。あんまり実感はないけど……」
照れながらそう言うと、アンナは恥ずかしそうに顔を背けた。
「アンナ、『剣の誓い』を甘く見てはいけません。私はルシファーに捕まった時に思い知りました。剣士にとって『剣の誓い』は、自分の命よりもずっと大切なものなんです。セイリオスがそうしてくれたように、ジュリアスさんもアンナのためならいつでも死ぬつもりですよ」
真剣な表情を浮かべると、アストレアは黒曜石のように黒瞳を輝かせながらアンナに告げた。
「アスティ……。ジュリアスが命を賭けてあたしを……?」
「そうです。だから、アンナ。『剣の誓い』を受けるということは、その剣士の命を預かるという意味です。セイリオスが私のために命を賭けてくれるように、私はセイリオスを命がけで護ります。アンナもジュリアスさんに護られるだけでなく、彼を命がけで護ってください」
アストレアの言葉を黙って聞いていたアンナは、真っ直ぐに彼女の黒瞳を見つめながら大きく頷いた。
「分かりました、アストレア様。あたしもジュリアスのためにこの命を使います。お教えいただき、ありがとうございました」
アンナがアストレアに深く頭を下げた。それを見て、アストレアはアンナの頭を自分の胸にかき抱くと優しく告げた。
「アンナ、あなたは私の親友です。あなたやジュリアスさんに万一のことがあった場合には、私も出来る限りの力になります」
「アストレア様……」
アンナがアストレアの背中に手を廻して、強く抱きついた。アストレアも優しい笑みを浮かべると、アンナの紅髪を梳くように撫ぜた。
コン、コン……。
その時、応接室の扉がノックされた。アストレアとアンナは素早く抱擁を解き、ローブの乱れを直してソファに座り直した。
「はい、どうぞ……」
「失礼いたします。大変お待たせして申し訳ございません」
アストレアの入室許可を受けて、ベイルートが革のトレイを持ちながら応接室に入ってきた。トレイの上には、ブルーダイヤモンド製のアストレアのギルド証が載せられていた。
「こちらに白金貨四千五百枚を入金させていただきました。それと、今までお召しになっていたアスティ様とアンナ様のローブを買い取らせて頂きました。些細な金額ですが、そちらも一緒に入金させて頂いております」
「ありがとうございます、ベイルートさん」
ニッコリと笑顔を浮かべながら礼を言うと、アストレアはギルド証を受け取って首に掛けた。
「では、私たちはこれで失礼させて頂きます。色々とありがとうございました」
「入口までお見送りさせて頂きます。それから、当然ですがアスティ様のことは絶対に口外いたしません。ご安心ください」
「はい。私はベイルートさんを信用しております。よろしくお願いします」
アストレアの言葉を聞くと、ベイルートは嬉しそうに笑みを浮かべて深く一礼した。
アストレアたちはベイルートに店の入口まで見送られ、「魔女の箒屋」を後にした。
後日、二人はアストレアのギルド証に入金されていた金額を見て驚愕した。魔道杖の代金である白金貨四千五百枚の他に、ローブ買取代として白金貨五千五百枚が入金されていたのだ。合わせて白金貨一万枚もの大金がアストレアのギルド証に入っていたのだった。
アストレアが着ていた紺色のローブは、ロウメテールの服飾店で金貨三枚で購入した安物だった。特に気に入ってもいなかったが、必要に迫られて買ったものであり、実際に今日買い換えをした。そのローブはベイルートによって、白金貨五千五百枚で買い取られた。
「魔女の箒屋」の最上階にある特別展示室で、そのローブが『女神アストレア様がお召しになったローブ』として、その後数百年も展示され続けることになるなど、アストレアは想像さえもしていなかった。
今から百六十五年後に、アストレアの娘アンジェリーナがそのローブを眼にするのは別の話である。
冒険者クラスSS ブルーダイヤモンド製(透明青色)
冒険者クラスS プラチナ製(白金色)
冒険者クラスA ミスリル製(青白金色)
冒険者クラスB 金製(金色)
冒険者クラスC 銀製(銀色)
冒険者クラスD アダマンタイト製(薄緑灰色)
冒険者クラスE 鉄製(濃灰色)
冒険者クラスF 青銅製(青銅色)
術士クラスSSであるアストレアのギルド証に使われているブルーダイヤモンドは、特殊なダイヤモンドの原石にオリハルコンとミスリルを魔力融合させた非常に稀少な金属だ。数ある金属の中で最も硬度が高いために、加工が難しく模造は不可能と言われていた。
プレートの表面に刻まれている刻印を見て、ベイルートはアストレアが紛れもなく術士クラスSSであることを実感した。
「所属:ゾルヴァラータ本部
氏名:アスティ
クラス:術士クラスSS
パーティ:<女王の騎士>」
「これがブルーダイヤモンドですか。初めて拝見しましたが美しいですね」
アストレアのギルド証を受け取ると、ベイルートはそのギルド証の価値にすぐに気づいた。これだけ綺麗に加工されているブルーダイヤモンドであれば、おそらく白金貨五千枚以上はするとベイルートは思った。
「それでは入金処理をしてまいりますので、しばらくお待ちください」
アストレアたちに深く一礼すると、ベイルートは応接室から出て行った。それを見送ると、アンナがアストレアに向かって言った。
「アスティ、下に何か着た方がいいわ。胸の谷間が見えて、ベイルートさんが目のやり場に困っていたわよ」
「え……? そうでしたか?」
アストレアは慌てて胸元を隠した。
「でも、セイリオスを誘惑するにはそのままの方がいいかもね? あいつのことだから、すぐに手を差し込んでくるわよ」
ニヤリと笑いながら、アンナが言った。
「アンナ、変なこと言わないでください。それより、アンナの方こそ気をつけた方がいいですよ」
「え? 何のこと?」
仕返しとばかりに、アストレアがいたずらそうな笑みを浮かべながら告げた。
「テントって、防音の結界を張っていても揺れるんですよ」
「え……? あっ……!」
アストレアの言葉の意味を理解すると、アンナの顔が真っ赤に染まった。その様子を楽しそうに見つめると、アストレアが追い打ちをかけた。
「『龍の旅荘』でしたね、二人が結ばれたのは……。翌朝の二人を見たら、バレバレでしたよ」
「アスティ……」
恥ずかしさのあまり、アンナは両手で顔を隠すと俯いた。そして、小さな声でアストレアに訊ねた。
「セイリオスも……気づいているの?」
「もちろんです。あれだけ甘い雰囲気を周囲にばらまいておいて、気づかれないとでも思っていたんですか?」
アストレアが楽しそうに笑いながら言った。
「恥ずかしい……」
「愛し合う男女が結ばれるのは、自然のことです。私はこうなる気がしていたので、ジュリアスさんの『剣の誓い』を受けなかったんです」
アストレアがそう告げると、アンナは顔を上げて小声で言った。
「『剣の誓い』を受けたわ」
「え……?」
アンナの言葉に、アストレアが驚きの表情を浮かべた。
「ジュリアスがあたしに、『剣の誓い』をしてくれたのよ。それを受けたわ」
「そうなんですか! それでは、ジュリアスさんはアンナだけの騎士になったんですね!」
喜びに両手を合わせながら、アストレアが興奮して言った。
「そういうことみたいね。あんまり実感はないけど……」
照れながらそう言うと、アンナは恥ずかしそうに顔を背けた。
「アンナ、『剣の誓い』を甘く見てはいけません。私はルシファーに捕まった時に思い知りました。剣士にとって『剣の誓い』は、自分の命よりもずっと大切なものなんです。セイリオスがそうしてくれたように、ジュリアスさんもアンナのためならいつでも死ぬつもりですよ」
真剣な表情を浮かべると、アストレアは黒曜石のように黒瞳を輝かせながらアンナに告げた。
「アスティ……。ジュリアスが命を賭けてあたしを……?」
「そうです。だから、アンナ。『剣の誓い』を受けるということは、その剣士の命を預かるという意味です。セイリオスが私のために命を賭けてくれるように、私はセイリオスを命がけで護ります。アンナもジュリアスさんに護られるだけでなく、彼を命がけで護ってください」
アストレアの言葉を黙って聞いていたアンナは、真っ直ぐに彼女の黒瞳を見つめながら大きく頷いた。
「分かりました、アストレア様。あたしもジュリアスのためにこの命を使います。お教えいただき、ありがとうございました」
アンナがアストレアに深く頭を下げた。それを見て、アストレアはアンナの頭を自分の胸にかき抱くと優しく告げた。
「アンナ、あなたは私の親友です。あなたやジュリアスさんに万一のことがあった場合には、私も出来る限りの力になります」
「アストレア様……」
アンナがアストレアの背中に手を廻して、強く抱きついた。アストレアも優しい笑みを浮かべると、アンナの紅髪を梳くように撫ぜた。
コン、コン……。
その時、応接室の扉がノックされた。アストレアとアンナは素早く抱擁を解き、ローブの乱れを直してソファに座り直した。
「はい、どうぞ……」
「失礼いたします。大変お待たせして申し訳ございません」
アストレアの入室許可を受けて、ベイルートが革のトレイを持ちながら応接室に入ってきた。トレイの上には、ブルーダイヤモンド製のアストレアのギルド証が載せられていた。
「こちらに白金貨四千五百枚を入金させていただきました。それと、今までお召しになっていたアスティ様とアンナ様のローブを買い取らせて頂きました。些細な金額ですが、そちらも一緒に入金させて頂いております」
「ありがとうございます、ベイルートさん」
ニッコリと笑顔を浮かべながら礼を言うと、アストレアはギルド証を受け取って首に掛けた。
「では、私たちはこれで失礼させて頂きます。色々とありがとうございました」
「入口までお見送りさせて頂きます。それから、当然ですがアスティ様のことは絶対に口外いたしません。ご安心ください」
「はい。私はベイルートさんを信用しております。よろしくお願いします」
アストレアの言葉を聞くと、ベイルートは嬉しそうに笑みを浮かべて深く一礼した。
アストレアたちはベイルートに店の入口まで見送られ、「魔女の箒屋」を後にした。
後日、二人はアストレアのギルド証に入金されていた金額を見て驚愕した。魔道杖の代金である白金貨四千五百枚の他に、ローブ買取代として白金貨五千五百枚が入金されていたのだ。合わせて白金貨一万枚もの大金がアストレアのギルド証に入っていたのだった。
アストレアが着ていた紺色のローブは、ロウメテールの服飾店で金貨三枚で購入した安物だった。特に気に入ってもいなかったが、必要に迫られて買ったものであり、実際に今日買い換えをした。そのローブはベイルートによって、白金貨五千五百枚で買い取られた。
「魔女の箒屋」の最上階にある特別展示室で、そのローブが『女神アストレア様がお召しになったローブ』として、その後数百年も展示され続けることになるなど、アストレアは想像さえもしていなかった。
今から百六十五年後に、アストレアの娘アンジェリーナがそのローブを眼にするのは別の話である。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる