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第2章 究極の鎧
6 闇属性の罠
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「<星月夜>はローズちゃんを含めると、全部で五人になるわ。リーダーは魔道士クラスSのあたしね。他には、剣士クラスAで二十三歳のウォルフ。彼の二つ名は『天狼星』よ」
「ウォルフさんの名前なら知っています。このコートの元の持ち主らしいんです」
アトロポスは横に置いてある黒革のコートを手に取ると、クロトーに見せた。
「あら、どこかで見たことあると思ったら、ウォルフが昔使っていたコートじゃない? どうしたの、これ?」
「レウルーラ宮殿を脱出した時に、首都の古着屋で買いました。銀貨一枚と銅貨五枚でした。凄い掘り出し物だと思いませんか?」
アトロポスは、笑いながらクロトーに告げた。この黒革のコートには重量軽減魔法とサイズ調整魔法が付与されている。たとえ古着だとしても、本来は白金貨数千枚の価値があるようだった。
「これってたしか、ウォルフが新品で買ったときの値段は白金貨一万二千枚だったはずよ。ずいぶんと安く買えたわね」
そう告げると、クロトーは面白そうに笑いながら続けた。
「他のメンバーは、術士クラスAのラキシス。彼女の年齢は二十一歳で、二つ名は『月読の巫女』。アルティメットヒールも使える術士よ。それから、盾士クラスAのアイス。彼の二つ名は『蒼き守護者』よ。歳はたしか二十四歳だったかしら? ウォルフ、ラキシス、アイスの三人は今、アルティシア前王女と一緒にユピテル皇国に向かっているわ」
<星月夜>の紹介を聞きながら、アトロポスは疑問に感じたことをクロトーに訊ねた。
「何でクロトーさんは一人でザルーエクに残ったんですか?」
「あたしはアイザックと特別な契約をしているのよね。簡単に言えば、馬で三日以上かかる距離にはギルマスであるアイザックの承認なしで行かないという契約なの」
「何でそんな契約を……?」
まるでクロトーをこのザルーエクに縛り付けているようだと、アトロポスは考えた。
「こう見えても、あたしはこのザルーエク支部で唯一の魔道士クラスSなの。魔獣の異常発生など、重大な緊急事態に備えるために、原則三日以内にザルーエクに戻れる距離までしか移動をしない契約なのよ。その代わり、アイザックは色々とあたしに便宜を図ることになっているの。ローズちゃんの天龍の革鎧に魔法付与をしたなんていうのも、アイザックが紹介してくれた副業の一つよ」
「なるほど……。ザルーエク支部にとっては、貴重な戦力の抱え込みってところなんですね?」
たしかにザルーエク支部にとっては、クロトーほどの魔道士を常時防衛戦力として確保しておくメリットは大きいだろうと、アトロポスは考えた。
「ところで、ローズちゃん。お茶とお菓子はもういいかしら?」
「はい。とっても美味しかったです」
心からの感想をアトロポスはクロトーに述べた。
「では、そろそろ行きましょうか?」
「え? どこへ行くんですか?」
笑顔で告げたクロトーの言葉の意味が分からずに、アトロポスがキョトンとした表情で訊ねた。
「ギルドに戻って、ローズちゃんの<星月夜>への加入手続きをしないとね。クラスAで固定パーティに加入しないままでいたら、ギルド中の冒険者パーティから勧誘地獄に遭うわよ」
「な、なるほど……。分かりました。お願いします」
掲示板の前にいた人だかりを思い出して、アトロポスは顔を引き攣らせた。
「それから、手続きを終えたら地下訓練場を借りて、その装備に慣れる練習をした方がいいわね。せっかくの速度強化と筋力強化も、いざという時に使えなかったら宝の持ち腐れよ」
「分かりました。そうします」
アトロポスはクロトーのアドバイスに素直に頷いた。クロトーの言うとおり、一日も早く天龍の革鎧に慣れる必要があるのは間違いなかった。
「では、ギルドに戻りましょう」
「はい」
アトロポスは席を立つと、クロトーとともに冒険者ギルド・ザルーエク支部へと向かった。
ギルドの受付カウンターでミランダを呼び出すと、アトロポスはクロトーに立ち会ってもらいながら<星月夜>への加入申請を行った。リーダーであるクロトーが同席していることもあり、申請用紙一枚を書いただけで何事もなく承認された。
「ミランダちゃん、あそこに張ってあるローズちゃんの昇格辞令だけど、パーティ名に<星月夜>って追加しておいてね」
「はい、かしこまりました」
ある意味、ギルドマスターよりも絶大な権力を持つクロトーに直接依頼され、ミランダは直立不動になりながら頷いた。
「そこにいるみんな、よく聞きなさい!」
ミランダの様子を微笑みながら見ていたクロトーが、突然振り返って周囲の冒険者たちに向かって声を上げた。
「『夜薔薇』こと剣士クラスAのローズは、たった今を持って<星月夜>に加入した。今後、彼女に対して勧誘を行った者は、この『妖艶なる殺戮』クロトーに喧嘩を売ったものと見做す! よく覚えておきなさい!」
宣戦布告とも呼べるクロトーの宣言に、冒険者たちはシンと静まりかえった。レウルキア王国はおろか、ムズンガルド大陸随一の魔道士に対して文句を言える者など誰一人としていなかったのである。
こうして、アトロポスは<星月夜>の正式なメンバーとして認められた。
クロトーは地下の訓練場を借り切ると、魔力制御の訓練をアトロポスに課した。
「そうじゃないわ! もっと意識を集中しなさい! 丹田に魔力を集めて一気に解放するのよ!」
「はいッ!」
(これ、めちゃくちゃ難しい……)
訓練場の中央部に立ち、アトロポスは眼を閉じて精神を統一した。体の中の魔力の流れを感じ取り、丹田と呼ばれる臍の裏側に集めることをイメージする。
そして、丹田に熱を感じたら、一気に魔力を解放した。アトロポスの全身から薄らと黒い覇気が立ち上った。
「全然集中できてないわよ。レオンハルトと戦った時のことを思い出しなさい。あの時の覇気を自在に引き出せるようにならないと話にならないわ」
「はい……ッ!」
再びアトロポスは眼を閉じると、丹田を意識して魔力を集めた。だが、集まった魔力を解放しても、薄い覇気を纏っただけだった。
「まあ、始めてすぐにできるとは思えないけど……。しばらくはその訓練を続けて。あたしはアイザックに用事があるから外すわね。また、後で来るわ」
「はい。すみません、クロトーさん」
訓練に付き合ってもらったクロトーに頭を下げると、彼女の後ろ姿を見送りながらアトロポスは考えた。
(あの時と何が違うのかしら?)
何か、根本的に違うような気がしてならなかった。
(あの時は、レオンハルトさんの放った火炎刃を防ぐために、必死でその気配を感じようとしたんだっけ? 同じ精神集中でも、命がかかっているのといないのでは違うのかな?)
模擬戦でレオンハルトが即死部位を狙うはずはないため、火炎刃が直撃しても死には至らなかったはずだ。だが、少なくても四肢の切断くらいはされていた可能性は高かった。
(今回は攻撃も受けずに、ただ立っているだけだ。あの時と比べると、緊張感とか切迫感が全然違うからかも……)
だが、クロトーの指示したこの訓練方法が間違っているとは思えなかった。
(命の危機を感じなければ覇気を解放できないんじゃ、話にならないわ。いつでも、どんな状態でも覇気を纏えるようにならないと、この天龍の革鎧の性能を発揮できない)
アトロポスは気を取り直すと、再び眼を閉じて精神集中を始めた。
二ザン後、アイザックとの打ち合わせを終えて戻ってきたクロトーは、地下訓練場の中央付近で意識を失って倒れているアトロポスを発見することになったのだった。
クロトーはギルドの男性職員に依頼して、昼間アトロポスとお茶をした店の二階まで彼女を運んでもらった。一目見て、魔力切れを起こしていることは明白だった。
来客用の寝室にある寝台にアトロポスを寝かせると、安らかな寝息を立てている顔を見ながら考えた。
(魔力切れを起こすということは、魔力を使っている証拠よね? 実際に、薄らとだけど闇属性の覇気を纏っていたし……)
だが、実際にはレオンハルトと戦った時の千分の一にも満たない魔力しか感じられなかった。
(何でかしら? いくら魔力制御が初めてとは言え、あれだけの魔力量を持つローズちゃんが、薄い覇気しか纏えないなんて……? 闇属性特有の何かがあるのかしら?)
エルフであるクロトー自身は、光属性の魔道士だった。アトロポスとは正反対の属性であるため、闇属性に関する知見もなくアドバイスができなかった。
(ん? 闇属性……。何か引っかかるわね? 何かしら……?)
その時、アトロポスが寝返りを打った。長い黒髪が天龍の革鎧の直垂に纏わり付き、寝苦しそうに見えた。クロトーが黒髪を優しくかき上げてやると、直垂にある銀色の薔薇の刺繍が眼に入った。
「そうだわッ!」
その刺繍を見た瞬間、クロトーは大切なことを思い出して思わず叫んだ。
(あたしとしたことが……! 何で気づかなかったのかしら? ローズちゃんは闇属性なのよ!)
ローズが闇属性であることは間違いなかった。レオンハルトに放った漆黒の覇気が、彼女が闇属性であることの何よりの証拠だった。
そして……。
(天龍は光属性だわ! 天龍の革鎧が、ローズちゃんの闇属性魔法を相殺している!?)
闇属性と光属性は相反する属性だ。たぶん、この考えに間違いはないだろうとクロトーは確信した。
(明日、ローズちゃんに天龍の革鎧なしで訓練をしてもらえばいい。その結果、ローズちゃんが覇気を纏うことができれば、あたしの考えが正しいことが証明されるわ!)
だが、単に証明できただけではダメだった。アトロポスが天龍の革鎧を使いこなせるようになることが訓練の目的なのだ。
(そのためには、天龍の革鎧にもう一つの付与が必要になるわね)
しかし、その方法には大きなリスクがあった。万一失敗した場合、現在付与されている四つの魔法がすべて消滅してしまうのだ。そして、鎧自体の耐久性も極端に下がるため、二度と魔法付与に耐えられないばかりか、天龍の皮が本来持っている物理耐性や魔法耐性も劣化してしまうのだ。
四大龍筆頭と言われる天龍は、元々の個体数が極端に少ない。必然的に討伐数も非常に少なく、天龍の革鎧が市場に出回ることは数年に一度しかなかった。つまり、五つ目の付与に失敗した場合、代替となる天龍の革鎧が存在しないのだった。
(いえ、可愛いローズちゃんのためよ。『妖艶なる殺戮』の名に賭けて、絶対に成功させてみせるわ!)
クロトーは五つ目の付与となる【属性転換魔法】を天龍の革鎧に施すことを決意した。
「ウォルフさんの名前なら知っています。このコートの元の持ち主らしいんです」
アトロポスは横に置いてある黒革のコートを手に取ると、クロトーに見せた。
「あら、どこかで見たことあると思ったら、ウォルフが昔使っていたコートじゃない? どうしたの、これ?」
「レウルーラ宮殿を脱出した時に、首都の古着屋で買いました。銀貨一枚と銅貨五枚でした。凄い掘り出し物だと思いませんか?」
アトロポスは、笑いながらクロトーに告げた。この黒革のコートには重量軽減魔法とサイズ調整魔法が付与されている。たとえ古着だとしても、本来は白金貨数千枚の価値があるようだった。
「これってたしか、ウォルフが新品で買ったときの値段は白金貨一万二千枚だったはずよ。ずいぶんと安く買えたわね」
そう告げると、クロトーは面白そうに笑いながら続けた。
「他のメンバーは、術士クラスAのラキシス。彼女の年齢は二十一歳で、二つ名は『月読の巫女』。アルティメットヒールも使える術士よ。それから、盾士クラスAのアイス。彼の二つ名は『蒼き守護者』よ。歳はたしか二十四歳だったかしら? ウォルフ、ラキシス、アイスの三人は今、アルティシア前王女と一緒にユピテル皇国に向かっているわ」
<星月夜>の紹介を聞きながら、アトロポスは疑問に感じたことをクロトーに訊ねた。
「何でクロトーさんは一人でザルーエクに残ったんですか?」
「あたしはアイザックと特別な契約をしているのよね。簡単に言えば、馬で三日以上かかる距離にはギルマスであるアイザックの承認なしで行かないという契約なの」
「何でそんな契約を……?」
まるでクロトーをこのザルーエクに縛り付けているようだと、アトロポスは考えた。
「こう見えても、あたしはこのザルーエク支部で唯一の魔道士クラスSなの。魔獣の異常発生など、重大な緊急事態に備えるために、原則三日以内にザルーエクに戻れる距離までしか移動をしない契約なのよ。その代わり、アイザックは色々とあたしに便宜を図ることになっているの。ローズちゃんの天龍の革鎧に魔法付与をしたなんていうのも、アイザックが紹介してくれた副業の一つよ」
「なるほど……。ザルーエク支部にとっては、貴重な戦力の抱え込みってところなんですね?」
たしかにザルーエク支部にとっては、クロトーほどの魔道士を常時防衛戦力として確保しておくメリットは大きいだろうと、アトロポスは考えた。
「ところで、ローズちゃん。お茶とお菓子はもういいかしら?」
「はい。とっても美味しかったです」
心からの感想をアトロポスはクロトーに述べた。
「では、そろそろ行きましょうか?」
「え? どこへ行くんですか?」
笑顔で告げたクロトーの言葉の意味が分からずに、アトロポスがキョトンとした表情で訊ねた。
「ギルドに戻って、ローズちゃんの<星月夜>への加入手続きをしないとね。クラスAで固定パーティに加入しないままでいたら、ギルド中の冒険者パーティから勧誘地獄に遭うわよ」
「な、なるほど……。分かりました。お願いします」
掲示板の前にいた人だかりを思い出して、アトロポスは顔を引き攣らせた。
「それから、手続きを終えたら地下訓練場を借りて、その装備に慣れる練習をした方がいいわね。せっかくの速度強化と筋力強化も、いざという時に使えなかったら宝の持ち腐れよ」
「分かりました。そうします」
アトロポスはクロトーのアドバイスに素直に頷いた。クロトーの言うとおり、一日も早く天龍の革鎧に慣れる必要があるのは間違いなかった。
「では、ギルドに戻りましょう」
「はい」
アトロポスは席を立つと、クロトーとともに冒険者ギルド・ザルーエク支部へと向かった。
ギルドの受付カウンターでミランダを呼び出すと、アトロポスはクロトーに立ち会ってもらいながら<星月夜>への加入申請を行った。リーダーであるクロトーが同席していることもあり、申請用紙一枚を書いただけで何事もなく承認された。
「ミランダちゃん、あそこに張ってあるローズちゃんの昇格辞令だけど、パーティ名に<星月夜>って追加しておいてね」
「はい、かしこまりました」
ある意味、ギルドマスターよりも絶大な権力を持つクロトーに直接依頼され、ミランダは直立不動になりながら頷いた。
「そこにいるみんな、よく聞きなさい!」
ミランダの様子を微笑みながら見ていたクロトーが、突然振り返って周囲の冒険者たちに向かって声を上げた。
「『夜薔薇』こと剣士クラスAのローズは、たった今を持って<星月夜>に加入した。今後、彼女に対して勧誘を行った者は、この『妖艶なる殺戮』クロトーに喧嘩を売ったものと見做す! よく覚えておきなさい!」
宣戦布告とも呼べるクロトーの宣言に、冒険者たちはシンと静まりかえった。レウルキア王国はおろか、ムズンガルド大陸随一の魔道士に対して文句を言える者など誰一人としていなかったのである。
こうして、アトロポスは<星月夜>の正式なメンバーとして認められた。
クロトーは地下の訓練場を借り切ると、魔力制御の訓練をアトロポスに課した。
「そうじゃないわ! もっと意識を集中しなさい! 丹田に魔力を集めて一気に解放するのよ!」
「はいッ!」
(これ、めちゃくちゃ難しい……)
訓練場の中央部に立ち、アトロポスは眼を閉じて精神を統一した。体の中の魔力の流れを感じ取り、丹田と呼ばれる臍の裏側に集めることをイメージする。
そして、丹田に熱を感じたら、一気に魔力を解放した。アトロポスの全身から薄らと黒い覇気が立ち上った。
「全然集中できてないわよ。レオンハルトと戦った時のことを思い出しなさい。あの時の覇気を自在に引き出せるようにならないと話にならないわ」
「はい……ッ!」
再びアトロポスは眼を閉じると、丹田を意識して魔力を集めた。だが、集まった魔力を解放しても、薄い覇気を纏っただけだった。
「まあ、始めてすぐにできるとは思えないけど……。しばらくはその訓練を続けて。あたしはアイザックに用事があるから外すわね。また、後で来るわ」
「はい。すみません、クロトーさん」
訓練に付き合ってもらったクロトーに頭を下げると、彼女の後ろ姿を見送りながらアトロポスは考えた。
(あの時と何が違うのかしら?)
何か、根本的に違うような気がしてならなかった。
(あの時は、レオンハルトさんの放った火炎刃を防ぐために、必死でその気配を感じようとしたんだっけ? 同じ精神集中でも、命がかかっているのといないのでは違うのかな?)
模擬戦でレオンハルトが即死部位を狙うはずはないため、火炎刃が直撃しても死には至らなかったはずだ。だが、少なくても四肢の切断くらいはされていた可能性は高かった。
(今回は攻撃も受けずに、ただ立っているだけだ。あの時と比べると、緊張感とか切迫感が全然違うからかも……)
だが、クロトーの指示したこの訓練方法が間違っているとは思えなかった。
(命の危機を感じなければ覇気を解放できないんじゃ、話にならないわ。いつでも、どんな状態でも覇気を纏えるようにならないと、この天龍の革鎧の性能を発揮できない)
アトロポスは気を取り直すと、再び眼を閉じて精神集中を始めた。
二ザン後、アイザックとの打ち合わせを終えて戻ってきたクロトーは、地下訓練場の中央付近で意識を失って倒れているアトロポスを発見することになったのだった。
クロトーはギルドの男性職員に依頼して、昼間アトロポスとお茶をした店の二階まで彼女を運んでもらった。一目見て、魔力切れを起こしていることは明白だった。
来客用の寝室にある寝台にアトロポスを寝かせると、安らかな寝息を立てている顔を見ながら考えた。
(魔力切れを起こすということは、魔力を使っている証拠よね? 実際に、薄らとだけど闇属性の覇気を纏っていたし……)
だが、実際にはレオンハルトと戦った時の千分の一にも満たない魔力しか感じられなかった。
(何でかしら? いくら魔力制御が初めてとは言え、あれだけの魔力量を持つローズちゃんが、薄い覇気しか纏えないなんて……? 闇属性特有の何かがあるのかしら?)
エルフであるクロトー自身は、光属性の魔道士だった。アトロポスとは正反対の属性であるため、闇属性に関する知見もなくアドバイスができなかった。
(ん? 闇属性……。何か引っかかるわね? 何かしら……?)
その時、アトロポスが寝返りを打った。長い黒髪が天龍の革鎧の直垂に纏わり付き、寝苦しそうに見えた。クロトーが黒髪を優しくかき上げてやると、直垂にある銀色の薔薇の刺繍が眼に入った。
「そうだわッ!」
その刺繍を見た瞬間、クロトーは大切なことを思い出して思わず叫んだ。
(あたしとしたことが……! 何で気づかなかったのかしら? ローズちゃんは闇属性なのよ!)
ローズが闇属性であることは間違いなかった。レオンハルトに放った漆黒の覇気が、彼女が闇属性であることの何よりの証拠だった。
そして……。
(天龍は光属性だわ! 天龍の革鎧が、ローズちゃんの闇属性魔法を相殺している!?)
闇属性と光属性は相反する属性だ。たぶん、この考えに間違いはないだろうとクロトーは確信した。
(明日、ローズちゃんに天龍の革鎧なしで訓練をしてもらえばいい。その結果、ローズちゃんが覇気を纏うことができれば、あたしの考えが正しいことが証明されるわ!)
だが、単に証明できただけではダメだった。アトロポスが天龍の革鎧を使いこなせるようになることが訓練の目的なのだ。
(そのためには、天龍の革鎧にもう一つの付与が必要になるわね)
しかし、その方法には大きなリスクがあった。万一失敗した場合、現在付与されている四つの魔法がすべて消滅してしまうのだ。そして、鎧自体の耐久性も極端に下がるため、二度と魔法付与に耐えられないばかりか、天龍の皮が本来持っている物理耐性や魔法耐性も劣化してしまうのだ。
四大龍筆頭と言われる天龍は、元々の個体数が極端に少ない。必然的に討伐数も非常に少なく、天龍の革鎧が市場に出回ることは数年に一度しかなかった。つまり、五つ目の付与に失敗した場合、代替となる天龍の革鎧が存在しないのだった。
(いえ、可愛いローズちゃんのためよ。『妖艶なる殺戮』の名に賭けて、絶対に成功させてみせるわ!)
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