【ブルー・ウィッチ・シリーズ】 復讐の魔女

椎名 将也

文字の大きさ
19 / 32

第18章 Σナンバー

しおりを挟む
 同じ頃、惑星イリスにおいて、イシュタール隊が一人を除いて全滅していた。ただ一人生き残ったエレナ=マクドリアは、必死になってアラン王子の行方を探していた。
 手掛かりは何もない。
 イリス聖王家第一王位継承者アラン=アルファ=イリスは、彼の求める実妹ロザンナ王女の手によって、さらわれたのである。

(カレドール塔だわ!)
 エレナの直感がそう告げた。
 惑星イリスの聖都オディッセアには、五つの塔がそびえている。その一つであるカレドール塔は、凶悪犯罪者を収容する目的で造られた塔であり、エレナたちの目的であるロザンナ王女が幽閉されていると思われていた場所であった。

(アンデス、ジャック隊長、イル……)
 エレナは殺された仲間の顔を思い浮かべた。
(ロザンナ王女、あなただけは絶対に許さない!)
 エレナは左腕のブレスレット型マイクロ通信機に向かって叫んだ。
「フレア、聞こえる?」
 イシュタール隊五人の内、この作戦に投入されたのは四人である。残りの一人、フレア=レイ准尉は、作戦のバックアップとして彼らが搭乗してきた機動ヘリコプターDRX-153に待機していた。

「こちらフレア、エレナ中尉ですか?」
 通信機から若い女性の声が響いた。
「そうよ。今どこにいるの?」
「ポイントX37-Y176です。イリス宮殿まで約五分の位置です」
「Sクラス戦闘態勢で、すぐに来て! 私の位置は把握しているわね!」
「Sクラス……! り、了解!」
 イシュタール隊では、通常のAからDクラスの戦闘態勢の他に、特別にSクラス戦闘態勢を設けていた。これは完全武装のAクラス戦闘態勢に加え、D弾(超小型指向性中性子ミサイル)をいつでも発射出来る態勢をとることであった。

「最大戦速で何分かかる?」
 エレナが真剣な表情で訊ねた。
「三分四十秒です!」
 フレアの声が緊張に震える。彼女、フレア=レイ准尉は、三ヶ月前にイシュタール隊に配属となった十九才の少女であった。先のクーデターを除き、実戦の経験は皆無である。しかし、イリス聖王家軍にとって、アラン王子が率いるイシュタール隊は最精鋭のチームである。その一員となるには、予備軍役を主席で卒業し、Bクラス以上のESPを有していなければならなかった。

 フレアも例外ではない。彼女は、イシュタール隊で最も強力なESPであった。その能力は、Aクラス・ランクεである。
 AクラスのESPは、GPS管轄内に現在七名しか存在していない。

 GPS特別犯罪課特殊捜査官ジェシカ=アンドロメダ大尉。Aクラス・ランクα。
 GPS特別犯罪課特殊捜査官ジュリアス=グレーデル少尉。Aクラス・ランクβ。
 GPS情報部特別情報課グレイ=レービン中佐。Aクラス・ランクγ。
 惑星フランディナール警察軍情報部ESP課ブルー=アシュレィ少佐。Aクラス・ランクκ。
 惑星ロンウォール機動警察軍特殊情報部アゼリア=クリュティーヌ准佐。Aクラス・ランクν。
 惑星イリス聖王家軍イシュタール隊副隊長エレナ=マクドリア中尉。Aクラス・ランクρ。
 惑星イリス聖王家軍イシュタール隊フレア=レイ准尉。Aクラス・ランクε。

 この七名は、GPSに数万人いる登録ESPの頂点に立つESPである。その能力は、ESP指数九十パーセント以上であった。

 ESP指数とは、その発現率と能力の両面から計算された数値である。ESP指数九十パーセントという数値は、発現率九十九・九パーセント以上であり、能力はサイコキネシス(精神念動力)、テレパシー(精神感応力)、テレポート(瞬間移動力)の総合指数が三百分の二百七十五以上であることを示している。
 彼ら以上の能力を持つ登録ESPは、GPSだけでなく銀河系にただ一人……。ΣナンバーのESPであり、<銀河系最強の魔女>と呼ばれる女性だけであった。

「フレア、アラン王子がさらわれたわ」
 エレナが、フレアの操縦する機動ヘリコプターDRX-153にテレポート・アウトして告げた。
「……! いったい、誰に……?」
 フレアが驚愕して訊ねた。アラン王子には、AクラスESPのエレナと、BクラスESPのアンデス=ゲールの二人が護衛についていたはずである。
「それだけじゃない。ジャック隊長、イル、そして、アンデス……。みんな殺された……」
「……! そんな……」
 フレアが絶句した。

「相手はたった一人のESP……。それも、私たちが良く知っている人間よ……」
 冷静な口調でエレナが告げた。
「……まさか?」
 フレアが脳裏に浮かんだ幻影を否定するように言った。
 その幻影は、金髪碧眼の美女であった。そして、額に聖王家の人間であることを示す双頭竜をあしらったダイヤモンドのヘアバンドをはめていた。

「相手は、ロザンナ=アルファ=フィオナ。彼女は、間違いなくΣナンバーのESPよ」
 フレアのイメージを読み取ったかのように、エレナが告げた。
「Σナンバー……? その能力を持つESPは、銀河系に一人しかいないはずでは……?」
「私もそう思っていた。しかし、現実に私を始め、隊長達のESPを封じ込めたのよ。Aクラスと、二人のBクラスのESPを同時にブロックできるESPなんて、Σナンバーでなければ不可能だわ!」
 エレナが断言した。そして、驚愕するフレアに対して、言葉を続けた。

「D弾の発射準備は出来ているわね!」
「は、はい……。しかし……」
「しかし、何……?」
「ほ、本当にD弾を使用するのですか?」
 フレアが愕然として訊ねた。

 D弾……正式名称、超小型指向性中性子ミサイルは、半径二百キロメートル以内にある全てのものを瞬時に粒子分解してしまう。そして、半径千キロメートル以内は致死量をはるかに超える放射能に汚染され、数年間は人間どころか微生物さえも生息不可能な<死の都市>と化してしまう。
 有人惑星上での核兵器の使用は、最悪の場合、その惑星の生態系を変えることを意味しており、銀河条約で堅く禁じられていた。

「ΣナンバーのESP相手に、他にどんな方法があるって言うの?」
 エレナの言葉に、フレアが激しく反対した。
「しかし、イリス宮殿は聖都オディッセアの中心にあります。D弾を使用すれば、オディッセアで生活する数万人を虐殺することになります。そんな命令には、従えません!」
「誰がイリス宮殿に向けて撃つって言ったの? そんな非人道的な命令を出すつもりはないわ」
 エレナが厳しい口調で告げた。

「ロザンナ王女をここから千五百キロ南のアーリア海洋上に移動させるのよ。そこならば、魚介類に影響は出るにしろ、少なくても死者は出ないわ!」
「でも、どうやって……?」
 フレアが納得すると同時に、素朴な疑問を投げかけた。ロザンナ王女がこの場所を移動するメリットが考えられないのである。

「私が王女と闘ってそこまで逃げてくるわ。あなたはアーリア海で待っていて!」
「Σナンバー相手に、闘うんですか? 自殺行為ですよ!」
 フレアが驚愕して言った。エレナがAクラスESPであるにしろ、相手は簡単に彼女のESPをブロックすることが出来るのだ。

「もちろん、私一人じゃ無理よ。あなたが私に同調シンクロするのよ! Aクラスが二人同調すれば、その能力は相乗効果で四倍になるわ。少しはまともな闘いになるかも知れない!」
「……! 分かりました。やってみる価値はありそうですね!」
 フレアが微笑んだ。

 その時……!
『無駄なことはやめなさい!』
 圧倒的な存在感を有するテレパシーが、二人の脳に直接響きわたった。
「……!」
「誰ッ……?」
 エレナたちは頭を抱えながら訊ねた。それほど強力なテレパシーだったのだ。

『あなたたちが何人同調しても、ロザンナ王女は倒せない!』
 テレパシーが無情に告げた。
『まして、D弾くらいでは彼女を殺すことは出来ないわ!』
「誰なのッ!」
 エレナが怒鳴った。
『あなたたちは、ロザンナ王女のESPを甘く見過ぎている。彼女の潜在能力は、私以上かも知れないのよ!』

「……! ま、まさか……」
 エレナが愕然とした。彼女の脳裏に、GPS管轄惑星すべてに配布されている一枚の指名手配ポスターの写真が浮かんだ。

<WANTED ランク-A(A級指名手配)>、その文字の上に印刷された一枚のフォトグラフ。
 比類なく危険な魅力と、銀河系随一の美貌を併せ持つ女性……。
 流れ落ちる滝のような淡青色の長い髪。知的な、それでいて強烈な意志を浮かべたプルシアン・ブルーの瞳と透き通るような白い肌。細く高い鼻梁と魅惑的なローズ・ピンクの唇。
 そして、その美貌を唯一裏切っている左頬のy字型の裂傷……。

「あなたは、まさか……」
『私は、テア=スクルト……』
 エレナが自分の考えを告げようとすると同時に、<銀河系最強の魔女>が名のった。
『アランとの約束を果たす時が来たわ。これから先は、私に任せてアルカディア要塞に戻りなさい、エレナ=マクドリア大尉……』
「……!」
(私の名前を知っているッ?)
 エレナが驚いた。

『そして、フレア=レイ准尉。貴重なAクラス・ESPを二人も失いたくないわ。アランは私が必ず救い出してみせる。あなたたちはアルカディア要塞で彼の帰りを待っていなさい!』
「冗談じゃない! あなたが王子とどんな約束をしているか知らないけれど、王子は私たちが助けるわ! それより、姿を見せたらどうなの?」
 エレナが叫んだ。
(アラン、アランって、気安く呼びつけにしないでよ!)

『あなたたちのESPでは、ロザンナ王女と闘うなんて無理なのよ……』
 テアがそう告げた瞬間、エレナ達のESPは完全にブロックされた。
「そ、そんな……!」
 それだけではなかった。二人は金縛りにあったように、身動き一つ出来なくなったのである。

(これが……、Σナンバーなの……!)
 AクラスのESPは、GPS宇宙艦隊一つに匹敵する破壊力があると言われている。それを、一度に二人も封じ込め、完全に行動不能にしてしまう。
 Σナンバーとは、それほど強力なESPなのか……?
(いえ、違う!)
 エレナは愕然として気づいた。
(これが……、<銀河系最強の魔女>なんだわ……)
 エレナの背中を、紛れもない戦慄が舐め上げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...