【ブルー・ウィッチ・シリーズ】 復讐の魔女

椎名 将也

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エピローグ

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「ジュピターが……、私の父親……?」
 ジェシカの話を聞き終えたテアが、愕然として呟いた。
「そして、<テュポーン>の副総統ソルジャー=スピカの本名は、エマ=トスカ。あなたの本当のお母さんよ……」
「そんな……」
 信じがたい動揺を瞳に浮かべて、テアは茫然自失していた。

 ここは、テアの愛機<スピリッツ>の艦橋である。ジュピターのブロックから解放されたテアとシュンは、ジェシカの待つ<スピリッツ>へテレポートしてきたのだった。衛星ガダルカナルでのESP反応があまりに強大であったため、シュンは彼女を<スピリッツ>に残しておいたのである。

「どうする、テア? ジェイに会うつもりなのか?」
 真剣な眼差しでテアを見つめながらシュンが訊ねた。
「……」
 テアは唇を噛みしめると、言葉を失ったように黙り込んだ。

「シュン、そんな事、すぐに決められるはずないわ。テアの気持ちも考えてやって!」
 ジェシカがシュンを睨み付ける。
「そうだな、悪かった……」
「私……ジェイに会ってくるわ」
 不意に、テアが美しい顔を上げて言い放った。

「テア……」
 驚いたように、ジェシカが言った。
「でも、その前にこの戦争をやめさせなければならない。それが済んだら、ジェイに会いに行くわ」
「テア、あのMICチップのメッセージは何なの?」
 ジェシカが訊ねた。

 テアは彼女に告げたのだった。MICチップをブライアン提督に渡せば、戦争を止められる。まだ、間に合う……と。
 その言葉を信じ、危険を冒してジェシカはそれをSHLに届けた。彼女には、その内容を聞く権利があった。

「シュン、<スピリッツ>のセカンド・ルームがロックされていることに気づいているわね」
 シュンの眼を真っ直ぐに見つめると、テアが訊ねた。
「ああ、その事も気になっていたんだ。バイオ・コンピューターの奴、テアの承認がないとセカンド・ルームを開けないって言いやがった」
「<スピリッツ>へ、マスターより命令する。セカンド・ルームのロックを解除しなさい」
 テアがバイオ・コンピューターに命じた。

『マスターと認識しました。命令を受諾。セカンド・ルームのロックを解除します』
 その瞬間、コンソール・パネルに並んだランプのうち、セカンド・ルームをロックしていることを示す赤いランプが、緑に変わった。
「ジェシカ、シュン。セカンド・ルームに行きましょう」
 テアが二人を促した。

 <スピリッツ>は百五十メートル級小型宇宙艇のため、艦橋を抜けて十メートルも歩けばプライベート・ルームにたどり着く。艦橋を背にして右手がファースト・ルーム、左手が問題のセカンド・ルームであった。
 三人はセカンド・ルームのドアの前で立ち止まった。

「開けて……」
 テアが再び、バイオ・コンピューターに命じた。特殊チタン鋼で出来たドアが右にスライドする。
「……!」
「なッ……?」
 シュンとジェシカは、セカンド・ルームに足を踏み入れた瞬間、言葉を失った。

 十五平方メートルの部屋の造りは、テアが常時使っているファースト・ルームと同じである。だが、その部屋の中央には、コールド・スリープ治療装置が置かれていた。
 その中に一人の男が横たわっている。高齢の男だ。年齢は六十才を越えているだろう。白髪の混ざった頭髪を短くカットし、額には深い皺が刻まれている。彫りの深い顔に、精悍さが滲み出た男であった。

 シュンとジェシカは、この男を知っていた。直接、言葉を交わしたことはない。しかし、男は現在、銀河系で最も有名な人間の一人であった。
「完治まで、あとどのくらい?」
 テアが、バイオ・コンピューターに訊ねた。

『十七時間前に、治療を完了しております。命令があれば、いつでも蘇生可能です』
「ちょうど良かったわ。彼を蘇生させて……」
『了解しました。蘇生に三十分ほど掛かります』
「すぐに始めなさい。彼が目覚めたら、教えて……」
 そう言うと、呆然としている二人を促して、テアは艦橋に戻った。

「彼が、この戦争を中止させる切り札よ……」
 パイロット・シートに腰を下ろすと、テアが告げた。
 そう、男の名前は……。
 ロバート=グローバル。
 宇宙平和連邦SHL初代大統領であった。

「ジェシカに頼んだMICチップには、彼の生存とその受け渡しについてのメッセージを入れてあったの」
 淡青色の髪をかき上げながら、テアが言った。同時に、彼女はグローバル大統領の生命を助けた経緯を二人に説明した。

「まったく……。あんたのやる事には、ついて行けないわ」
 呆れたように、ジェシカが言った。
「同感だ。どんなに美人でも、絶対にパートナーにしたくない女だぜ。俺にはジェシカが丁度いい」
 シュンが笑って言った。
「ちょっと、どういう意味よ!」
 ジェシカがぷうっと頬を膨らませた。爆笑が三人を包み込んだ。

「ひとつ心配なのは、二百万人の将兵を失ったSHLが、素直に宣戦布告を撤回するかってことね」
 ジェシカが笑いを収めて言った。
「それについては、たぶん大丈夫だと思う。<パルテノン>は明らかに銀河条約違反だわ。戦闘型機動要塞の消失を、SHLは公然と責任追及出来ないわ」
「そうかッ!」
 ジェシカがパチンと指を鳴らした。

「大きな傷跡は残るにしろ、当面はSHLも宣戦布告を撤回せざるを得ないわ。全面戦争は避けられるのよ」
「良かった……」
 ジェシカが心から安堵したように言った。
「あなたたちの協力のおかげよ。ありがとう」
 テアが右手を差し出した。ジェシカとシュンが、交互にそれを握り締める。

「ところで、テア。この交渉がうまくいった後は、どうするんだ?」
 手を離すと同時に、シュンが訊ねた。
「取りあえず、ネオ・ジオイドの場所を探すわ。ジェシカも知らないんでしょう?」
「ソルジャー=スピカに連れて行かれた時には、ESP抑制リングをはめさせられてたから……」
 済まなそうな表情を浮かべながら、ジェシカが告げた。

「あなたのせいじゃないわ。それに、ロザンナ王女も取り戻さなくてはならないし……」
 建て前をテアが告げた。彼女の本音は、もちろんジェイと会うことである。しかし、ジェシカたちは敢えてそれに触れなかった。
「テア、パートナーって言うのは、二人じゃなければいけないのか?」
 シュンが訊ねた。

「えッ?」
「どういう意味?」
 テアとジェシカが同時に聞き返した。
「俺とジェシカを、お前のパートナーにしてくれないかってことさ」
 笑顔を見せながら、シュンが告げた。

「シュン……。ありがとう。気持ちはとても嬉しいわ。でも……、私のパートナーはジェイ=マキシアン、永遠に彼一人と決めているの」
 テアのプルシアン・ブルーの瞳が、優しい光をたたえてシュンを見つめた。

「そうか、残念だな。今度はお前のオール・ヌードを拝めるかと思ったのに……」
 シュンが笑った。
「ばかッ!」
 テアが赤くなりながら、ジェシカの方を見つめた。

「オール・ヌード? ちょっと、シュン! どういうこと?」
 事情を知らないジェシカが、シュンに喰って掛かった。
「やばッ!」
 シュンが自分の失言に気づく。
「シュン、テア、どういう意味よッ!」

「いや、あの……。<銀河系最強の魔女>のヌードを見たいなって……」
「何ですって!」
 ジェシカが予備シートから立ち上がって怒鳴った。
「じ、冗談だよ。テア、ちょっと、フォローしろよ!」
「アハハハ……!」
 二人のじゃれ合いを見物しながら、テアが笑って言った。
「あなたたち、いいパートナーよ!」

(私も、ジェイとこんな風にふざけ合っている時期があったわ……)
 テアの脳裏に、ジェイ=マキシアンとの思い出が甦った。
(そのジェイが、生きている……)
 彼に会うことが、テアにとってどんな意味を持つのだろうか。

 幸せか……。
 それとも、後悔か……。
 一度死んだ人間は、愛する者を幸福に出来るのだろうか……?

(ジェイ……。会いたい……!)
 <銀河系最強の魔女>の心を、その想いだけが満たしていた。
 <スピリッツ>のメインスクリーンに投影されている星々の海を見つめながら、テアは愛する男の精悍な顔を思い描いた。プルシアン・ブルーの瞳に、限りない優しさと深い愛情が浮かんだ。
 ジェイ=マキシアンに対する激しい愛情だけが、テアの胸をいつまでも満たしていた……。

<fin>
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