死にたがりの悪役令嬢

わたちょ

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失敗だらけの悪役令嬢

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 思い出したくもない記憶というものほど思い出しやすいのはどうしてなのだろう。
 あの人生最大の屈辱。
 人に泣き顔を見られた時のことは何度も何度も思い出してしまう。忘れたいのに忘れられない。あのお前でも泣くんだなと云う驚愕に満ちた声。その後言ってしまった無残な言い訳。それに対する男の言葉が……。
何が『お前は嘘も得意ではないのだな』よ
 これこそ人として最低最悪じゃない。貴族の女性が人前で涙するなどあってはならないこと。もし仮に見てしまったとしても口には出さないのが礼儀と云うものでしょう。明らかな嘘だと分かっていてもそうですかと云うのが嗜みでありマナー。
 それをあの男は……。
 これだから平民での教師は嫌なのですわ。まるで貴族間の慣わしやルールと云ったものを分かっていない。他のものにだって見られたくないというのにそれがあんな……。
 しかも最悪なのはその後。いえ、あれは完璧に私の失態ですけども……。あまりの事に何も考えられなくなってしまい気付ば後一歩で相手の頬を叩く所で……。涙を見られた挙句に暴力を振るうなど貴族の令嬢としてどころか普通のレディとしても失格。途中で我に返り踏みとどまることができたから良かったもののもしあのままと思うとぞっとする。
 そんな事になってしまったら私は自主的にセラフィードの婚約者という立場を返上して学園も退学。修道院に入る以外の道を失ってしまう所。慌てて逃げ去ったもののそれだって失格。
 私はトレーフルブラン・アイレッド。時期王妃となる私は泣いたりなどとしませんわと言ったのも今思えば愚かだ。
 あんな場面で言うなど自分の名を汚しセラフィードの顔に泥を塗ったようなもの。夫となる相手を支えたてるのが妻たる者の役目だというのに……。
 後から後から犯した失態を思い出しては苦しい思いをするのでもう忘れてしまおうとしていたのにまさか見られてしまうとは……。
 ベッドの上に転がる包帯と薬瓶。
 これこそ屈辱の証。
 あの後一日悶え反省してどうするか考えた結果弱みを握られた相手をそのままにしてはいけない。弱みを握り返してしまいなさいという天の声に従い私は相手の元に行ったのだ。
 見られた相手はこの学園の教師。名前はグリシーヌと云う。二十二歳という若さにして様々な学問に精通。魔法のレベルも極めて高い。宮殿に使える魔導士にも勝るのではと噂されるほどで、平民でありながらもこの学園の教師となった男。
 分厚くダサい眼鏡に無駄にぼさぼさの上伸びた髪。見た目が不潔で生徒からはあまりよく思われていない。私も正直苦手だ。
 それでも魔法に関しては習うべきところがあり、時には話すこともあった。見た目の割に良い声をしているので声に関してだけは好きだったのだが、一気にその部分も嫌いになった。
 聞くだけで怒りで腹が膨れ、羞恥で身悶えしたくなる。
 そんな相手の元に放課後自ら乗り込んで弱みを握ろうとしたのに……。どうせ平民だからすぐにでも見つかると思ったのに見つからない所か……。
 ああ、この先は思い出したくもない…………。
 先生の小汚い部屋
 これも試練と堪えて適当な話をしながら弱みとなりうるものを探していた。なのに何をやってもさらりとかわされ、うまいこと話を誘導しても気付けばそらされ、弱点が見つからないまま時間切れに。
 明日こそはと去ろうとしたら。待てと言われ……。
「何でしょう。グリシーヌ先生」
 歯噛みしたいほど悔しんでいるなど欠片も思わせない完璧な笑みを浮かべる。このやろうと思っているのが嘘みたいなキラキラとした目で先生を見た。ごそごそと机を漁っていた先生は小さな袋に何かをまとめる。
「これをやる。やせ我慢はよくない」
 差し出される何か。思わず受け取ってしまう。ちらっと目線を落としただけで袋の中見は見えてしまった。そしてすぐにそれが何か分かる。
 それこそが包帯と薬瓶だったのだ。
 ハッと手の方に目をやってしまった。裾に隠して誰にも気付かれないようにしていた痣。さぁと顔を青ざめた私はありがとうございましたと言ってしまった後に逃げたのだ。
 後になって何十個と沸いてくる失敗の数々に悶えた。
 涙よりも何よりも一番見られてはいけないものを見られてしまった。でももう近づく度に醜態を思い出してしまいまともに対応できない。だから忘れて今だけはなかったことにしてしまおうと思っていたのに……。
 ああ、よりにもよって見られてしまうなんて。あの子に合わせる顔がなくなってしまったわ。
私悪役令嬢なのに
どうしたらいいの。
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