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第二部
トレーフルブランとグリシーヌ
しおりを挟む「ここで泣いているお前を見たんだったな……」
懐かしそうに先生が呟くのに昔の話を持ち出すのはやめてくださいとか細い声が出ました。恥ずかしいではないですかと抗議すれば先生はうっすらと微笑みます。それがあんまり美しくて顔を背けてしまいました。
先生は学園にいた頃とはすっかり見た目が変わってしまっていて、長くボサボサだった髪は短く整えられ、分厚い眼鏡も取ってその秀麗な顔を隠すことなく押し出していました。タキシードを来ている姿は目に毒なぐらい格好よくて……。まさに王様と云うような風貌を漂わせていました。
そう王様、先生はドランシス国の国王になっていたのでした。
「何で、」
小さな声が落ちました。聞こえなかったのではないかと思えるような声はちゃんと届いていたようで何だと先生は聞いてきてくれます。聞きたくて、でも怖くてまだ聞けずにいたことを聞こうと顔をあげました。先生の深い黒の目がじっと私を見つめていました。
「何も言わずに消えてしまったのですか。それに……どうして王になどと……。貴方が消えたときその可能性は真っ先に考えましたけど、でも……」
貴方は恐れていたではありませんかと言いたくて言えずに口を閉じてしまえば、先生は恐れていたさと言ってきました。
「恐れていた。各地で争いが起きていたのを治めて王になれたのはもう二ヶ月も前だがずっと自分に自信がないまま。俺がしていることが正しいことなのか間違っていたらどうしようといつもびくびくしている。
でもお前が傍に居てくれるのだろう。それならきっと上手く行くから。だから今日お前を迎えに来た」
先生の言葉に嬉しくなりながらでも不満も募りました。
「それならば言ってくだされば良かったじゃありませんか」
「心配させるだろ」
「何も言われずに消えられる方が心配いたします」
「そうだな……。だが王になると言って出かけてもし無理だったら格好がつかないだろう」
「何ですか。それは……」
「弱いところばかりを見せてしまったからな、最後ぐらいはちゃんと格好をつけたかったんだ。俺も男だ。好きな人には格好良く思われたいと云う欲もある。弱いがな」
困ったやつだろうと先生は言いました。本当ですわと口にしながらもでもとも言いました。私にとって先生はいつも優しくて格好良かったですと。先生がふんわりと微笑みありがとうと低い声が囁くのに鼓動が早くなってしまいました。
「でも、この半年とても大変だったのではないですか。格好つけたかったのは分かりましたが、やはり言って欲しかったです。私だって貴方の役にたつことができたかもしれませんのに……」
「お前ならそう言うと思ったがでも無茶をさせるわけにはいかなかったからな。お前と俺は付き合ってるわけでもない。それなのに俺のせいで狙われたりするようなことになるのは避けたかった」
「そんなの私は「気にするだろ。お前は」
トレーフルブラン・アイレッドは。気にしなくては駄目だろうと先生が言ったのに言い返すことが出来ませんでした。気にしないと言えれば良いのに、言えないのが実情でした。
「だから俺は王になった。
あの国を良くするだけなら王にならなくとも他の方法だってあった。だけどそれでも俺はもう一度王になる道を選んだ。お前と一緒になりたかったから。この地位なら俺がお前を奪い取ってもアイレッド家の評判が落ちることはない。ドランシス国が豊かな国なることができたなら国交の強いパイプとして今より高い地位にあがれる筈だ。
だから俺を選んでくれるか」
知っていたのですねと言えばお前の両親を考えれば大体見当はつくと返ってくる声。婚約者がいることを知られたくないと思っていたのですが、まあ、そうですわよね。辛いですが、私を奪うために王にまでなってくれたのだと思うとそれは嬉しかったです。一度婚約破棄になり魔王まで憑いてしまった私は学園では尊敬されていても、社交界での評価などはボロボロでそれに伴ってアイレッド家の地位も危うくなっていました。それなのにまた婚約破棄になれば私の評価は完全に地に落ちてアイレッド家も五代貴族から転落するところでした。だからこそ私は婚約に関してだけはずっと受け入れるつもりだったのです。
でも、今の先生ならば……。
「はい」
先生がホッとした顔をしました。よかったと呟くのにでもねと私は囁きます。その心配実はもうなくなりかけていたのですよ。ブランリッシュがとてもよく頑張ってくれて仮に一度転落したとしても彼がすぐに取り返してくれるんですから。そのようだな。昨日この国に戻ってきて知った。だけど良いんだ。俺がお前をほしかったから俺の力で手にする権利を手にいれたかった。それにやはりお前は王妃であるのが、人の上にたち人を守る姿が似合うから。その姿をずっとみていたい。
先生の言葉にぽっと頬が染まりました。見つめてくる黒い目は柔らかくそれでいてとても強い力を感じます。
「ずっと前から俺はセラフィードが羨ましいと思っていた。お前はまるで王妃になるために産まれたかのように完璧な存在でそんなお前が傍にいてくれるやつが羨ましく、贅沢ものだと思っていた。もし幼かった俺にお前のような奴がいてくれたなら何かが変わったんじゃないかって何度も考えたことがある。
だけど初めてお前が涙を見せたときにそれが間違いであったことに気付いた。お前は完璧な存在ではなく弱いところもある。人なのだと。それからそれまで以上にお前をみていた。お前は俺が思っていたのよりずっと弱くて脆くて……それでも強くあろうとする姿が眩しかった。いつの間にかお前に惹かれていた。
あの日は頷くことはできなかったが、でも俺はお前が告白してくるずっと前から好きだった」
胸がぎゅっと震えました。愛しているとは言われていたものの、先生のちゃんとした思いを聞くのは初めてでした。私が思っていた以上にずっと思われていて嬉しかったです。胸が張り裂けそうなほどで私も何かを言わなければと先生がどれ程好きか云おうと思ったのに言葉になりませんでした。言おうと必死に先生を見上げる私を先生の腕が引き寄せました。口づけをされる。
何度も何度も触れてくるそれに私からも求めました。言葉にできぬ思いを全てそこに込めました。
「好きです」
たったひとつ溢れた言葉。先生が幸せと言うように笑うのが幸せで私も笑みを浮かべました
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