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十一歳
人騒がせな人2
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「待って」
騎士として動いているアランを呼び止めた。すると、彼は苦々しげにアリアを振り返って、なんすかと聞いてきた。
「ねぇ、今回の事件はバルティア家が望んだことなの?」
先ほどまではバルティア家の意向はないものだと思っていた。だけれど、彼がここに来て、自分たちの解放を望まないというのならば、話は別だ。
「いいや、違う。親父にもこのことは知らされてなかったからさっき会ったときにおかんむりだった」
しかし、アランは即座に否定して続けた。
「バルティア家の中で唯一、俺だけがスフォルツァ家のことが嫌いだ。だけども、たったこれだけで家の力を使おうなんて思っちゃいないさ」
彼の言葉はかなりスフォルツァ家にとって好意的なもので、にわかには信じがたいものだけど、なぜか信じようと思ってしまうものだ。
「この件についてはどの公爵家の意向もない。だから、陛下の耳に入ってしまったが最後、コクーン副団長にお前たちの解放を命じたっていうわけだ」
彼は苦々しげな表情と裏腹に優しい口調でそう言った。
ありがとう、アリアはその言葉しか言えなかった。
「いいや、俺は何もしてないぞ。お前たちのためなんかって思ってないからな」
アランはふぅ、とため息をつきながら言う。しかし、アリアはそれでもと食い下がった。
「ええ、そうかもしれない、いえ、そうでしょう。でも、あなたはコクーン副団長の遣い、ひいては陛下の遣いとしてここに来た。すっぽ抜かすという手だってあったのに」
そう。彼は嫌いだと言っているわりにスフォルツァ家の利益を選んだ。だからこそ感謝しなければならない。
そう言うと、彼は顔を赤くしてチッと舌打ちをした。それ以上、この件には触れずにじゃあなとだけ言って他の騎士たちとともにスフォルツァ家から帰っていった。
「お母様」
全ての騎士たちが帰っていった後、なにか勝手に持っていかれたものがないか確認していた母親に声をかけた。
「どうしたの?」
エレノアは一人でやってきた娘の表情を見て、言いたいことに気づいたようだ。
「いってらっしゃい」
アリアは今、王宮では立場がある。だから、エレノアが行ってそれを確認するよりも娘がひっそりと行って確認したほうが、ことを荒立てずにすむと判断したようだ。
はい、彼女はきれいにお辞儀をして、母親の前から退出した。
必要最低限のものだけを持って王宮に乗り込んだアリアは普段、使っている通路ではなく、正規の手順で王への謁見を望んだ。すると、すぐに許可がおりて、私室へ通された。
「楽にしてくれて構わない」
ディートリヒ王は部屋に入ってきたアリアに早速、そう言って、机の上にいくつかの書類を並べた。このタイミングで彼が置いたということは何かしら今回の騒動に関わりのある書類なんだろうけれども、堂々と見れずにちらちらと盗み見てしまった。
「気づいているだろうが、これらはすべて先ほどこちらに上がってきたものだ」
書類を並べ終わったディートリヒ王はアリアにそう説明する。そのうちの一つを手に取り、彼女に渡した。書類を受け取ったアリアはそれをパラパラとめくり、内容を確認すると、嘘でしょ、と言ってしまった。
「気づいたようだな」
ディートリヒ王は疲れた顔で言う。どうやら彼も一人の人物に振り回されていたようだ。
「あいつがエレノアと結婚したときやマチルダとの間の息子が発覚したときはどうなることやらと思ったが、俺より大胆で計算外に頭がいいやつだ」
彼の言う言葉に納得してしまったアリア。
前スフォルツァ家当主の命令で母親と結婚させられたことが原因でいわゆる不倫をして、ユリウスというある意味、厄介な存在をつくり、家での発言権をなくした父親。その父親がまさか本当の意味での黒幕だったなんて。
「書類の日付からするとこの計画を練り出したのはマチルダという女とユリウスを引き取った直後からのようだな」
ディートリヒ王の言葉になるほどと頷けた。そのときはちょうどセレネ伯爵一家もスフォルツァ家に迎えられたとき。彼らのことを知っていたのだろうか。いや、それは分からなくても問題ないが、どちらにしても、彼らがスフォルツァ家に来た原因を即座に理解して、調べはじめたのだろう。
「セレネ伯爵を陥れた張本人どもともろとも自爆行為なんて、普通の公爵じゃあ考えられんし、割に合わないのにな」
陛下の呆れた声になにも言えなかったアリア。
「とにかく、こんな騒ぎを起こしておいて自分は呑気に引退というのも癪に触るが、あいつがそう選んだのならば仕方がない。帰ってエレノアにこの書状を渡せ」
ディートリヒ王は脇に置いてあった封書をアリアに手渡した。はい、そう言ってありがたくもらい、王宮から退出した。
騎士として動いているアランを呼び止めた。すると、彼は苦々しげにアリアを振り返って、なんすかと聞いてきた。
「ねぇ、今回の事件はバルティア家が望んだことなの?」
先ほどまではバルティア家の意向はないものだと思っていた。だけれど、彼がここに来て、自分たちの解放を望まないというのならば、話は別だ。
「いいや、違う。親父にもこのことは知らされてなかったからさっき会ったときにおかんむりだった」
しかし、アランは即座に否定して続けた。
「バルティア家の中で唯一、俺だけがスフォルツァ家のことが嫌いだ。だけども、たったこれだけで家の力を使おうなんて思っちゃいないさ」
彼の言葉はかなりスフォルツァ家にとって好意的なもので、にわかには信じがたいものだけど、なぜか信じようと思ってしまうものだ。
「この件についてはどの公爵家の意向もない。だから、陛下の耳に入ってしまったが最後、コクーン副団長にお前たちの解放を命じたっていうわけだ」
彼は苦々しげな表情と裏腹に優しい口調でそう言った。
ありがとう、アリアはその言葉しか言えなかった。
「いいや、俺は何もしてないぞ。お前たちのためなんかって思ってないからな」
アランはふぅ、とため息をつきながら言う。しかし、アリアはそれでもと食い下がった。
「ええ、そうかもしれない、いえ、そうでしょう。でも、あなたはコクーン副団長の遣い、ひいては陛下の遣いとしてここに来た。すっぽ抜かすという手だってあったのに」
そう。彼は嫌いだと言っているわりにスフォルツァ家の利益を選んだ。だからこそ感謝しなければならない。
そう言うと、彼は顔を赤くしてチッと舌打ちをした。それ以上、この件には触れずにじゃあなとだけ言って他の騎士たちとともにスフォルツァ家から帰っていった。
「お母様」
全ての騎士たちが帰っていった後、なにか勝手に持っていかれたものがないか確認していた母親に声をかけた。
「どうしたの?」
エレノアは一人でやってきた娘の表情を見て、言いたいことに気づいたようだ。
「いってらっしゃい」
アリアは今、王宮では立場がある。だから、エレノアが行ってそれを確認するよりも娘がひっそりと行って確認したほうが、ことを荒立てずにすむと判断したようだ。
はい、彼女はきれいにお辞儀をして、母親の前から退出した。
必要最低限のものだけを持って王宮に乗り込んだアリアは普段、使っている通路ではなく、正規の手順で王への謁見を望んだ。すると、すぐに許可がおりて、私室へ通された。
「楽にしてくれて構わない」
ディートリヒ王は部屋に入ってきたアリアに早速、そう言って、机の上にいくつかの書類を並べた。このタイミングで彼が置いたということは何かしら今回の騒動に関わりのある書類なんだろうけれども、堂々と見れずにちらちらと盗み見てしまった。
「気づいているだろうが、これらはすべて先ほどこちらに上がってきたものだ」
書類を並べ終わったディートリヒ王はアリアにそう説明する。そのうちの一つを手に取り、彼女に渡した。書類を受け取ったアリアはそれをパラパラとめくり、内容を確認すると、嘘でしょ、と言ってしまった。
「気づいたようだな」
ディートリヒ王は疲れた顔で言う。どうやら彼も一人の人物に振り回されていたようだ。
「あいつがエレノアと結婚したときやマチルダとの間の息子が発覚したときはどうなることやらと思ったが、俺より大胆で計算外に頭がいいやつだ」
彼の言う言葉に納得してしまったアリア。
前スフォルツァ家当主の命令で母親と結婚させられたことが原因でいわゆる不倫をして、ユリウスというある意味、厄介な存在をつくり、家での発言権をなくした父親。その父親がまさか本当の意味での黒幕だったなんて。
「書類の日付からするとこの計画を練り出したのはマチルダという女とユリウスを引き取った直後からのようだな」
ディートリヒ王の言葉になるほどと頷けた。そのときはちょうどセレネ伯爵一家もスフォルツァ家に迎えられたとき。彼らのことを知っていたのだろうか。いや、それは分からなくても問題ないが、どちらにしても、彼らがスフォルツァ家に来た原因を即座に理解して、調べはじめたのだろう。
「セレネ伯爵を陥れた張本人どもともろとも自爆行為なんて、普通の公爵じゃあ考えられんし、割に合わないのにな」
陛下の呆れた声になにも言えなかったアリア。
「とにかく、こんな騒ぎを起こしておいて自分は呑気に引退というのも癪に触るが、あいつがそう選んだのならば仕方がない。帰ってエレノアにこの書状を渡せ」
ディートリヒ王は脇に置いてあった封書をアリアに手渡した。はい、そう言ってありがたくもらい、王宮から退出した。
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