調香師・フェオドーラの事件簿 ~香りのパレット~

鶯埜 餡

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3.お日様のハーブティー

決意

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 症例報告会が終わった後、フェオドーラはレリウス男爵と別れ、宿の部屋に戻って明日の準備をする。シャルロッタ院長は別れ間際、こっそりと調香院に所蔵している六十の精油を用意してくれたと言ってくれ、その一覧を用意してくれた。だから、その一覧と香調大事典を使って、どうするか決めることにした。まだ用意するフレグランスコンテストの内容についてはっきりとしたものにはなっていなかったが、、シャルロッタ院長の研究報告中にある物を思い出していた。それを応用してもいいんじゃないかと思ったのだ。

「えっと、たしかあれはメインはセージだったはず」
 思い出しながらそれを書きだしていく。
「それにローレル。ミドルにはロザリーナとそれにラベンダーをいれたっけ。ベースにはフランキンセンスとブルーサイプレス、あとはミルラとかかな?」
 どうだったかなと思い出していくが、それであっているという証拠はない。
「でも、あの宮殿は、ううん。くどい甘さの香りじゃない。ミルラは余分だし、トップやミドルが少ないとはっきりとした香りにならない。うーん、そうだな、ラヴェンサラとかかな」
 それだったら、同じ甘さでもすっきりとした甘さだ。ミルラの甘さとは違っていて、どことなく、あの場所を想起してもらえるだろう。
「あとはミドルからベースの間にシダーウッドアトラスを入れてもいいかもな」
 少しため息をついて机に頬杖をつく。普段ならしないが、なんとなくしたい気分だった。
「あとは配合割合を決めなきゃ」
 とはいえども、随分と今日は出来ごとが多かった。
 フリードリヒとの再会、リュシルとオルガとの対決、三大公国の調香院長のと邂逅。どれも今までにはない経験であり、多少、精神的に気分は悪くなったが、それでも楽しかったと思えた。
 とりあえず、今日は寝る。そして、頭をリフレッシュさせて、考えよう。
 ラベンダーオイルとフェンネルオイルで作ったルームスプレーをベッドのリネンに吹きつけ、横になった。

 翌朝、朝食をとる前に昨日決めた精油で問題ないかもう一度考えたあと、配合割合を決めはじめた。ブレンドオイルの割合は調香院で決められている小さや保存瓶。たしか規格ピペットなら六十滴入るもの。各調香師たちは五大公国、そして帝国の六つ調香院で決められた規格の器具を使う。だから、普段使っているものとほとんど差はないはずだ。
「よし、こういうふうにしよう」
 計算しおわったドーラは、書いた紙をもって朝食会場へ向かう。
「おはようさん」
 すでにレリウス男爵をはじめとしたエルスオング大公国の調香師たちがそろっていた。ほかの大公国所属の調香師たちは誰一人としていない。どうしたんだろうか。
「もうみんな食べおわってるぞ」
 ドーラの問いかけにすでに自分たち以外は食べおわっていることを告げるレリウス男爵。
「本当はみんな、昨日の会議で堂々と発表したお前さんを見たがっていたが、ふざけんなと言ってやってね」
 お前さんは見せもんじゃねぇと吐き捨てるように言う彼に対し、同意する面々。どうやら彼らは自分を守ってくれたようだ。この恩に報いたい。それができるのは……――今日、いや明日のフレグランスコンテストだ。リュシルやオルガたちを見返すためにも、そこで良い成績を取るしかない。
「ありがとうございます」
 深々と礼をしながらそう心の中で誓った。そのときに食べた食事は、いつもよりなぜか味が濃いような気がした。
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