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朝。
亜子は目が醒めると、案の定であるが、腰から下が全く動かない事に気づいた。
喉は、あれだけ鳴いたけれど、意外と丈夫なのか、掠れてはいない。
けれど、草月もだが、自分自身も、やりすぎた、とほんの少し後悔した。
「いたた…」
「……ん~~、…あれ?」
亜子を抱きしめながら眠っていた草月も起き出して、微かに唸っている亜子の姿を見て、ああそういえば…と、昨夜の事を思い出す。
「おはようさん、メグ。」
「!!」
背後から聞こえてくる草月の声と、熱に昨夜のことを思い出した亜子は、
ドッキーン!と胸が鳴った気がして、体を強張らせる。
「…おは、よう、ございます…シモン、さま」
少しずつ声が小さくなりつつも、昨夜聞いた、草月の真名を言ってみせると、草月はさらにぎゅっと、抱きしめていく。
「あ~~~、俺の奥さんが可愛くて仕方ない!」
「え、あの」
亜子がわたわたと表情を変えていくものだから、草月が彼女を愛でてしまうのも仕方がなかった。
けれど。さすがに恥ずかしいと思うのか、
「ちょ、ちょっと、やめ、」
などと言って、彼の腕の中から逃げようとしてみせた。
そういえば、と思い出して亜子は草月に向かって言う。
「あ、あの…、ごめんなさい、私…、今日は午前中はちょっと、起きられそうにないかも…。それと、名前…あの、誰もいない時だけにしませんか?なんか、簡単に呼んじゃ駄目なような気がして…」
その言葉に草月は、ああ…と、昨夜のことを思い出して得がいく。
「ああ…。まあ、昨夜は俺も張り切りすぎたし…な。結局明け方まで抱いてしまったし、仕方ないな。今日は休養日ってことでいいだろう。
名前については…うん。そうだな。このまま、二人きりの時だけにしよう。
それに…。なんだか、秘め事をしてるみたいで、いいし、な。」
くく、と悪戯顔で、意味深な事を言う。
亜子は、草月の言葉に、真っ赤になっていっているというのに。
「あ。そういえば、今日って…礼央様がいらっしゃる日では・・・?」
「げ。そういえば。」
唐突に思い出して亜子がぽつりと言った言葉に、草月は少し、嫌な顔をする。
「しかし、だ。ベッドの中では、他の男の名前は出すな、よ。ん。」
お仕置きにならないお仕置き、とばかりに草月は、亜子にキスをする。
「あっ、ちょ、んん、ふ、あ、だ、だめ、ですっ」
キスからそのまま、行為へと雪崩こみそうだったので、ぺち、と軽く草月の右手を叩く。
そうしていると、やかましい音と声がしてきた。
「おーい、ちょっと?玄関、開いてたぞー!」
バタバタと足音を鳴らしてやってくるのは、噂をしていた礼央、その人だった。
ムスッとしながら、草月は縁側に出てきて礼央を迎えた。
「あーらら。なんでしょうね、このヒトは。
…ん?首筋に噛み跡…?ってことはまさか…?!」
まーなんでしょうね!こいつらは!
などと囃し立てながら、礼央は草月の、亜子と草月に何があったのか、察するのみだった。
吸血鬼の性行為は、よく違いの肩や首すじ、腕などを甘噛みしながら、多少ではあるが血を吸う事がある。
その事は、礼央の一族も、人間ではあるが吸血鬼の研究機関で働いているからよく知っている事だった。
「んでも、うん。うまく鞘に納まってよかったよ。お前さん見てる目、前からちょっと、ただの他人を見てる目ではなかったから、いつかはそうなるんじゃないかって思ってたからな。」
「…そう、なのか?」
まったく気づかなかった自分に、草月は落ち込みそうになる。
横で、かかかっ、と礼央は笑った。
「自覚なしかい!
…そうだよ?ま、気づけたんなら良かった。でも、そうか。
昨日の今日だろうし、今日は検診はなしだなこりゃ」
立ち上がりながら言い、横に置いていた背広と医療鞄を持ち上げる。
鞄の中身を確認しようとすると、どこからか、ごそごそ…ゴン、という音が、響いてくる。
吃驚して、音の先を確認すると。そっと、草月の寝床の襖が開いてこちらをこっそっと覗いているつもりの亜子の姿が見える。
亜子は、草月が縁側ではあるが、傍からいなくなったから、少し寂しくなって、様子を伺っていたに違いなかった。
「は…ははっ、んじゃ、ま。踏ん張れよ、親友?」
「だれが親友だ。ただの腐れ縁だろう」
「そんな事言わない!
……ほら、行ってあげろよ。大事なんだろ、嫁さん。」
「何を言って…ああ、亜子?
そうだな。…無駄にさせて悪かったよ。じゃあ、俺は新妻んとこ戻るわ」
「だ~~!甘酸っぱいねえ!
ほんじゃあ、次の検診、どうすっか決めとけよー!」
互いに、譲れないものも、言えない事もある。
けれど、ちょうどいい距離が心地いい。
今日は、オレもカミさんとこに帰りたいな~、なんてフザケた声を聞きながら。
そのまま、礼央と草月はその場を離れていった。
「…んで。亜子?何、してる?」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!どうせ今は見せられる状態じゃないから、出られませんけど…、でもなんか、気になっちゃって…。」
亜子は、足には布団を絡まらせて、ベッドの傍でへたり込んでいた。
隠すような事はなにも言っていないから構わないが、この光景を見ているうちに、なんだか笑いが溢れてくる。
「くくく…、ははははっ」
「あははははっ」
暫くの間、彼らは笑い合って、そのまま また、寝床へと籠もっていくのだった。
場所は代わり、影の、影の奥…闇の中。
レイは未だ眠っていた。
力を蓄えようとしているかのように、粛々と。寝息すら出さずに。
何かが動き出そうとしていた。
亜子の力が安定してきた今、新たな力が必要としてきていたーー。
_______
朝チュンからの一コマ。
糖分が!!!多すぎる!!!!!!!
次回からまたシリアス戻ります。たぶん。
亜子は目が醒めると、案の定であるが、腰から下が全く動かない事に気づいた。
喉は、あれだけ鳴いたけれど、意外と丈夫なのか、掠れてはいない。
けれど、草月もだが、自分自身も、やりすぎた、とほんの少し後悔した。
「いたた…」
「……ん~~、…あれ?」
亜子を抱きしめながら眠っていた草月も起き出して、微かに唸っている亜子の姿を見て、ああそういえば…と、昨夜の事を思い出す。
「おはようさん、メグ。」
「!!」
背後から聞こえてくる草月の声と、熱に昨夜のことを思い出した亜子は、
ドッキーン!と胸が鳴った気がして、体を強張らせる。
「…おは、よう、ございます…シモン、さま」
少しずつ声が小さくなりつつも、昨夜聞いた、草月の真名を言ってみせると、草月はさらにぎゅっと、抱きしめていく。
「あ~~~、俺の奥さんが可愛くて仕方ない!」
「え、あの」
亜子がわたわたと表情を変えていくものだから、草月が彼女を愛でてしまうのも仕方がなかった。
けれど。さすがに恥ずかしいと思うのか、
「ちょ、ちょっと、やめ、」
などと言って、彼の腕の中から逃げようとしてみせた。
そういえば、と思い出して亜子は草月に向かって言う。
「あ、あの…、ごめんなさい、私…、今日は午前中はちょっと、起きられそうにないかも…。それと、名前…あの、誰もいない時だけにしませんか?なんか、簡単に呼んじゃ駄目なような気がして…」
その言葉に草月は、ああ…と、昨夜のことを思い出して得がいく。
「ああ…。まあ、昨夜は俺も張り切りすぎたし…な。結局明け方まで抱いてしまったし、仕方ないな。今日は休養日ってことでいいだろう。
名前については…うん。そうだな。このまま、二人きりの時だけにしよう。
それに…。なんだか、秘め事をしてるみたいで、いいし、な。」
くく、と悪戯顔で、意味深な事を言う。
亜子は、草月の言葉に、真っ赤になっていっているというのに。
「あ。そういえば、今日って…礼央様がいらっしゃる日では・・・?」
「げ。そういえば。」
唐突に思い出して亜子がぽつりと言った言葉に、草月は少し、嫌な顔をする。
「しかし、だ。ベッドの中では、他の男の名前は出すな、よ。ん。」
お仕置きにならないお仕置き、とばかりに草月は、亜子にキスをする。
「あっ、ちょ、んん、ふ、あ、だ、だめ、ですっ」
キスからそのまま、行為へと雪崩こみそうだったので、ぺち、と軽く草月の右手を叩く。
そうしていると、やかましい音と声がしてきた。
「おーい、ちょっと?玄関、開いてたぞー!」
バタバタと足音を鳴らしてやってくるのは、噂をしていた礼央、その人だった。
ムスッとしながら、草月は縁側に出てきて礼央を迎えた。
「あーらら。なんでしょうね、このヒトは。
…ん?首筋に噛み跡…?ってことはまさか…?!」
まーなんでしょうね!こいつらは!
などと囃し立てながら、礼央は草月の、亜子と草月に何があったのか、察するのみだった。
吸血鬼の性行為は、よく違いの肩や首すじ、腕などを甘噛みしながら、多少ではあるが血を吸う事がある。
その事は、礼央の一族も、人間ではあるが吸血鬼の研究機関で働いているからよく知っている事だった。
「んでも、うん。うまく鞘に納まってよかったよ。お前さん見てる目、前からちょっと、ただの他人を見てる目ではなかったから、いつかはそうなるんじゃないかって思ってたからな。」
「…そう、なのか?」
まったく気づかなかった自分に、草月は落ち込みそうになる。
横で、かかかっ、と礼央は笑った。
「自覚なしかい!
…そうだよ?ま、気づけたんなら良かった。でも、そうか。
昨日の今日だろうし、今日は検診はなしだなこりゃ」
立ち上がりながら言い、横に置いていた背広と医療鞄を持ち上げる。
鞄の中身を確認しようとすると、どこからか、ごそごそ…ゴン、という音が、響いてくる。
吃驚して、音の先を確認すると。そっと、草月の寝床の襖が開いてこちらをこっそっと覗いているつもりの亜子の姿が見える。
亜子は、草月が縁側ではあるが、傍からいなくなったから、少し寂しくなって、様子を伺っていたに違いなかった。
「は…ははっ、んじゃ、ま。踏ん張れよ、親友?」
「だれが親友だ。ただの腐れ縁だろう」
「そんな事言わない!
……ほら、行ってあげろよ。大事なんだろ、嫁さん。」
「何を言って…ああ、亜子?
そうだな。…無駄にさせて悪かったよ。じゃあ、俺は新妻んとこ戻るわ」
「だ~~!甘酸っぱいねえ!
ほんじゃあ、次の検診、どうすっか決めとけよー!」
互いに、譲れないものも、言えない事もある。
けれど、ちょうどいい距離が心地いい。
今日は、オレもカミさんとこに帰りたいな~、なんてフザケた声を聞きながら。
そのまま、礼央と草月はその場を離れていった。
「…んで。亜子?何、してる?」
「ご、ごめんなさい、ごめんなさい!どうせ今は見せられる状態じゃないから、出られませんけど…、でもなんか、気になっちゃって…。」
亜子は、足には布団を絡まらせて、ベッドの傍でへたり込んでいた。
隠すような事はなにも言っていないから構わないが、この光景を見ているうちに、なんだか笑いが溢れてくる。
「くくく…、ははははっ」
「あははははっ」
暫くの間、彼らは笑い合って、そのまま また、寝床へと籠もっていくのだった。
場所は代わり、影の、影の奥…闇の中。
レイは未だ眠っていた。
力を蓄えようとしているかのように、粛々と。寝息すら出さずに。
何かが動き出そうとしていた。
亜子の力が安定してきた今、新たな力が必要としてきていたーー。
_______
朝チュンからの一コマ。
糖分が!!!多すぎる!!!!!!!
次回からまたシリアス戻ります。たぶん。
応援ありがとうございます!
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