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第三章 雄飛
7-11 勧誘(後)
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「なるほど、今回の英雄はきみだったのか」
ぼくの説明を聞いたエマニュエルは、それなりに考えるところがあったようだ。だが、「英雄」という言葉に特に驚いた様子はない。
「いままでのエマニュエルのときも、英雄は出現したのかい?」
「したね。そのつど違う人間だった。ほんの何かの拍子に決まるんだろう」
要するに、ロベールとマリエールの余分な一回の夜の営みが運命の歯車にはまってしまったわけだ。
「だけど、話をきいたかぎりではぼくときみの利害は対立するよね? きみは歴史を止めたい。ぼくは歴史を動かしたい。どうする? ぼくを始末しちゃう? まあ、それでもかまわないんだけど」
「それなんだけどさ、今回は動かすのをひとまず思いとどまってくれる考えは?」
「いまのところないかな。疲れてきたっていうのはホントだし、できることからやってみたいからね」
うーん、エマニュエルにとってのはっきりしたメリットがないとムリっぽいな。生への執着がないヤツには脅しはきかないし。あのネタしかないか。
「さっき『観察者』の話はしたよね? いまのところ、こちらから接触する手はないんだ。でも、ぼくときみでは『観察者』との距離が違った。ならもっと距離の近いヤツがいるかもしれない」
「それで?」
「そういうヤツが見つかる保証はない。でも、見つかれば必ずきみの転生の環は切れる。歴史は動かせるだろうけど、動かしても環が切れるとは限らない。乗り換えとして悪い選択肢じゃないと思うけど? そういうヤツを探すことには協力する。それは約束するよ。そういう条件で、ぼくにつきあってくれないかな?」
「おい、歴史を動かすのをやめる、から、きみにつきあう、に変わってるぞ」
「バレたか。でも、そういう条件ならぼくと一緒にいたほうがいいだろ?」
「油断もスキもないヤツだな。わかったよ。ずっとつきあうかどうかはともかく、しばらく様子を見ることにしようか」
「それでいいよ。受けいれてくれてありがとう。ムダな殺生をせずにすんだ。ぼくだって同じで、できることからやっているわけだからね」
「怖いね。で、とりあえずの目標を失った上に、学舎をもうやめてしまったぼくはどうすればいいのかな? やることも居場所もないんだけど?」
全然怖がっているようには見えないぞ。
「きみだけならここにいてくれていいんだけど、護衛はどうしよう? さすがにいっしょに引き取るのはちょっとムリだね」
「ああ、べつに処分しちゃってかまわないよ。家の雇い人なら少し気の毒だけど、金で雇った冒険者だし」
「親元との連絡とかはどうなってるの?」
「それは問題ないよ。必要があればぼくから連絡するからほっといて、って話になってるし」
「ふうん、信用されてるということかな。じゃ、なにか別の指示を受けてないか、確認してから処分しようか。シルドラ?」
「みなまで言わずともわかっているであります。拷問して抹殺でありますな?」
「まかせた。ああエマニュエル、さっき会ってると思うけど、これはシルドラ。こんなだけど、いちおうこの中ではぼくとのつきあいが一番長い」
「こんな、とはご挨拶でありますな。よろしくであります!」
さっき襲って拘束した相手とは思えない、晴れ晴れとした邪気のない笑顔で、シュタッと敬礼してみせた。さすがのエマニュエルも苦笑している。
続いて、ぼくは自分の右隣に目を移した。
「彼女はリュミエラ。ひょっとしたらどこかで見たことがあるかもしれないけど、それは忘れてね」
「よろしくお願いします」
「なるほどね。よろしく」
こいつ,絶対リュミエラが誰だかわかってる。大店の息子とはいえ、すげえ顔の広さだな。
「扉のところにいるのがビットーリオ。変態だから」
「はい?」
お、さすがにエマニュエルがビックリした顔をしてる。
「変態はひどいな、アンリくん。求道者と呼んでくれたま……グェッ!!」
ビットーリオがエマニュエルにむかってウインクをしてみせる。次の瞬間、シルドラがいつもどおり腹を蹴り飛ばした。
「いろいろすごいな、きみのところ。ここにいていいのか不安になってきたよ」
「ま、まあ、住んでみればそう悪くないよ。それから、基本はここで好きなようにすごしてくれてかまわないんだけど、きみ、戦闘のほうはどんな感じ?」
「いままで身体能力がすぐれたエマニュエルが生まれたことはないね。身体を動かすことについては、ごくごくふつうじゃないかな」
そういえば、第三クラスだったよな、こいつ。頭のできが悪そうじゃないのに第三クラスってことは、そっちはあまり期待できないわけだ。
「最低限、自分の身を守るくらいはできるようになってくれるとありがたい。稽古の相手はこの三人か、シルドラと一緒にいた二人に頼めばいい。冒険者登録もしておいてね」
「冒険者ね。ヘタすればあの護衛と同じ運命か。ゾッとしないけどわかったよ。ふだんの過ごし方に制約はあるのかな? せっかく学舎をやめて時間の余裕ができたんだし、あちこちの様子を見て歩いたりもしたいんだけど」
「あまりカルターナでは目立ってほしくないかな。あと、とりあえず身を守ることができるようになってからにしてくれる? まだ人手不足で護衛に割く人間がいないんだ」
「いや、その歳でそんなに豊富な人材抱えてたら変だろう。わかったよ。ちょっと努力してみる」
こうしてぼくの仲間がいきなりひとり増えた。パッと見は初めての同年代だが、シルドラをこえる実年齢である。しかもいい感じに壊れている。あとは、早く「観察者」へのアクセス方法をなんとかしなきゃな。まったくあてがないんだけど、なんとかなるんだろうか……。
ぼくの説明を聞いたエマニュエルは、それなりに考えるところがあったようだ。だが、「英雄」という言葉に特に驚いた様子はない。
「いままでのエマニュエルのときも、英雄は出現したのかい?」
「したね。そのつど違う人間だった。ほんの何かの拍子に決まるんだろう」
要するに、ロベールとマリエールの余分な一回の夜の営みが運命の歯車にはまってしまったわけだ。
「だけど、話をきいたかぎりではぼくときみの利害は対立するよね? きみは歴史を止めたい。ぼくは歴史を動かしたい。どうする? ぼくを始末しちゃう? まあ、それでもかまわないんだけど」
「それなんだけどさ、今回は動かすのをひとまず思いとどまってくれる考えは?」
「いまのところないかな。疲れてきたっていうのはホントだし、できることからやってみたいからね」
うーん、エマニュエルにとってのはっきりしたメリットがないとムリっぽいな。生への執着がないヤツには脅しはきかないし。あのネタしかないか。
「さっき『観察者』の話はしたよね? いまのところ、こちらから接触する手はないんだ。でも、ぼくときみでは『観察者』との距離が違った。ならもっと距離の近いヤツがいるかもしれない」
「それで?」
「そういうヤツが見つかる保証はない。でも、見つかれば必ずきみの転生の環は切れる。歴史は動かせるだろうけど、動かしても環が切れるとは限らない。乗り換えとして悪い選択肢じゃないと思うけど? そういうヤツを探すことには協力する。それは約束するよ。そういう条件で、ぼくにつきあってくれないかな?」
「おい、歴史を動かすのをやめる、から、きみにつきあう、に変わってるぞ」
「バレたか。でも、そういう条件ならぼくと一緒にいたほうがいいだろ?」
「油断もスキもないヤツだな。わかったよ。ずっとつきあうかどうかはともかく、しばらく様子を見ることにしようか」
「それでいいよ。受けいれてくれてありがとう。ムダな殺生をせずにすんだ。ぼくだって同じで、できることからやっているわけだからね」
「怖いね。で、とりあえずの目標を失った上に、学舎をもうやめてしまったぼくはどうすればいいのかな? やることも居場所もないんだけど?」
全然怖がっているようには見えないぞ。
「きみだけならここにいてくれていいんだけど、護衛はどうしよう? さすがにいっしょに引き取るのはちょっとムリだね」
「ああ、べつに処分しちゃってかまわないよ。家の雇い人なら少し気の毒だけど、金で雇った冒険者だし」
「親元との連絡とかはどうなってるの?」
「それは問題ないよ。必要があればぼくから連絡するからほっといて、って話になってるし」
「ふうん、信用されてるということかな。じゃ、なにか別の指示を受けてないか、確認してから処分しようか。シルドラ?」
「みなまで言わずともわかっているであります。拷問して抹殺でありますな?」
「まかせた。ああエマニュエル、さっき会ってると思うけど、これはシルドラ。こんなだけど、いちおうこの中ではぼくとのつきあいが一番長い」
「こんな、とはご挨拶でありますな。よろしくであります!」
さっき襲って拘束した相手とは思えない、晴れ晴れとした邪気のない笑顔で、シュタッと敬礼してみせた。さすがのエマニュエルも苦笑している。
続いて、ぼくは自分の右隣に目を移した。
「彼女はリュミエラ。ひょっとしたらどこかで見たことがあるかもしれないけど、それは忘れてね」
「よろしくお願いします」
「なるほどね。よろしく」
こいつ,絶対リュミエラが誰だかわかってる。大店の息子とはいえ、すげえ顔の広さだな。
「扉のところにいるのがビットーリオ。変態だから」
「はい?」
お、さすがにエマニュエルがビックリした顔をしてる。
「変態はひどいな、アンリくん。求道者と呼んでくれたま……グェッ!!」
ビットーリオがエマニュエルにむかってウインクをしてみせる。次の瞬間、シルドラがいつもどおり腹を蹴り飛ばした。
「いろいろすごいな、きみのところ。ここにいていいのか不安になってきたよ」
「ま、まあ、住んでみればそう悪くないよ。それから、基本はここで好きなようにすごしてくれてかまわないんだけど、きみ、戦闘のほうはどんな感じ?」
「いままで身体能力がすぐれたエマニュエルが生まれたことはないね。身体を動かすことについては、ごくごくふつうじゃないかな」
そういえば、第三クラスだったよな、こいつ。頭のできが悪そうじゃないのに第三クラスってことは、そっちはあまり期待できないわけだ。
「最低限、自分の身を守るくらいはできるようになってくれるとありがたい。稽古の相手はこの三人か、シルドラと一緒にいた二人に頼めばいい。冒険者登録もしておいてね」
「冒険者ね。ヘタすればあの護衛と同じ運命か。ゾッとしないけどわかったよ。ふだんの過ごし方に制約はあるのかな? せっかく学舎をやめて時間の余裕ができたんだし、あちこちの様子を見て歩いたりもしたいんだけど」
「あまりカルターナでは目立ってほしくないかな。あと、とりあえず身を守ることができるようになってからにしてくれる? まだ人手不足で護衛に割く人間がいないんだ」
「いや、その歳でそんなに豊富な人材抱えてたら変だろう。わかったよ。ちょっと努力してみる」
こうしてぼくの仲間がいきなりひとり増えた。パッと見は初めての同年代だが、シルドラをこえる実年齢である。しかもいい感じに壊れている。あとは、早く「観察者」へのアクセス方法をなんとかしなきゃな。まったくあてがないんだけど、なんとかなるんだろうか……。
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