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第三章 雄飛

8-2  帰郷(後)

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「ド・リヴィエール伯爵家は、自前の騎士団を持ってるだろ? そこで研修を受けられないかな、って思ってるんだ」

「いや、だって、しょせんは領地騎士団だぞ? 研修なんか受け入れたことないんじゃないか?」

 面倒に巻きこまれるのはごめんなので、なるべく意欲をそぐ方向でコメントした。

「おもしろいかもな。ド・リヴィエール伯爵は剣の達人だし、伯爵家の騎士団もその実力は鳴りひびいてる。規模の大きな王都の騎士団より学ぶことは多いかもしれない」

 おいバカ、リシャール、あおるんじゃない!

「ぼくもおもしろいと思う。なにかあって真っ先に実戦に出るのは
 ルカぁ……。

「そういうわけで、アンリ。口利き、頼めないかな?」

 そこはぼくだのみかい……。もう勝手にしやがれ!



 動き始めると、話は順調すぎるくらい順調に進んでしまった。フェリペ兄様に紹介状でも書いてもらおうと屋敷に行ったら、ロベールが来ていたのだ。ざっと経緯を話したら、なんとロベールがマルコを気に入ってしまった。しばらく王都を離れられないというので、ロベールが直々に騎士団長のアレハンドロ男爵に紹介状をしたためた。

「アンリ、おまえ、マルコくんと一緒に領地に行け」

 そして災厄はぼくのところに降ってくる。

「え、なんでぼく?」

「経緯を知っている人間が一人はいた方がいい。わたしもフェリペも今は王都を離れらないからな。おまえに行ってもらうのがいちばんいい」

「おまえも領地に帰るいい機会だろう。この間の春は帰ってないじゃないか」

 フェリペ兄様もまったく止めてくれる気配はない。そしてこうなると……。

「話は全部聞いた!」

 アウグスト殿下だ。どこらへんから何を聞いていたんだよ?

 でもあ、帰ることが確定なら、いい機会かもしれない。アウグスト殿下も、だいぶ剣がこなれてきた。そろそろイネスに引き分け狙いの勝負を挑んでみてもいいころだ。 



 その夜、みんなにコトの次第を説明し、しばらくカルターナを離れることを告げた。

「よろしいのではないでしょうか。カトリーヌ様も嫁がれ、フェリペ様もジョルジュ様もカルターナで勤務されています。イネス様がそばにいるマリエール様はともかく、シャルロット様は寂しい思いをされているでしょう。実の子ではないとはいえ、たまには男の子が顔を出せば喜ばれると思います」

 リュミエラは交流はなかったとはいえ、しばらく伯爵領で訓練を受けていた。うちの家の大ざっぱな感じはわかっているらしい。

「マルコくんねえ。三年前に学舎側の手伝いでチョコチョコ動いているのを見たよ。元気な子、っていうイメージしかないけど、おもしろいことを考えるようになったんだね」

 元気な子で間違いはないぞ、ローラ。元気すぎてカッ飛んだことを考えついたんだからな。

「わたしも行く」

 そしてテルマが、とんでもないことを言い出した。



「あのさ、テルマ。今回はアウグスト殿下の一行に便乗しなきゃいけないから、テルマもみんなも、行くわけにはいかないんだ」

「別に行けばいい」

「どうするの?」

「そこの魔方陣、ノスフィリアリの術式。ノスフィリアリのところにつながってるはず」

 はいそのとおりです。そして当然それを見抜くテルマさんなら起動も簡単だってわけですね。

「わたしは街の宿屋に泊まる。ただの旅人。問題ない」

「それならぼくも行ってみたい! アンリの師匠にも会ってみたいし、伯爵領も見てみたいよ。ちょっとカルターナにも飽きてきたところだし、ちょうどいいや!」

 いや、ちょうどよくないだろローラ。カルターナでの情報収集がきみの重要な任務じゃないか。飽きてきたのはカルターナじゃなくてそっちだな?

「わたくしも、久しぶりにタニア様にご挨拶がしたいと思います。アンリ様、ご迷惑はかけませんので、お許しいただけませんか?」

 大移動かよ!? いや、迷惑がかからないならなんの問題もないんだけど、間違いなく何かやっかいごとが起きる気がするから渋っているのだよ、ぼくは。

「今から行ってもいい」

「それだけは止めてくださいテルマさん! いまタニアはお茶の時間です! それを邪魔されたときのタニアはシャレにならないほど不機嫌になるんです! わかりましたから! みんなでいきますから!」

 ぼくは文字通りテルマに抱きついて止めた。だってもう魔方陣に向かって歩き始めてるんだもの。

「ほんとかいアンリ!? やった! 久しぶりの夏期休暇だ!」

 おいローラ。騎士団やめてからここに来るまで、ずっと休暇のようなものだったじゃないか?

「みんなでのんびり、というのもいいものですね」

 ぼくだけは絶対にのんびり出来ないから! それよりも君たち、タニアに会いたいっていう話はどこに行ったんだよ? ただの慰安旅行になっちゃってるじゃないか!

 心の叫びは誰にも届かなかった。
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