颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!

小野山由高

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第2部「因縁! ヤリサーの姫とヤリマン狩り編!!」

15本目「胸熱? はじめてのデート!?(前編)」

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 ヤマンバとの戦いからしばらく経ったある日曜日の午後――



「お待たせしました、

「あ、姫先輩!」



 大学ではなく、東京のとある駅で僕と姫先輩は待ち合わせをしていた。
 いつもどこからともなく現れる本多先輩お邪魔虫も今日はいないことは確定している!
 ……学外で待ち合わせて、なんて……これはもうデートと言って良いのではないだろうか!?



「それでは参りましょうか」

「は、はい!」



 ……ま、向かう先は既に決まってるんだけどね……。
 都内某所にある『ヤリ専門店』へと、僕らは向かうのであった。






◆  ◆  ◆  ◆  ◆






 事の発端は、この前のサークル活動の時だった。



「新人、そろそろお前も自分のヤリを持つか?」



 本多先輩の何気ない一言から始まる。



「……うーん、確かに……」



 ここまで特に触れなかったけど、なんだかんだでサークル活動自体はちゃんとやってきている。
 僕は自分の槍を持っていないので、他の先輩のを借りてだったのだけど……。
 当然、僕に貸している時には先輩はサークル活動ができないわけだし……。
 それに、なんだかんだでこのヤリサーで下心はありつつも活動しようと決めているわけだし、いつまでも『お客様』気分ではいられないという思いもあった。



「まぁ、貞雄さんもついにヤリをお持ちになられるのですね!」



 姫先輩の笑顔が眩しい。
 ちなみにだけど、姫先輩の槍は颶風院家に伝わる何か凄い槍――のレプリカらしく、貸出NGとなっている。



「でも、お高いんでしょう?」



 不安なのは値段かなー。
 結局、『くあどりが』でバイトを始めたと言ってもまだそんなに日も経っていないし、給料だってそこまで期待できるわけではない。
 仕送りの余りとか、親戚からもらった入学祝いとかはまだ残っているが……。
 僕の心配に対して姫先輩は柔らかな笑顔で否定する。



「そんなことはありませんよ? サークルの練習に使うものであれば……」

「そうだな。練習用のヤツであれば……確か2~3万ほどだったか」



 う、結構痛い出費だ……。



「一本持っておけば、練習にもランパにも使えるから長い目でみればそう高い買い物でもあるまい。
 よほど無茶な使い方をしなければ、早々壊れることもないしな」

「なるほど……ちなみに、ゴムはもっと高くなるんでしょうか?」

「おう、ゴムは5万あたりだったか。ただ、普通のヤリに比べて耐久性に劣るからなぁ……」



 利便性の替わりに耐久性が落ちてしまっているので、ある意味で『消耗品』になってしまうということか。『消耗品』と言うには値が張るけどね……。
 うーん、でもヤリサーをちゃんと続けるなら、ここで自分用の槍はきちんと用意しておきたいって気持ちがあるのも確かだ。



「……覚悟を決めました! 僕もこのサークルの一員ですし、槍を購入します!」



 僕の決意に、サークルの皆が温かい拍手で迎えてくれる。



「あ、でも僕、どこで槍が売ってるのかとか全然知らないんですけど……」



 剣道とかそういうのの道具を売っているお店でいいのかな?
 それとも、今の時代ならネット通販で買えたりするのだろうか?



「うふふ、お任せください!」

「姫先輩?」

「わたくしの行きつけのお店がありますので、そちらで一緒に見てみましょう!」

「おう、そうだな。姫に任せておけば問題ないか」



 ……お酒以外だと、やっぱり槍関連の話になると姫先輩のテンションは上がるらしい。ぶっちゃけ可愛すぎる。



「今週末のご予定はいかがでしょう?」

「えーっと、はい。日曜日ならバイトもないので大丈夫です」

「決まりですわね。では待ち合わせは――」



 あれよあれよという間に、待ち合わせの時間や場所が決められ――僕と姫先輩二人だけでの『ヤリ専門店』の訪問が確定したのであった……。






◆  ◆  ◆  ◆  ◆





 さて、そんなこんなで姫先輩とデートのようなただの買い物のような……ともかく一緒に歩いているわけである。
 ……買い物デートだってあるし、やっぱりデートということにしておこう、うん。
 ただ……一つ心配事はある。



「? どうかなさいましたか?」

「あ、いえ……」



 ついつい隣を歩く姫先輩のことをじっと見てしまっていた。
 何が心配事かというと、今日の姫先輩はバッグは持っているものの、いつもの槍を持っていないのだ。
 てっきりいつも通り持ってくると思ってたんだけど……も、もしかして姫先輩も『デート』ということを意識してくれている……!?
 ……なんて、自惚れがすぎるか。
 それはともかく、姫先輩が槍を持っていないということは、もし今日ヤリマン狩りに狙われたとしても対抗する術がないということを意味している。
 ヤリマン狩りの目的がわからない以上、『槍を持ってないなら好都合!』と一方的に攻撃してくる可能性も十分ありえる。
 なので、僕は姫先輩に吸い寄せられる視線を必死に逸らし、辺りに怪しいヤツがいないかにも気を払っているのだ。



「……ふふふ、ありがとうございます、貞雄さん」

「へ? え?」



 と、姫先輩が僕に微笑む。



「ヤリマン狩りを警戒していただいているのですね。
 大丈夫ですよ」

「……っ!?」



 そう言いながら、姫先輩は大胆にも僕の耳元へと口を近づけ囁く。



「今日は、ちゃんとを持ってきていますから、安心してください♪」



 うっっっっ!!!!!!!!!!!!



 …………ふぅ……いかんいかんあぶないあぶない……。
 そういう意味じゃない、姫先輩が仰っているのは五六ゴムの方だ……!
 大丈夫、そもそもゴムは僕が持っているし、いざとなったらコンビニで――違うそうじゃない。



「? 貞雄さん?」

「あ、あははは……な、なら安心デスネー」



 わかっていても、ドキドキしてしまう……!
 下心があるのは否定しないけど、それを抜きにしても姫先輩に対して募る想いがあるのも――やっぱり否定できない……!



 とにもかくにも、僕の槍を見るという名目で、姫先輩との『ヤリデート』は始まったのだった。
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