颶風院姫燐はヤリサーの姫であるッ!

小野山由高

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第2部「因縁! ヤリサーの姫とヤリマン狩り編!!」

18本目「理解! ヤリ部屋でのランパ!!(後編)」

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「んほぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ♡

 らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ♡

 お兄ちゃんこわれちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ♡」



 ビクンビクンッ!



「調子に乗ってごめんなしゃいぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ♡

 ま、参り理解されましたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ♡」



 ビクンビクンッ!!






 …………言ってるの、僕の方なんだけどね!!
 マジかー……負けたよ……手も足も出なかったよ……。
 なんだこの派手子……滅茶苦茶強かったぞ……?
 おかしい……大人はメスガキに勝つもんじゃなかったのか……?
 逆に僕の方が理解わからされたんだが?



「……あの、おじさん……」



 畳の上でお尻を突き出した形でびくんびくん震えている僕に、派手子ちゃんが近づいてくる。
 ふんっ、どうせみっともなく負けた僕を笑うんだろう!?
 笑いたくば笑えばいいさ!
 むしろ、メスガキらしく『ざぁこ♡ ざぁ~こ♡』と笑ってくれればいいさ!!



「その……ゴメンね……?」

「へ……?」



 勝ったのは彼女の方のはずなのに、謝られてしまったぞ?
 しゅんとしてしまった派手子ちゃんは続ける。



姫燐きりんちゃんが連れてきてた人だから、もっと強いと思ったんだけど……」



 ぐふっ!?
 想像以上に僕が弱すぎたってことか……。
 いやわかってたけどさー、自分が弱いなんてことは……。
 でも子供にボロ負けした上に謝られるなんて――あまりにも情けない。



「ふぇぇぇぇ……」



 泣いているのは僕である。
 こんな泣けたのは、人生初かもしれない……いや、高校の頃にフラれた時も泣いたような? でもあの時とは泣く理由が全く異なる。



「わ、わ!? おじさん!?」



 派手子ちゃんは僕が泣き出したのを見て大慌てだ。
 メスガキの流儀その1――相手がガチで凹んだら慌てふためく。うむ、見事にわかっておる。
 ……なんて、考える余裕があるわけでもない。
 僕は今ガチで情けなくて泣いてしまっているのだ。子供の前でみっともない、なんてわかっていても止めようがない。



「僕は……弱いッッッ!!!」



 (推定)小学生にもボロ負けするくらいに弱い。
 いくら素人だからと言っても、これはちょっと言い訳しようがないくらいに弱い。



「ごめんね、おじさん!」



 派手子ちゃんも泣きそうになりながら、僕の頭をきゅっと抱きしめる。
 ……大の男のガチ泣きを見たのは初めてなんだろう。しかも泣かせたのが自分なのがわかっているため、どうすればいいのか彼女も混乱しているっぽい。



「ふぇぇぇぇん……」

「うんうん、負けて悔しかったね」

「ぐや゛じい゛よ゛ぉぉぉ……」

「だいじょぶ、おじさんはがんばったよ!」

「うぇっ、ぐずっ……」

「よしよし、いいこいいこ」

「ふぇぇぇ……ママぁ……」



 うっすい胸に頭を埋め、よしよしと頭を撫でられている。
 先ほどまでのメスガキ感はどこへやら……これはもはや『ママ』だ……。






 ――我が友コッティよ……『オタクに優しいギャル』は存在しないが、『ママみのあるメスガキ』は実在したよ……!



「(ボソッ)キモッ」



 …………ん? 今誰か何か言った??



「(ボソッ)キモいおっさんは死ねよ」



 ………………んん?
 よしよししてくれている派手子ちゃんママは僕をあやす言葉を話しているし……気のせいかな?



「(ボソッ)マジキモい」






◆  ◆  ◆  ◆  ◆






 さて、ちょっと泣いてすっきりしたことだし……。



「えーっと、ごめんね? みっともないところみせちゃって」



 今更取り繕いようもないけど、ここは大人としてしっかりと謝っておくべきところだろう。



「それと、ありがとう。稽古つけてくれて」



 もう一つ、彼女が何を目的に僕に絡んできたのか――まぁ多分いたずら目的だったんだとは思うけど、想定外に僕が大泣きしてしまって混乱させちゃったこともある。
 だから、彼女が気に病まないようにというわずかな気遣いだ。
 彼女は『先輩』として僕に稽古をつけてくれた。うん、そういうことにしておこう。



「それにしても、君本当に強いね……手も足も出なかったよ」



 マジで。
 開始早々に槍をパーンと弾かれて、後は参ったするまでフルボッコにされたし。
 僕の言葉に調子を取り戻した派手子ちゃんは得意げに薄い胸を張る。



「へへーん! これでもボク、準優勝だからね!」



 ……槍の大会があるんだろう。
 どの程度の規模の大会なのかはわからないけど、準優勝者ということは間違いなく実力者だ。
 流石に大人と子供とはいえ、素人が敵うわけはないかー……それでも悔しいって気持ちには変わりないけど。



「お待たせしました、貞雄さん――と、あら?」



 そこで話が終わったらしい姫先輩が3階の道場へとやってきた。



綺璃花きりかちゃんに綺瑠夜きるや君! 下にいないと思ったらこちらにいたんですね」

「あ、姫燐きりんちゃん!」

「…………」



 姫先輩の声を聴いて、二人が僕から離れてそちらへと飛びつく。
 くそぅ、羨ましいぞ!! 子供の特権をフルに活かしやがって!!



「あの、この子たちは……?」



 どうやら姫先輩の知り合い? らしい。
 ……よくよく考えたら、僕は全然二人のことを知らないや。
 …………知らない子にいきなり絡まれてフルボッコにされたって、かなり酷い話な気もするけど――まぁ過ぎたことは仕方ない。



「こちらの道場に通っている子たちです。
 わたくしの家とも関係の深い……『日本ランサー協会』の会長のお孫さんたちです」



 …………言っている意味はわかるけど、なんでここでは『ランサー』なんだよ……。
 そして、やっぱりと言うべきか槍界隈にも『協会』みたいなのがあるんだ……。



磐梯バンだい綺璃花ちゃんと綺瑠夜君です。
 ……ふふっ、二人揃って小学生の優勝準優勝なんですよ」

「へぇっ!?」



 派手子ちゃんが準優勝ってことは、もう一人のメカクレマスク子ちゃんが優勝者ってことか。
 もう一人の子とは会話らしい会話もしてないし、正直どんな子なのか全くわからないなぁ……でも見た目の印象からしてかなり大人しそうな子そうだし、優勝者って想像もつかない……。
 ――……ん??



「ちょっと待って!
 えっと……綺瑠夜……?」

「? そーだよ? あ、ごめんね! ボク、自己紹介してなかったっけ?」

「あ、うん。まぁそれはいいんだけど……。
 ……え? ……?」

「?? 見ればわかるじゃん」



 わかんねぇよ!!
 マジか。
 ……あ、いやでも言われてみれば……?
 女の子っぽい顔立ちにギャルっぽい髪型を除けば……男子小学生の標準装備である薄いシャツに半ズボンと言えなくもない……?



「………………アリだな」

「? なにが?」

「(ボソッ)マジでキモい」



 我が友コッティよ……この世に『大人に理解わからされるメスガキ』は存在しなかったが、『ママみのあるメスガキ男の娘』は実在したぞ……!!



「あ、そーだ。姫燐ちゃん! ボクたちこの前『キサキちゃん』のこと見掛けたんだよ!」

「(ボソッ)うん、見掛けた。相変わらずだった」

「……いつ頃のことですか?」

「えっと……この前の連休の時だったかな? だよね、キリちゃん」

「(ボソッ)うん」

「何かねー、ブツブツつぶやきながら笑ってたよー」

「(ボソッ)うん。キモいというより怖かった」

「…………そうですか」



 チビッ子たちは気付いてなかったけど、姫先輩の表情が一瞬曇ったのを僕は見逃さなかった。
 『キサキちゃん』――その人が関係しているのは明らかだ。
 派手子ちゃんキルヤ君の言う連休は、僕がヤリサーに入った後の大型連休のことだろう。
 ……あれ? そういえば、ヤリマン狩りが姫先輩を狙いだしたのもちょうどそのころだったような記憶が……?



「姫先輩――その……『キサキ』というのは……?」



 聞くべきか聞かざるべきか。
 迂闊に踏み込んでいい話じゃない気もしたけど、それでも僕は姫先輩に訊ねた。
 勘だけど、その『キサキ』とやらはヤリマン狩りに関わっているのではないか。
 そしてもしそうならば――姫先輩と同じヤリサーの一員である僕にも無関係ではない。無関係ではいたくない。
 ……今は小学生にも負けるくらい弱い僕だけど、それでもヤリサーの一員として頑張っていきたいという気持ちに嘘はないし、姫先輩が狙われているというのであれば助けになりたい。
 ……僕が心配するほど姫先輩がヤワじゃないのは十分理解しているけど……。



「キサキは――」



 姫先輩は少し顔を曇らせ言い淀む。
 が、次の瞬間にはいつも通りの優雅な微笑みを僕に向ける。



「…………そうですね。貞雄さんもヤリサーの一員ですし、場を改めてお話いたします」

「わかりました……」



 この場では話しづらいってことかな。チビッ子たちもいるわけだし。
 どうやら僕が思っているよりも複雑な事情がありそうだ。
 ……それをまだ知り合って僅かな期間しか一緒にいなかった僕に話していいのかはわからない。
 けれど、姫先輩の力になりたい。
 そのためには事情を知らなければならない。



 ……その後、僕たちはチビッ子たちと別れ、本来の目的であった僕の槍を購入し場所を移すこととなった。
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