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PART 1 : ハルの嵐
No.06 並行世界とデブリ
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「まず……ハル、『並行世界』ってどういうものだと思う?」
「む。こっちに振るのか……」
質問に質問を返すような感じではあるが、意味不明の状況の説明のためだ。致し方あるまい、とハルは自分の知識の範囲でナツへと返そうとする。
「並行世界――パラレルワールドだよな?
例えば……朝学校に行くときに、『右足から踏み出すか』『左足から踏み出すか』で違う世界に分岐する、っていうイメージだ」
「……いきなりミクロなところから来たわね……いやいいけど。
うん、まぁそんな感じよね。『右足の世界』『左足の世界』でそれぞれ別のパラレルワールドが誕生する――そして、そんな分岐が毎秒現れ続け、毎秒分岐し続けているって感じかな」
「ああ。……言っておくが、俺はそんなにSFとかに詳しくはないから適当なイメージだぞ?」
天才であっても全ての事柄を知っているわけではないのだ。
「まー創作とかで色々定義や解釈が違うってのはよくあることだし否定はしないわ。
ここからは、私たちの世界における並行世界の定義について話すわね。
……信じる信じないは今のところ強制はしないけどね。実際に目にして、実感しないとどうせハルは信じないでしょうから」
最後、若干拗ねたような気配を感じたのはハルの気のせいではないだろうと思う。
口でいくら説明してもハル自身も信じることはない、と自覚はしている――が、相手の話に全く耳を貸さないというつもりはない。
「いいから話せよ。そこを話さないと、俺が狙われている理由もわからないんだろう?」
「うん。とりあえず『知識』として覚えておいてくれればそれでいいわ。
さて――それじゃ、まずは私の世界について話そうかな?」
居住まいを正し、真剣な表情でナツは語り出す。
「私が住む世界は、ハルの住むこの世界の並行世界。その前提で話すわね。
それで私の世界――えーっと、めんどくさいから以降は『N世界』ね。この世界は『H世界』ということで。
N世界は簡単に言っちゃうと、『ものすごく科学技術が発展した世界』なのよ。ハルが想像する『未来の世界』とでも思っておけばいいわ」
「未来の世界、ねぇ……」
チューブ状の道路に地面から浮いた車のようなものが走っていて、何となく円形な建物が並んでいたりする光景がハルの脳裏に浮かぶ。
……そこに住んでいる人々は、光沢のある全身タイツのようなスーツを着ているイメージも浮かんできたが。
「私が生まれる前だけど、N世界の科学技術はついに『並行世界』を観測することに成功したの。それが始まり。大体200年くらい前だって言ってたかな? ま、それはどうでもいいわ。
最初の頃はハルが言ったみたいな並行世界が次々に見つかってしまって、収拾がつかない――はっきり言って混乱するだけで何の意味もなかったみたい」
「だろうな」
なにせ『右足』『左足』レベルで世界が分岐していくのだ。しかも、それがある一個人ではなく全人類……いや全生物、無生物も含めて行われることになる。
『無限』という言葉では足りないほどの世界が毎秒誕生していくことになるのだから、混乱するとしか言えないだろう。
「並行世界はある、けどとてもではないけど扱いきれない――そんな状態がしばらく続いたらしいわ。
でも、なにせ『科学の世界』だからね。昔の人は諦めることなく並行世界の研究を続けて無理のない観測方法を確立させたの。割とつい最近なんだけど。
その新たな観測方法によって、『軸』となる世界を特定して無理のない並行世界がわかるようになって……そして私たちはついに並行世界を行き来できるようになったわ」
「ふむ?」
「観測方法はざっくりと言ってしまえば、今言ったように『軸』を特定……いや作り出すと言った方が正解かな?
さっきハルが言ったみたいに『右足の世界』と『左足の世界』で本来は分岐するわけなんだけど――じゃあ、それで世界って大きく変わるものかしら?」
「……まぁ普通は変わらないだろうな」
「だよね。もしかしたらいつもと違う足から踏み出して歩数が乱れて転んだり、とかはあるかもしれないけど。でも結局それで世界が変わるかって言われると、やっぱりそんな大きな変化は起きないよね。
私たちが観測しているのは、そういう無数の――言ってしまえば『どうでもいい』幅を纏めて見た時の『結果の世界』なの。『大筋』と言ってもいいかもしれない。
無数の世界の平均を観測して算出した『歴史』としての大きな流れ……それを『軸』とした世界を、一つの並行世界として定義・観測しているの。
そして残念ながら私たちの世界でも『時間』だけはまだどうしようもできていない――だから、例えば『ある人が生きている』『ある人が死んでいる』といったような、いわゆる『IF』の分岐は観測不能なのよね。だって、観測できているのは『結果』だけだから『IF』は原理的に起こりえないから」
「……う、うむ」
ナツの言葉の全てを理解できたわけではないが、理屈は何となく掴めた……気はするハルは、とりあえず質問を挟むことなくナツの話を聞き続ける。
ハルの理解がどこまで追いついているのか計りかね、我に返ったナツは『んーと……』と少し考え、
「……ま、要するにほとんど変わりのない世界を省いて、大きな分岐を経た世界を私たちは並行世界として観測しているってことね。
もっとわかりやすく言っちゃえば、『異世界』レベルに違う世界だけを並行世界としている……って感じで覚えておけばいいわ」
と簡単にまとめる。
「お、おう」
実感はないが、何となくで理解するハルであった。
「俺のH世界とおまえのN世界は『右足』『左足』なんてレベルではなく、『異世界』と言えるくらい差が開いているから観測可能な並行世界ってこと……だな?」
「うん。並行世界の技術について説明しようとすると、本当に難しくて……この部屋いっぱいの技術書を読み込んでも足りないくらいなのよ。
なので、とりあえずハルの理解レベルでいいから納得して欲しいかな」
「……わかった」
ちなみにハルのアパートは6畳一間、風呂トイレ別の、男子高校生の一人暮らしにしてはそこそこ良い部屋ではある。
その部屋いっぱいの技術書、と聞いて流石にハルも頭が痛くなってきた。
いくら天才であっても、それを全部読む自信はない――というより技術書を読む以外のことが何もできなくなってしまうだろう。
「ともかく、私たちは並行世界を観測し、更にそこを行き来できる。ここまではいい?」
「ああ、いいだろう」
「それで次は……そうね、ハルのことの前にデブリのことについて先に説明しようかな」
『並行世界の狭間』の存在――『黒い泥』ことデブリへと話は移る。
「観測可能な世界――私たちは『軸世界』と呼んでいるんだけど、アクシス間ってどうなってると思う?」
「世界と世界の間……?
おまえが言ったことを考えれば――観測できない無数の並行世界が本来なら存在しているはず、だな?」
「うん、その通り」
少し不安であったが、ハルが概ね並行世界に関しては理解できているようだ、と安心して頷く。
「だが待て。あのデブリとやらは『並行世界の狭間』とやらに漂うとも言っていたはずだ。
無数の並行世界の間に隙間ができる余地はなさそうだが……」
「うん、それも正解。
ただ……観測可能な世界と観測不能の世界があるってことは――」
「……観測不能の世界そのものが『狭間』ということ、か?」
「半分正解」
「……半分なのか?」
「うん。『狭間』はそれだけじゃない。
さっき少し話したよね? 観測不能の『IF』の世界――それは観測できないけど存在はしている世界でもある。
例えば歴史上の偉人で『この人が生きていたら……』みたいな世界は実在はしなかったけど可能性だけはあった」
もしも織田信長が本能寺で死ななかったら?
もしも坂本龍馬が暗殺されなかったら?
――歴史が変わっていたのは疑いようがないだろう。
だが、実際にそんなことは起きなかったし、仮に起きたとしたらその後の歴史がどうなったかは想像するしかない。
「そんな想像するしかない可能性だけの世界――私たちはそれを『可能世界』と呼んでいるわ。
ロマニアが残り半分……それが『狭間』を構成している。
それで、わかっていると思うけどロマニアはあくまでも『可能性だけはあったIF』――実際には存在することのない、存在しえない世界。
なのに狭間として存在している。
これがどういうことかわかる?」
「……存在はしないが存在している、そんな矛盾した『何か』がある――そうか、ロマニアそのものがデブリということだな?」
「正解!」
アクシスを観測可能とするために切り捨てられる、無数の『歴史に影響を与えない程度の分岐世界』。
そして、実際に存在しなかったがために原理的に観測不可能な『IFの世界』。
これらがアクシスの『狭間』となっている。
ロマニアは誕生の経緯からしてブランチとは異なる。
それゆえか、『存在しないが存在する』という矛盾した存在となった。
『狭間』の世界に積み重ねられたロマニア――故に、それは『堆積物』と名付けられた。
「本来存在しなかった分岐そのものか……だが、それがなぜ俺を狙う? というより、アクシスにやってこれるものなのか?」
矛盾した存在のデブリがなぜH世界へとやってくるのか?
そしてなぜハルを狙うのか?
「……ダークマターみたいなもの、だからかしらね?」
「?」
「観測できないから観測できた、ということ。ダークマターと違って、デブリは『どういうものか』はわかっているけど。
まぁそこは置いておいて、デブリは私たちがロマニアの存在を間接的に観測したために現れた……」
「それはつまり……N世界が並行世界を行き来できるようにしたから、初めてデブリが出て来たってことか!?」
「……うん、そうなっちゃうみたい」
物事は何事も光の面と裏の面があるものでままならないものだ。
パラレルワールドの実在を確定させてしまったがために、間接的に『狭間』の存在も確定させてしまった。
間接的に観測できてしまったがゆえに『デブリ』は現れてしまったということだ。
そのことを今責めても仕方あるまい、とハルはため息をつくだけに留めそれ以上は突っ込まないことにした――そもそもまだナツの言葉全てを『真』として受け入れていないし、その判断は話全てが終わってからだ。
「ただ……デブリがアクシスへとやってくるって、本当ならできるはずがないのよ。だからこそ、N世界は安心して並行世界の観測・移動をしているわけだし」
「だが現実に今俺を襲ってきている」
「うん、デブリを意図的に――予想だけど並行世界間移動の技術を応用してだとは思うけど、ハルの元へと送り込んでいる『誰か』がいる。
私はデブリからあなたを守るためにやってきた。これは言ったわよね?」
「ああ。
となると……次は『なぜ俺が狙われているか』だが――俺のことを『特異点』と言ったな? それはどういうことなんだ?」
「む。こっちに振るのか……」
質問に質問を返すような感じではあるが、意味不明の状況の説明のためだ。致し方あるまい、とハルは自分の知識の範囲でナツへと返そうとする。
「並行世界――パラレルワールドだよな?
例えば……朝学校に行くときに、『右足から踏み出すか』『左足から踏み出すか』で違う世界に分岐する、っていうイメージだ」
「……いきなりミクロなところから来たわね……いやいいけど。
うん、まぁそんな感じよね。『右足の世界』『左足の世界』でそれぞれ別のパラレルワールドが誕生する――そして、そんな分岐が毎秒現れ続け、毎秒分岐し続けているって感じかな」
「ああ。……言っておくが、俺はそんなにSFとかに詳しくはないから適当なイメージだぞ?」
天才であっても全ての事柄を知っているわけではないのだ。
「まー創作とかで色々定義や解釈が違うってのはよくあることだし否定はしないわ。
ここからは、私たちの世界における並行世界の定義について話すわね。
……信じる信じないは今のところ強制はしないけどね。実際に目にして、実感しないとどうせハルは信じないでしょうから」
最後、若干拗ねたような気配を感じたのはハルの気のせいではないだろうと思う。
口でいくら説明してもハル自身も信じることはない、と自覚はしている――が、相手の話に全く耳を貸さないというつもりはない。
「いいから話せよ。そこを話さないと、俺が狙われている理由もわからないんだろう?」
「うん。とりあえず『知識』として覚えておいてくれればそれでいいわ。
さて――それじゃ、まずは私の世界について話そうかな?」
居住まいを正し、真剣な表情でナツは語り出す。
「私が住む世界は、ハルの住むこの世界の並行世界。その前提で話すわね。
それで私の世界――えーっと、めんどくさいから以降は『N世界』ね。この世界は『H世界』ということで。
N世界は簡単に言っちゃうと、『ものすごく科学技術が発展した世界』なのよ。ハルが想像する『未来の世界』とでも思っておけばいいわ」
「未来の世界、ねぇ……」
チューブ状の道路に地面から浮いた車のようなものが走っていて、何となく円形な建物が並んでいたりする光景がハルの脳裏に浮かぶ。
……そこに住んでいる人々は、光沢のある全身タイツのようなスーツを着ているイメージも浮かんできたが。
「私が生まれる前だけど、N世界の科学技術はついに『並行世界』を観測することに成功したの。それが始まり。大体200年くらい前だって言ってたかな? ま、それはどうでもいいわ。
最初の頃はハルが言ったみたいな並行世界が次々に見つかってしまって、収拾がつかない――はっきり言って混乱するだけで何の意味もなかったみたい」
「だろうな」
なにせ『右足』『左足』レベルで世界が分岐していくのだ。しかも、それがある一個人ではなく全人類……いや全生物、無生物も含めて行われることになる。
『無限』という言葉では足りないほどの世界が毎秒誕生していくことになるのだから、混乱するとしか言えないだろう。
「並行世界はある、けどとてもではないけど扱いきれない――そんな状態がしばらく続いたらしいわ。
でも、なにせ『科学の世界』だからね。昔の人は諦めることなく並行世界の研究を続けて無理のない観測方法を確立させたの。割とつい最近なんだけど。
その新たな観測方法によって、『軸』となる世界を特定して無理のない並行世界がわかるようになって……そして私たちはついに並行世界を行き来できるようになったわ」
「ふむ?」
「観測方法はざっくりと言ってしまえば、今言ったように『軸』を特定……いや作り出すと言った方が正解かな?
さっきハルが言ったみたいに『右足の世界』と『左足の世界』で本来は分岐するわけなんだけど――じゃあ、それで世界って大きく変わるものかしら?」
「……まぁ普通は変わらないだろうな」
「だよね。もしかしたらいつもと違う足から踏み出して歩数が乱れて転んだり、とかはあるかもしれないけど。でも結局それで世界が変わるかって言われると、やっぱりそんな大きな変化は起きないよね。
私たちが観測しているのは、そういう無数の――言ってしまえば『どうでもいい』幅を纏めて見た時の『結果の世界』なの。『大筋』と言ってもいいかもしれない。
無数の世界の平均を観測して算出した『歴史』としての大きな流れ……それを『軸』とした世界を、一つの並行世界として定義・観測しているの。
そして残念ながら私たちの世界でも『時間』だけはまだどうしようもできていない――だから、例えば『ある人が生きている』『ある人が死んでいる』といったような、いわゆる『IF』の分岐は観測不能なのよね。だって、観測できているのは『結果』だけだから『IF』は原理的に起こりえないから」
「……う、うむ」
ナツの言葉の全てを理解できたわけではないが、理屈は何となく掴めた……気はするハルは、とりあえず質問を挟むことなくナツの話を聞き続ける。
ハルの理解がどこまで追いついているのか計りかね、我に返ったナツは『んーと……』と少し考え、
「……ま、要するにほとんど変わりのない世界を省いて、大きな分岐を経た世界を私たちは並行世界として観測しているってことね。
もっとわかりやすく言っちゃえば、『異世界』レベルに違う世界だけを並行世界としている……って感じで覚えておけばいいわ」
と簡単にまとめる。
「お、おう」
実感はないが、何となくで理解するハルであった。
「俺のH世界とおまえのN世界は『右足』『左足』なんてレベルではなく、『異世界』と言えるくらい差が開いているから観測可能な並行世界ってこと……だな?」
「うん。並行世界の技術について説明しようとすると、本当に難しくて……この部屋いっぱいの技術書を読み込んでも足りないくらいなのよ。
なので、とりあえずハルの理解レベルでいいから納得して欲しいかな」
「……わかった」
ちなみにハルのアパートは6畳一間、風呂トイレ別の、男子高校生の一人暮らしにしてはそこそこ良い部屋ではある。
その部屋いっぱいの技術書、と聞いて流石にハルも頭が痛くなってきた。
いくら天才であっても、それを全部読む自信はない――というより技術書を読む以外のことが何もできなくなってしまうだろう。
「ともかく、私たちは並行世界を観測し、更にそこを行き来できる。ここまではいい?」
「ああ、いいだろう」
「それで次は……そうね、ハルのことの前にデブリのことについて先に説明しようかな」
『並行世界の狭間』の存在――『黒い泥』ことデブリへと話は移る。
「観測可能な世界――私たちは『軸世界』と呼んでいるんだけど、アクシス間ってどうなってると思う?」
「世界と世界の間……?
おまえが言ったことを考えれば――観測できない無数の並行世界が本来なら存在しているはず、だな?」
「うん、その通り」
少し不安であったが、ハルが概ね並行世界に関しては理解できているようだ、と安心して頷く。
「だが待て。あのデブリとやらは『並行世界の狭間』とやらに漂うとも言っていたはずだ。
無数の並行世界の間に隙間ができる余地はなさそうだが……」
「うん、それも正解。
ただ……観測可能な世界と観測不能の世界があるってことは――」
「……観測不能の世界そのものが『狭間』ということ、か?」
「半分正解」
「……半分なのか?」
「うん。『狭間』はそれだけじゃない。
さっき少し話したよね? 観測不能の『IF』の世界――それは観測できないけど存在はしている世界でもある。
例えば歴史上の偉人で『この人が生きていたら……』みたいな世界は実在はしなかったけど可能性だけはあった」
もしも織田信長が本能寺で死ななかったら?
もしも坂本龍馬が暗殺されなかったら?
――歴史が変わっていたのは疑いようがないだろう。
だが、実際にそんなことは起きなかったし、仮に起きたとしたらその後の歴史がどうなったかは想像するしかない。
「そんな想像するしかない可能性だけの世界――私たちはそれを『可能世界』と呼んでいるわ。
ロマニアが残り半分……それが『狭間』を構成している。
それで、わかっていると思うけどロマニアはあくまでも『可能性だけはあったIF』――実際には存在することのない、存在しえない世界。
なのに狭間として存在している。
これがどういうことかわかる?」
「……存在はしないが存在している、そんな矛盾した『何か』がある――そうか、ロマニアそのものがデブリということだな?」
「正解!」
アクシスを観測可能とするために切り捨てられる、無数の『歴史に影響を与えない程度の分岐世界』。
そして、実際に存在しなかったがために原理的に観測不可能な『IFの世界』。
これらがアクシスの『狭間』となっている。
ロマニアは誕生の経緯からしてブランチとは異なる。
それゆえか、『存在しないが存在する』という矛盾した存在となった。
『狭間』の世界に積み重ねられたロマニア――故に、それは『堆積物』と名付けられた。
「本来存在しなかった分岐そのものか……だが、それがなぜ俺を狙う? というより、アクシスにやってこれるものなのか?」
矛盾した存在のデブリがなぜH世界へとやってくるのか?
そしてなぜハルを狙うのか?
「……ダークマターみたいなもの、だからかしらね?」
「?」
「観測できないから観測できた、ということ。ダークマターと違って、デブリは『どういうものか』はわかっているけど。
まぁそこは置いておいて、デブリは私たちがロマニアの存在を間接的に観測したために現れた……」
「それはつまり……N世界が並行世界を行き来できるようにしたから、初めてデブリが出て来たってことか!?」
「……うん、そうなっちゃうみたい」
物事は何事も光の面と裏の面があるものでままならないものだ。
パラレルワールドの実在を確定させてしまったがために、間接的に『狭間』の存在も確定させてしまった。
間接的に観測できてしまったがゆえに『デブリ』は現れてしまったということだ。
そのことを今責めても仕方あるまい、とハルはため息をつくだけに留めそれ以上は突っ込まないことにした――そもそもまだナツの言葉全てを『真』として受け入れていないし、その判断は話全てが終わってからだ。
「ただ……デブリがアクシスへとやってくるって、本当ならできるはずがないのよ。だからこそ、N世界は安心して並行世界の観測・移動をしているわけだし」
「だが現実に今俺を襲ってきている」
「うん、デブリを意図的に――予想だけど並行世界間移動の技術を応用してだとは思うけど、ハルの元へと送り込んでいる『誰か』がいる。
私はデブリからあなたを守るためにやってきた。これは言ったわよね?」
「ああ。
となると……次は『なぜ俺が狙われているか』だが――俺のことを『特異点』と言ったな? それはどういうことなんだ?」
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