パラレルワールド・俺ハーレム

小野山由高

文字の大きさ
46 / 50
PART 7 : What a Heartful World

No.46 真に信頼できるもの(中編)

しおりを挟む
 フユが最も『怖い』ことは、だった。
 逆に言えば、それ以外のことは彼女にとっては『恐怖』を感じるほどのことでもないのだ。
 もちろんデブリに襲われればひとたまりもないが、それでも彼女の持つ超能力とさえ言えるほどの『危険感知』で幾らでも回避できる。
 デブリ以外にも様々な自分の身に迫る危険は当然感知可能だ。

 要するに、フユはF世界にさえ戻らなければどうとでもなるほどの能力を持っているということである。
 ……とかく生存のために金銭の必要となるH世界等で一人生きていけるかと問われれば、厳しいことは事実ではあるが、無数の『鬼』に狙われるF世界に比べればどんな世界であろうとも彼女にとっては『天国』であると言えよう。

 そんな彼女の怖れを、デブリたちは見抜いていたのだろう。
 ナツが一足先にハルの救出に向かっていた時、フユに対してN風見真理を乗っ取ったデブリが脅迫してきた。



 ――言う通りにしなければ、おまえをまたあの世界へと戻す。



 と。
 N風見がデブリであることはその時にフユにはわかっていたが、その正体をナツたちにバラすことは当然口止めされている。
 そして、N風見の身体を乗っ取っていることから、本当にやろうと思えばフユをF世界へと送り戻すこと――パラレルワールドの技術を扱うことができることも理解していた。
 だからフユは従うしかなかった。



 N風見がフユへと指示したことは2つ。
 1つは、H世界でのハルたちの動きを報告することだ。
 パラレルワールド間での通信は技術も確立していないため使えないが、ある意味で世界の法則外の存在であるデブリには関係ない。
 ハルたちが学校へ行っている間などに、アキに見つからないタイミングでこっそりとH世界のデブリ――コハルへと情報を伝えていた。

 2つ目は来るべき決着の日――つまり今日の動きについてだ。
 彼女の役割は、ハルとアキを一時的に引き離し、更にアキがすぐに助けに向かえないように妨害することだった。
 そのためのアイテムとして、N風見からは鬼デブリを封じ込めた『超科学収納ボックス』を別に渡されている。
 鬼デブリであればアキであっても足止め可能だと、コハルたちは考えていた――というよりも彼女たちが用意できる最大の戦力が鬼デブリまでしかないのだ。

 後は、孤立したハルをコハルが仕留めて終了。
 その時まで適当に身を隠していれば良い――とフユは事前に作戦を伝えられていた。



(…………フユも、がんばる……)

 けれどもフユは脅迫されたからと言って、震えて何もできない無力な子供ではなかった。
 見た目や性格こそ違えど、彼女のハルと同様にF世界における『天才』なのだ。
 生き残るために必要だった『危険感知』能力だけではなく、生存のための的確な状況判断・状況分析・状況把握能力にも優れている。
 そんなフユは、誰にも相談できず、しかしたった一人でずっとデブリたちへの対抗策を練り続けていた。



(……『てれび』のむこうでも、『あぶない』がわかる……!)

 フユが注目したのは、H世界で目にした『テレビ』だった。
 聡いフユには、テレビ画面の向こう側にあるのは『作り物』であることはすぐに理解できた。『生放送』のようにリアルタイムでの番組であっても、それは遠く離れた別の場所の出来事なのであるとも理解している。
 その上で、更にフユは自分の能力を突き詰めて考えた結果、『作り物』であろうと何だろうと、フユは自分自身に関連しているものであれば『危険』を感知できるということだった。
 ――もしこれをハルやナツが聞いたとしたら、『超能力としか言いようがない』と言っていただろう。実際、そうとしか言いようのない能力だ。

 肝心なのは、フユが『自分が関わっていれば何でも危険がわかる』という事実を明確に自覚したことにある。
 距離も時間も、
 ありもしない脅威に踊らされる危険性も孕んでいるが、フユ自身がしっかりと理解して見定めることができていれば問題はない。
 事、危険を事前に察知して回避策をとるという点にかけて、フユは紛れもないあらゆる並行世界において唯一無二の『超天才』なのだ。

 そんな危険に関する超天才のフユが、自分の能力について自覚をしただけで終わらせるわけがない。
 彼女が真っ先に行ったのは、? という確認だ。
 もっと言えば、自分を脅迫しているデブリたちは脅威足りえるのか? という確認である。
 『フユをF世界に戻す』という言葉は確かに恐怖だ。
 デブリたちが実行できるのも確かだ。
 では、ハルたちがデブリを突破できたとしたらどうだろう?
 そして、デブリたちが失敗した際に自分の身の安全を守るためにはどうしたらいいだろう? どう動けばいいだろう?

 ……フユはひたすらにそれを考え続け、ハルのように相手の思考を読み解き、自分にとっての『最良』の結果を導き出すために相手を誘導した。
 とはいってもフユは積極的に相手に言葉をかけて誘導したというわけではない。デブリたちは元よりフユの言うことなど聞きはしないだろう。
 だからフユ自身が行動を起こしたのはほんの少しだけだ。



 アキへと鬼デブリをけしかける――ここまではデブリたちの計画に沿って進めた。進めざるを得なかった。
 鬼デブリに対してはF世界の『鬼』と同様に恐怖を感じたが、という絶対的な信頼を彼女はもっていた。
 そして一旦身を隠す……が、ここで
 デブリたちにとって、ここでハルを殺せればフユの存在など気にも留めていない。おそらく、遠くへと逃げ出しても咎められることはなかっただろう。
 それでもあえてフユは留まった。

 なぜならば、からだ。
 付近に隠れながら、注意深く自身に迫る危険を探る。
 やがて、N世界側――『F世界へ戻される』という恐怖を感じなくなった。

(ナツお姉ちゃんが、がんばった……!)

 次元を隔てた別世界に潜む危機をなぜ感じ取れるのかまではフユも理解していない――もしかしたら、ハルたち『並行世界のフユ』に迫る危機をも感じ取れるのかもしれないが、真偽は不明だ。
 ともあれ、デブリたちの計画の中心人物たるN風見デブリの脅威が消えた。
 となればこちらの世界に残ったコハルが採るべき手段は簡単に想像がつく。

(……フユを『ひとじち』にする……)

 ショッピングモールから離れなかった理由はここにある。
 N風見の助けを得られなくなったことを知ったコハルならば、きっとフユを『人質』にして、フユの持つ『超科学収納ボックス』に潜む鬼デブリを頼るだろうとわかっていた。
 だからすぐにデブリに捕まり連れて行かれやすいショッピングモール傍にフユはいたのだ。



 かくして、フユの考え通りにコハルは踊り、フユはハルたちの目の前へと何の苦労もせずに連れてきてもらった――というわけである。






「――フユ、?」

 ハルの言葉に、フユは心の底から安堵する。

(……お兄ちゃんも、……!)

 言葉を交わさずとも、おおよそのことをハルが理解してくれていることをフユは彼の一言だけで同じく理解した。
 ここに連れて来られるまではフユの考え通りではあったが、ここから先はフユ一人ではどうにもならない。
 ハルたちの『協力』がなければ乗り越えられない、最後の壁だと言える。
 通信機をフユも外していたためハルたちと相談することもできない、ある意味では『賭け』ではあったが……その賭けにフユは勝った。

「………………」

 フユに出来ることは、後は『伝える』だけだ。
 そして、フユの意図がハルたち3人には――そんな絶対的な信頼が彼女たちの間にはあった。



「大丈夫だ、俺たちに任せろ、フユ」

 ハルの言葉を聞き、フユはコハルに言われるがまま『超科学収納ボックス』を開き最後の鬼デブリを解き放つ。



 ……『最後の壁』は既に乗り越えている。
 後は決着がつくのを待つだけだ。
 そう、フユは心の底から信じ切っていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

負けヒロインに花束を!

遊馬友仁
キャラ文芸
クラス内で空気的存在を自負する立花宗重(たちばなむねしげ)は、行きつけの喫茶店で、クラス委員の上坂部葉月(かみさかべはづき)が、同じくクラス委員ので彼女の幼なじみでもある久々知大成(くくちたいせい)にフラれている場面を目撃する。 葉月の打ち明け話を聞いた宗重は、後日、彼女と大成、その交際相手である名和立夏(めいわりっか)とのカラオケに参加することになってしまう。 その場で、立夏の思惑を知ってしまった宗重は、葉月に彼女の想いを諦めるな、と助言して、大成との仲を取りもとうと行動しはじめるが・・・。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...