ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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18.手段を選んではいられない

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 「意外と冷えますね、ナナイ君。……でも、よろしかったのですか?ユースティンさんと一緒にお帰りにならなくて」

 「ああ、大丈夫だ。さすがに一人で帰れるって言っててよ、聞いたら帰り道も逆らしいしな。
 お前こそあいつには興味があるんじゃねえのか?」

 「ありますよ、とても。大ありです。しかし今日はナナイ君と二人で帰りたい気分でしたので、もし送るとしても明日以降ですね」

 「そうか。ならいい」


 真っ暗になった帰り道を俺とコズハは歩いていた。いつもと変わらないはずだが、さっきまでの騒がしさを考えると嫌に静かだ。

 というのも机から助け出した後、ユーはそそくさと荷物をまとめて一人で帰ったのだ。
 
 
 “今日の夜12時、雑木林に来てくれ。話がある”

 
 去り際、テレパシーを俺に残して。

 よって俺の目的はエイリアンへの日本語講座から、エイリアンの話を聞くことへすり変わった。   

 当然のように俺の睡眠時間は今日も今日とて削がれる訳だが、元々約束はしていたことだし仕方が無い。家に帰ってから宿題やって、飯を作って、仮眠もとった方がいいだろうか。そもそもコズハにバレないようにどうやって雑木林に向かうべきだろうか。

 会話の切れ間にそんなことを考えていたら、コズハが俺の服の裾を引っ張ってきた。

 
 「時に、ナナイ君」
 
 「なんだよ」

 「ユースティンさんとは、本当はどこでお知り合いになられたのですか?」

 「……」

 
 聞かれるとは思っていたが、答えようのない質問をされて眉間を押さえた。俺は何と答えればいいのだ。

 俺の交友関係を徹底的に把握しているコズハにとって、存在しえない知らない友人。それも自らが気を失っている時に会っていた、見かけからして尋常ならざる人。

 聞きたくなって当然だが、まさか『あいつエイリアンでお前が気絶した遠因なんだよ』とは口が裂けても言えまい。ユーを危険な目に合わせるわけにはいかないし、次襲いかかった時コズハが無事に済むとも限らない。

 だが誤魔化すにも限界がある。コズハは俺の一挙手一投足を把握しており、常に知りたがっている。このままではユーがエイリアンであることもじきにバレる。ユーもコズハを危険視しているようだし、俺の見ていないところで遭遇すれば一触即発もやむなしだろう。


 「……悪いが言えない」


 情けないが、俺はそれ以外の回答が思い浮かばなかった。

 コズハは俺の前方を塞ぎ、俺の顔をじっと見上げた。


 「どうしてもですか?」

 「どうしてもだ。言う訳には行かない」

 
 俺らは何も言わないまま、しばらく見つめ合った。少々大人気ないが、コズハに危険が及ぶ以上俺も引き下がるわけにはいかない。

 すぐ側の国道を行き交う車が、今日はやけにうるさい。気まぐれに俺らの顔を青白く照らしては、忙しなく去っていく。その度にコズハの長い編み髪を揺らした。


 「そうですか」


 コズハは静かに息をついて、視線を下げた。


 「こうも強情なナナイ君は久しぶりですね。……わかりましたよ、私が折れましょう」

 「悪い。そうしてくれると助かる」

 「悪いと思っているなら、謝らないでください。
 その過ぎた優しさを状況構わず振りまくところが、ナナイ君の欠点です」

 「すまん、気をつけ……」

 
 コズハは俺のことを白い目で見上げた。


 「だからそれです。次から一時的に悪い、すまなかった、申し訳ない、お詫び申し上げますといった謝罪の一切を禁じます」


 俺は軽く目を逸らし、一呼吸置いた。

 
 「はぁ……俺の発言の一切を禁じるなよ」

 「ナナイ君は変に罪の意識を持ちすぎなのです。いきなり私に気を使われたとして、一々罪悪感を抱かないでください」
 
 「んなこと出来るわけねえだろ。いつも私利私欲のために俺を振り回すお前が急に気を使ってきたら流石に申し訳なくもなるわ」

 「はぁ……律儀ですね。わかりました、でしたらこうしましょう」

 「……!」


 コズハはぐいっと詰襟ごと、俺の体を引っ張った。そして、まっすぐ俺の目を覗き込む。夜の光を反射する眼鏡の向こう側、黒々とした目が瞬きもせず俺を見てきた。

 思わず声を出すのも躊躇われるほどの気迫。コズハはゆっくりと口を開いた。


 「お願いです、どうかユースティンさんのところに行かないでくれませんか?」


 吐息がかかるような距離感で命じられた『お願い』は、有無は言わせぬとでも告げるようであった。
 ここまで手段を選ばないコズハを、俺は見たことがなかった。


 「初めてだな、お前が俺の交友関係に直接口出してくるのは」

 「こうでもしないとナナイ君が止まらない可能性があるからです。手段を選んでいる場合ではありません。
 それにまるで直接でなければ付き合いに口出しをしているみたいな言い方をするではないですか、人聞きの悪い。私は危険性を予め確かめているだけです」

 「実際そうだろ。お前がどこにでもくっ付いてくるのと、必ず話を盗み聞きしてるか割り込んでるかでドン引きして人が寄り付かなくなるんだからよ」


 コズハは目線を外して、いじけたように口を尖らせた。


 「……だって、ナナイ君と仲良くするなら私とも仲良くなって欲しいじゃないですか」

 「可愛く言ってもダメだ。流石に今日みたいな登場の仕方したら、次こそ通報されるぞ」

 「仕方がないではないですか。私は相互理解のウェポンが他の人と違うんですよ」

 「物騒なもん出すなよ。それを言うならツールだ。コミュニケーションがてら襲撃すんじゃねえよ」

 「ですが、私のように物静かな少女ルックであれば話しかけるのにハードルがあるのも事実。
 だとしたら私は引かれてでも、相手の殻をこじ開けて距離を詰めますね」

 「接触した瞬間ナパーム弾打ち込む女が何言ってんだ。みんな待避可能な距離まで下がってんだよ」

 「……」


 コズハは間を置いて、俺に語り掛けた。

 
 「お言葉ですが、ユースティンさんはナパーム弾より危険な方だと私は考察します。由来の知れない素性、私ほどでは無いにせよ強い力。
 何より……得体が知れません」


 得体が知れないと、コズハはユーを断じた。
 
 不可解なことがあれば気が済むまで対象を追い求めるノーレッジジャンキーが、知が判断材料の全てである西上コズハが、知ってはならないものだと引き下がったのだ。

 それほどまでにユーを警戒し、かつ人外だと認識しているらしい。幼馴染ながら慧眼にも程がある。ノーヒントでエイリアンだと言い当てたようなものだ。ついでに俺がユーと会う約束をしたことまでバレている。一を聞いて十を知るとはまさに、こういう状態なのだろう。
 
 感心する俺を他所に、コズハは畳み掛けた。


 「ですからナナイ君。ユースティンさんのところに一人で行こうなどと、思わないでください」

 「無理だ」


 俺の返事を聞いて、詰襟を掴む手に力が加わる。首がわずかに締め上げられた。
  

 「秘密があるなら共有してください」

 「それも出来ない」

 「……」

 
 首を絞めてくる手が震える。互いの鼻と鼻がぶつかり合う程の近くまで、顔を寄せてきた。目は見開かれ、メガネが俺の目に触れそうなほど接近した。
 コズハの眉が僅かに険しくなっている。明らかに、コズハは怒っている。それも俺のためにだ。

 わずかに震える声でコズハは俺に問いかける。

 
 「これまでもそうしてきたでしょう。なぜ……それが出来ないのですか?」

 「……」


 俺はコズハの目を見たまま、思考を回す。どうしたら円満にこの場を収められるだろうかと。緊迫した状況ではあったが、俺の頭は冷静に回っていた。

 前提としてコズハは不自然なまでに俺を守ろうとしている。だが何らかの理由があるはず。そこにコズハは俺をたどり着かせ、納得させたいのだろう。

 加えて、宣言していたとおり今のコズハは手段を選ばない。コズハのことだから、尋常な思考回路で導き出された抜け道は徹底的に潰してくるだろう。当然のように先回りして納得せざるを得ない環境を作り出して、要求を呑ませる気だ。

 つまり下手に交渉をするのは悪手に違いない。万一俺が交渉に応じて条件を破れば、それを口実に自宅に監禁するくらいのことはするだろう。

 そして、こうも感情的なコズハを見るのは出会った頃以来だ。自らの思いを直接訴え、俺の返答も待たず問いただすなどそうそうしない。突くならばだ。


 「はぁ……」


 俺は様々な覚悟を一息のうちに決め、コズハの目を見た。


 「なあコズハ、話は変わるんだが」

 「なんですかナナイ君……私は今真面目な話を──」

 「お前とユーって結構雰囲気似てるし、仲良くなれそうだよな」

 
 俺は今日、たった一つだけ学んだことがある。ビンタの痛みは食らった頬だけでなく、瞬時に曲げられる首関節にも与えられる、と。
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