ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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34.腑に落ちない

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 奇々怪々なユーのセーラー服を見てからというもの。


 「……うーん?」


 俺はキッチンで豚バラ肉を炒めながら、頭を捻っていた。

 ユーの制服には無地のタグが着いていた。とても外見の似た別物という可能性も考えたが、あのセーラー服はどう見たってうちの高校のものだ。ご丁寧に校章の刺繍がされてあった。

 しかし衣料品のタグはそうそう掠れるものでは無い。洗濯しても、長いこと着続けたってタグは色落ちしない。落ちたところであんなに真っ白になることはまず無い。あの制服のタグはとしか考えようがない。

 しかし、タグが白い制服が売っているはずはない。そもそもユーは170cm強の背丈があり、そう簡単に制服は入手出来ないはずだ。考えれば考えるほど入手経路が謎めいている。


 うなれど悩めど、俺の推理力だけでは答えに辿り着けなさそうだ。


 「うーん……ん?」
 

 ふと、気がついた。なんだか下が焦げ臭い。
 目線を下げると、フライパンから煙がもくもくと出ていた。

  
 「ぎゃあ!焦げてんじゃねえかっ!!」


 慌てて生姜焼き……、もとい生姜焼き過ぎを陸揚げし、フライパンの焦げを落とす。だから俺にマルチタスクはどだい無理なのだ。


 「考えごとしながら料理とか、するもんじゃねえな……ああ……」


 試しにひとつ、菜箸でつまんで食べてみる。
 歯に触れた瞬間パッサパサに焦げた表面が崩壊し、苦味が口いっぱいに広がる。ひと噛みするとほのかに生姜焼きの塩気を感じたが、それをかき消すような渋みと焦げ臭さがある。生姜焼きのくせに、生姜を感じない。もはや原型すら残っていないほど焼き尽くされている。


 「……まっず」


 ダイニングテーブルで一人、顔を顰めていると、


 「いやー気持ちよかったゆー!」


 タオルを首にかけたユーが風呂から出てきた。だいぶしっかりと浸かったらしく、頭からは湯気が上がっている。

 
 「おう、おかえり。湯加減は問題なかったみてえだな」

 「バッチリだったゆー!……ん?何食べてるんだゆー?それになんか焦げ臭くないかゆー?」


 ユーはすんすんと鼻を鳴らした。


 「ああ、ちょうど料理焦がしちまってな……っていうか嗅覚はあるのかお前の体。てっきり飯食えねえし感覚とか無いもんだと思ってたが」
 
 「ふふふ、実は最近実装したんだゆー!その他にもうっすら味覚も感じられるようになったんだゆー!あっ、ちょうどいいところに……!貰ってくゆー!」

 「あっ、箸あるから使え!」


 俺の静止も間に合わず。ユーは真っ黒な生姜焼きをひょいとつまみ上げるなり、口に放り込んだ。そして数秒咀嚼して、


 「ふふっ、苦いゆー」


 と、はにかんだ。炭の塊みたいなのを食べたはずなのに、何故かユーは満足気だ。


 「わざわざ真っ黒なやつ食わなくったって、せっかく飯が食えるならちゃんとしたやつ用意したのによ……口直しに水いるか?」

 「いらないゆー!せっかく食べられたのにもったいないゆー!」

 「なんだそれ。よく分からねえけど腹壊すなよ?」


 相変わらず、ユーが何を考えているかはまるで分からない。しかし、この焦げの山を捨てなくて良くなりそうで助かった。

 安心したついでに、悲惨な生姜焼きが出来上がった原因の一つを直接聞いてみることにした。


 「そういや、お前あのセーラー服どこで用意したんだ?買ったのか?タグが真っ白だったんだが……」


 俺の質問にユーの体がビクリとはねた。


 「た、タグ?タグって何だゆー?」

 「服の裏地に縫い付けてる札だ。原材料とか製造元、取扱の注意とが書いてある。正規品だったらちゃんとそういうのが書いてるはずなんだが、お前のには無くてな」

 「そ、そうだったのかゆー!?気が付かなかったゆー!」
 
 「気が付かなかったって、どういうことだ?」

 「あれ、コズハの見ながらぼくが自作したものだったんだゆー!だから内部の模倣まで手が回らなかったんだゆー!」

 「……なるほど?そういうことか」


 確かに外見だけを見ていれば、細部までは観察ができないだろう。いや、待てよタグってそもそも着てたら見えない位置にあるよな。そもそもタグがあること自体知らない奴が、白い布切れだけつけるなんてことがあるか?

 
 「なあ、ユー。あれ本当にお前が……」


 俺が聞き返そうとした途端、


 「あーっ!」


 ユーが思い出したかのように叫んだ。


 「なんだよいきなりうるせぇな」

 「ナナイってたしかまだお風呂入って無いんだゆー?じゃあぼくと一緒に入らないかゆー?」

 「藪から棒にやべえ提案してくるんじゃねぇ。俺は1人で入るからお前はそこでテレビでも見てろ」

 「えー!観察させてくないのかゆー?」

 「ダメに決まってるだろ!それにお前はさっき入ってたじゃねえか!」

 「そんなつれないこと言わないで欲しいゆー!別に入っちゃダメなんてことも無いはずだゆー!」

 「だから!俺はお前と入りたくねえんだよ!」

 「なんでだゆー?裸体を見せ合うだけなのに……」

 「それが嫌なんだよ!!!」


 結局、俺は逃げるように風呂に入ることにした。
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