ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

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33.脱げばいいってもんじゃない

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 降りしきる豪雨に抗ってやってきたユー。話を聞いてみると、自業自得の事故を起こして宿無しになったらしい。


 「当面の間ぼくを泊めてほしいゆー!このとおり……!このとおりだゆー……!!」


 こんな具合に、泊めてくれるよう頼んできたのだ。

 自身の住居で漏電事故を起こした危険人物とはいえ、流石に家なしの友人をそのまま締め出せるはずもない。

 それに、俺の家には嫌という程部屋がある。ちょうど一人が身に沁みてきた頃だ。賑やかしにはちょうどいいかも知れない。


 「仕方ねえな。大したことは出来ねえけど、それでもいいのか?」


 ユーはぱあっと顔を輝かせて、俺の手を取った。


 「……!もちろんだゆー!!逆に雑用ならなんでもするから安心して欲しいゆー!!」

 「宇宙船ぶっ壊した経緯を聞くと安心できねえんだが……まあ多分そのうち頼るかもな」

 「ありがとうだゆー!それじゃあ早速……お風呂借りてもいいかゆー?」

 「ああ寒かっただろ。沸かしてるからとっとと入っちまえ」

 「じゃあ早速お邪魔しますゆー!って……ゆー?」


 靴を脱いで上がり框に足をかけたところで、ユーは急に静止した。


 「な、なんだ?何かあったのか?」
 
 「……このまま、ぼくが家に上がったら廊下がが汚れないかゆー?」
 

 そう言ってユーは首を傾げた。
 
 
 「いや、足元にバスタオル敷けばいいだろ?そのために何枚も持ってきたんだからよ」

 「確かにバスタオルが足元にあれば、廊下は濡れないゆー。でもそのバスタオルの長辺は精々1.3メートル……。
 ぼくの制服とパーカーが水をたっぷり含んでいることを考えると、バスタオルの上以外を歩くことは困難だゆー」

 「言われてみればそうだな」


 ユーの言っていることも一理ある。ユーの服は未だにたっぷりと水を含んでおり、土間に水溜まりを作っている。
 
 となると一度着替えてしまった方がいいのかもしれない。幸運にも、ユーと俺の身長はだいたい同じ。服を貸すことくらいはできるはずだ。


 「じゃあちょっと待ってろ。今着替えを──」


 俺が服をを取りに行こうとして背を向けた、その瞬間だ。


 「……よし、これで万事解決だゆー!!」


 ユーの言葉に続いて、重めの落下音がした。例えるなら、干した洗濯物が落ちた時のようなドサドサといった音。


 嫌な予感がする。

 俺は一切後ろを振り向かず、ユーに問いかけた。


 「ユー、お前……今何した?」

 「何って、服を全部脱いだんだゆー。これで床は濡れないゆー!」


 悪びれる様子もない声で、ユーは言う。
 えも言われぬ緊張が、俺の中に走った。目を瞑り、深呼吸する。

 落ち着けナナイ、お前の後ろにいる友人は裸だ。もし仮に振り返ってありのままの姿を視界に収めようものなら、明日から死ぬほど気まずい日常が幕を開ける。ついでにコズハにしばかれるに違いない。

 ここから先は、慎重に言葉を選ぶ必要が……。


 「それじゃ、上がっていくゆー!」

 「待てえええええい!!!」

 「ゆー!?」


 過去一番で大きな声が出たかもしれない。それくらい俺は焦っていた。何とか引き止められたようで、ユーの足音は聞こえない。しかしいつ俺の正面に回り込んで来るかわかったものでは無い。さもなくば俺はコズハによって、様々な罪を着せられることになる。

 落ち着いて説得し、何かを身につけさせよう。幸い、ユーはコズハほど話が通じない訳では無い。

 俺は後ろを向いたまま、ユーに語りかけた。


 「ユー。なんで人間が服を着ているかわかるか?」
  
 「恥部を隠し、肌を防護するためかゆー?」

 「そこまで理解してんのに、なんで脱いでんのお前」

 「合理的な行動をするために、それ以上理由がいるのかゆー?というかナナイ、そっちの方をずっと見てるけど何かあったのかゆー?」

 「お前の裸を見ねえために最大限の配慮をしてんだよ。なんで急に察しが悪くなるんだ」

 「へ?でもこの前コズハには裸を見せたって──」

 「事実をねじ曲げるな!!!あれは非合意だっ!!!つっただろ!!」

 「でも見られるのと見るのでは大きな違いが」

 「食い下がるなああぁっ!!フローリング水浸しにしていいから服着なおせぇぇっ!」

 「わ、わかったゆー……!」


 服を着たユーを浴室までの動線をバスタオルで作って誘導した。
ガラスドアに背を向けつつ、開いた隙間から制服を受け取る。


 「い、いくらなんでも警戒しすぎじゃないかゆー?」

 
 油断しきっていた時に、顔だけひょっこりと出してユーが聞いてきた。慌てて目を逸らし、壁の方を向いた。


 「俺は気にするんだよ……。こうなんて言うか、友人として超えてはならねえ一線だろそこは!」

 「別に裸くらい減るもんじゃないし……逆にぼくは人間のサンプルとしてナナイに見せてもらいたいくらいだゆー」

 「俺は気にするんだよ!いいから風呂に入れ!!」

 「むー……わかったゆー」

 
 不満げにユーが浴室に入っていったのを見て、俺は壁にもたれつつ崩れた。まったく、心臓がいくつあっても足りやしない。


 「洗濯かけるか……」


 はやる鼓動を何とかなだめてから、俺は立ち上がった。

 俺の家は脱衣所に洗濯機がある。破廉恥の危機はあれど、制服が生乾きになるよりはずっといいだろう。制服を取り込むついでに脱衣所のカゴに服を一式置いた。
 

 「脱衣所のカゴに服は置いとくからな。あと、制服とかは洗濯かけちまうぞー」

 「たすかるゆー!」


 ぐぐもった声が響いたのち、シャワーの水音が聞こえてきた。エイリアンもシャワーとか浴びるんだな。まあ、生きてるだけで汚れるだろうし当たり前か。
 
 切り替えて、俺はユーの抜け殻に向き合う。凄まじい重さの服たちは、触っただけで水が滴るのでタライに入れて選別する。下着用のネットとかがうちには無いのだが、大丈夫だろうか?

 一抹の不安を抱えつつ、恐る恐る服をつまんでいく。セーラー服の上と……スカートと……うん?あれ、それ以外はねえのか?流石にに気を利かせて分けてくれたとかは無いよな。

 だいたい、セーラー服ってどう洗えばいいんだ?別に学ランと洗い方とか変わらねえよな?

 
 「まあ、タグとか見りゃわかるよな」


 ぶつぶつ呟きながら、制服の裏地を広げて見回す。


 「……はぁ?」


 俺は目を疑った。
 
 目の前の制服には、真っ白な布切れがタグの代わりに着いているばかりだった。
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