ナナイの青春生存戦略

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
43 / 63

43.大人気ない

しおりを挟む
 夜の校舎、薄暗い玄関先に響き渡る金属音。ガチャガチャと、不規則に乱暴に。


 「……あーここもねえな。……ここも無しと。で、次の列はー……」
 

 独り言を呟きながら下駄箱のロッカーを開けては懐中電灯片手に中を漁り、内履きをひっくり返しては元に戻す。肝試しが始まっているというのに、俺は他人の下駄箱を漁っている。

 自らの名誉のために言っておくと、断じて俺が変態的衝動に目覚めたのではない。れっきとした鍵探しの一環である。

 普通ならば無数のロッカーの中に鍵を用意しておくなど考えるわけが無いが、給与のかかった大幣先生ならばやりかねないと俺らは考察。

 今後の憂いを無くすためにも俺が向かって右端から、コズハは向かって左端からロッカーを全て漁ることにしたのだ。


 しかし、鍵が見つかる気配はない。開けても開けても汗と土の混ざったすえた匂いがするだけ。10分も続けていると、所有者への申し訳なさも相まって段々気持ち悪くなってくる。


 「……なあ、そっち後どんくらいだ?」


 小休止がてら、開ける手を止めて問いかける。


 「今やっている面はあと一列で終わりますね……おや?」


 コズハがそう言い残すと同時、コズハ側から聞こえていた、ロッカーの開閉音も急に途絶えた。


 「なんだ、急にどうした!?」
 

 振り返ると、ロッカーの裏からひょっこりと顔を出していた。
 

 「どうやら、次の面で最後になりそうです」


 と、コズハは言ってこちらにやってきた。どうやら骨折り損だったようだが、どこか安心している俺もいる。


 「そうか。さすがに大幣先生もそんなに鬼みてえなことはしねえよな」

 「それはそうと、鍵もありましたよ」

 「は?」
 

 思わずコズハを二度見した。コズハが掲げた手のひらの上には、『オオヌサ』と書かれた鍵が置かれていたのだ。肝試しらしく、腹の底から冷やされた。


 「……まじかよ」

 「どうやらあの方、本気のようです。とりあえず、あちらで一休みしましょう。この先は充分警戒しなければなりません」


 コズハは玄関先のラウンジにある丸ソファを指さした。俺らは念の為、懐中電灯で回りを充分警戒しつつ背中合わせに座った。

 ラウンジには美術部がコンテストで入選した作品が飾られており、暗がりに紛れて作品が視界の端に常に映ることで妖しい雰囲気が漂っている。

 コズハは周囲を照らしつつ、俺に語りかけた。


 「あまりに搦手がすぎる気がするのです」

 「搦手も何も、お前に見つからねえようにするためならこのくらいはするだろ。それだけ制服代払いたくねえんじゃねえのか?」

 「いえ。それだけだと説明がつかないほど、不自然に手が込んでいる気がするのです」

 「そんなにすごいところにあったのか?」

 「はい、こちらの鍵は二年生の『藻野そうのアイ』さんの下駄箱の天井部分に貼り付けてありました」

 「ズルだろそれ!」


 反射的に声を荒らげる俺に対し、コズハは冷静に続けた。


 「そこまでやらないとは言っていませんからね。とはいえ、見つかるのが序盤も序盤なわりに妙に凝った隠し方をするのは、やはり不自然です」

 「隠す場所なんざ不自然な方がいいんじゃねえのか?どんな奴でもわざと見つからねえように隠すだろ」

 「いえ、いくらお金を払いたくないにせよ、肝試しにしてはやけに力が入りすぎていると思うのですよ。
 驚かす系のアトラクションは、出会い頭が肝心です。探しながら引き返す度に、何度も顔を突き合せていてはスリルも低下するはず。それを気にしないはずがありません。
 すなわち、最初に私たちがこの鍵を見つけることを前提にしているようなもの。このままでは肝試しではなく、謎解きになってしまうことでしょう」

 「……確かに、本題が肝試しとは思えないほど凝ったことはしてるよな」

 
 コズハが言うことにも一理ある。俺らが真っ当に肝試しを始めていたら、絶対に発見出来なかっただろう。逆に言えば、俺らが最初から全力で鍵を探しに来ると想定しての配置とも言える。


 「でも考えすぎじゃねえか?それに俺らがやったのは全校のロッカーのローラー作戦だぞ。謎解きと言うには力技すぎるだろ。それでたまたま見つかったとかじゃねえのか?」

 「ええ、普通ならばそうですね。『藻野そうのアイ』さんを謎を解くことで浮かび上がらせてロッカーから鍵を探し出す。普通ならこれが正規の手順でしょう。しかし、それらが全てならば?」

 「逆?」

 
 俺が問いかけるや否や、コズハはいきなり立ち上がった。


 「大幣先生は『逆立ちしても攻略できないよう、罠をしかけた』と言っていました。
 これはきっと逆立ちを前提にしているのです。一見探すべき答えのように見える鍵から、数珠繋ぎで上を目指せと仰っているのです」


 そう言って振り返り、目を光らせるのだ。
 説得力があるような、無いような、それにしても肝試しに魂をかけすぎな気もする。

 
 「さっきのロッカーは『藻野そうのアイ』って人のやつだったよな。次はそれが鍵になってくるわけか?」

 「察しが良くて助かります。動線として、次に怪しむべきは美術部員の絵画でしょう」

 「この中に……関連するものがあったら確定だな」


 俺もつられて立ち上がると、ラウンジの周りを懐中電灯で照らした。コンクリート打ちっぱなしの柱と、それに掛けられた絵画が次々と暗闇に浮かび上がる。

 絵画には一枚一枚に生きているような迫力があった。かと言って素直に人の像が描かれているものは一枚もない。暗がりで見ると今にも動き出しそうだ。


 「……」


 あのコズハが唾を飲み、黙りこくっている。それほどまでにえも言われぬ恐ろしさがあった。一枚一枚丹念に絵画を鑑賞していく。グロテスクな衝動がぶつけられたように、中の人物は傷つき、嘆き、項垂れている。

 
 「……すげえな」


 俺はしり込みしながらも、その美しさに目を奪われていた。きっと美術部員が全身全霊を込めて書き上げたに違いない作品たち。何の気なしに登校の際目にしているが、おぞましい気迫を持っていた。いったいどれほどの情熱を捧げたか分からない。こんな青春の形もあるのだろう。


 「あ?」


 ふと、すれ違った作品に目を惹かれた。一枚の絵に堂々と、単眼の少女が書かれてある。

 思わず、一歩近寄って絵をまじまじと眺めた。


 本来有り得ない顔にも関わらず、目は大きくつぶらに描かれてバランスが自然に整っている。笑顔を湛えた口元は本当に呼吸しているかのようで、顔の表面の血色や白目の淀みすら丹念に描かれている。文字通り、目が合ったとしか言えないほど精巧な絵画だ。


 それはそうと、先程から視線も感じる気がするのだ。焦点がずっと……俺の方を向いているようで。
 

 「ばあっ!」


 絵の中の少女は、両腕を広げて声を張り上げた。


 「ぎゃああああああっ!!」


 情けない声を上げながら、反射的に飛び退いた。だって絵の中から、単眼少女が飛び出ている。それどころか、腕を伸ばして迫ってきたのだ。一瞬で心拍数が倍増した。
 
 完璧に絵だと思わせておいてこの仕打ちはあんまりじゃないか。謎解きに全神経を向けていたところ、不意に肝試しが乱入してきたようなものだ。

 まさかとは思うが、俺らの不意をつけばさらに怖がらせられると思っての作戦じゃないだろうな?だとしたら本当に大人気ない。


 「あはははっ!!」


 少女はケタケタと笑い、びっくり箱から飛び出たピエロのように前後に揺れた。その仕草すら無機質すぎて恐ろしい。


 「あはははっ!!」


 しばらく見ていたが少女はケタケタと笑いながら、こちらを一つ目で覗き込んでくるばかり。キャストとして役作りが徹底している。

 しかし、これでは真相が何も分からない。


 「弱ったな……うん?」


 目線を下げ、作品表をまじまじと眺める。彼女の入っている額縁には『作品名:2年B組モノアイの少女』と書かれている。つまり、『藻野そうのアイ』は当て字だったってことか。であればこの作品から辿っていくとみて間違いない。

 作品表には続きがあった。作者の名前こそ書いていないが、たどたどしい字で作者の一言が書かれてあるのだ。


 『家庭科室の大鏡前でポーズを取ったところを自分で描きました。中に入るのが難しかったです』

 「自画像だったのかよ」

 「あはははっ!!」


 少女はまたも笑った。恐らく、家庭科室の鏡の前に『この前で書かれた絵を探せ』といった問題が置いてあるのだろう。そこからのことは、行ってから考えても遅くはあるまい。

 
 「さあ、行くぞコズハ」


 俺がそう呼びかけるも、返事がない。

 慌てて横を見ると、絵を見たまま硬直するコズハの姿があった。目と口を開けたまま、指先まで針金が通ったかのように真っ直ぐになっている。


 「……」

 
 おそらく、気を失っている。目の焦点があっていない。


 大抵の人には信じて貰えない話だが、コズハは自分の理解が及ばないものが怖いと思う他に、世間一般的な怖いとされるものに耐性がないのだ。

 ひとまず、顔の前で手を振って声をかける。


 「おい、コズハ」

 「……」

 「おーい」

 「……」

 「なあ、頼むよ。お前のこと背負ったまま階段登りたくねえよ」

 「……」

 「あはははっ!」

 「笑いごとじゃねえよ!!」


 結局、コズハが正気を取り戻すまで俺はラウンジに居座る羽目になった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】メインヒロインとの恋愛フラグを全部ブチ壊した俺、サブヒロインと付き合うことにする

エース皇命
青春
《将来ヤンデレになるメインヒロインより、サブヒロインの方が良くね?》  16歳で自分が前世にハマっていた学園ドラマの主人公の人生を送っていることに気付いた風野白狼。しかしそこで、今ちょうどいい感じのメインヒロインが付き合ったらヤンデレであることを思い出す。  告白されて付き合うのは2か月後。  それまでに起こる体育祭イベント、文化祭イベントでの恋愛フラグを全てぶち壊し、3人の脈ありサブヒロインと付き合うために攻略を始めていく。  3人のサブヒロインもまた曲者揃い。  猫系ふわふわガールの火波 猫音子に、ツンデレ義姉の風野 犬織、アニオタボーイッシュガールの空賀 栗涼。  この3人の中から、最終的に誰を選び、付き合うことになるのか。てかそもそも彼女たちを落とせるのか!?  もちろん、メインヒロインも黙ってはいない!  5人の癖強キャラたちが爆走する、イレギュラーなラブコメ、ここに誕生! ※カクヨム、小説家になろうでも連載中!

【完結】かつて憧れた陰キャ美少女が、陽キャ美少女になって転校してきた。

エース皇命
青春
 高校でボッチ陰キャを極めているカズは、中学の頃、ある陰キャ少女に憧れていた。実は元々陽キャだったカズは、陰キャ少女の清衣(すい)の持つ、独特な雰囲気とボッチを楽しんでいる様子に感銘を受け、高校で陰キャデビューすることを決意したのだった。  そして高校2年の春。ひとりの美少女転校生がやってきた。  最初は雰囲気が違いすぎてわからなかったが、自己紹介でなんとその美少女は清衣であるということに気づく。  陽キャから陰キャになった主人公カズと、陰キャから陽キャになった清衣。  以前とはまったく違うキャラになってしまった2人の間に、どんなラブコメが待っているのだろうか。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開しています。 ※表紙にはAI生成画像を使用しています。

怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う

もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。 将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。 サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。 そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。 サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...