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一章L:賢者ローレルは追う
二話:悪夢の始まり
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「乾杯!」
「かんぱーい!」
今日何回目かも分からない乾杯が始まった。リンは少し頬を赤らめている程度で全然酒が回っていない。……こいつ化け物だろ。もう樽1つ分ぐらい入ってるんじゃないか?
俺は今日も一滴も飲んでいない。全部飲むふりをして床にこぼしていたのだが、その匂いだけでもう参ってきてるというのに。
今日はトイレに席を立つ度に少しずつ耳やら頬やらに赤い塗料を薄く塗り、酔っているように見せ掛けていたのだがこの勢いなら要らなかったろう。頭がぼーっとしてきた……。
「ろ、ローレル……シードルを飲むのもそのくらいに……」
「うるひゃい! わらひのしゃけがのめんのか!!」
もう呂律が回っていなかった。もう限界だ……。
リンを酔わせて約束の物を調達するはずだったというのに今更計画の破綻に気が付くとか俺は馬鹿か!?
仕方ない……プランBだ。
「りん……なんでいっちまうんだよう……」
ベタな文句を言い残して俺は潰れた。
テーブルに突っ伏して目を閉じる。このまま寝ないように下を噛みながら周りに聞き耳を立てる、
「少し……すずんでくるよ。ローレル」
リンがそう言い残して出ていったのを確認し店の裏口から外へとび出た。
外は路地裏ということもあり真っ暗闇で、腐敗臭が漂いネズミが水溜まりの水を飲んでいる。
よくもまあこんな酷い場所に呼んでくれたものだ。
鼻をつまんでしばらく歩くと、
「……こちらですよ……ひゅっひゅっ……」
そう言って黒いローブの老婆がこちらに手招きをした。その手は嫌に青白く、浮世離れしていた。
老婆は続ける。
「先日お声掛けをした時は酷い有様でしたが、こうしてみるといやに美丈夫ではございませんか」
「くくっ……無理に褒めていただかなくて結構。 ……これで間に合いますね?」
私は懐から金貨5枚を手渡した。
「えぇ……。 これが例のブツですよ旦那。ご注文通り、ワインに似せて良く細工してあるでしょう? ひゅひゅっ……!」
そう言って老婆が渡してきたのは、手のひらほどの小瓶。これ一つで薬剤耐性の高いゴブリンを10匹は殺せる。これなら……アイツも……!
「ええ。ありがとうございます。 コレがあれば……やつを……リンを……殺せる」
俺はその瓶を懐にしまい、酒場に戻った。
すると、リンはさらに飲んでいたようで、突っ伏したテーブルの上にジョッキが山積みだった。
折角だ。酒も回っているのだから薬の回りもいいだろう。俺は小瓶を懐から取り出し、リンの口に流し込む……。
たちどころに効果が見られると聞いていたが……まあこいつの事だ。そうそうくたばりはしまい。
明日も早い俺は心残りを残しつつ帰路へついた。
翌朝。
俺は恐怖に震えていた。なぜ?なぜこいつはスヤスヤ寝息立てて寝てるんだ?ゴブリン10匹ゆうに殺せるんだぞ!?井戸に流せば村は全滅……。狂ってやがる!
手土産のバスケットを持って来たというていで、死体確認をしに来たというのに……。何者なんだよコイツ!不死身か!?それともパチモンを掴まされたというのか……?
ゆっくりと近づくとリンは目を覚ましたようで、眠そうに目を擦った。
「う~ん? ローレル?」
これは……まずい。俺は保存食の入ったバスケットを置いて声をかける。
「何も言わず、これを貰ってくれないか?」
「これは……?」
「少しでも日持ちするものを……と思ってさ。 ここから離れるとしばらくは町がないだろう? 金貨は魔王国側に着くまで取って置いた方がいいだろ?」
「ローレル……!」
リンは満面の笑みを浮かべた。毒は効いてないな間違いない。これは他の方法を使わなければ……。
俺は焦りを見せないように、にこやかに笑って語りかける。
「明日、城で出発式をやるから今日のうちに準備をしておいた方がいい。せっかくだから親御さんにも伝えとけ。国を挙げての行事だからな」
そう言うなり、俺は背を向けて歩き出した。冷や汗が止まらない。これから仕事だと言うのに何も考えられない。
「ろ、ローレルこれからどうするの!?」
急に呼び止められ、飛び上がる。心臓が止まるかと思った。
「あぁ、今日は大忙しでな。 明日はちゃんと見送るからさ」
そう言って手を振って店を飛び出した。
急いで王城へと歩みを進める。早いところ方を付けたいが、無理なものは無理だ。俺には俺の仕事と立場がある。
それから俺は一日かけて出発式の支度をした。王城を飾り付け、来賓を呼び、その後の立食会の物品の確認を終え……。
東の空が白んで来た頃。自室に籠ってスピーチの最終稿を確認していると、
[ガンガンガン!!!]
乱暴に戸が叩かれた。
「はーい」
俺はそう返事をひとつして、ドア横の鏡を見る。
……よし、問題ないな。美丈夫の登場だ。
「はい。なんでしょうか?」
俺が戸を開けると、顔面蒼白の番兵。おそらく城の外に居る奴がパシリに使われているのだろう。メットを被ったままここまで上がり込んでいる。かなりの焦りようだ。
目の前の兵士は肩で息をしながら必死に訴える。
「ろ、ローレルさん!大変ですっ!!」
「夜分遅くご苦労様です。どうされましたか?」
「どうもこうもないですよ! 王からの招集です!緊急の集会を執り行うそうでして!」
「え? 一体何事ですか?」
おかしいな……こんな夜中に。元老連中はもう年寄りばかりで、朝も早いからこんなこともあるだろうか?
探りを入れてはいたが、俺はそう楽観的に考えていた。
「勇者が……!勇者リンが失踪しました!」
「はぁ!?」
俺は思わず頓狂な声を上げた。まさかコレが……悪夢の始まりに過ぎないとは知らずに……。
「かんぱーい!」
今日何回目かも分からない乾杯が始まった。リンは少し頬を赤らめている程度で全然酒が回っていない。……こいつ化け物だろ。もう樽1つ分ぐらい入ってるんじゃないか?
俺は今日も一滴も飲んでいない。全部飲むふりをして床にこぼしていたのだが、その匂いだけでもう参ってきてるというのに。
今日はトイレに席を立つ度に少しずつ耳やら頬やらに赤い塗料を薄く塗り、酔っているように見せ掛けていたのだがこの勢いなら要らなかったろう。頭がぼーっとしてきた……。
「ろ、ローレル……シードルを飲むのもそのくらいに……」
「うるひゃい! わらひのしゃけがのめんのか!!」
もう呂律が回っていなかった。もう限界だ……。
リンを酔わせて約束の物を調達するはずだったというのに今更計画の破綻に気が付くとか俺は馬鹿か!?
仕方ない……プランBだ。
「りん……なんでいっちまうんだよう……」
ベタな文句を言い残して俺は潰れた。
テーブルに突っ伏して目を閉じる。このまま寝ないように下を噛みながら周りに聞き耳を立てる、
「少し……すずんでくるよ。ローレル」
リンがそう言い残して出ていったのを確認し店の裏口から外へとび出た。
外は路地裏ということもあり真っ暗闇で、腐敗臭が漂いネズミが水溜まりの水を飲んでいる。
よくもまあこんな酷い場所に呼んでくれたものだ。
鼻をつまんでしばらく歩くと、
「……こちらですよ……ひゅっひゅっ……」
そう言って黒いローブの老婆がこちらに手招きをした。その手は嫌に青白く、浮世離れしていた。
老婆は続ける。
「先日お声掛けをした時は酷い有様でしたが、こうしてみるといやに美丈夫ではございませんか」
「くくっ……無理に褒めていただかなくて結構。 ……これで間に合いますね?」
私は懐から金貨5枚を手渡した。
「えぇ……。 これが例のブツですよ旦那。ご注文通り、ワインに似せて良く細工してあるでしょう? ひゅひゅっ……!」
そう言って老婆が渡してきたのは、手のひらほどの小瓶。これ一つで薬剤耐性の高いゴブリンを10匹は殺せる。これなら……アイツも……!
「ええ。ありがとうございます。 コレがあれば……やつを……リンを……殺せる」
俺はその瓶を懐にしまい、酒場に戻った。
すると、リンはさらに飲んでいたようで、突っ伏したテーブルの上にジョッキが山積みだった。
折角だ。酒も回っているのだから薬の回りもいいだろう。俺は小瓶を懐から取り出し、リンの口に流し込む……。
たちどころに効果が見られると聞いていたが……まあこいつの事だ。そうそうくたばりはしまい。
明日も早い俺は心残りを残しつつ帰路へついた。
翌朝。
俺は恐怖に震えていた。なぜ?なぜこいつはスヤスヤ寝息立てて寝てるんだ?ゴブリン10匹ゆうに殺せるんだぞ!?井戸に流せば村は全滅……。狂ってやがる!
手土産のバスケットを持って来たというていで、死体確認をしに来たというのに……。何者なんだよコイツ!不死身か!?それともパチモンを掴まされたというのか……?
ゆっくりと近づくとリンは目を覚ましたようで、眠そうに目を擦った。
「う~ん? ローレル?」
これは……まずい。俺は保存食の入ったバスケットを置いて声をかける。
「何も言わず、これを貰ってくれないか?」
「これは……?」
「少しでも日持ちするものを……と思ってさ。 ここから離れるとしばらくは町がないだろう? 金貨は魔王国側に着くまで取って置いた方がいいだろ?」
「ローレル……!」
リンは満面の笑みを浮かべた。毒は効いてないな間違いない。これは他の方法を使わなければ……。
俺は焦りを見せないように、にこやかに笑って語りかける。
「明日、城で出発式をやるから今日のうちに準備をしておいた方がいい。せっかくだから親御さんにも伝えとけ。国を挙げての行事だからな」
そう言うなり、俺は背を向けて歩き出した。冷や汗が止まらない。これから仕事だと言うのに何も考えられない。
「ろ、ローレルこれからどうするの!?」
急に呼び止められ、飛び上がる。心臓が止まるかと思った。
「あぁ、今日は大忙しでな。 明日はちゃんと見送るからさ」
そう言って手を振って店を飛び出した。
急いで王城へと歩みを進める。早いところ方を付けたいが、無理なものは無理だ。俺には俺の仕事と立場がある。
それから俺は一日かけて出発式の支度をした。王城を飾り付け、来賓を呼び、その後の立食会の物品の確認を終え……。
東の空が白んで来た頃。自室に籠ってスピーチの最終稿を確認していると、
[ガンガンガン!!!]
乱暴に戸が叩かれた。
「はーい」
俺はそう返事をひとつして、ドア横の鏡を見る。
……よし、問題ないな。美丈夫の登場だ。
「はい。なんでしょうか?」
俺が戸を開けると、顔面蒼白の番兵。おそらく城の外に居る奴がパシリに使われているのだろう。メットを被ったままここまで上がり込んでいる。かなりの焦りようだ。
目の前の兵士は肩で息をしながら必死に訴える。
「ろ、ローレルさん!大変ですっ!!」
「夜分遅くご苦労様です。どうされましたか?」
「どうもこうもないですよ! 王からの招集です!緊急の集会を執り行うそうでして!」
「え? 一体何事ですか?」
おかしいな……こんな夜中に。元老連中はもう年寄りばかりで、朝も早いからこんなこともあるだろうか?
探りを入れてはいたが、俺はそう楽観的に考えていた。
「勇者が……!勇者リンが失踪しました!」
「はぁ!?」
俺は思わず頓狂な声を上げた。まさかコレが……悪夢の始まりに過ぎないとは知らずに……。
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