友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

文字の大きさ
4 / 90
一章R:勇者リンは旅立つ

四話:森を抜けた先には

しおりを挟む
 「うーん……暗いなぁ……ごめんね、こんなとこ走らせて」
  

 そう言って彼の頭を撫でた。


 [ブルルッ……]


 鞍上の私の声に、栗毛の彼は鼻息で答えた。 しばらく休んだ私たちは、魔王国側へと歩みを進めている。木の棒の先に吊るしたランタンの灯りを頼りに、鬱蒼とした森を進む。入口の地形は慣れてはいるため馬を使えるが、さらに奥となるとなかなか骨が折れそうだ。

 鎧を着たまま、ここを自分の足で通過するとなればこの中で一日は過ごさなければならなかっただろう……。本当に彼がいてくれてよかった。
 草むらをかき分けながら進むと、急に明るさを感じた。 


 「町だ! すぐそこだ!」


活力を得た体でずんずん進むと、森は急に開けた。一面に広がる畑とその上を闊歩する家畜数頭。さらに遠くに古ぼけたレンガ積みの家が5、6軒建っている。どうやら『魔女の森』にある村の話は本当だったらしい。
鬱蒼とした木々に囲まれ、長らく孤立していたのだろう。多少古ぼけた街だ。
 少し進むと、畑に村民らしき集団を見かけた。
 落穂を拾っているのだろうか。こちらには目もくれず黙々としゃがみこんで作業している。少しずつ近づいていくと、麦わら帽を被った子供1人と目が合った。


 「そこの方々!すみませんが道を……「騎士がきやがったぞ!」

 
 気さくに話しかけようかと思っていたが、そうもいかないらしい。
 男の子の声を耳にした村民は、

 「取り立てだ!」
 
 「とうとう政府の犬がきやがった!」

 「地主さんに報告だ!」

 「もう終わりだァ!」


 と訛りの入った言葉を口々に叫ぶ。 
 こぞって家の方めがけて、ドタバタと逃げていく。閉鎖的な村だ……全く人は来ないだろうし、突然の来訪者が騎士ならそうもなるだろう。
 村人はみんな家に閉じこもってしまい、私は静かな村の道のど真ん中で取り残された。これは聞き込みなどできそうもない。
引き返そうと振り返ったその時だ。自分の後ろの草むらに、先程見た麦わら帽がひょっこりと出ていたのだ。よく見ると小刻みに震えているそれは、怯えているようにも見えた。
 私は要らぬ軋轢が生じないよう、できるだけ優しい声で話しかける。


 「ぼく? 村の人たちは入っちゃったけど、君は入らないの?」


 しばらくの無音が続き、


 「う、うるさい! だいたい人に話す時ぐらい馬から降りたらどうなんだ!」


 そんなことを言ってきた。
 言われてみればそうだ。私はこの子に乗っていた。一体感がありすぎて気が付かなかった。


 「これはこれは……失礼」


私がそう言って馬からゆっくりと降りると、

 
「くたばれえっ!!」


 掛け声とともに、背中に衝撃が走った。少年に背を向けたと同時に飛びかかって来たようだ。


 [ガンッ!]
 
 「なっ!?」


 跳ね返された子供は地面に叩きつけられ、ナタを手から落とした。斬撃は鎧に吸われ、ボロ切れを少しほつれされるにとどまった。
 跳ね返されて落としたナタを拾いあげる。かなり刃こぼれしている。これでは鎧を着ていなくても私の体は切れなかったかもしれない。
 麦わら帽を被った子供は、足元にすがってくる。


「返せっ!それは俺のだぁ!」


 そう言って私の足をポカポカと叩いた。
 傍目から見れば和やかな光景なのだが、この子に命を狙われたことに変わりはない。私は彼の手が届かないよう、ナタを掲げながら言った。


 「どうして君は私を狙ったの?」


 男の子は叩く手を止めて、少し考えた。そして、


 「母ちゃんが騎士はみんな悪いやつだって……もし騎士が来たら、みんなに教えろって……」


 切れ切れに言った。なんと家族思いな子だろうか。子供ながらに立派なその子の目は真っ直ぐ私を見ている。決して臆さずにだ。私は騎士が不届き者とされることにモヤモヤしながらも彼の頭を撫でた。


 「や、やめろっ……」


 結構な力で嫌がるその子にナタを返す。


「君の心意気は素晴らしい。加えて元気があっていいね。君は立派な人になるよ」

 
 そう言った。
 男の子は不思議そうに、首を傾げる。


 「俺を……殺さないのか?」

 「まさか。そんな理由なんてないでしょ?」

 「うん……」

 「じゃあそんな事しないよ! むしろいい勇気だね! 私はカッコイイと思うな!!」


 そう言って村の方に向かせ、背中を押してやる。、ローレルからもこんなことを言われて励まされたっけ……。


 「私は……まぁ、何とかするし心配しないで! 」


 そう言って馬に乗ろうとすると、


 「お待ちください!」


  その子の母親らしき人が家から出てきた。


 「まず、ここまでの非礼をお詫びさせてください……」

 「いいんですよ。見慣れないものには、みな怯えてしまうものですから」

「いえ……それでも到底許されません! どうぞ、泊まって行ってください!」

 「え、えぇ……」


 そういうことになった。私はとりあえず、今日の分の宿は得られたようだ。当惑する私を他所に、先程の麦わらの子が私の鎧の裾を小突いた。


 「お前さ、騎士なんだろ? だったらちょっと退治してくれよ!」

 「ええ!? あ、ちょっと!」

 「着いてこい!」


 そう言って私の腕を掴んで引っ張ってきた。
 た、退治?何を?そんな魔物がいる訳でもなさそうだけど……。
 その子に引っ張られるままに、村の外れにやってきた。ボロ屋が一軒あるばかりで、ほかは殺風景な場所だ。
 だと言うのに、何故か子供が数人、集まっている。
 いや……なんだ? 何かを囲って……いるのか?目線は下を向き、各々何かを蹴っているようだ。


 「おい、強いやつ連れてきたぜ! 騎士だってよ!」


 麦わらの子がそう言うと、子供たちは集団を解き、道を開ける。囲いが空けたそこには、名状しがたい……『巨女』がうずくまっていた。


 「あうぅ……やめてくださぁぃ……」


 彼女は消え入りそうな声でそう言った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...