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一章R:勇者リンは旅立つ
四話:森を抜けた先には
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「うーん……暗いなぁ……ごめんね、こんなとこ走らせて」
そう言って彼の頭を撫でた。
[ブルルッ……]
鞍上の私の声に、栗毛の彼は鼻息で答えた。 しばらく休んだ私たちは、魔王国側へと歩みを進めている。木の棒の先に吊るしたランタンの灯りを頼りに、鬱蒼とした森を進む。入口の地形は慣れてはいるため馬を使えるが、さらに奥となるとなかなか骨が折れそうだ。
鎧を着たまま、ここを自分の足で通過するとなればこの中で一日は過ごさなければならなかっただろう……。本当に彼がいてくれてよかった。
草むらをかき分けながら進むと、急に明るさを感じた。
「町だ! すぐそこだ!」
活力を得た体でずんずん進むと、森は急に開けた。一面に広がる畑とその上を闊歩する家畜数頭。さらに遠くに古ぼけたレンガ積みの家が5、6軒建っている。どうやら『魔女の森』にある村の話は本当だったらしい。
鬱蒼とした木々に囲まれ、長らく孤立していたのだろう。多少古ぼけた街だ。
少し進むと、畑に村民らしき集団を見かけた。
落穂を拾っているのだろうか。こちらには目もくれず黙々としゃがみこんで作業している。少しずつ近づいていくと、麦わら帽を被った子供1人と目が合った。
「そこの方々!すみませんが道を……「騎士がきやがったぞ!」
気さくに話しかけようかと思っていたが、そうもいかないらしい。
男の子の声を耳にした村民は、
「取り立てだ!」
「とうとう政府の犬がきやがった!」
「地主さんに報告だ!」
「もう終わりだァ!」
と訛りの入った言葉を口々に叫ぶ。
こぞって家の方めがけて、ドタバタと逃げていく。閉鎖的な村だ……全く人は来ないだろうし、突然の来訪者が騎士ならそうもなるだろう。
村人はみんな家に閉じこもってしまい、私は静かな村の道のど真ん中で取り残された。これは聞き込みなどできそうもない。
引き返そうと振り返ったその時だ。自分の後ろの草むらに、先程見た麦わら帽がひょっこりと出ていたのだ。よく見ると小刻みに震えているそれは、怯えているようにも見えた。
私は要らぬ軋轢が生じないよう、できるだけ優しい声で話しかける。
「ぼく? 村の人たちは入っちゃったけど、君は入らないの?」
しばらくの無音が続き、
「う、うるさい! だいたい人に話す時ぐらい馬から降りたらどうなんだ!」
そんなことを言ってきた。
言われてみればそうだ。私はこの子に乗っていた。一体感がありすぎて気が付かなかった。
「これはこれは……失礼」
私がそう言って馬からゆっくりと降りると、
「くたばれえっ!!」
掛け声とともに、背中に衝撃が走った。少年に背を向けたと同時に飛びかかって来たようだ。
[ガンッ!]
「なっ!?」
跳ね返された子供は地面に叩きつけられ、ナタを手から落とした。斬撃は鎧に吸われ、ボロ切れを少しほつれされるにとどまった。
跳ね返されて落としたナタを拾いあげる。かなり刃こぼれしている。これでは鎧を着ていなくても私の体は切れなかったかもしれない。
麦わら帽を被った子供は、足元にすがってくる。
「返せっ!それは俺のだぁ!」
そう言って私の足をポカポカと叩いた。
傍目から見れば和やかな光景なのだが、この子に命を狙われたことに変わりはない。私は彼の手が届かないよう、ナタを掲げながら言った。
「どうして君は私を狙ったの?」
男の子は叩く手を止めて、少し考えた。そして、
「母ちゃんが騎士はみんな悪いやつだって……もし騎士が来たら、みんなに教えろって……」
切れ切れに言った。なんと家族思いな子だろうか。子供ながらに立派なその子の目は真っ直ぐ私を見ている。決して臆さずにだ。私は騎士が不届き者とされることにモヤモヤしながらも彼の頭を撫でた。
「や、やめろっ……」
結構な力で嫌がるその子にナタを返す。
「君の心意気は素晴らしい。加えて元気があっていいね。君は立派な人になるよ」
そう言った。
男の子は不思議そうに、首を傾げる。
「俺を……殺さないのか?」
「まさか。そんな理由なんてないでしょ?」
「うん……」
「じゃあそんな事しないよ! むしろいい勇気だね! 私はカッコイイと思うな!!」
そう言って村の方に向かせ、背中を押してやる。、ローレルからもこんなことを言われて励まされたっけ……。
「私は……まぁ、何とかするし心配しないで! 」
そう言って馬に乗ろうとすると、
「お待ちください!」
その子の母親らしき人が家から出てきた。
「まず、ここまでの非礼をお詫びさせてください……」
「いいんですよ。見慣れないものには、みな怯えてしまうものですから」
「いえ……それでも到底許されません! どうぞ、泊まって行ってください!」
「え、えぇ……」
そういうことになった。私はとりあえず、今日の分の宿は得られたようだ。当惑する私を他所に、先程の麦わらの子が私の鎧の裾を小突いた。
「お前さ、騎士なんだろ? だったらちょっと退治してくれよ!」
「ええ!? あ、ちょっと!」
「着いてこい!」
そう言って私の腕を掴んで引っ張ってきた。
た、退治?何を?そんな魔物がいる訳でもなさそうだけど……。
その子に引っ張られるままに、村の外れにやってきた。ボロ屋が一軒あるばかりで、ほかは殺風景な場所だ。
だと言うのに、何故か子供が数人、集まっている。
いや……なんだ? 何かを囲って……いるのか?目線は下を向き、各々何かを蹴っているようだ。
「おい、強いやつ連れてきたぜ! 騎士だってよ!」
麦わらの子がそう言うと、子供たちは集団を解き、道を開ける。囲いが空けたそこには、名状しがたい……『巨女』がうずくまっていた。
「あうぅ……やめてくださぁぃ……」
彼女は消え入りそうな声でそう言った。
そう言って彼の頭を撫でた。
[ブルルッ……]
鞍上の私の声に、栗毛の彼は鼻息で答えた。 しばらく休んだ私たちは、魔王国側へと歩みを進めている。木の棒の先に吊るしたランタンの灯りを頼りに、鬱蒼とした森を進む。入口の地形は慣れてはいるため馬を使えるが、さらに奥となるとなかなか骨が折れそうだ。
鎧を着たまま、ここを自分の足で通過するとなればこの中で一日は過ごさなければならなかっただろう……。本当に彼がいてくれてよかった。
草むらをかき分けながら進むと、急に明るさを感じた。
「町だ! すぐそこだ!」
活力を得た体でずんずん進むと、森は急に開けた。一面に広がる畑とその上を闊歩する家畜数頭。さらに遠くに古ぼけたレンガ積みの家が5、6軒建っている。どうやら『魔女の森』にある村の話は本当だったらしい。
鬱蒼とした木々に囲まれ、長らく孤立していたのだろう。多少古ぼけた街だ。
少し進むと、畑に村民らしき集団を見かけた。
落穂を拾っているのだろうか。こちらには目もくれず黙々としゃがみこんで作業している。少しずつ近づいていくと、麦わら帽を被った子供1人と目が合った。
「そこの方々!すみませんが道を……「騎士がきやがったぞ!」
気さくに話しかけようかと思っていたが、そうもいかないらしい。
男の子の声を耳にした村民は、
「取り立てだ!」
「とうとう政府の犬がきやがった!」
「地主さんに報告だ!」
「もう終わりだァ!」
と訛りの入った言葉を口々に叫ぶ。
こぞって家の方めがけて、ドタバタと逃げていく。閉鎖的な村だ……全く人は来ないだろうし、突然の来訪者が騎士ならそうもなるだろう。
村人はみんな家に閉じこもってしまい、私は静かな村の道のど真ん中で取り残された。これは聞き込みなどできそうもない。
引き返そうと振り返ったその時だ。自分の後ろの草むらに、先程見た麦わら帽がひょっこりと出ていたのだ。よく見ると小刻みに震えているそれは、怯えているようにも見えた。
私は要らぬ軋轢が生じないよう、できるだけ優しい声で話しかける。
「ぼく? 村の人たちは入っちゃったけど、君は入らないの?」
しばらくの無音が続き、
「う、うるさい! だいたい人に話す時ぐらい馬から降りたらどうなんだ!」
そんなことを言ってきた。
言われてみればそうだ。私はこの子に乗っていた。一体感がありすぎて気が付かなかった。
「これはこれは……失礼」
私がそう言って馬からゆっくりと降りると、
「くたばれえっ!!」
掛け声とともに、背中に衝撃が走った。少年に背を向けたと同時に飛びかかって来たようだ。
[ガンッ!]
「なっ!?」
跳ね返された子供は地面に叩きつけられ、ナタを手から落とした。斬撃は鎧に吸われ、ボロ切れを少しほつれされるにとどまった。
跳ね返されて落としたナタを拾いあげる。かなり刃こぼれしている。これでは鎧を着ていなくても私の体は切れなかったかもしれない。
麦わら帽を被った子供は、足元にすがってくる。
「返せっ!それは俺のだぁ!」
そう言って私の足をポカポカと叩いた。
傍目から見れば和やかな光景なのだが、この子に命を狙われたことに変わりはない。私は彼の手が届かないよう、ナタを掲げながら言った。
「どうして君は私を狙ったの?」
男の子は叩く手を止めて、少し考えた。そして、
「母ちゃんが騎士はみんな悪いやつだって……もし騎士が来たら、みんなに教えろって……」
切れ切れに言った。なんと家族思いな子だろうか。子供ながらに立派なその子の目は真っ直ぐ私を見ている。決して臆さずにだ。私は騎士が不届き者とされることにモヤモヤしながらも彼の頭を撫でた。
「や、やめろっ……」
結構な力で嫌がるその子にナタを返す。
「君の心意気は素晴らしい。加えて元気があっていいね。君は立派な人になるよ」
そう言った。
男の子は不思議そうに、首を傾げる。
「俺を……殺さないのか?」
「まさか。そんな理由なんてないでしょ?」
「うん……」
「じゃあそんな事しないよ! むしろいい勇気だね! 私はカッコイイと思うな!!」
そう言って村の方に向かせ、背中を押してやる。、ローレルからもこんなことを言われて励まされたっけ……。
「私は……まぁ、何とかするし心配しないで! 」
そう言って馬に乗ろうとすると、
「お待ちください!」
その子の母親らしき人が家から出てきた。
「まず、ここまでの非礼をお詫びさせてください……」
「いいんですよ。見慣れないものには、みな怯えてしまうものですから」
「いえ……それでも到底許されません! どうぞ、泊まって行ってください!」
「え、えぇ……」
そういうことになった。私はとりあえず、今日の分の宿は得られたようだ。当惑する私を他所に、先程の麦わらの子が私の鎧の裾を小突いた。
「お前さ、騎士なんだろ? だったらちょっと退治してくれよ!」
「ええ!? あ、ちょっと!」
「着いてこい!」
そう言って私の腕を掴んで引っ張ってきた。
た、退治?何を?そんな魔物がいる訳でもなさそうだけど……。
その子に引っ張られるままに、村の外れにやってきた。ボロ屋が一軒あるばかりで、ほかは殺風景な場所だ。
だと言うのに、何故か子供が数人、集まっている。
いや……なんだ? 何かを囲って……いるのか?目線は下を向き、各々何かを蹴っているようだ。
「おい、強いやつ連れてきたぜ! 騎士だってよ!」
麦わらの子がそう言うと、子供たちは集団を解き、道を開ける。囲いが空けたそこには、名状しがたい……『巨女』がうずくまっていた。
「あうぅ……やめてくださぁぃ……」
彼女は消え入りそうな声でそう言った。
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