友人に裏切られて勇者にならざるを得なくなったけど、まだ交渉の余地はあるよね?

しぼりたて柑橘類

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三章L:暫時、言を繰るえ

十一話:盲点を突け

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 朝食を胃に放り込み、俺とゼラとアングラは外へ出た。子供たちは興味津々の様子で外へ外へと押し寄せる。

 「何やるの?」

 「アングラさんと騎士さんが戦うんだって!」

 「あの騎士さん強かったし、今度の騎士さんも強いよ!」

 「でもあの騎士さん怖かったなぁ……私たちの方全然見てなかったんだよ?」

 「私さらわれてたから見てない……いいなぁ……」 


 などと口々に言っている。何やら聞き捨てならない文言があった気はするが、無視だ無視。俺は子供たちに笑顔を浮かべて手を振った。黄色い声援が上がる。
 こういう時は未来のエースに顔を売っとくもんだ。


 「うわぁーっ!かっけー! おれ、あのきしさんおうえんするぜ!」

 「えぇ? ああいうのって、だいたいいじきたないのよ?」


 ませてやがるあのガキ……。こうもストレートに言われると来るものがある。まして純粋な子供だと尚更だ。泣くなよローレル。意地の見せどころだぞ。
 俺は完全防備のアングラの前に立った。
 

「道具持ち込みなどは全て自由。相手の背中を地に着けた方を勝ちとする……意義は無いですね?」

 「あぁ。 何を持ってこようとただの小手先には負けねぇよ」 

 「さぁ……どうでしょうね?」
 

 俺とアングラはゼラに目配せした。ゼラは俺らの顔を交互に見て、挙げていた手を振り下ろす!


 「はじめっ!! 」


 ゼラがそう言った直後、

   
 「うぉぉおおおお!!!」


 鎚を槍のように構えて真っ直ぐに、アングラは突っ込んできた。槌の面はだいたい俺の胴より少し大きいぐらい。鎧の重量、速度から見てもぶつかった時の衝撃はかなりだろう。
 早期決着を図りに来たな? こういうのは普通真横に避けるべきだ。勢いを停めにくいからな。しかし、奴は筋肉ダルマ。力をそのまま方向だけ変えて回転してプレスとか余裕でやってのけそうだ。それなら……。


 「よそ見してんじゃねえ!!」


 アングラは足の踏ん張りをよりいっそう強め、簡単には止められなさそうなほどまで加速していた。
 これなら十分だろう。


 「──よっ!」


 俺は槌に当たるギリギリのところでしゃがみ、打撃を下で回避する。そして……。


 「なっ!?」


 こうすることで真っ直ぐ走ってくるアングラの足元に、滑り込めるって寸法だ!俺は両手を伸ばして突き上げれば良いだけ!これでアングラは前の方に引っ張られて転がるはずだ!!
 俺が飛び上がろうとしたその時だ。 


 「オレがそれくらい予期していないとでも? ──ふっ!」
 

  アングラは呟くと同時に地面に槌を叩きつけ、めり込ませた! そして両足を揃えて飛び上がり、空中で前まわり。槌をついてできた穴ぼこの後ろに見事、ドスンと着地した。
 周りからは賛辞と拍手が舞い起こる。


 「さっすがアングラさん! そんな鎧着てそんなことするなんて!」

 「そのまま騎士さんをたおしちゃえー!」

 「そうよアングラ! あんなん数発ジャブしてアッパーすれば決まるわよー!!」


 お前はどっちの味方なんだよ。とにかくだ。これで俺は勝ったようなもんだ。悪いが最後、ダメ押しと行くか。
 俺は笑みを浮かべてゆっくり拍手した。


 「ブラボー!芸術点高いですね今のは。 いっそ軽業師にでもなられては?」

 「あいにく、ここに永久就職が決まってるんでね。遠慮させて頂こうか!」

 「そうですか。 ところで、知ってますか?」


 俺はポケットから丸薬をひとつ取りだした。そしてひらひらと揺らして見せる。
 それを見るなり、ゼラは俺の方を指さした。


 「ああ! あれガーベラから拝借した煙玉じゃない!! まだ持ってたわけ?」

 
  俺は大げさに首を振った。
 

  「見た目には分からないでしょうがね、これは私が調合し直した『閃光弾』です」 

 「閃光? 光るのか?」

 「ええ。言ったでしょう? 『私の栄光に精々目を眩ませないことですね』と」

 「けっ、バカバカしい。その程度でオレが怯むわけねえだろ?」 

 「いいえ。これの照度は凄まじく、至近距離で見れば目は焼けます。それに、細工して爆音もなるようにしました。貴女の視覚と聴覚を同時に奪うことでしょう」

 「真っ当に戦って勝てねぇからってこんな真似して、恥ずかしくねぇのかよ?」

 「ふっ。 勝てればそれでいいんです……よっ!!」


 俺はランタンの火を火種に、丸薬に火をつけてアングラの眼前に放る!!

 「くっ!」


 アングラは反射的に両腕で耳と目を塞いだ。








  




  そしてしばらくして目隠しを解き、辺りを見回す。

 
 「クソっ……あいつどこに隠れやがった……!!」

 「後ろですよ」

 「何 ──ッ!?」


 アングラは後ろに。それもそのはず、コイツの鎧はゴツゴツしていて、首周りの可動域が少ない。後ろを確認するなら、半身だけでも振り返る必要がある。当然そうなれば重心は後ろに傾くのだ。


 「よいしょっ!!」


 俺は真下に向けて手に持ったロープを引っ張った。
 先程のアングラは驚いていたのだ。俺が居た位置と、気づけば自分の両足と胴体がロープで巻かれていたことの両方に。
 アングラの巨体はぐらりと傾いた。


 「謀ったな!! ローレル! だが舐めるなよ!! 」


 アングラは左腕で槌をつかみ、どうにか踏ん張ろうとする。しかし時すでに遅し。


 「その足元。 つい先程ご自分で穴ぼこをつくっていましたよね? きちんと埋めましたか?」

 「はぁ? 何を言って……あっ!」


  足を滑らせたアングラは、大地に背中をつけた。
 それを確認したゼラが俺の腕を持って掲げた。


 「不本意だけどアンタの勝ちよ! ローレル!!」

 「審判が私情持ち込まないでくださいよ」


  ふとアングラに目をやると、すごい形相でこちらを見ていた。子供たちも同様だ。さすがにこれはアウトだったのだろう。なら、ヒールはヒールらしく振舞おうじゃねえか。
 アングラは不機嫌そうな目つきのまま、俺の顔を覗き込んだ。

 
 「教えろ。 なぜオレはお前に倒された?」

 「教えると言うと……最初からですか?」

 「ああ。やれ」


 俺はその場に正座して、一つ一つ説明を始めた。


 「まず、この勝負は最初からあなたの方が不利です 」

 「……なぜだ?」

 「貴女が鎧を着ているからですよ。 重いので倒れ始めると止まらず、ある一定の角度を過ぎるとその装飾が干渉し合うので後ろに手をつけなくなります。なので倒れるしかないんです」

 「……あとはなんだ?」

 「貴女がアングラさんだからですよ」


 そう言って、俺は先程火をつけていた弾薬を投げ渡した。


 「うわっ!? こんな危険なものを投げるな!」

 「よく見て見てくださいよ。これのどこが危険なんです?」

 「な、何っ!?」


 驚くのも無理はない。その丸薬と称したそれは、ただの布をまとめたもの。閃光弾なんて大それたものを俺が作れるはずがない。そしてこれの脅威度を上げることで、警戒をさせる。同時にこれがスケープゴートの役割も果たし、俺は鎧の下にロープなんて物を隠し持てたのだ。


 「それであなたの両膝を縛り、胴体にたすき掛けのように斜めにロープをかけて引っ張って倒したんですよ」

 「ほう……なるほどな。満足だ」


 アングラは手を差し出した。


 「ただの小手先には負けないんじゃないでしたっけ?」

 「あんな訳わかんねぇ戦法、小手先じゃねえよ。 あそこまで考えられてりゃ、負けるべくして負けたようなもんだ。約束ったろ? リンの動向を教えてやる」

 「……そりゃどうも」


 俺は頬が緩みそうなのを必死に耐えて、アングラの手を握り返した
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