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三・五章R:惨事、現に狂え
九話:育てるのか、育てられるのか
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ロゼは狂喜に顔を歪めていたが、ふと冷めた目でリンとステラを見た。
「……なんだその目は。随分と不服そうだな?」
リンはステラの背をさすりながら、取り殺しそうな気迫でロゼを睨んでいたのだ。ステラはその二人の顔を見比べては、あたふたしながら泣いていた。
「『目は口ほどに物を言う』と、よく言われるが……私も流石にテレパシーまでは使えん。 言いたいことがあるならその口で言ってくれ」
「お……お母……様……そ、そのっ……」
「今更あなたと交わす言葉なんてない。達者な口の割に目は節穴らしいですからね」
「あ、あのっ……りんさん……」
「ほう? 私に何が見えていないと言うんだ、リンよ」
「や、やめ……やめましょう……?」
「……私はステラの味方で、あなたの味方じゃない。 ステラにこれ以上危害を加えるのなら、容赦なく斬る」
そう言ってリンは剣を引き抜こうとするも、ステラがその手を抑えた。
「もうやめて!! やめてくださいリンさん! ……わたしも……! 神様にお会いしたいんですっ! お母様もやめて……!リンさんと喧嘩しないでっ……! うぅ……うわあああああん!!!」
床に座り込んだまま、ステラは泣きじゃくった。誰も話を理解してくれないからだ。
「……はぁ。 ステラに救われましたね」
リンは立ち上がり、出口のドアに手をかけた。慌ててロゼは引き留める。
「おい、どこに行く気なんだ? 村には何もいないんだろう?」
「少し時間をください。 いくらステラが望んでいるとはいえ、私はあなたの言葉を信用出来ない」
そう言ってリンはロゼの手を払い、出ていった。ロゼは少し寂しそうにその背中を見送る。
「……おかあさま……ぐすっ……」
泣き腫らした目を向けるステラを、ロゼは抱きしめた。
「なぜ……泣いているのだステラ。私と血が繋がっていなかったのがそんなに嫌だったか?」
「そうじゃ……ない」
「なら、神の子だったのが嫌だったか? それとも私の首から下が無いのがダメだったのか?」
「ちがう……違うよお母様……」
「……待て、当てる。私がリンとケンカしたのがダメだったんだろう? そうだな? 待ってろ今すぐ和解を」
「そうじゃないっ!!」
「へ──おぶっ!!」
ステラに突き飛ばされたロゼの体は、後ろの本棚にめり込んだ。
「もうお母様なんか知らないもん! うわぁーん!!」
ステラはそう言い捨てて、ドアの方に走る。
「ステラっ! 私の話を[──バタン!!]……」
乱暴に閉められたドアの音。水を打ったかのようにあたりは静かになった。
「また……やってしまった……」
ロゼは独り、無駄に高い天井を仰ぎ見た。
「……伊達に長生きしているつもりは無いんだが、こうも分からないものか、子供心というものは……」
そう言いながら本棚から体を引っ張り出し、ローブについたホコリを払う。そしてため息をつきながら本を片付け始めた。ちょうどその時だ、
『お母様……お母様? 聞こえますか?』
妙に通る声が辺りに響いた。ステラと似ているが、喋り方がハキハキとしている。
「モーンか? ……あぁ。予定通りステラに会った……」
片付けをしながらロゼは答える。対してこちらは覇気がまるでない。
『その沈みよう……お姉様と早速何かありましたね?』
「……また、怒られてしまった」
『またですか』
「ああ。……これで238回目だ」
本をまとめ終えたロゼは、ソファの上で横になって目を閉じる。口だけ開けて響く声に答え続ける。
『なんでそこまで覚えてるのに反省しないんですか?』
「している。……ただ、その度に新たな地雷を発見して踏んでしまっているだけだ」
『……今日は何を起爆させたんですか? 』
「それが心当たりがなくてなぁ……うーん。無事に帰ってきたことを褒めて、16年前の話をして、しきりに聞いてきたからステラの出自の話をして……その辺でリンって勇者がキレたからあしらって……」
『待ってください』
「…… ?」
『何しれっととんでもないカミングアウトしてるんですか!!』
「首だけになったことか? 確かにあれはちょっとグロかったかなぁとは……」
『出自の方ですよ!! 』
そう言われ、ロゼはがばりと飛び起きる。
「なぜだ!? 存在している以上生まれた先はあるはずだろう!? なぜその話が嫌なんだ!?」
『母と慕っていた方が実は自分とは血も繋がってなかったと考えてみなさい! スナック感覚でそんなこと言いやがって! 血も涙もないですよ!!』
「……ほぼほぼ流れていないな。首だけだし」
『そうでしたねそういえば。 それと、お姉様男連れて来てるんですか?』
「まあ、そうではあるが……」
『わかりました。急いで行くので引き止めていてください』
「あ、ちょっと……!」
ロゼの引き止めは、またしても聞き入れられなかった。
「……どこで……育てかたを間違えたんだろうな」
ロゼは独り、透明な手で目を抑えていた。
一方その頃、リンは頭を冷やしに通りまで出ていた。
夜風を浴びながら通りを歩く。人っ子一人いないせいもあって砂地を歩く足音がよく聞こえた。
リンは途中で立ち止まった。しかし、足音は止まらない。2、3歩分、後ろで足が動いたようだ。
「おかしいよね。 ここにはもう誰もいないはずなんだけど」
振り返らずに、そう言った。
「ご、ごめんなさいぃっ! 私、リンさんが心配でっ!!」
「ダウト」
「──!?」
リンは剣を引き抜き、振り返る。目の前には身構えるステラの姿があった。
「……ステラはもっと舌足らずだ」
怒りに震えるその拳には、どす黒い魔力が込められる。
「ふひゅっ……」
目の前のステラはほくそ笑み、みるみるうちに小さな老婆に姿を変えた。老婆はシワだらけの青白い手を伸ばし、
「ひゅっひゅっひゅっ……さすがは騎士さま。初めまして……いえ、お久しぶりにございますね? 少し、この老婆めにお時間をいただけますかな?」
リンに歩みを寄せるのだった。
「……なんだその目は。随分と不服そうだな?」
リンはステラの背をさすりながら、取り殺しそうな気迫でロゼを睨んでいたのだ。ステラはその二人の顔を見比べては、あたふたしながら泣いていた。
「『目は口ほどに物を言う』と、よく言われるが……私も流石にテレパシーまでは使えん。 言いたいことがあるならその口で言ってくれ」
「お……お母……様……そ、そのっ……」
「今更あなたと交わす言葉なんてない。達者な口の割に目は節穴らしいですからね」
「あ、あのっ……りんさん……」
「ほう? 私に何が見えていないと言うんだ、リンよ」
「や、やめ……やめましょう……?」
「……私はステラの味方で、あなたの味方じゃない。 ステラにこれ以上危害を加えるのなら、容赦なく斬る」
そう言ってリンは剣を引き抜こうとするも、ステラがその手を抑えた。
「もうやめて!! やめてくださいリンさん! ……わたしも……! 神様にお会いしたいんですっ! お母様もやめて……!リンさんと喧嘩しないでっ……! うぅ……うわあああああん!!!」
床に座り込んだまま、ステラは泣きじゃくった。誰も話を理解してくれないからだ。
「……はぁ。 ステラに救われましたね」
リンは立ち上がり、出口のドアに手をかけた。慌ててロゼは引き留める。
「おい、どこに行く気なんだ? 村には何もいないんだろう?」
「少し時間をください。 いくらステラが望んでいるとはいえ、私はあなたの言葉を信用出来ない」
そう言ってリンはロゼの手を払い、出ていった。ロゼは少し寂しそうにその背中を見送る。
「……おかあさま……ぐすっ……」
泣き腫らした目を向けるステラを、ロゼは抱きしめた。
「なぜ……泣いているのだステラ。私と血が繋がっていなかったのがそんなに嫌だったか?」
「そうじゃ……ない」
「なら、神の子だったのが嫌だったか? それとも私の首から下が無いのがダメだったのか?」
「ちがう……違うよお母様……」
「……待て、当てる。私がリンとケンカしたのがダメだったんだろう? そうだな? 待ってろ今すぐ和解を」
「そうじゃないっ!!」
「へ──おぶっ!!」
ステラに突き飛ばされたロゼの体は、後ろの本棚にめり込んだ。
「もうお母様なんか知らないもん! うわぁーん!!」
ステラはそう言い捨てて、ドアの方に走る。
「ステラっ! 私の話を[──バタン!!]……」
乱暴に閉められたドアの音。水を打ったかのようにあたりは静かになった。
「また……やってしまった……」
ロゼは独り、無駄に高い天井を仰ぎ見た。
「……伊達に長生きしているつもりは無いんだが、こうも分からないものか、子供心というものは……」
そう言いながら本棚から体を引っ張り出し、ローブについたホコリを払う。そしてため息をつきながら本を片付け始めた。ちょうどその時だ、
『お母様……お母様? 聞こえますか?』
妙に通る声が辺りに響いた。ステラと似ているが、喋り方がハキハキとしている。
「モーンか? ……あぁ。予定通りステラに会った……」
片付けをしながらロゼは答える。対してこちらは覇気がまるでない。
『その沈みよう……お姉様と早速何かありましたね?』
「……また、怒られてしまった」
『またですか』
「ああ。……これで238回目だ」
本をまとめ終えたロゼは、ソファの上で横になって目を閉じる。口だけ開けて響く声に答え続ける。
『なんでそこまで覚えてるのに反省しないんですか?』
「している。……ただ、その度に新たな地雷を発見して踏んでしまっているだけだ」
『……今日は何を起爆させたんですか? 』
「それが心当たりがなくてなぁ……うーん。無事に帰ってきたことを褒めて、16年前の話をして、しきりに聞いてきたからステラの出自の話をして……その辺でリンって勇者がキレたからあしらって……」
『待ってください』
「…… ?」
『何しれっととんでもないカミングアウトしてるんですか!!』
「首だけになったことか? 確かにあれはちょっとグロかったかなぁとは……」
『出自の方ですよ!! 』
そう言われ、ロゼはがばりと飛び起きる。
「なぜだ!? 存在している以上生まれた先はあるはずだろう!? なぜその話が嫌なんだ!?」
『母と慕っていた方が実は自分とは血も繋がってなかったと考えてみなさい! スナック感覚でそんなこと言いやがって! 血も涙もないですよ!!』
「……ほぼほぼ流れていないな。首だけだし」
『そうでしたねそういえば。 それと、お姉様男連れて来てるんですか?』
「まあ、そうではあるが……」
『わかりました。急いで行くので引き止めていてください』
「あ、ちょっと……!」
ロゼの引き止めは、またしても聞き入れられなかった。
「……どこで……育てかたを間違えたんだろうな」
ロゼは独り、透明な手で目を抑えていた。
一方その頃、リンは頭を冷やしに通りまで出ていた。
夜風を浴びながら通りを歩く。人っ子一人いないせいもあって砂地を歩く足音がよく聞こえた。
リンは途中で立ち止まった。しかし、足音は止まらない。2、3歩分、後ろで足が動いたようだ。
「おかしいよね。 ここにはもう誰もいないはずなんだけど」
振り返らずに、そう言った。
「ご、ごめんなさいぃっ! 私、リンさんが心配でっ!!」
「ダウト」
「──!?」
リンは剣を引き抜き、振り返る。目の前には身構えるステラの姿があった。
「……ステラはもっと舌足らずだ」
怒りに震えるその拳には、どす黒い魔力が込められる。
「ふひゅっ……」
目の前のステラはほくそ笑み、みるみるうちに小さな老婆に姿を変えた。老婆はシワだらけの青白い手を伸ばし、
「ひゅっひゅっひゅっ……さすがは騎士さま。初めまして……いえ、お久しぶりにございますね? 少し、この老婆めにお時間をいただけますかな?」
リンに歩みを寄せるのだった。
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